LOGIN「え」「そう、なのですか?」「こらこら、シンゴだけでなく、我も平等に扱ってもらわないといけないよ」 リーヴェに、サーラは少し笑いかけた。「我々に言い伝えられているのは、代替わりだ。創世神が世界を創り、世界が滅びかける時、生神と滅びに導く神が現れる。再生されるかあるいは世界そのものが破壊されるか。それが無数の世界で行われているのだと言う」「シンゴの前の生神がいて、それがいま伝えられている創生神。そして、あのご老人の話と貴方の話によれば、創生神が世界に飽きて去ることによって世界が滅びかけ、生神と破滅の神が現れる、そう言うことなのか?」 リーヴェの言葉にサーラは頷く。「そうだ。どの世界もそれを繰り返しているという。中には滅び去った世界も、一柱の創世神が長く在位し続ける世界もあると言うが、あいにく我は目にしたことはない」「つまり、この世界はシンゴが再生させたとしても、シンゴが世界に飽きてしまえば再び滅びの道に向かう、そう言うことか?」「モーメントに限らず、全ての世界がだ」 更に、と付け加えるサーラ。「全ての神の中で、生神……滅びかけた世界を再生し、新たなる創世神となる者は、異世界で生まれ育ち、死後に選ばれて世界に派遣される人間、と限られている」「シンゴも異世界の人間だったのか?」「ああ、うん。事故で死んで、その後生神になれって言われてここに来た」「誰に」「それが誰とも言えないんだよな。死んだと思ったら白くてふわふわした空間にいて、同じ人間にしか見えない人に、生神になる資格があるって言われてここに派遣された。あの人が誰だったのか……いや何だったのか、俺にもさっぱりだ」 そこで、全員が足を止めた。「気配、だな」「うん」 俺も気付いたんだ、歴戦のレーヴェやヤガリ、五千年守護獣をやっているサーラが気付かないはずがない。「敵対勢力だ」 気配の区別も、つくようになった。 人間の気配、魔物の気配、魔獣の気配。M端末を使わなくても、それくらいは判別できる。あと、こっちに敵意や殺意があるかどうか。もしやと思って端末を見たらスキル【索敵】がついていた。 そして、この気配は。「人間が追われているね」「追っているのは魔獣だな」「人間の方に敵意はない」「コトラ」 俺はブランの背に乗ってだらーんとしていたコトラに声をかけた。「この気配をこっち
街道を歩く旅人はすっかりいなくなってしまったと、泊まらせてくれたおじいさんは寂しそうに言った。「昔は、山脈やビガスからの荷物が毎日のように通っていたもんだ」 ある日を境に、まるで木の葉が落ちるように旅人が消えて行ってしまったと。「ある日って?」 宿泊費代わりに渡したふかふかのパンを口に入れながら、おじいさんは答える。「ある日はある日さ。五十年ばかり前。おとぎ話に出てくる通りだ。何でもない日だった。いつも通りの、街道沿いだった。だけど、今思い返せば、それが境だったんだな。その日から、無窮山脈が枯れた、森エルフの泉が汚された、ビガスが閉鎖したと様々な噂が流れ、街道を旅する人間はめっきり減ってしまった。その代わりに魔物や魔獣がたまに行き交う旅人を食らい、そしてまた減っていき……堂々巡りだ。この街道は、もう街道じゃなくなっちまった。目立つからな」「……俺たちも街道をそれた方がいいのかな」「ああ、それはやめておきなさい。見たところ、あんたがたは旅慣れてない。そして不思議なことに腕は立ちそうだ。街道を歩いたほうが道に迷わない。隠れ街道は旅慣れている人間の通るもんだ。魔物に追跡されないように隠し道や偽道がたくさんある。あんたがたがそんなところへ行ったら、魔獣用の罠に引っかかるだけだ」「ぅなっ」「ははは、そうか、猫さん、あんたも魔獣かい?」 十年ぶりに人と話した、と言う老人と別れてから二日経った。 言われた通り、街道は魔物や魔獣の宝庫だった。 毎日のように敵対勢力の生み出した敵と戦い、そしてレベルアップしていく。 暗く陰る道を獣避けにトーチに火をつけて、前進する。「ある日って、なんなんだろう」 俺の呟きに反応したのがサーラだった。「 あのご老人の言葉か?」「うん。ある日を境に、街道が寂れて行ったって……」「ある日としか形容できないよ。人間にはね」「では、貴方達は何と呼ぶのだ」 レーヴェの言葉に、サーラは意味ありげな笑みを浮かべる。「飽いた日、だ」「飽いた……」「この世界の神が、世界に飽いて滅びを決めた日。それを、我らは飽いた日、と呼ぶ。多分、あのご老人は鋭かったのだろう。神がこの世界から去ったことに気付いた……それがあの日だろうね」 神が世界に飽いた日……。
「これ、お金、だよね」「人としてアムリアに行くには必要でしょう?」 シャーナはにっこり笑顔。「今の世界で硬貨がどれほど通用するかは分かりません。パンや干し肉の方が有効な場合も多いでしょう。が、ないよりはいいと思います」「ていうか、大丈夫なの、お金を俺に渡して」「はい。原初の神殿に送られたお金です。原初の神殿はシンゴのものなのですから、神殿に捧げられたお金ももちろんシンゴのもの。必要なだけお使いください」 そう言う理屈になるわけか。「分かった。ありがとう」「ブランは連れて行って大丈夫か」 不安そうに鼻を鳴らしていたブランの顔を撫でて、ヤガリが聞いてきた。「大丈夫だと思うが」 レーヴェはチラリとブランに視線を走らせる。「特殊なロバだ、と思わせておいた方がいいだろうな。神が直々に創った神獣だと分かれば、欲しがる者も出る。盗みになる可能性だってある。ブランを盗み出せる者などいないとは思うが、余計な怪我人は増やさない方がいいと思う」 ブランはぶふん、と鼻を鳴らして頷いた。「確かに。ブランは戦闘力も高い。盗み出せる者がいたら聞いて見たいが、土しか食わず荷も運べて強いとなれば、欲しがる人間もいるか」「なるほど、ドワーフのために創られた神獣かね」 サーラはじっくりとブランを見ていた。そして頷く。「しかし、神の力を顕現させたような神威を持つ存在ではない。頑丈なロバで話はつくだろうし、欲しがる者もいるだろうが、命懸けで奪いに来ようとする者はいないな」「ブラン、大丈夫。でもお前は大人しくしてなきゃいけないぞ」 俺がブランの鼻面を撫でてやると、ブランはふしゅう、と鳴いた。 そこで、シャーナがヤガリを誘って立ち上がった。「どうしたの?」「少々お待ちください」 少々待つと、シャーナとヤガリが大荷物……とまでは行かないけど、そこそこの荷物を持って戻ってきた。「これは?」「これまでこの神殿に訪れた方々が残して行ったものです」 トーチ、ランタン、ほくち箱、背負い袋、水袋、毛布、手斧、ナイフ、と言った旅道具だ。 残して行ったわりにはきれいだな、と思って、そう言えばこの神殿丸ごと【再生】したんだった、と思い直す。「これも神殿への捧げ物?」「いや、違うな」 サーラが口を挟んできた。「これはここに辿り着いて生涯を終えた者たちのものだ。そうだな、
「さて、まずどの辺りから行こうか」 神殿にあった古い地図とM端末の自動マッピングを見る。 無窮山脈と言う世界の北の果てのような所まで行ったと思ったけど、まだその北にも何かあるらしく、そこは黒く塗りつぶされている。 まだ世界……中央大陸と呼ばれるらしい……の半分も行ってないので、地図も部分部分しか出ていない。「やっぱり、人の多そうなところから回るのが一番かな」「なれば、アムリア国に向かうのがよろしいかと」 シャーナが提案してきた。「アムリア?」「西にあったヒューマンの王国です。泉の森エルフや無窮山脈のドワーフとも交易を広げて大勢の人間が暮らしていたと父が言っていました」「知ってる?」「ああ」「もちろん」 レーヴェとヤガリが同時に頷いた。「木々や薬で大きな取引があった。当時の王はなかなかのやり手で、エルフとドワーフ両方の交易をしながらどちらにも敵対も味方もしなかった。エルフとドワーフが一触即発にならなかったのも王の力あってのことだ」「おれの生まれる前だからよくは分からないが、いい取引先だったと両親が言っていたのを覚えている。あと、エルフとドワーフが同じ国の中に住んでいるのは奇跡だとも言われていたな」 なるほど、すごい国だったらしい。「今は?」「分からん」 レーヴェの答えは相変わらず素っ気ない。「ドワーフも鉱脈が枯れてからは取引が出来なくなった。だから連絡は取れていない」「人はたくさん住んでたんだね?」「ああ。大陸最大の国と呼ばれていた」「じゃあ、まずはそちらから行こうか」 俺は古い地図を確認した。 原初の神殿の東側に「アムリア」と書かれていて、神殿を挟んでエルフの聖域と無窮山脈とも同じくらいの距離を保っている。つまり、行きやすい国と言うことだ。「街道とかなんかはあった?」「昔……五十年くらい前のことになるが、当然取引がある種族や国々との街道は繋がっていた。ただ、今はどうなっているか分からない。魔物や魔獣があちこちに出てきていると聞く。安全とは思えない」 自在雲は神具だ。俺が新たに自在雲を作らない限りその数は増えない。しかも、生神か神子がいないと使えないのであれば、使えるのはこちらの正体をばらしても仕方がない時だけ。 歩いていくしかない。 魔物や魔獣が出ると言うけど……多分、このメンバーなら大丈夫だろう。「シン
「おれたちの思いも名の呼び方で変わるわけではない。おれたちはシンゴを信頼している。モーメントのために何かをしてくれようとしているシンゴの思いに甘えてはいけないとも思っている。神子の役目は、シンゴのやろうとしていることに手を貸し力を貸して、シンゴの思いに応えることだと思っている」「……ありがとう、ヤガリくん」 ニッとヤガリくんは笑った。 珍しいな、ヤガリくんの笑顔。いつもむすっとしているから。ドワーフは陽気で明るい一族だってイメージがあるのに、ヤガリくんはどちらかと言うと思慮深いと言うか……。「ところで、何故シンゴはヤガリのことをくん付で呼ぶのだ?」 サーラは薄く笑みを浮かべて言った。「え? そりゃあ友達だし……」「そうか、友か」「ああ、友だ。友の契りを交わした親友だ」 ヤガリくんがきっぱり言い切った。「だが、シャーナやレーヴェのことは呼び捨てるではないか。不公平であろ? 同じ神子でおなごであれば」「へ?」「ん?」 俺は妙な声を上げてしまった。 ヤガリくんの方は何をいまさら、と言う感じで。「え。えーと……」 俺は少し考えた。「ヤガリくん、じゃなくて、ヤガリ、さん?」「なんだ、おれを男だと思っていたのか?」 え……え……。 ええーーーーーーーーっ?!「ヤガリくん、女? 女性? ウーマン? フィーメイル?」「そんなに女を連呼するな」 ヤガリく……さんは面倒くさそうに言った。「ご、ごごご、ごめん……」「何がだ?」「いや、女の人だって思ってなくって……」「無理もない」 ヤガリさんは首を竦めた。「おれたちドワーフは傍から見て男女の区別がつかんらしい。第一おれは鉱山の人間で、鉱山に男も女もない。どれだけ働けるかだ」「いや、それでも……」「女だったら友人ではないと?」「い、いやいやいや、そうじゃないけど、男扱いされて嫌じゃなかった?」「むしろ信頼してくれている証だと思っていたが……」 ヤガリさんの声がワントーン下がった。「男ではないおれは、お前の友とはなりえないか?」「それはない」 それだけはきっぱりと言い切れた。「友達に男女の別はない。ただ……俺が今まで男と思い込んでいたから申し訳ないなって思って」「おれは別にそれでも構わなかったぞ? それでお前が相手をしやすいのであれば」「ヤガリくん、て呼んじゃま
俺たちは【転移】ポイントでもある祭壇の間に移動した。 そこで初めてステンドグラスに気付いた。 空に向かい祈る民。そこに降臨する神。 てことはあれか? あれ俺か? 随分イメージ違うぞ? 何かステンドグラスの神様はスタンディングポーズで両手を広げて「待たせた」風になってるけど、実際は空に放り出されて頭から祭壇の間に突っ込んだんだからな?「古い伝承ですわ」 シャーナが苦笑した。もちろん屋根は壊さないまでも突っ込んできた俺を覚えてるんだろう。「この画が示す通り」 サーラはステンドグラスを指した。「生神は人間と世界にとって最後の希望。全てを遍く救う者。故に、尊く厳格でなければならない」「……うん」「で、なんですの? わざわざ神殿まで戻って来てまで、話さなければならないこととは」 祭壇の間に置かれた祈り用の椅子に腰かけ、みんなにも座るように促す。「この先……」 コトラが俺の膝に乗ってきて、その頭を撫でながら、俺は言った。「生神であることを隠して【再生】をしていこうと思う」 俺は無窮山脈の地下神殿でサーラに問われたことを言った。「……確かに」 レーヴェが声を低くした。「エルフはこう思っている。生神はエルフを最初に救ったから、エルフの味方と」「ドワーフもだ。アシヌスを創ってくれた神だと。これからも救いを与えてくれると……だからシンゴがしばらく来ないと言ったら、あそこまで落ち込んだんだ」「ビガスの人々はどうでした?」「……感謝はしていたが、ゴブリン・リーダーを一刀で倒したのを間近で見て、怯えていた」「神を崇めると言う心は人間から失われたのでしょうか……」「それは違うぞ、リザー」 サーラは足を組んで微笑んだ。「生神と人間との距離が近過ぎたんだ。神は離れた場所から自分たちのために力を使ってくれてこそ崇め奉る存在なのだから」「ですが、生神は人の内に在って世界を再生する者と」「神であると名乗って人の内に入り、力を揮えば、話は別だ。命を救われれば感謝もするが、神が傍で自分を気遣っていると何か特をすると思う者もいるし、その力が自分に揮われることを恐れる者もいる」「俺は自分の力で助けられる誰かがいたら助けたい。元の世界でもそう思っていたし、この世界に来た時シャーナに頼まれたから世界を救おうと思った。だけど、それは誰かを特別扱いしたり畏れ







