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第709話

Author: 花朔
「ありがとう」

一輝が淡々と口にする。

「何に?」

文翔が眉を上げる。

「俺が奥さんを奪いにいかなかったことに、か?」

「......」

この男、妻を取り戻してからというもの......どこか子どもじみていて、妙に腹立たしい。

――一輝は思った。

それでも珍しく、心からの笑みを向けた。

「ようこそ」

彼は言う。

「これでお前も、既婚者の仲間入りだ」

......

未怜が荷造りをしている最中、明が訪ねてきた。

手にはやたら大きな救急箱。

顔つきはいたって「仕事です」という体。

「京浜にある結婚式に参加するでしょ。距離もあるし、私は『主治医』として全行程に同行する必要がある。万一に備えて」

未怜は彼を見る。

その目にありありと浮かぶ「心配で仕方ない」という感情に、呆れと可笑しさが同時に込み上げる。

「最近暇なの?」

「いや、逆だ」

彼は真顔でうなずく。

「君の世話で忙しいんだ」

「......」

結局、彼女は言い負かせず、まるで世話焼きの母親のように後ろをついて回る彼を許すことになった。

「この薬は時間どおりに。胃を大事に。京浜は冷える。だ
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