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再会

Author: 東雲桃矢
last update Last Updated: 2025-12-17 23:03:10

 さて、教師が変わったことで、いじめが終わったかと聞かれれば、答えはNOだ。

「実母を捨てた上に、キラキラネームに改名したやばい奴。小学生の頃はいじめもして、金にものを言わせて威張り散らしてた」というのが、乃愛の印象だ。それに、それは間違ってはいない。だから乃愛は反論できないし、暴言も暴力も、甘んじて受け入れた。

 それでも、高校は部活をしなくてもいいし、ひとり部屋だから、中学の頃よりはだいぶマシだった。

 両親や修斗はというと、乃愛にほとんど干渉しない。他の生徒達は春休みや夏休みに帰るというのに、乃愛は帰宅を許されず、会うのは月に1度、お小遣いを渡す時だけ。渡しに来るのは黒崎がほとんどで、時折聖愛が来ることもあるが、恭介と修斗は1度も顔を見せたことがない。

 今では恭介の顔をほとんど思い出せない。きっと、成長した修斗を見ても、お互いに気づかないだろう。

 高校生活に慣れた頃、呼び出しの連絡があった。渡したいものがあるから、会いに行くというもの。来週日曜の午後2時に、近くの喫茶店で待つとメッセージが届いていた。

「珍しい……。なんだろ?」

 毎月のお小遣いは、校門で手渡されて終わる。飲食店に呼び出されるなんて初めてだ。

 乃愛の胸はざわついた。会ったとしても、きっと前みたいに優しくしてもらえることなんてない。そう思っているが、心の何処かでは、昔のように優しくしてもらえるのではないかと期待している。

 あの頃は、修斗がまだ小さくてお世話が大変だったから、自分に構えなかっただけで、本当は申し訳なく思っているのではないか。

 ほんの少し、そう思っている。

 当日、待ち合わせ30分前に喫茶店に着くと、席の場所をLINEで教える。スマホゲームをして待つが、そわそわしててゲームどころではない。

 何度もLINEに既読がついたか確認しながら、永遠にも思える時を待つ。

 既読が着いたのは待ち合わせ時間を10分過ぎた頃。聖愛と恭介が来たのは、更に30分後。

 14時45分、聖愛と恭介は、仏頂面で乃愛の前に座る。遅刻の謝罪も、久しぶりの挨拶もない。聖愛とは数カ月ぶりに、恭介とは約3年ぶりに再会する。聖愛は相変わらず美しいまま。恭介も少し白髪がまじっているが、まだまだ若々しい。あと10年もすれば、イケオジと呼ばれるようになるだろう。

 恭介は近くを通りかかったウエイトレスにふたり分の紅
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  • 罪状『無知』   過酷な寮生活2

    「どうしよう……」 勘でネットを外していると、顧問の女性教師が戻ってきて、乃愛に駆け寄る。「月野さん、だっけ? ひとりなの?」「は、はい……。あの、先輩達にいじめられて……。見てください、ボールぶつけられたんです」 ジャージをめくってあざを見せると、顧問はため息をついた。「それはあなたが悪いんじゃない」「え?」「聞いたわよ。小学生の頃、実の母親を追い出したんですって? 恐ろしい子ね。そんなのと、誰も関わりたくないに決まってるじゃない。私だって、あなたにバレー部に来てほしくなかった」 顧問の言葉に、頭が真っ白になる。教師とは、いじめがあったら解決しようと動くものではないのか? 何故自分が責められなくてはならないのか?「ぼさっとしてないで。今日は手伝ってあげるから」 顧問は舌打ちをすると、乃愛にネットの外し方やたたみ方。ポールの外し方や片付ける場所などを教えた。彼女の言葉にはところどころ棘があり、しかたなく教えてやっているのだと、態度が物語っている。「次からはひとりでやってよね」「はい……」 寮に帰ると、別の地獄が待っていた。「うっわ、くっさー!」「キモイキモイ! 外で水浴びしてから入れよ」「ごめん、今汗流すから」 着替えを取ろうと自分のスペースに行こうとすると、彼女達はあからさまに嫌そうな顔をしたり、鼻をつまんだりした。「くっせーな!」「マジでキモすぎ」「シャワールーム使うなよ、汚れるから」 ぎゃははと笑う3人を無視してシャワールームのドアノブに手を置くと、強い衝撃が脇腹に襲いかかり、床に倒れ込む。「シャワールーム使うなって言ってんだろ、ブス」「お前と同じシャワー使いたくないし」 出てけコールが始まり、乃愛は泣きながら部屋を飛び出した。「皆ひどい……。けど……」(私が1番ひどいのかも) 実の母である水樹にした仕打ちを思い出し、後悔する。何故母を大事にできなかったのだろう。彼女はいつも乃愛のために色々してくれたというのに。 泣きながら寮の裏手に行くと、ダメ元で家に電話をした。『もしもし?』 出たのは聖愛だ。「もしもし、ママ……。私、帰りたいよ」『はぁ? ふざけたこと言わないで。それとママって呼ばないでって言ったでしょ』「ごめんなさい、聖愛さん。でも、もうやだよ。皆私をいじめるの。同じ小学校に通ってた子が

  • 罪状『無知』   過酷な寮生活

     中学校に入学し、部屋を割り当てられる。1年生は4人部屋、2年生はふたり部屋、3年生はひとり部屋に入ることになっている。1年生の乃愛は、4人部屋。「はぁ、最悪。こんなのと一緒とか、ないわー」 同室の生徒は、全員知らない顔だ。別の小学校から来たのだろう。「お前は下のベッドな」「床でよくね?」「そしたら移動スペースなくなるじゃん」 ぎゃははと3人は下品な笑い声を上げる。だが、これは序の口だった。 入学3日目、部屋の隅で宿題をしていると、髪を引っ張られた。「亜理砂から聞いたけどさぁ、お前、実の母親追い出したんだって?」「マジやばいよねー。しかも改名までしたとか」「改名でキラキラネームにするとかウケるんですけど」 3人はひとしきり笑うと、冷たい目で乃愛を見下ろす。「うちらさー、親を大事にできないバカ嫌いなんだよね」「そうそう。お金出してもらってるわけじゃん?」「ママが家にいるから、さみしくないわけだし。それなのにママ追い出すとかキモい」「不倫相手をママにするとか、頭腐ってるんじゃないの」 3人の言葉に、返す言葉がない。どれも事実だから。 中学生にもなれば、不倫という言葉も、それがどういったことなのかも分かるようになる。そして、それがどれだけ汚らわしいものなのかも。(ママ、ごめんなさい) 心の中で水樹に謝罪し、3人の同居人の暴力を罰だと言い聞かせ、甘んじて受け入れた。 亜理砂は何人に話したのか、先輩達も乃愛の家庭事情を知っていた。それを知ったのは、部活見学の時だ。聖愛に言われたというのもあるが、痩せないとまずいと分かっていた乃愛は、運動部の見学に行く。どこに行っても先輩達は乃愛を見て、もしくは彼女の名前を聞いて軽蔑の眼差しを向けた。 誰もが口を揃えて言った。「実の親を追い出したやばい女」 一通り見学したが、歓迎してくれるところはひとつもない。どの運動部も文化部も、明らかに嫌そうな顔をする。 それでも中学校は強制入部なので、どこかに入らなくてはいけない。乃愛は仕方なくバレー部に入った。バレー部には、同室の生徒がいないからだ。「はぁ、こんなのがうちの部に来るとか最悪」「ユニフォーム入るやつある?」 先輩達は舌打ちをしたり、ニヤニヤしたりして、乃愛を見る。言い返す気力など、今の乃愛にはない。「そこに立って」 先輩に言われて

  • 罪状『無知』   いらない子2

     修斗はすくすくと健やかに、醜悪に育っていった。美男美女の子供だから容姿は天使のようだが、中身がどこまでも醜く、残虐だった。 乃愛が6年生になると、修斗は3歳。常に罵られている乃愛を見て育った修斗も、乃愛を罵った。「ぶーしゃん、ぶーぶー」「ぶー、ばっちい」 乃愛を見る度に、拙い言葉で乃愛を罵る。「お姉ちゃんでしょ?」「ぶー! ぶーしゃん!」「お姉ちゃん!」 ムキになって大声で言うと、修斗が大声で泣きわめく。その声を聞きつけた黒崎とベビーシッターが乃愛を押しのけ、蔑んで、修斗を慰める。「豚は豚小屋にいな!」 黒崎に怒鳴られ、乃愛は渋々部屋に行く。ベッドに寝転んで手に取るのは、初めて持ったスマホ。 今は機種変更して大人も使うような普通のスマホを使っているが、こちらはほとんど触らない。誰も乃愛に連絡しないのだから。「この頃に戻りたい」 優しかった聖愛とのLINEを見返して、ひとりで泣いた。 6年生の冬、乃愛は両親に呼ばれ、リビングに座る。「乃愛、お前の中学校決めておいたぞ。幸い、受験もいらない学校だ」 恭介はパンフレットを乃愛の前に置いた。パンフレットを開いて読みすすめ、顔が青ざめていく。「全寮制って……」「今まで甘やかしすぎたからな。自主性を育ててきなさい」「ついでに、運動部でダイエットもしたら?」 聖愛はぷぷっと笑う。そこにはもう、乃愛が大好きだったママの面影はない。「うん、分かった……」 パンフレットを持って、自室に戻ると、枕に顔を埋めて泣いた。「私はいらない子なんだ、だから寮に入れるんだ……」 口にして、更に悲しくなっていった。必死に声を殺して泣く。声を上げて泣くことすら、この家では許されないから……。

  • 罪状『無知』   いらない子

     乃愛が王女様気取りでいられたのは、1年にも満たなかった。新しいママになって3ヶ月後、聖愛の妊娠が発覚した。聖愛は仕事を辞めて家にいるけど、何もしなくなった。「お腹に赤ちゃんがいるから、何もできないの。ごめんね?」 大好きな聖愛にそう言われたら、乃愛がやるしかない。水樹の手伝いをしていたことがあるから、洗濯機の回し方も、皿洗いもできる。 だが、料理は野菜を切ることと、おにぎりを握ることしかできない。「はぁ、仕方ないなぁ」 聖愛は初心者向けのレシピ本を何冊か買い与え、料理の基本の数回教えた。それでも小学3年生が作れる料理など、たかが知れている。「あなた、栄養が偏っちゃう」 聖愛は恭介に甘え、使用人を雇った。黒崎という女性で、黒い無地の服で身を包み、紺色のエプロンをつけた女性だ。聖愛には丁寧に接するが、乃愛にはゴミでも見るような眼差しを向け、話しかける度にため息や舌打ちをされる。 挙句の果てには、「お前みたいな子豚に近寄られるとイライラする。気持ち悪いからくるな」と言われる始末。 聖愛に泣きついても、「仕方ないじゃない。そんなことで負担掛けないで。赤ちゃん殺す気?」とうんざりされるだけ。 学校の休み時間。小学校に入学してからずっと仲良くしていた亜理砂に、久しぶりに声を掛ける。「亜理砂ちゃん、聞いてよ。ママも使用人も……」「話しかけないで」 ピシャリと言い放たれ、固まる。「あのさぁ、名前変わってから、ずっと威張ってた人とはもう、友達じゃないから」「そうそう!」「私のママ馬鹿にしてたの、許さないから!」「見下してたくせになんなの、豚!」 亜理砂が不満をぶつけたのを皮切りに、他のクラスメイト達も一斉に不満をぶつける。「皆、謝るから……」「謝ってすむなら警察いりませんよー?」 誰かが言うと、クラスメイト達はどっと笑う。乃愛の居場所は、学校にもないようだ。 それから乃愛の毎日は悲惨なものだった。学校では豚といじめられ、家では誰にも相手にされず、空気のような扱いをされる。少しでも声や物音を立てれば、両親か黒崎に舌打ちをされる。 逃げ場さえ、どこにもなかった。 乃愛の息苦しい生活は、聖愛が出産してから一気に悪化した。 産まれたのは男の子で、ベビーシッターも雇われた。このベビーシッターも、乃愛には見向きもしない。それどころか、邪魔者扱

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    「おばさん、まだ洗濯物終わってないの? 明日体育あるから、はやくしてよ」「また林檎なの? 使えない。好きでも、こんなに出てくると嫌いになるよ」「はぁ、これだから毒親は」「私の服代、着服してるんだから、もっとマシな格好したら?」 おばさん、おばさん、おばさん……。 優子は徹底的に水樹を家政婦扱いした。使用人が口を出せば父の存在をチラつかせ、黙らせた。すべては水樹を追い出し、本当のママである聖愛を家に迎え入れるために。 結果、水樹は半年で離婚して出ていった。3人の口うるさい使用人と共に。 晴れて聖愛は家に来て、恭介も毎日家に帰るようになった。「やっとママと住める!」「今まで我慢させてごめんね、乃愛」「のあ?」 聞き馴染みのない名前で呼ばれ、キョトンとする。「それが新しい名前だよ、乃愛。ふたりで考えたんだ」 恭介が聖愛の肩を抱き寄せながら、愛のこもった眼差しを優子、もとい、乃愛に向ける。「私と同じ漢字が入ってるのよ」 聖愛は胸ポケットからメモ帳を出すと、「聖愛」「乃愛」と並べて書いた。一身に愛を受けたような気になって、嬉しくなる。「嬉しい! ママと同じ漢字!」「そうよ、乃愛」「学校にも伝えてあるからな」「うん!」 翌日、恭介と一緒に登校すると、職員室に足を運んだ。「改名の件、聞いてますよ。皆にも伝えておくからね、乃愛ちゃん」「うん!」「一緒に行こうか。もう少しここで待っててね」 親子は応接室に通された。特別扱いされているようで、気分がいい。「先生が迎えに来たら、パパは仕事に行くからな」「うん、パパ」「いい子だ、乃愛」 名前を呼ばれると、嬉しくなる。優子なんてダサくて古臭い名前よりも、乃愛のほうが響きが可愛くて好きだ。何より、大好きな聖愛と同じ漢字が使われている。「お待たせしました。行こう、乃愛ちゃん」「はーい」「頑張れよ、乃愛」 恭介は乃愛の頭を撫でると、応接室から出て会社に行く。 乃愛は先生と一緒に、教室に入る。途端、にぎやかだった教室は静まり返り、どよめきが起きる。「あれ、優子ちゃんなんで先生と一緒なの?」「どうしたのかな?」 ヒソヒソ声に気分が良くなる。注目されるのが、気持ちいい。「皆、静かに。えー、月野優子ちゃんですが、おうちの事情で、月野乃愛ちゃんに名前が変わりました。皆、乃愛ちゃんって

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