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それが意外に思えてしまった
優しい声音とともにふわりとタオルに
「|偉
「前行った時、楽しかったもんな?」「うんっ! すっごく!」 久々に結葉が心から笑うのを見た気がした想だ。 単純だけど、自分もそれだけで物凄く嬉しくなる。「じゃあ、行こうぜ? ついでに携帯の番号も変える手続きしてさ。気分を一新するのとか、どうよ?」 モールの中には携帯ショップも入っているからちょうど良いかな?と思って。 何気なく聞いたら、結葉が途端泣きそうな顔になった。 想と目があったらすぐ、慌てたように持ち直してくれたけれど、失言だったな、と思った想だ。 そんな想に、結葉は淡く微笑むと、「ごめんね、想ちゃん。私が落ち込んでたの、気付いてたよね」と小さく吐息を落とす。「ん? ああ。まぁ……そりゃあ、な。――ほら、何ちゅっても俺、子供の頃からずっとお前ばっか見てるからさ」 開き直っておどけたようにククッと笑ってみせたら、物凄く照れ臭そうな顔をされてしまった。「……もぉ、想ちゃんっ。恥ずかしいから少しはオブラートに……」「包む必要ねぇだろ? 俺、お前に好きって気持ち、思いっきり伝えちまってんだから。今更隠しても仕方ねぇわ」 悪びれもせず、ニヤリとして言い募る想に、結葉はますます照れて、俯いてしまう。 そんな初々しい態度を取る結葉のことが、堪らなく可愛いなと思った想だ。「あー、ホントやべぇな。……やっぱ俺、お前のことすっげぇ好きだわ」 あふれ出す気持ちを抑えられなくて、心の赴くままにそうこぼしたら、結葉がますます恥ずかしくなったのか、きゅぅ〜っと身体を縮こめて真っ赤になった。 想に表情を見られたくないみたいに伏せられた顔の両サイド、艶やかな黒髪を割ってちらりと覗いている耳も赤らんでいて。 想は吸い寄
「お前は何も悪くねぇよ」 普通、結婚生活が破綻するとき、片方だけに百パーセント責任があるなんてことはない。 だけど、少なくとも偉央と結葉の場合は、旦那側にその割合が大きいのは明らかだ。 それに、結葉は美鳥への電話で言っていたじゃないか。 子供を持てなかったのは旦那が望まなかったからだ、と。「なぁ結葉。子供が出来なかったのは旦那の意思だったって……」 ――言わなかったのか? そう続けようとした想に、結葉が腕の中でフルフルと首を振るのが分かった。「何で……」「私ね、偉央さんに首を絞められる前、『子供を作って、親子三人でやり直そう』って言われたの」 それは初耳だった想だ。「は?」 思わずつぶやいて、結葉を抱く腕を緩めて彼女の顔をじっと見つめたら、結葉が泣きそうな顔をする。「私ね、あんなに偉央さんとの子供が欲しかったはずなのに……言われた時、今更要らないのにって思ったの。だから――」 否定しなかったと言うのだろうか。「けどそれは……」「うん。言ってくれるのが遅すぎただけだってちゃんと分かってる。だって私、結婚してる時は偉央さんに何度も何度も『赤ちゃんが欲しい』ってお願いしてたもの。……きっとね、その頃に言われてたら心が動いてたと思う。――でも……あの時は。私、どうしても嫌だ!って思っちゃったの。それはまぎれもない事実だから」 想にはよく分からないが、その際偉央は結葉を引き止めるための足枷にするため、子供を欲しているようなことを言ったらしい。 そんな理由で子供を望む人と、幸せになれるとは思えなかったの、と結葉が悲しそうに微笑んだ。
「偉央さんが……。ご両親から私と連絡が取れないのはどう言うことか?って問い詰められたら面倒かなって思ったの。向こうのお母さん、昼間に時々家の方に電話くださってたから」 結葉は家を出てしまっていたから、それには出られない。きっとそれが続けばキッズ携帯に電話が掛かってくるはずで。「あの携帯がどうなったのかは分からないけれど……。もし解約されていなかったとしても、私が出られないことに変わりはなかったから。家の電話にも携帯にも出られないとなったら……きっと色々変に思われるかなって思ったの」 偉央が下手に問い詰められて、離婚の危機にあるとあちらの両親にバレてしまったら。 もしかしたら偉央とゆっくり話し合う機会に恵まれなくなってしまうかも知れない、と考えてしまったのだと結葉は言った。「もちろん、ご両親にも関係のあるお話だし。ずっと隠し通すつもりだったわけじゃないの。でも……ある程度は偉央さんとちゃんと話してからがいいって思っちゃったの。ワガママでごめんね」 眉根を寄せて悲しそうな顔をする結葉に、想は「何バカなことしてんだよ!」と思わないわけじゃない。 でも、そういう、どこか変なところで律儀なのが結葉だというのも分かっていたから。 喉元まで迫り上げてきたモヤモヤした気持ちを、顔に出さないようにしてグッと飲み込んだ。 それに、当人同士で話し合う前に第三者に出てこられたくないという気持ちだって分からないわけじゃない。「それで……御庄さんには番号――」「教えてない」 偉央の両親も、まさか息子が妻の連絡先を知らないなどと思いはしなかったのか、現状義理両親から偉央に結葉の携帯番号が漏れてしまった気配はないらしい。 だけど。「落ち着いたら番号変えような?」 想は思わずそう言
マンションでの一件があったからだろうか。 偉央と結葉の離婚は、ふたりの協議に想が同席する形で割とすんなり進んで。 偉央は結葉に財産分与とは別に慰謝料を上乗せすることを提示してきた。 結葉が、偉央のモラハラやDVで数年間苦しめられたことは明白だったから。 だけど結葉は偉央が提示した金額が相場より大きすぎることに渋って、そこの話し合いに一番時間を要した感じだった。「絶対にっ。以前送っていただいたこの小切手の金額もそこから差し引いて下さいね?」 何度差し出してもそれを受け取ろうとしない偉央に、結葉が小さく吐息を落としてそう付け加えて。 結局相場にほんの少し上乗せした金額で話がついた二人だったけれど、想は二人のやり取りを聞いていて、結葉はもっと欲張ってもいいんじゃないかと言う言葉をグッと飲み込む。 あくまでも自分は以前のような間違いが起こらないよう、偉央を監視するためだけに同席しているに過ぎないのだと自分に言い聞かせて、二人の話し合いには一切口を出さなかった想だ。 それが結構ストレスだと気づかれたら、結葉はきっと気にするだろうから、その辺はおくびにも出さないよう気をつけた。 想は二人が協議離婚で離婚できないようなら調停離婚もありだと思って見守っていたのだけれど、二人はお互いに相手を思いやるばかり。 結局その辺りで話し合いが難航することはあっても、争う感じは微塵もなかった。***「マンションは売って財産分与の手続きをしようと思ってる」 偉央に言われて、結葉は瞳を見開いた。 マンションの購入資金は偉央が結婚前から持っていた蓄えから全て支払ったからだ。 結葉も生計をともにするのだから、と貯めていた貯金を差し出したけれど、きっとそんなの偉央が出した金額に比べたら雀
そうして開口一番。「僕は……物凄く病んだ愛し方しか出来ない人間なんだ」 偉央が何の前置きもなくいきなりそんなことを言うから、驚いて何も言えなかった美春だ。「あ、あの……御庄先生? お話がよく見えないのですが」 ややして、やっとの思いでそう告げたら、偉央が美春に悲しそうな淡い笑みを向けてきた。 その、どこか影がある笑顔は、偉央が結婚してから時折見せるようになったもので、独身時代にはなかった。 それを目にするたび、美春の胸はギュッと締め付けられるように痛むのだ。 偉央自身に面と向かって言ったことはないけれど、美春は偉央のことがずっと好きだったから。(だから御庄先生が独立して開業なさるって聞いた時、ついてきたんですもの) そんな美春だったので、偉央が見合い相手との結婚を決めたときにはすごくショックだったけれど、彼が幸せになれるならばとグッと恋心を飲み込んで祝福したのだ。 なのに――。 偉央にこんな切ない表情をさせる奥さんのことを、美春は心底憎らしく思っている。 美春は、奥さんが家を出て行ってしまったことを、以前偉央からそれとなく聞かされていた。「実はさっきね、結葉が……妻が帰ってきてくれて、寝込んでいた僕のために手料理を振舞ってくれたんだ」 偉央は美春の質問に答える気はないのか、そう言って小さく吐息を落とすと……。「僕は……そのまま僕のそばにいて欲しいってお願いしたんだけどね。彼女は――結葉は別に〝帰りたい場所〟があるって言って僕を拒絶して……。結葉を行かせたくなかった僕は、激情に駆られて妻の首を絞めたんだ」 その言葉を聞いた瞬間、美春の中で、時が止まった。
結葉はもう自分の手が決して届かないところに行ってしまったんだと実感した偉央は、結葉の意識が戻ったのを確認した後、ふらふらとした足取りでマンションを出て。 気が付いたら『みしょう動物病院』にたどり着いていた。(僕には結局ここしかないのか――) でも、そこがあるだけマシなのかも?とも思った偉央だ。 ふと視線を転じれば、駐車場には車が数台しかおらず、入口前に『午前の診察は終了しました。午後は十六時から診察いたします』という立て看板が出されていて、中が見えないようロールカーテンが下ろされていた。 偉央はぼんやりと(ああ、午前の診察が終わって、昼休憩に入った辺りか)と思う。 みしょう動物病院では、午後は十六時までオペや往診などで、外来の診察はない。 スタッフたちは皆、今頃昼休憩などでのんびりしている頃だろう。 偉央は裏口に回ると、ロックを解除して建物内に入った。「あれ?……御庄先生?」 そこで、たまたまトイレに行っていたらしい加屋美春に見咎められてしまった。「今日は体調が悪くてお休みされたんじゃ……?」 言って、偉央の様子が明らかにおかしいことに気付いたらしい美春が、駆け寄って来て偉央をそっと支えてくれる。「まだフラついていらっしゃいますよ? 無理しちゃダメじゃないですか。すぐに帰って家でゆっくり寝ていて下さい」 言って、偉央を見上げてから、ハッとしたように「……もしかして、ご自宅で何かありましたか?」と眉根を寄せた。 美春は小柄な結葉と違って身長が一六〇センチちょっとある。 一七五センチの偉央よりは十数センチ低いけれど、結葉に感じるような身長差は感じない。 それでだろうか。 別に間近というわけではないのに、自分を見上げてくる顔の







