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第5話(26)

Author: 北川とも
last update publish date: 2025-11-13 20:00:52

 その後、中嶋は他のテーブルに挨拶をしに行き、和彦と秦の二人が残される。

 和彦の相手をしてくれとでも言われているのか、和彦が使った皿を片付けた秦は、デザートとカクテルを運んできてくれた。さすがに申し訳なくなり、和彦が控えめに視線を向けると、艶やかと表現できる笑みを秦は返してきた。

「遠慮しないで楽しんでください。わたしがあれこれと世話を焼くのは、半ば職業病みたいなものですから。じっと座っているのが落ち着かない」

「でも……、秦さんも、楽しまれていたのに……」

 和彦は、さきほどまで秦がついたテーブルをちらりと見やる。なかなか派手に盛り上がっていた。

「あっちは、わたしがいないほうが、気楽だと思ってますよ。なんといっても、後輩や、部下にあたる奴らですから」

 それをきっかけに、秦が手がけている店の話になる。ホストクラブを二店舗、キャバクラとレストランを一店舗ずつ経営していると聞かされ、和彦は目を丸くした。

「すごいですね」

「まあ、たまたま運がよかったんですよ。……
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    last updateLast Updated : 2026-03-30
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