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第4話

作者: ちょうどいい
7年前、菖蒲はDNA鑑定の結果を前にして、どこか自信がない様子でオドオドとしていた。

贅沢な暮らしは、人をこんな風に変えてしまうものなのだろうか?

私は浩平に目をやった。

菖蒲からこれほど辱めを受けているというのに、彼に怒りの様子はなかった。

むしろ……なんとも言えない複雑な表情を浮かべていた。

まるで、諦めを受け入れたかのような落胆の色が見える。

なんて情けない姿だろう。

浩平は何かを言いかけて口をつぐんだ。

すると菖蒲が先回りして、代弁するように口を開いた。

「絢香さん、浩平さんは本当に絢香さんのことを愛しているのよ。昔、お父さんが貧乏人との付き合いを反対した時だって、浩平さんはわざわざお父さんのところへ行って『いつか必ず石井グループの娘にふさわしい男になってみせる』なんて言ってね。

ねえ、面白いでしょう?絢香さんが石井家の本当の娘じゃないなら、代わりに私がその役を担って、浩平さんに自分を証明させる機会を与えてあげる……悪くない話だと思わない?」

私は目を閉じ、枯れたような声で、最悪の可能性を確認せずにはいられなかった。

「つまり、浩平?菖蒲に少しその気にさせられただけで、あなたはその……簡単に引っかかったの?そんなに自分のことが安いの?」

浩平はとっさに顔を上げた。

頬をひきつらせ、情けない目を泳がせながら、激しい葛藤の末に、怒声を上げた。

「そうだ!俺は引っかかったさ!それがどうした!?菖蒲は石井家の唯一の娘なんだ!石井グループの正当な後継者なんだよ!俺が従わなければ、俺たちが苦労して立ち上げた小さな事務所は、石井グループの目に入るわけがないだろ?こんなチャンス、そう簡単には巡ってこないんだ!

絢香、俺が好きでこんなことをしていると思ってるのか?全部、お前との将来のためなんだ!この事務所を潰さず、さらに大きくするために仕方のなかったことなんだよ!」

なるほど。

浩平は、この合併が成立した理由が、彼が身を捧げて男としてのプライドを差し出したことによるものだと思っているなんて。

なんと愚かなことか。

かつて、石井グループの創業者を前にしても物怖じせず、堂々と自分を証明しようとしていた男が。

確かな実力を手に入れた今、自分の成功は、プライドを捨てたおかげだと思い込んでいるなんて。

浩平の顔は、興奮と怒りのせいで知らない人のように見えた。

そして菖蒲は、露骨な蔑みの色をその顔に浮かべた。

あまりに意味のないやり取りで、心が冷えていく。

私は、エンゲージリングを嵌めた手をゆっくりと上げた。

私がリングに触れた瞬間、浩平は何かを察したのか、慌てて私を制止した。

「絢香、解雇通知書は冗談じゃないぞ。法的にも有効なんだよ!無茶を言ったところで、何の得にもならない!」

彼は大きく深呼吸をすると、まるで商談の席でのように虚勢を張った。

「素直にこの話を受け入れて、退職金を持って大人しくしろ。今まで通り、また俺とお前は元に戻れる……約束するから。結婚したら、お前のことも大事にするし、償ってやる。

でも、無理に事を荒立てるなら……石井グループの法務部を甘く見るなよ。絢香、俺たちは7年の付き合いだろう……何もかも失いたくないだろ?」

甘い囁きと、おこがましいお願いの言葉。

そこへ菖蒲が口を開いた。

「絢香さん、正直言うと同情しちゃうわ。石井家を追い出されて、一生こんな小さな事務所に身を預けて、たった一人の男に全てを賭けるしかないなんて……」

菖蒲の言葉には、あからさまな軽蔑が含まれていた。

二人で勝手にそんなことを話している中、浩平は菖蒲の機嫌をずっと窺っていた。

「菖蒲の言う通りだ。彼女は経営者としての度量があるんだよ。絢香、お前も見習うべきだな」

経営者としての度量だと?

笑わせないでほしい。

人に頭を下げることに慣れすぎて、もう堂々とした生き方も忘れたのか?

私は二人をしばらくじっと見つめた。

不安と期待を滲ませた浩平の顔と、優越感に浸っている菖蒲の顔を。

最後には、浩平のデスクに、誇らしげに置かれた合併契約書に目を留めた。

私は思わず、笑いが込み上げてきた。

顔を上げると、自分でも驚くほど落ち着いていた。

「その合併契約書のサイン、午後の予定よね」

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