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エピソード3:魂の試練

Author: ちばぢぃ
last update Last Updated: 2025-10-04 08:00:04

悠真は広間の中央に立ち、巨大な魂の門を見上げていた。鏡でできた門は、複雑な模様が刻まれ、表面には無数の光が渦巻いている。さっきまでカイルの笑い声が耳に残っていたが、今は静寂だけが広がり、どこか不気味な雰囲気を放っていた。頭の中はまだ混乱でいっぱいだ。リアナとはぐれ、なぜかこの場所に連れてこられた。手には握り潰しそうなほど強く鏡の破片を握り、冷たい感触が彼の不安を煽る。

「ここ…どこだよ?試練って何だ?」

悠真は周囲に大声で叫んだが、声は広間に反響するだけだった。

すると、魂の門から低く響く声が再び聞こえた。

「汝、鏡の鍵。試練を受け、自身の欲望を直視せよ。失敗すれば、魂は永遠に封じられる。」

「欲望…?何!?待て、説明しろ!」

悠真は慌てて門に近づいたが、足元が突然光り、彼の体が浮かび上がった。

視界が歪み、次の瞬間、悠真は見知らぬ場所に立っていた。そこは現代の彼のアパートだった。机には教科書が散乱し、ベッドには散らかった毛布。だが、どこか違和感がある。空気が重く、鏡の表面が不自然に輝いている。

「ここ…俺の部屋?でも、なんかおかしいな。」

悠真は周囲を見回し、戸惑いを隠せなかった。

すると、部屋の隅から声がした。

「悠真…助けて。」

振り返ると、そこには美咲が立っていた。彼女のショートカットの栗色髪は乱れ、目は涙で潤んでいる。白いブラウスが汗で張り付き、彼女の震える姿が悠真の心を締め付けた。

「美咲!?お前、なぜここに!?」

悠真は駆け寄ろうとしたが、足が動かない。

「悠真…私、鏡に吸い込まれて…。助けて、怖い…。」

美咲が手を伸ばし、涙を零した。

「くそっ!動け、俺の体!」

悠真は歯を食いしばり、力を込めた。だが、足はまるで地面に縫い付けられたように動かない。

その時、部屋の鏡が光り、別の映像が映し出された。そこにはリアナがいた。彼女は貴族派の騎士たちに囲まれ、剣を構えている。鎧が傷つき、銀髪が血で濡れている。

「佐藤…!助けが必要だ…!」

リアナの声が鏡から漏れ、彼女の苦しげな表情が悠真を刺した。

「リアナ!?お前も危ないのか!?」

悠真は叫び、鏡に手を伸ばした。だが、手が鏡に触れると、映像が切り替わり、今度はカイルが現れた。

「佐藤、俺と組めば全て解決する。力を手に入れ、好きなように世界を変えよう。」

カイルは妖しげに笑い、鏡の破片を手に持つ。

「うるさい!俺はそんなつもりない!」

悠真は怒りをぶつけ、鏡を叩こうとした。

すると、部屋全体が揺れ、3人の声が同時に響いた。

「悠真…助けて。」

「佐藤…助けが必要だ…!」

「佐藤、力を手にしろ。」

頭が割れるような痛みが走り、悠真は膝をついた。

「何だこれ…!頭の中がぐちゃぐちゃだ!」

彼は呻き、鏡の破片を握り潰した。

その瞬間、魂の門の声が再び響いた。

「試練は欲望の鏡。汝の心に潜むものを選べ。救うか、支配するか、棄てるか。」

「欲望…?選べって…どうすればいいんだよ!」

悠真は叫び、頭を抱えた。

映像が再び切り替わり、今度は3人が同じ部屋に現れた。美咲、リアナ、カイルが悠真を取り囲み、それぞれが手を伸ばしてきた。

「悠真、私を選んで…。」

美咲の声は切なく、彼女の涙が悠真の心を揺さぶった。

「佐藤、私を救え…。お前の力が必要だ。」

リアナの瞳は真剣で、彼女の傷ついた姿が彼を急かした。

「佐藤、俺と一緒に全てを壊そう。自由を手に入れよう。」

カイルの誘惑的な声が、悠真の耳元で囁いた。

「選べ…?俺にそんな権利あるのか?」

悠真は混乱し、3人の顔を見比べた。

魂の門の声が厳かに続いた。

「選ばなければ、全てを失う。欲望を直視し、決断せよ。」

悠真の心は葛藤で揺れた。美咲への想い――幼馴染として守りたい気持ち。リアナへの信頼――彼女の強さと優しさに惹かれ始めている自分。カイルへの警戒――だが、その力に惹かれる欲望。どれも彼の一部であり、どれも捨てがたい。

「くそっ…!俺、誰かを選ぶなんてできない!」

悠真は叫び、鏡の破片を床に叩きつけた。

その瞬間、部屋が崩れ始め、3人の姿が消えた。代わりに、広間の中央に戻った悠真の前に、魂の門が輝きを増した。

「汝、欲望を直視した。だが、決断を避けた。その結果を受け入れよ。」

声が響き、魂の門から光の柱が悠真を包んだ。

「結果…?何!?」

悠真は叫んだが、光が強くなり、彼の意識が薄れていった。

目を開けると、広間の外にいた。目の前には、リアナが剣を構え、息を切らしていた。

「佐藤!生きていたか!どこに行っていた?」

彼女が駆け寄り、悠真の肩を掴んだ。

「リアナ…!俺、魂の門に引き込まれて…。試練ってやつを受けた。」

悠真は混乱しながら説明した。

「試練…?魂の門がお前を試したのか。どうだった?」

リアナは心配げに尋ねた。

「欲望を直視しろって…。美咲、君、そしてカイルの幻が出てきて、選べって言われた。けど、選べなかった。」

悠真は頭を振った。

「選べなかった…。それは賢明だったかもしれない。魂の門は決断を強いるが、偽の調停者には過酷だ。」

リアナは少し安堵したように息をついた。

「過酷…?けど、何か変わった気がする。」

悠真は自分の手を眺め、鏡の破片を握った。すると、軽く光が瞬き、彼の意志で制御できた。

「お前の力…制御できるようになったのか?」

リアナが驚き、悠真の手に目をやった。

「ちょっとだけ…。試練で何か掴んだのかもしれない。」

悠真は微笑み、鏡の破片を操作してみた。光が球状になり、彼の周囲を漂い始めた。

「素晴らしい。だが、使いすぎには注意だ。試練はまだ始まったばかりかもしれない。」

リアナは剣を収め、悠真を促した。

「まだ…?マジかよ。けど、ありがとう、リアナ。助けに来てくれたんだろ?」

悠真は彼女に感謝を込めて言った。

「任務だ。だが…少しは頼りにしてもいいと思った。」

リアナは目を逸らし、頬を赤らめた。

二人は広間を後にし、外の夜空を見上げた。鏡の破片が輝く中、悠真の心に新たな決意が芽生えていた。

「次は誰が来るか分からないけど…。俺、ちゃんと戦うよ。」

彼は拳を握り、リアナに誓った。

「その覚悟があれば、生き延びられる。さあ、旅を続けよう。」

リアナは微笑み、二人は夜の闇へと歩き出した。

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