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2.流産?

last update publish date: 2025-10-24 08:55:24

遥side

リビングに入ると、奏多が小さい頃から憧れていた星野麗華がソファで鼻をすすりながら泣いていて、その隣で奏多が優しく彼女の肩を抱き慰めている。

パッチリした二重の大きな瞳から流れる涙が、ゆるくまかれた髪にかかり濡らしている。奏多は私の存在に気づくと、麗華に向けていた愛しさ溢れるやさしい顔とは打って変わって憎しみを持った鋭い視線を送ってくる。

「お前、麗華になんてことをしたんだ」

「……なんのこと?何をそんなに怒っているの?」

「お前、麗華の子供の命を奪おうとしただろ。」

「麗華の子ども?そもそも麗華が妊娠していることすら知らないのに、何を言っているの?」

奏多は、私の態度が気にくわなかったようで更に鋭く睨みつけてくる。

「一昨日、お前が出したお茶のせいで、麗華は体調を崩して病院に運ばれて危うく流産するところだったんだ。どうせお前のことだから、麗華の飲み物に薬でも入れたんだろ」

流産と聞いて先程の森本医師の言葉を思い出して恐怖が再び私を襲ったが、身に覚えのない話に私は必死で反論をした。しかし、奏多は一切耳を傾ける気はないらしい。

「……私がそんなことするはずないじゃない!」

「それならなんで麗華は体調を崩したんだ。それに今なんですぐに否定しなかった!」

「何であなたがそんなに怒っているの?もしかして流産しかけたのは、あなたたちの子どもだったの?」

私が問い詰めると、麗華は大粒の涙を流しながらに奏多の腕を掴んで訴えるように言った。

「もうやめて。これ以上、責めたりしないで。……私がもっと注意していればこんなことにはならなかったの。何の疑いもせずにお茶を飲んだ私が悪いの。私が、私がもっと注意していれば……。」

言い終わる前に麗華は再び顔を両手で隠して声を出して号泣し始めた。あたかも私が薬をいれた前提で自分の不注意だと泣く麗華に、奏多は彼女の頭を撫でて自分の胸元へと引き寄せて慰めている。

「だから私はやっていない!こっちの話を聞こうともしないで、ふざけたこと言わないでよ。あなたたちと同じ空気なんて吸いたくないわ」

「うるさい!今すぐ出ていけ!!」

奏多の言葉に、胸を抉られたような鋭い痛みが私を襲う。精一杯の強がりで捨て台詞を言った後、震える身体で寝室へと逃げ込んだ。

――――――数か月前、奏多の憧れの女性の星野麗華が海外から戻ってきた。

それからというもの、麗華はこの家に頻繁に顔を出して、自分が奏多の妻だとでも主張するかのように使用人に食事の準備をさせたり送迎を言いつけていた。使用人たちも嫌がるそぶりを見せず、むしろ麗華が来るのを歓迎しているようで私の居場所は今まで以上になくなっていったのだった。

数分後、寝室の扉が激しい音を立て、怒り狂った奏多が部屋に入ってきて、私の顎を強く掴むと自分と視線が合うように顔をくいっと持ち上げた。

「さっきの態度は何だ。俺は麗華に謝れと言ったはずだが意味が分からなかったのか?まさか結婚したからといって、俺の奥様気取りか?勘違いするなよ、お前は俺を騙してこの立場を手に入れただけで妻でも何でもないんだ。全くいいかげんにしろ、お前とはもう離婚する」

『離婚』その言葉を聞いて、とっさにお腹に手を当てた。

(今、お腹には私と奏多の子どもがいる。私一人の身体でも人生でもない……)

「……離婚って本気で言っているの?でも私、妊娠しているの。今、離婚したらこの子の父親がいなくなってしまうわ」

その言葉に奏多はピクリと眉を動かして一瞬だけ動揺した。しかし、すぐにいつもの冷酷な表情に戻ると、突き刺すような鋭い視線を私に向けて来た。

「――――そんな見え透いた嘘で俺を繋ぎとめようとするつもりか。俺は毎回避妊している。子どもなんか出来るわけないだろう」

「避妊って言ったって完璧にしているわけじゃないでしょ。今日、病院で検査してもらったの」

「仮に子供ができたとしてもお前みたいな汚い女の子供など住吉の血を汚すだけだ。俺は絶対に認めないからな」

私たち二人のもとに舞い降りた小さな命。しかし、奏多にとっては離婚を踏みとどまるには取るに足りないとでも言うのだろうか。

――この二年間、奏多に献身的に尽くしてきた日々を思い出す。どんなに奏多に認めてもらおうと頑張っても、隣に奏多の姿はなく、妻としても、女としても愛情を注がれることはなかった。

「私は、今まであなたのために尽くしてきたつもりよ。でもあなたは、いつまで経ってもスキャンダルのことを恨んで、私を見ようとしなかった。私のことを一度でも愛したことがあった?」

奏多はしばらくの沈黙の後に小さく口を開いた。

「…………ないな」

「お義父様の命令だったから結婚しただけで、今後もこの関係が変わることはないの?」

「―――当たり前だ」

大粒の涙がとめどなく流れて何も言えなくなった私を見て、奏多は私の肩を抱くどころか触れることなく冷たい視線を向けてからその場を去って行った。

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