ログイン一難去ってまた一難――その言葉は、あの夜の私のために用意されていたのだと、今ならはっきり分かる。
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* .あの部屋から逃げ出し、夜の街に放り出されたとき、肺に入ってきた外気がやけに冷たくて、現実に引き戻された気がした。
震える手でタクシーを止め、行き先を告げる声は自分でも驚くほど平坦だった。
運転手は何も聞かず、ただ静かに車を走らせる。バックミラー越しに一度だけ目が合った気がしたが、すぐに視線を逸らされた。
それは無関心だったのか、それとも見て見ぬふりをされたのか。当時の私には判断する余裕もなかった。
ただ、誰にも触れられず、誰にも問われずに家まで辿り着けたことだけが、かろうじて残った安堵だった。
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玄関をくぐったとき、ようやく終わったのだと、そう思い込もうとした。
すべてを忘れる。なかったことにする。そのためには、いつも通りの自分に戻るしかない。そう言い聞かせながら、自室へ向かう廊下を歩き出した―――そのときだった。
『遅かったわね、旦那様がお待ちよ』
低く、抑えた声が前方から落ちてきた。
顔を上げると、そこには玲子さんと桜子が、まるで舞台の幕開けを待っていたかのように立っていた。
逃げ場はないと、瞬時に理解する。偶然ではない。待ち構えていたのだ。
この瞬間を。
私が帰ってくることも、この姿で現れることも、すべて分かっていたのだろう。二人は何も知らないふりをしているが、その目の奥には確かな確信があった。
何があったのかを知っている者の目だった。
―――当然だ。
あの夜を仕組んだのは、あの二人。私は何かを言おうとしたが、声は喉の奥で絡まり、形にならなかった。
その隙を逃さず、二人は両側から腕を掴み、抵抗する間もなく引きずるようにして歩き出す。床に靴底が擦れる音だけがやけに大きく響いた。
廊下の途中、窓ガラスに自分の姿が映り込む。思わず目を逸らしかけて、けれど逸らしきれなかった。
そこにいたのは、見慣れたはずの自分とは似ても似つかない何かだった。
髪は乱れ、化粧は涙と汗で崩れ落ち、ワンピースは皺だらけで、ところどころが歪んでいる。まるで別人のようなその姿に、思わず息を呑んだ。
こんな状態でタクシーに乗り、ここまで帰ってきたのかと、場違いなことを考える。よくもまあ、何も言われずに乗せてもらえたものだ――そんな現実逃避めいた思考が、かろうじて心を保たせていた。
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連れてこられたのは、父の書斎だった。
重厚な扉の前で一度だけ足が止まり、次の瞬間には無理やり中へ押し込まれる。室内には父と、そして私の婚約者である
二人は、現れた私の姿を見て目を見開いた。
その驚きは演技ではない。少なくとも、この二人は何も知らされていなかったのだと、いまでは私もそう判断している。だが、それが何だったのだろう。それは浅い認識でしかないことを、すぐに思い知らされた。
『見てください』
玲子さんはゆっくりと口を開き、まるで証拠を提示するかのように私を指し示した。
家族が留守の間に外出していたこと。こんな姿で帰ってきたこと。
『何をしていたのか、想像に難くありませんわね』
その声音は穏やかで、しかし一言一言が逃げ場を塞ぐ刃のようだった。
桜子は隣で小さく笑みを浮かべ、時折同意するように頷いている。まるで出来の悪い芝居を見せられているようだったが、その舞台の上に立たされているのは私自身だった。
反論しなければならない。違うと、叫ばなければならない。そう分かっているのに、言葉が出てこない。暴行された記憶が喉を締めつけ、声を奪っていた。
沈黙は、肯定として扱われるには十分すぎた。
『……なんてことを』
低く呟いた父の声の次の瞬間、頬に鋭い衝撃が走った。
視界が揺れ、体がよろめく。何が起きたのか理解するより先に、じんじんとした痛みが広がった。
『こんな娘に育てた覚えはない……!』
父は怒りに満ちた目で私を見下ろし、そのまま柾に向き直る。
『こんな娘と婚約させてしまって、本当に申し訳ない』
深々と頭を下げる父。その姿を、どこか遠くから眺めているような感覚だった。
私はこの瞬間、父に期待していたことに気づかされた。
それまで、父のことを軽蔑していると思っていた。
玲子や桜子の分かりやすい嫌がらせにすら気づかず、家の現状も見ようとしない愚かな人間だと。人を見る目がないのだと。だが、その評価が、そのまま自分にも跳ね返ってきた。
私もまた、人を見る目がなかった。
この男の娘である以上、似たようなものなのかもしれない――そんな諦めにも似た感情が胸に広がった。
そして、決定的な瞬間が訪れる。
『本当に……残念です』
柾さんが静かに口を開いた。
その声は落ち着いていて、表面上は失望を滲ませている。だが、次の瞬間に見えたその目に、私は凍りつく。そこには、満足があった。
計画がうまく運んだことを喜ぶような、隠しきれない愉悦。そしてほんの一瞬、柾の視線が桜子へと流れる。桜子もまた、甘やかな笑みを浮かべてそれを受け止める。そのやり取りはほんの刹那だったが、見間違えるはずがなかった。
二人の間には、既に私の知らない関係が築かれていた。
婚約者という立場にあったはずの男は、いつの間にか別の女と通じており、その女は私を陥れた張本人の一人だった。
すべてが、一本の線で繋がる。あの夜の出来事も、この場での断罪も、すべては私を排除するための筋書きだった。
足元が崩れるような感覚に襲われながら、私はようやく理解した。
逃げ場など、最初からどこにもなかったのだと。
ナターシャが遠くなる。そんな予感と、なんとなくの確信。俺が、自分でも、かなり驚くくらい自然に出た。ああ、これは、当たる。ナターシャは、遠い存在になる。距離の話、ではない。物理的な話、でもない。手の届く範囲から、手が触れられるところから、離れていく、外れていく。そして、一年後は?今はまだ、同じ学校に通って、同じ時間を過ごしている。でも、いずれ、別々になる。違う世界の中で、生きるようになる。そのとき、自分は——隣に、いられるか?胸の奥が、鈍く痛む。情けない、と思った。俺のほうが、一歳上というだけ。先に大学生になるだけ。痛感させられた。ナターシャは、俺の隣に立つために前に出たのかもしれない。でも、その結果は、恐らく……もしかしたら、ナターシャは俺では足りなくなるかもしれない。俺は、その結果を怖がっている。「……ほんと、ダサいな」苦笑が漏れる。苦笑が反響して、俺の自嘲的な笑いが、世間が俺を嘲笑う声に聞こえる。「ダッサいし……小さい!」ダサいことは、本当に思っていること。これが俺の本音だ。俺の、今の、限界なのだろう。でも、できるだろう?俺は、ナターシャを手放したくない。ナターシャを、誰にも渡したくない。ナターシャの隣は、自分のものだと、俺が、そう思わないでどうする。思っていたんだ、なんてあとから言っても意味はない。それこそ、ダッサい。いまさらって、取り返しのつかない事態になってから、「実は」なんて言っても遅い。ナターシャは俺のものだと、言い続けなければ意味がない。身の程知らずだと言われようと、言ってやる。それに、いま、身の程知らずとどれだけ嘲笑われようと、それを黙らせられるだけの力をこれからつければいい。親の七光り?それなら、それ以上に光って見せればいい。父さんと母さんを目標にして、その一歩先にいけばいい。目標が明確ならば、それだけやりやすいってものだ。いま、いまの俺では届かなくなるから手を引っ込めるなんて、自分が傷つきたくないだけ。それじゃ、ダメだ。小さくなるな。ナターシャは、自分の人生を生きるために、出た。そこに、ナターシャの行く先に、俺がいけばいい。遅れたなら、走ればいい。そのとき、そこに、自分がいるために。順番を間違えるな。「ふう……」スマホの画面は、もう違う動画を
動画は、俺の迷いなんてそっちの気で進んでいく。摺りの工程が淡々と進む。必要な道具を選ぶ手には迷いがなく、瞬く間に色が重なっていく。色と色の境の、細く紙に乗る線だけが白い。あとは色、色、色。見慣れているはずのナターシャの技術は、ナターシャ越しの映像だと違って見える。……すごいな。率直に、そう思った。贔屓目じゃなく、これは、評価されると思ったら国内だけじゃない。——海外でも評価される。簡単に、想像はつく。石川明梗。ナターシャの動画に、人間国宝で海外でも知名度の高い石川先生の名前が付く時点で、ナターシャの動画は立ち位置が違う。スケールが、最初から世界を見ている。日本国内の話じゃ済まない話だ。「……やめろよ」つぶやきが、無意識に溢れたと気づいたのは、狭い非常口に反響した自分の声。眉が、眉間による。想像が、勝手に先に進んでいく。海外メディアの注目。インタビュー。コラボレーションのオファー。ナターシャの名前が広がる。顔が知られる。ナターシャという存在が、世界に根付いていく。ナターシャは、頑固だ。進むと決めたら、進む。(……その中で、あいつは)ナターシャが、傷つくことはある。言葉は、評価のためだけのものではない。嫉妬や抗議。評価される分だけ、ナターシャは理不尽に叩かれる。持ち上げられる分だけ、落とされる。ナターシャは、強いけど、無敵じゃない。「……くそ」スマホを握る手に、力が入る。俺はナターシャを守りたい。これは、昔からなんにも変わらない。今すぐにでも、この全てを遮断して、ナターシャをかっさらって、俺だけの、俺しか知らない場所に隠してしまいたい。 誰の目にも触れない場所にナターシャを閉じ込める。ナターシャのことは、俺だけが知っていればいい。——そんな衝動。ああ、俺は父さんと同じだ。母さんは、常に父さんの庇護下にある。父さんが傍にいなくても、護衛の長谷川さんとか、親戚の誰かとか、父さんの影響力の中にいる。それでいいらしく、笑っている母さん。それでいいと思ってもらうため、母さんが望む環境をせっせと作っている父さん。二人は、二人そろってそれでいいと思っているからできる関係。でも、俺たちは違う。それは、できない。ナターシャが、望んでいない。ナターシャは、自らの意思で、世界に向けて一歩を
「桐谷! お前の幼馴染の二年生の、えっと、花岡ナターシャだっけ。あの動画すげえな」……これでもう、何度目だろう。ナターシャが出る新しい動画が公開されたのは、昨夜のことだった。昨夜、公開と同時にその動画を見ようとした。でも、見れなかった。ナターシャの顔を見てから、その顔に後悔がなければ、見ようと決めた。朝食の席は、その話になると分かっていた。だから、母さんにそう言っておいたら、母さんは俺の部屋に朝食を届けてくれた。手間をかけさせてしまったと謝る前に、茉白と莉乃を止めらそうにないからと逆に謝られてしまった。妹たちと顔を合わせないように、部活を理由にして先に出かけた。家は母さんの根回しのおかげで静かだった。でも、学校は賑やか。校門をくぐった瞬間から、違和感があった。騒めき。興奮。いつも無機質な校舎が、まるで生きもののように活気づいていた。「花岡ナターシャだ」誰かの呟きに、それを震源地として人が一斉に動く。彼らの視線を辿ると、ナターシャがいた。二年生のタイをつけた女の子たちと話している。その顔は……うん。「桐谷?」「トイレ」.トイレに行く振りをして、階段を上にのぼる。
「やりたいことやってるだけでしょ?」軽い口調。でも、場を制する力がある。「……そうだけど」斜め前の子が、彼女の雰囲気に臆する。「ならさ、それでいいじゃん。騒ぎすぎだよ」その一言で、ざわつきが少し収まった。助けてくれた?そう思った瞬間——。「でもさ」彼女は、私をまっすぐ見た。「これから大変だよね」表情は、笑っている。でも、その目は笑っていない。「こういう目立った活動って、桐谷先輩の迷惑になるんじゃない?」そうなのか。彼女は誠司が……。——これは、試されている。私は、視線を逸らさなかった。「うん、そうかも」「へえ、分かっているんだ」少しだけ、興味を持ったような顔。「でも誠司のお母さんも動画配信をしていて、この動画も、その繋がりだったから……私が何をしたって、あまり変わらないと思う」「……コネ、じゃん」その言葉には、棘があった。棘を、隠していなかった。でも、完全な敵意ではない。私の変化に戸惑っている。距離を測りかねている。声に出したのが彼女というたけで、これは周りの人たちも同じだろう。「コネだよ。それでも、やると決めたから頑張っているの」
朝、家を出るときから、少しだけ空気が違う気がしていた。気のせいかもしれない。でも……。.駅に向かう途中で、何人かに見られた気がして、足がほんの少しだけ速くなった。スマホは、朝から通知が鳴りやまなかった。中は、見ていない。見たら、揺らいでしまうかもしれないから。.いつも通り、右から二番目の改札を抜けて、ホームに向かう。いつもと同じ、まだ人の少ない朝の時間帯の、いつもと同じ電車。いつもと同じ車両に乗る。人は少ない。なのに、落ち着かない。視線が、刺さる気がする。——気づかれてる?いや、まだ、分からない。初めて顔を出した動画が公開されたのは、昨日の夜。深夜〇時。まだ十時間も経っていない。そこまで広がる?でも——。(……ありえる)石川先生のことが頭をよぎる。石川先生は、技法に拘らずCGとかもやっているから、若い人にも注目されている人間国宝。もともと、あの浮世絵の動画も石川先生の絵の浮世絵化って感じで人気があった。誰がやっているのかって、探るようなコメントも多かった。それに、顔を出したんだ。目立つ条件は揃っている。電車の窓に映る自分の顔を、ほんの一瞬だけ見た。昨日と同じ顔。なのに、まるで違う人間みたいだった。.学校に着く。校門をくぐる、その一歩がやけに重い。「……おはよ」すれ違う、学年も名前も知らない、顔しか知らない人に声をかけられた。毎朝、この時間に登校する人は少ない。ましてや、部活で早いわけではない私は、ある意味目立っていたと思う。でも、挨拶をされたのは初めて。“おはよう”。ありきたりの挨拶。でも、目が違う。一瞬、何かを確認するように、じっと見られた。「……おはよう、ございます」三年生かもしれないと思って、敬語にしておく。でも、返す声が、少しだけ硬くなってしまった。下駄箱で靴を履き替えるときも、背後に気配を感じた。ひそひそとした声。小さな笑い声。向けられている、気がする。教室の扉の前で、一度立ち止まった。ドアの向こうから、ざわざわとした声が聞こえる。いつもは、人がいないのに。なぜ、今日はこんな早くに?深呼吸。教室のドアを開けた。——一瞬で、静かになった。さっきまでのざわめきが、嘘みたいに消えた。その代わりに、集まる視線。全員が、私を見ている。「……おは
折々舎の会議室は、無機質なほど整っていた。白い壁。長机。余計な装飾は一切ない。ガラス張りの窓から入る光だけが、やけに明るい。その空間に座っていると、自分の輪郭がはっきりしていく気がする。どんどん逃げ場がなくなっていくことに、恐怖を感じないわけではない。でも、私は逃げないと決めた。.*.「本日はお越しいただき、ありがとうございます」正面に座るのは、折々舎の社長である相沢陽菜乃さんと水野百花さん。桔梗おば様の動画作成・配信をきっかけに起業した二人を、私は幼いころから知っている。本来なら、無名の私の契約に社長二人が同席することはない。「桔梗が何かしてくれたみたいだね」カノンがこっそりと呟いたことに、私は頷いた。相沢さんと水野さんのほかに、知らないスーツ姿の男性——法務担当者だと自己紹介された。法務担当と聞いて、緊張が増す。私の右隣にはカノン。左隣にはヨッシー。二人とも、いつも通りの穏やかな顔をしているのに、空気が違う。特にヨッシーが、違う。カノンはいつも通り保護者だけど、弁護士のヨッシーは私の法務担当者だ。大丈夫。それだけで、背筋が伸びた。「本日は、ナターシャさんの出演形態の変更に伴い、契約内容の確認と、リスクについての説明をさせていただきます」机の上に、分厚い書類が置かれた。その音が、やけに重く響いた。「まず前提として——ナターシャさんは未成年です。そのため、出演契約は保護者の同意を必須とします」法務担当の人が感情を交えず、淡々と説明する。「加えて、顔出しでの出演となる場合、これまでとは比較にならないリスクが発生します」リスク。その言葉に、私は、膝の上で手を握りしめた。「具体的には——個人情報の特定、SNS上での誹謗中傷、ストーキング行為、無断転載・二次利用などです」言葉が一つずつ、現実として落ちてくる。「また、ナターシャさんのご家族に関する情報も、いろいろ探られる可能性があります」一瞬だけ、視線が揺れた。でも、逸らさない。「……はい」私が頷くと、法務担当の男性は続けた。「当社としても、コメント管理や通報対応など、可能な範囲での対策は行います。ただし——すべてを防ぐことはできません」彼は、はっきりと言い切った。守ってくれる、とは言わない。その代わりに、“どこまで守れないか”を明示する。
「これに決めました」桔梗が選んだものは、深い緑色のワンピース。これも似合うとは思ったが、ここにきて最初に目に留めたのは違うワンピースのはずだが?もちろん、俺はそれを勧めたを「それだけでいいのか?」桔梗の目が一瞬だけ、その生成りのワンピースに留まる。うん、あのワンピースだ。俺は桔梗が選んだワンピース、そして生成りのワンピースの二着をスタッフに預け、会計を頼んだ。 「えー、その二つしか買わないの? 桔梗さんに似合う服、いっぱいあると思うのに」似合う服があることには同意するが……泣き真似はどうした?「蓮司もケチケチしないの。私のときは沢山買ってくれたじゃない」あのな……。
錦野柾と花嶺桜子は、周りにいろいろ言われている今でも、二人で一緒にあちこちに顔を出している。その様子に絆された者らは「婚約しては?」と言っているようだが、錦野柾は「一族に反対されているからできない」と答えている。しかし、実際のところ、錦野柾には花嶺桜子と結婚する気などない。花嶺桜子を錦野柾の理想とする愛人にするため、錦野柾はあちこちに花嶺桜子を連れていっているだけだ。妻を持たずに先に愛人というのが変な図式で、そんな愛人いる男のもとに妻として完璧な女が嫁ぐとは思えないが、錦野柾本人は真剣だ。すでに、花嶺桜子の愛人化は始まっている。 錦野柾は、都内のホテルのスイートで定期的にパーティ
桔梗を抱いたあの日から、俺の生活は静かに変わった。最も変化したのは朝の時間だろう。目覚めたときに隣にいる桔梗の温もりを感じ、幸せな気分でその体を腕に抱き込んで二度寝を始めるのが、いつの間にか日課になっていた。桔梗がいて、誠司がいて、日々が豊かだと感じている。 夜になれば、互いの体温を分け合う時間がある。それは決して“夫婦だから”という義務ではなく、むしろ自然とそうしたくなるような、ほとんど無意識の気分で始まる。言葉で誘うこともあれば、仕草で誘うこともある
倫理や道徳的なことに目をつぶれば、白州典正のやっていることは合法ではある。 表向きは成功した古美術商で、日本にも白州典正の顧客はいるのか周りは知っていても知らない振りをしていたようだ。 だからこそ大手を振って美術展の主催者などやっているのだろう。 しかし、今回の白州典正が桔梗にしたことは明らかに犯罪。 桔梗は桐谷家の嫁で、桐谷家とその一族が大歓迎している嫁だ。 しかも白洲家が属する文化界の重鎮たちに桔梗は娘や孫のように可愛がられている。 性的暴行は被害者が訴え出なければ成立しないが、社会的に抹殺するなど桐谷家にはできるし、桔梗のためと奮起する大量のジジババが頭に浮かぶ。 それが分







