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第20話(23)

Autor: 北川とも
last update Fecha de publicación: 2026-03-18 17:00:29

 バレンタイン当日、男としての面目が立つ程度に、和彦は成果を上げていた。

 クリニックのスタッフに、何度かカウンセリングに訪れている患者、そして、エレベーターでときどき一緒になる、クリニックの下の階で働いている女性事務員から、チョコレートをもらったのだ。

 前に勤めていたクリニックでは、まるでシステムが出来上がっているように、朝、医局のデスクにチョコレートが素っ気なく置いてあるのが常だった。そのせいか、手渡しされるというのは非常に新鮮で、純粋に和彦は喜んでいた。三田村が言う世俗的なイベントの楽しみ方を、初めて理解したかもしれない。

 しかし、無邪気に喜んでいる場合ではない。

 この日、最後の患者を見送った和彦はデスクにつき、真剣な顔で考え込む。自分がバレンタインデーを堪能したから、あとは素知らぬ顔をしていい道理はなく、和彦は和彦で、しっかり役目がある。

 昨日デパートで買ったものを、日ごろ〈世話〉になっている人間に渡さなくてはならないのだ。あくまで、誕生日を祝
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  • 血と束縛と   第28話(16)

     護衛といいながら、精神的圧迫感を与えてくるだけではないかと、毒を吐きたい気持ちをギリギリで抑え、ジムに入ってやっとほっとしたところだったのだ。 和彦はさりげなく、中嶋の横顔を一瞥する。抜かりない、と心の中で呟いていた。「……何も、ジムの中まで追いかけてこなくていいだろ。こんな場所で、誰が何をできるって言うんだ」 和彦は大げさに周囲を見回す動作をする。平日の夜のジムは、仕事を終えて訪れる〈真っ当な〉勤め人たちが多いのだ。「何より、一歩外に出れば、怖い男たちが待機している」「先生の護衛という名目で、互いの組織が牽制し合っているようですね」「もしかすると、嫌がらせかもしれない」 皮肉っぽい口調で和彦が洩らすと、中嶋は不思議そうな顔をしたが、それも数秒のことだ。すぐに察したように、声を上げた。「ああ、先日の〈あれ〉ですか」「君の言う〈あれ〉が何を指しているのか、ぼくにはわからないんだが」 素っ気なく言い置いて、和彦は立ち上がる。「先生?」「ジャグジーに入る」「だったら、俺も」 遠慮してくれないかと、眼差しで訴えてみたが、清々しいほどに気づかれなかった。もしかすると、わざと無視されたのかもしれないが。 使うなと強制する権限が和彦にあるはずもなく、仕方なく、中嶋と連れ立ってジャグジーに向かった。「――ちょっとした噂になっていますよ」 少し待ってジャグジーに二人きりになったところで、中嶋がさらりと切り出す。全身を包む泡の心地良さにリラックスしかけていた和彦だが、慌てて我に返る。「何がだ」「〈あれ〉――、先生が、南郷さんを土下座させた件」 両手で髪を掻き上げた中嶋が、流し目を寄越してくる。濡れ髪のせいもあって妙に艶やかに見えるが、同時に、中嶋の中に息づく鋭さも垣間見える。和彦から何かしらの情報を引き出そうとしているのだ。 和彦はうんざりしながら応じた。「どうせ、理不尽な理由で南郷さんに土下座をさせたとか、そんな話になっているんだろ……」「総和会の人

  • 血と束縛と   第28話(15)

    **** ベンチに横になった和彦は、ゆっくりと息を吐き出しながらバーベルを挙げる。上半身の筋肉が引き締まり、重さが刺激となって行き渡る。次に、今度は息を吸い込みながら、バーベルを下ろしていく。 そんなに重いバーベルを使っているわけではないが、一連の動作を時間をかけて数回繰り返していくと、全身から汗が噴き出してきて、Tシャツをぐっしょりと濡らす。 集中力のすべてを、筋肉の動きへと向けていた和彦だが、ふとした拍子に、足元付近に誰かが立っていることに気づく。トレーナーが様子を見てくれているのだろうかと思ったが、そうであれば、遠慮なく声をかけてくるはずだと思い直す。 一度気になってしまうと無視するのは難しく、大きく息を吐き出してから和彦は、ラックにバーベルをかける。すぐには上体が起こせず、呼吸を整えていると、親しげに声をかけられた。「手を貸しましょうか、先生」 その一声で、誰かわかった。和彦は口元を緩めると、遠慮なく片手を伸ばす。すかさず手を掴まれ、体を引っ張り起こされた。差し出されたタオルを受け取り、ひとまず滴る汗を拭いてから和彦は口を開く。「タイミングがいいな。今日は、連絡をしなかったのに」「先生と俺の仲ですからね。なんでもお見通しです」 中嶋にニヤリと笑いかけられ、和彦は微妙な表情で返す。ただの友人同士であれば冗談として成り立つのだが、残念ながら和彦と中嶋の仲は、そうではない。「先生、ここは笑ってくれないと。冗談ですよ」「わかってはいるが、反応に困る冗談を言わないでくれ……」 話しながら、休憩用のスペースへと移動する。イスに腰掛けた和彦は、汗で濡れた髪先を拭いながら、隣に座った中嶋の様子をうかがう。ジムを訪れ、すぐに和彦のもとにやってきたのだろう。まったく汗をかいていない。 予定が狂ったと、思わず心の中でぼやく。 こうして中嶋に声をかけられると、じゃあこれでと、トレーニングに戻るわけにもいかない。和彦はため息交じりに問いかけた。「――何か目的があって、ジムにやってきたのか?」 和彦の声から、警戒

  • 血と束縛と   第28話(14)

     和彦を促すように、背後から大きく内奥を突き上げられ、奥深くを丹念に掻き回される。喉を鳴らした和彦は、おずおずと片手を自分の下肢へと伸ばす。両足の間で震える和彦の欲望は、もう愛撫を必要としないほど、熱く硬くなり、反り返って濡れそぼっている。 本当は三田村に触れてもらいたいと思いながら、ゆっくりと上下に扱く。同時に、内奥で蠢く三田村の欲望をきつく締め付けていた。 三田村が深く息を吐き出し、和彦の腰から背へとてのひらを這わせてくる。「別荘で過ごして以来、よく夢を見るんだ。中嶋を犯している先生を、こうして後ろから犯している光景を。夢なのに、ひどく興奮して、感じるんだ」 三田村の欲望が、内奥から引き抜かれていく。発情しきった襞と粘膜を強く擦り上げられ、和彦は感極まった声を上げて反応してしまう。自ら愛撫する必要もなく絶頂を迎え、シーツに向けて精を飛び散らせていた。その瞬間を待っていたように、再び三田村の欲望が内奥深くに押し入り、重々しく突き上げられる。「んあぁっ――」 衝撃に、ふっと意識が遠のきかけるが、三田村に腰を揺すられて我に返る。和彦は無意識のうちに、腰に回された三田村の腕に、爪を食い込ませていた。痛みすら心地いいのか、内奥でますます三田村の欲望が膨らむ。「あっ、う……。い、い――。三田村、気持ちいぃっ……」「〈男〉なのに、〈オンナ〉でもある先生の姿が、目に焼きついている。どうしようもなく淫らでふしだらで、魅力的だった。自惚れるなと言われるかもしれないが、俺は、先生の奔放さと、相性がいい。……いや、どんな先生でも、たまらなく愛しい」 惑乱した意識のせいで、三田村の言葉が耳に入りはするものの、頭が意味を理解しようとしない。だが、必死に言葉を紡いでくれているのだということは、わかる。なんといっても、体を繋ぎ合っているのだ。「もう、先生のいない世界は、考えられない。だから、俺の前からいなくならないでくれ。例え俺を遠ざける瞬間が訪れたとしても。この世界の怖い男たちに囚われたままでいてくれ。そうすれば、俺はいつでも、先生の存在を感じていられる。それだけでも、十分幸せだ」

  • 血と束縛と   第28話(13)

     指を唾液で濡らした三田村が、内奥の入り口を簡単に湿らせてから、高ぶった欲望の先端を擦りつけてくる。和彦は自ら両足を大きく左右に開き、愛しい〈オトコ〉を受け入れる態勢を取った。「すまない、先生っ……」 言葉とともに、三田村がぐっと腰を進める。頑なな内奥の入り口を強引に押し開かれ、欲望の太い部分を呑み込まされる。さすがに痛みに眉をひそめると、三田村にそっと唇を吸われ、掠れた声で言われた。「俺が、先生を痛めつけているな」 和彦は、三田村の肩からバスローブを落とし、逞しい腕を撫で上げる。三田村の筋肉が一気に緊張したのが、てのひらから伝わってきた。「違うだろ。あんたは痛めつけているんじゃない。愛してくれているんだ」「……先生のほうこそ、俺に甘すぎる」 三田村と唇と舌を吸い合いながら、さらに腰を密着させる。三田村は慎重に、しかし確実に和彦の内奥を押し開き、熱い欲望を埋め込んでくる。痛みと、その痛みすら心地よさに変えてしまう興奮に、和彦は息を喘がせる。 中途半端な愛撫を与えられただけの自分の欲望に片手を伸ばし、三田村の動きに合わせて扱く。意識せずとも内奥がきつく収縮していた。「いやらしいな、先生」 耳元で三田村に囁かれ、その声の響きだけで全身が痺れる。さらに、ようやく根元まで埋め込まれた欲望に内奥深くを突き上げられて、痺れた全身に快美さが行き渡る。 上体を起こした三田村に緩やかに律動を繰り返されながら、すっかり乱れたバスローブを脱がされた。触れられないまま硬く凝った胸の突起をてのひらで転がされ、反り返って先端を濡らした欲望を軽く扱かれてから、柔らかな膨らみを優しく揉み込まれる。「うっ、うあっ――……」 傷ついていないか確かめるように、繋がっている部分を指で擦り上げられたときには、和彦はビクビクと間欠的に体を震わせる。 再び覆い被さってきた三田村に、焦らすように胸の突起を舌先で弄られ、そっと吸われる。和彦は夢中で三田村の背に両腕を回し、この男が本来持つ激しさを求める。「三田、村、もっと…&hellip

  • 血と束縛と   第28話(12)

     三田村の物言いたげな雰囲気が伝わってくる。しかし、それを実際に言葉として発しないところに、三田村の優しさを感じる。 その優しさに報いるため、和彦は言葉を選びながら話す。「佐伯俊哉。ぼくのことを調べたときに、父さんのことも調べたんだろう。大物官僚で、怖いぐらいの切れ者だ。子飼いの官僚が何人もいて、一大派閥を作り上げて、政治家に対しても影響力がある。傲慢で野心家、氷のように冷たい。でも――」「でも?」「ものすごく、ハンサムなんだ。家柄も仕事にも恵まれていて、そのうえ外見もとなると、女性が放っておかない。父さんの傲慢さや冷たさは、女性にとっては魅力的らしい。自分は結婚していて、子供がいようが関係ない。気に入った相手と関係を持つ。堅いイメージに守られた佐伯俊哉の本質は――奔放さだ」 守光から、俊哉の女性関係の処理について聞かされたとき、驚きはしたものの、その内容をすぐに信用したのは、このためだ。和彦は、父親の実像を嫌というほど把握している。「……見た目はまったく似てないけど、ぼくと父さんは、こういう部分でよく似ている。性的な禁忌に対する感覚が、きっと壊れているんだ」 三田村に肩先を撫でられたあと、ぐっと掴まれる。驚いた和彦が顔を上げると、三田村は厳しい表情でこう言った。「壊れているなんて、言わないでくれ。俺はずっと、先生の愛情深さに心地よさを感じている。先生の本質も奔放さだというなら、俺はその奔放さが、愛しくてたまらない」 和彦は瞬きも忘れて三田村の顔を凝視してから、小さく声を洩らして笑う。「すごい口説き文句だ」「そんなつもりはないが……、でも、本心だ」 笑みを消した和彦は、三田村の頬を撫で、あごにうっすらと残る傷跡を指先でなぞる。何かが刺激されたように三田村がゆっくりと動き、和彦の体はベッドに押し付けられた。 きつく抱き締められ、その感触に意識が舞い上がるほどの心地よさを覚えながら、和彦は両腕を三田村の背に回す。「あんたのことも聞きたい」「俺のこと?」「あんたの父親のこと」 三田村は一瞬痛みを感じたような顔を

  • 血と束縛と   第28話(11)

    「まずは、どこかに入って昼メシを食おう。それから、先生の行きたいところに寄って――」 話しながら三田村がちらりとバックミラーを一瞥する。「ぼくよりも、あんたのほうが落ち着かない感じだ」 和彦の指摘に、三田村は苦笑いした。「俺と一緒にいて、先生の身に何かあったら大変だ。そういう意味では、緊張する。先生を守れるのは俺一人しかいない状況で気が抜けないのに、どうにかすると、すぐに気を抜きそうになる」 車で移動中の今ですら、三田村はピリピリしている。これでは部屋で二人きりとなったところで、寛ぐどころではないだろう。誰かがまだ見張っているのではないかと、常に気を張り詰めることになる。 余計なことをしてくれると、眉をひそめながら、ウィンドーの外を流れる景色に目を向ける。 少しの間考え込んだ和彦は、三田村にある提案をした。** 和彦を軽く扱っているようだから、という誠実な理由で、三田村はホテルを使いたがらない。わざわざ逢瀬の部屋を借りてくれたのも、そのためだ。 だから今回は、あくまで緊急避難だ――。 窓に歩み寄った和彦は、首筋を流れ落ちる水滴をタオルで拭いながら、夕闇に包まれかけている街並みを見下ろす。闇が濃くなっていくに従い、街そのもののまばゆさは増していくのだろう。実際、渋滞した道路は車のライトで溢れ、どのビルも明かりがついている。 本当であればいまごろ、静かな住宅街の中にあるアパートの一室で、三田村とひっそりと過ごしているはずだったのだが、予定は狂ってしまった。 現在、二人がいるのはシティホテルの一室だ。南郷がつけたかもしれない尾行を引き連れて、特別な部屋に戻りたくなかったのだ。何より、三田村に余計な緊張を強いたくなかった。多くの人が滞在している場所であれば、自分たちに向けられる注意がそれだけ逸れる――という錯覚は得られる。 闇に覆われる寸前の、独特の色合いを帯びた街をもっと眺めていたい気もするが、三田村がシャワールームから出てきたため、カーテンを引く。「三田村、ビールでいいか? なんなら、ルームサービスを頼んでおくか。いや、夜食を食べたくなったときにするか&helli

  • 血と束縛と   第13話(17)

    ** 文庫を開いたまま畳に伏せて、片腕ずつ動かす。うつ伏せで、枕を抱えるような姿勢でずっと本を読んでいたため、背と腕が痛い。 そろそろ寝ようかと思いながら和彦は、仰向けとなる。枕元のライトだけでは、美しい木目の天井を照らすことができず、まるで怪物のような闇が張り付いている。 耳を澄ませば、微かながら人の話し声や物音が聞こえてくる。それに、中庭に吹き込んでくる風の音も。 常に人が出入りする長嶺の本宅を気忙しいと最初は感じていたものだが、慣れてしまえば、これはこれで居心地のいい空間だと思えてきた。本当に一人で落ち着いて過ごし

    last updateÚltima actualización : 2026-03-29
  • 血と束縛と   第13話(35)

     執拗に内奥を擦られて、熱くなって震えるものの先端から、透明なしずくを滴らせる。その様子を、鷹津はまばたきもせず凝視していた。「……なるほど。最初にお前を抱いたときにわかったつもりだったが、今日また、実感した。お前は――いい〈オンナ〉だ。とことん男を悦ばせて、狂わせてくれる」 片足だけを抱え上げられて、指で綻ばされた内奥の入り口に、鷹津の欲望が擦りつけられる。「うあっ……」 性急に押し入ってきた鷹津のものを、意識しないまま和彦の内奥は締め付ける。すぐに鷹津は腰を使い始め、苦しさに喘ぎな

    last updateÚltima actualización : 2026-03-29
  • 血と束縛と   第13話(10)

    「そんなことだろうと思った」「迷惑かけついでに、すみませんが、俺を慰めてくれませんか」 本気で言っているのだろうかと、和彦は隣に座った中嶋の顔をまじまじと見つめる。中嶋は、ヤクザらしくふてぶてしい笑みを浮かべていた。もしかしてからかわれているのだろうかと思ったぐらいだが、気弱な表情を見せられるよりはいいかもしれない。 和彦はもう一口お茶を飲んでから、ふっと息を吐き出す。「――彼なりに、君を気づかっているんじゃないか。自分は集団で襲われて、そのトラブル処理のために、長嶺組に後ろ盾になってもらった。多分、長嶺組長に何か弱みを握られたんだろ。一方

    last updateÚltima actualización : 2026-03-29
  • 血と束縛と   第13話(34)

     濡れた体のままようやくバスタブから連れ出されると、和彦はバスタオルを取り上げる。しかし、体を拭く前に部屋へと引きずられ、ベッドに突き飛ばされた。 のしかかってきた鷹津に、いきなり膝を掴まれて足を大きく左右に開かれる。片手にバスタオルを握り締めたまま、和彦は声を上げた。「何をするっ……」「お前相手なら、試せるかと思ってな。……暴れるなよ。噛み千切られたくなかったらな」 物騒なことを呟いた鷹津が、開いた両足の間に顔を埋める。身を起こしかけた和彦のものが、濡れた感触にベロリと舐め上げられた

    last updateÚltima actualización : 2026-03-29
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