로그인しばらくして、騎士たちが合流した。
状況確認は手短に済み、子どもたちは簡易担架で運び出されていく。
その間、誰も火竜のことには触れなかった。
触れられなかった、というより、どう切り出せばいいのか分からない、といった空気。
(うん。どこから突っ込んでいいかわからないしね……)
「……ローザリア」
殿下が、ようやく口を開く。
ローザ様は、静かに顔を上げた。「火竜は……君が連れ出した……のかい?」
「ええ、そうですわ」
答えを待つまでもなかった。火竜は身を低くして、まるで撫でてというように、頭をローザ様に摺り寄せているのだから。
「正式な手続きを踏んでいない以上、問題にならないわけがないのだけれど」
ローザ様は肩をすくめる。
「きっと、そうですわね」
あっさりした返事だった。
「始末書で済む話ではないかもしれない。
管理責任、危険度評価、被害想定—しばらくして、騎士たちが合流した。 状況確認は手短に済み、子どもたちは簡易担架で運び出されていく。 その間、誰も火竜のことには触れなかった。 触れられなかった、というより、どう切り出せばいいのか分からない、といった空気。(うん。どこから突っ込んでいいかわからないしね……)「……ローザリア」 殿下が、ようやく口を開く。 ローザ様は、静かに顔を上げた。「火竜は……君が連れ出した……のかい?」「ええ、そうですわ」 答えを待つまでもなかった。火竜は身を低くして、まるで撫でてというように、頭をローザ様に摺り寄せているのだから。「正式な手続きを踏んでいない以上、問題にならないわけがないのだけれど」 ローザ様は肩をすくめる。「きっと、そうですわね」 あっさりした返事だった。「始末書で済む話ではないかもしれない。 管理責任、危険度評価、被害想定——」 殿下は途中で言葉を切り、額を指で押さえた。「……正直に言うと、どこから手を付けるべきか分からない」 その一言で、場の空気が少しだけ緩んだ。 ローザ様は、わずかに笑う。「緊急事態だった、それだけではなくて?」「はぁ。リリエルだけでなく君までいなくなってしまって、私がどれだけ焦ったか、わかる?」「あら、私は先に行く、と声をかけましたわよ」「普通に考えて、先に行きようがないでしょう。 第一、どうやってリリエルの場所を知ったの?」「だから、火竜に頼ったのですわ。殿下こそ、どうやって見つけましたの?」 火竜はその言葉が分かったかのように、低く喉を鳴らした。「怪しい動きをしている馬車をしらみつぶしに当たっただけだよ。子供が攫われたという情報もあったから」「まぁ、結果オーライではなくて? 殿下は一足遅かったですし」「……まぁ、それを言われてしまうとね」
(大丈夫よリリエル) すっかり高く上った月を見上げながら、自分に言い聞かせる。 結局、私は藁に包まれるようにして横たわることにした。少し冷え込んできたし――やはり転落は恐ろしい。 ゲーム通りなら、ここで死ぬことはない。それはわかっている。 それでも山道を登っていくにつれ、身体は恐怖で勝手に震えてしまう。(魔法が使えないから、生身で放り出されるのよね。 どうか、落ちている途中で気絶できますように!) 震えながらも現金なことを考えてしまうのは、きっと私の防衛本能だ。 遠くでオオカミの遠吠えが聞こえる。(――そろそろだわ) 来たるべき衝撃に備えて目をつぶったその時。 ――空気がひりつくように震えた。 山道を吹き抜けていた風が、急に熱を帯び、肌を刺す。 何かが来る、と理解するより早く、耳に届いたのは私の名前だった。「リリィ──!」 あり得ない方向からの、聞き覚えがありすぎる声。 月明かりを裂くように、赤と金の光が走る。(えっ…… えぇぇぇぇぇ!???)「ローザ様!!???」 ローザ様の放った魔法は、音すら置き去りにして、盗賊たちを薙ぎ払った。 悲鳴が上がるより先に、彼らの身体は地面へ叩きつけられ、まるで最初からそこに存在しなかったかのように動かなくなる。(うそ……) ――すごい。いや、それよりも。「ローザ様!それ、まさか……!!」「待っててリリィ!今行くから!!」 遠くから届いたその声が、まだ耳に残っているうちだった。 ごう、と低い唸りが地の底から響き、足元の感触が、突然、失われた。 崖道が軋み、岩が割れる音が連なって、視界が大きく傾く。 息が、止まった。(――落ちる!!) そう思った次の瞬間、身体は宙に放り出されることもなく、強い衝撃に包まれた。 炎を孕んだ風が、全身を覆う。 熱を宿した
神殿での用事は、思ったよりも早く終わった。 護符の流通管理についての確認と、いくつかの帳簿のすり合わせ。 神官長は終始真面目な顔だったけれど、特に揉めることもなく、淡々と話は進んだ。 ある程度の管理方法が確立してきたから、今後は月に一度程度のすり合わせで十分だろう。 私はと言えば、細かな帳簿の話になったところで一旦席を外して、追加の護符をさくっと三百枚ほど作ってしまった。 完成度もかなり高い自信作だ。「お疲れさまでした。 お忙しいところ頻繁に足を運んでいただいて。 お陰様で混乱も少なく進めております」 神官長にそう言われ、私は軽く頭を下げる。「いえ。問題が起きてからでは遅いですから、 当然ですわ」 ローザ様はいつもの仕事の顔でそう返した。 ――さっきまでの天然はどこへ行ったのかと思うほど、切り替えが早い。 神殿の石段を下りながら、殿下がふと足を止めた。「そうだ、神殿から街の露店あたりまではまだ確認していなかったね。 少し歩いてみないかい? せっかくローザリアもいることだし」「あ、それなら、昨日の護符飾りも見ていいですか?ちょうど街の入り口あたりですよね。 ローザ様、どう?」「いいわね。せっかくここまで来たんだし、 見ていきましょうか」 ふいに昨日の視察が頭をよぎる。 露店、広場、そして――あの路地。(でも、今日は三人だし、 護符飾りの露店はあそこからは遠いしね) そう思って、警戒しかけた思考をそっと押し戻した。 神殿の正門を抜けると、空気が変わった。 石の静けさから、生活の匂いへ。 午後の遅い時間で人通りは多いが、昨日ほどの熱気はない。 3人並んで歩く。ローザ様もいつも通りだ。「ふふ、私の護符は3色あるから…… 護符飾りもあえてカラフルにしようかしら。 リリィはどうするの?」
「で? どこを回ったの?」 ローザ様は椅子に肘をついて、身を乗り出した。 その距離が近くて、思わず瞬きをする。 視察の翌日。 珍しくローザ様が私をチラチラ見ているなぁと思ったら、休み時間になった途端、私の前の席に座って振り返った。 きっと戻ってきた子はびっくりするだろう。「露店の辺りかな。目貫き通りから広場に抜けて……」「まぁ、いいわね。あのあたり、美味しいクレープ屋さんがあるのよ」「それ、行ったわ!すごくおいしかったぁ……。 私はバターと砂糖にオレンジソースがかかっているクレープを食べたのだけど」「まぁ、それ、私も好きなクレープだわ。 あそこのバターはね、ふふ、 クロイツ領のバターなのよ」「ええ!知らなかった! もう、殿下、教えてくれれば良かったのに」「殿下はキャラメルソースかしら?」「そう!さすがローザ様!二人は良く通ったの?」「そうね。殿下が学園に入ってからはないけれど、昔はよく行ったわね」「へぇ。ね、じゃあ今度ローザ様一緒に行かない? ほかにも食べたいクレープが沢山あって……」 言いながら、昨日見た露店の光景が浮かぶ。「そうだ、護符につける飾りも沢山売っていたのよ!それもローザ様と選びたいなぁ」「やだリリィ、せっかくなら殿下と選んできたらよかったのに」「……え?で、でも、私はローザ様と……」 最後まで言い切る前に、きん、と澄んだ音が教室に響いた。 授業開始のチャイム。 ローザ様は「あら、もうこんな時間」と軽く笑って席を立つ。「ランチの時もまた話しましょ、リリィ」 何事もなかったように去っていく背中を、私はただ見送るしかなかった。(ローザ様の誤解って、どうしたら解けるのかしら) ラン
それから何を見てもさっきのフードの男が頭から離れなくて、殿下と並んで歩く間、私はずっと頭の片隅で“誘拐された場合のシミュレーション”を回していた。(もし腕をつかまれたら……魔力を流して抵抗? ううん、騒ぎになったら関係ない人を巻き込むかもしれないわ。 どうせ起こるんだから、素直に連れていかれるべきよね) どんどんおかしな方向にいく思考を慌てて止めたとき。(……あ) 視界の端に、“この事件が起こるはずの地点”が自然と飛び込んできた。 露店の並びが一度途切れ、建物が曲がって死角になる狭い路地。 頭上には古い渡り廊下がかかり、昼でも奥が見えない。 人通りは多いのに、なぜかその角だけぽっかり空いている。(ここ……イベントの現場だ) 足が止まりかけて、慌てて歩調を合わせた。(落ち着いて。まだ何も起きてない) そう言い聞かせるのに、心臓だけが先走る。 視界が、ほんの少しだけ狭くなった。 ――人の流れはいつも通り。 露店の呼び声も、笑い声も、何一つ変わらない。 なのに、この路地だけが、舞台装置みたいに整いすぎている。 あのフードの男が潜んでいてもおかしくない。 不自然にならない程度に、あたりを見回した。『眠り薬をかがされ、そのまま抱えられていく』そんなテキストが脳裏に浮かぶ。(っていうか、この状態でどうやって誘拐するの? 殿下が何かを見ている隙に? ううん、殿下はそんな無能じゃないわ。 ……あれ?それじゃあ私が殿下から離れるべき?) 緊張で身体は強張るのに、矛盾した思考の堂々巡りが止まらない。 ――けれど、視察の流れでそこを通り過ぎても、何も起こらなかった。 背中に向けられているはずだった視線は感じない。 気配も、魔力の揺れも、何も。(……通り過ぎちゃった) 安堵より先に、拍子抜けが来た。 準備していた分だけ、力が抜ける。
――私の共鳴は、どうやら殿下限定らしい。 あのあと諦めきれずに何度か試してみたけれど、二回ほど気絶したところで心が折れた。 日が落ちるまで付き合ってくれた殿下とローザ様には、ほんとうに頭が上がらない。まぁ、ほとんど気絶した私の見守りだったんだけど……。 それにしても、最近は気絶からの回復がやたら早くなってきた気がする。 自己治癒力―—つまりは聖女の力が高まってきているということなのだろうか。 殿下は「私と君が共鳴できるなら、この二人を媒介にして大規模な魔法が構築できるかもしれない」と珍しく興奮した調子で言っていた。 クラヴァ―ル先輩に相談してくる、という殿下の横顔はどこか子どものように輝いていて、(あ、この人、本当に魔法が好きなんだ)と、ちょっとだけ微笑ましくなった。 そして、魔道具では共鳴できなくても、殿下との共鳴が確認できたことで、どうやら単位はもらえそうだ。 先生に報告したときしばらく言葉を失っていたから、相当な特殊例なのだと思う。 とは言え意識的にできるようになる必要はある。 そこは……もう、殿下に頼るしかなさそうだ。(もうここまで来ちゃったんだから、開き直るしかないわよね。) 幸い殿下は協力的で、この調子なら私の魔法のスキルはどんどん上がると思われる。 共鳴に、殿下との親密度。 流れは王子イベントに着々と向かっている。 けれど今の私には、他に気になることがあった。 その日の放課後。廊下で偶然ローザ様と肩を並べた時は、いつも通りだった。「リリィ、見て、紫の護符、手に入れちゃった」 「えっ! あれ、図書棟の整理のお礼よね!?」 「そうよ?」 「え……えぇぇ、ローザ様、ほんとに役に立ったの……?」 「失礼ねぇ。私だって、やることさえ決まっていたら整理くらいできるわよ」 いつもと変わらない、たわいもない軽口。 ――なのに。「二人とも、楽しそうだね」 背後から殿下の声がした瞬間。 ローザ様







