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第20話

last update Last Updated: 2025-05-15 18:48:38

パーティー当日。貴族達が続々と入場してくる。私は控えの間で待たされていた。

「身に着けている宝石が豪奢過ぎる。所詮はお前もお貴族様だな」

そこに王太子殿下が難癖をつけてきた。

「高価なルビーを贅沢に使っていながら、民の為を思っていると言えるのか?慈善事業など建て前の偽善で、結局は我が身が一番可愛いのだろう」

責め立ててくる王太子殿下の方こそ豪奢な装いなのだけど、ここは控えておくべきね。

「これはルビーではなく、上質ではございますがレッドスピネルを代用した物でございます」

レッドスピネルはルビーの代わりに用いられる事が少なからずあり、美しさのわりにルビーよりも安価なのよ。

でも、王太子殿下はかえって鼻白んだ様子だわ。

「お前は私を軽んじてるのか?私との婚約披露の場で安物を身に着けるとは」

叱責するような勢いで揚げ足を取ってきた。

「質素倹約を美徳としております、レッドスピネルも美しさではルビーに劣りません」

私は物静かに受け答えした。

「何の宝石を着けるかではなく、己の身に似合う宝飾品を作らせる事、そこに驕りがない事が大事と考えます」

「つくづく食えない女性だ、私に口答えするとは己が随分偉くなったと思い込んでいるようだが勘違いするな、生意気過ぎる」

王太子殿下は文句を言うばかりね。言い返す事も面倒になっていた、その時に私達が入場する時が来た。

王太子殿下も外聞だけは整えようという気持ちがあるのね。腕を差し出され、見た目だけは寄り添い腕を組んで入場する。

入場を済ませると、さっそく貴賓が挨拶に来る。外国からの者も多いわ。

『ごきげんよう。ドラッド夫人、この度はお越し下さり誠にありがとうございます』

『まあ、私の名を知っているだけでなく、国の言葉もお話し出来るのですか?嬉しいわ』

『まだ未熟でお恥ずかしい限りですが、ご挨拶だけでもと勉強してまいりました』

すると、他の人も話しかけてきた。

『王国の王太子妃となる方は勉強熱心ですのね、私ともお話しして下さるかしら?王国について聞きたいですわ。織物がとても繊細だと聞いていますのよ』

『ありがとうございます、ファスト皇女殿下。我が国の織物は本日の私のドレスにも用いておりますわ。刺繍のように細やかな模様を織り込めますの』

主要国の言葉なら会得しているわ。相手に合わせて言葉を使う事で、喜んでもらえたようね。皆さまとの会話も弾むわ。
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