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青春の真ん中で君を想う
青春の真ん中で君を想う
Author: 姫吏祢夢

変わらない朝

Author: 姫吏祢夢
last update publish date: 2026-06-29 17:23:27

「伊吹ー!遅刻するぞー!」

聞き慣れた声が外からして、

私は布団の中で顔をしかめた。

カーテンの隙間から差し込む朝日が眩しい。

時計を見る。

七時四十二分。

「……え?」

次の瞬間、私は飛び起きた。

「やばいっ!!」

今日から高校二年生。

新学期初日。

絶対に遅刻しないようにしようと思っていたのに。

慌てて制服に袖を通し、鏡の前で髪を梳かす。

ぴょこんと跳ねた寝癖が直らない。

「もう!」

水で押さえても元気よく跳ね返ってくる。

仕方なく前髪だけ整え、鞄を肩に掛けると

勢いよく部屋を飛び出した。

階段を駆け下りて、

「お母さん!行ってきます!」

「朝ご飯は!?」

「時間ないー!」

玄関を飛び出すと、そこには呆れた顔の鳴沢陸が立っていた。

「また寝坊かよ。」

「おはよ!陸!今日だけだよ!」

「昨日も言ってたそれ。」

「…それは忘れて。」

「伊吹、今日から二年生だぞ。」

「知ってる!」

「ならもう少し余裕持て。」

「無理!」

陸は大きくため息をついた。

陸とは家が隣同士で幼稚園の頃からずっと一緒。

兄妹のように育ってきたのだ。

今さら取り繕う必要もない。

寝坊した日も、

忘れ物をした日も、

寝癖をつけていた日も、

全部知っている。

「ほら、行くぞ。」

「うん!」

ぶっきらぼうだけど、いつも家まで迎えにきてくれて

なんだかんだ優しいんだよね。

私たちはいつもの通学路を歩き始めた。

春風が心地いい。

桜並木の花びらが風に乗ってふわりと舞い、

制服の肩に落ちた。

新しいクラス。

新しい一年。

少しだけわくわくする。

「そういえば。」

陸が歩きながら口を開いた。

「またクラス替えで騒ぐんだろ。」

「だって緊張するじゃん!」

「どうせ誰かとは一緒になる。」

「でも四人とも同じクラスがいい!」

その言葉に陸は少しだけ笑った。

「伊吹は欲張りだな。」

「いいじゃん。」

そんな話をしていると、

「あ、おはよー!」

前から聞こえた声に顔を上げる。

そこにいたのは東堂湊だった。

湊はサッカー部所属の誰からも好かれる人気者だ。

今日も肩にサッカーバッグをかけて、

爽やかな笑顔でこちらに向けて笑う湊は

朝日に照らされて美しく見えた。

「おはよ、伊吹。」

「おはよ!」

「また寝坊?」

「なんで二人ともそれ聞くの!」

「だって分かりやすいんだもん伊吹。」

湊は声を上げて笑った。

その笑顔につられて、私も笑う。

昔から変わらない。

湊はいつだってそうだった。

私が泣いている時も。

失敗して落ち込んでいる時も。

いつも隣で笑ってくれた。

「今年も同じクラスだといいな。」

私がそう言うと、

「だな。」

湊は少しだけ優しく目を細めた。

その笑顔を見ていると、不思議と安心する。

その時だった。

「お前ら朝からうるさい。」

後ろから聞こえた低い声。

振り返ると久我玲央がいた。

「玲央!」

「おはよう。」

「おはよう!」

玲央は成績優秀で冷静沈着。

口数は少ないけど仲間思いなんだよね。

昔は宿題を忘れた時、

勉強が分からなかった時に

なんだかんだ助けてくれる。

こうして四人が揃った。

幼稚園からずっと変わらないメンバー。

私たちの当たり前。

学校が見えてくる。

昇降口にはたくさんの生徒が集まっていた。

みんなクラス替えの結果を見ている。

「ねぇ、どうしよう。もし誰とも被らなかったら。」

と不安気にみんなに伝えると、

「そんな顔するなよ。」

と言う湊。

「伊吹は絶対騒ぐ。」

と言う玲央。

「もう!陸と同じこと言うな!」

と玲央の肩をたたいた。

「見に行くぞ。」

陸が言った。

「うん!」

私は少しだけ緊張しながら掲示板へ向かう。

どうか。

どうか今年も――。

「あった!」

思わず声が出た。

私の名前の近くには、

東堂湊。

鳴沢陸。

久我玲央。

三人の名前が並んでいた。

「また一緒じゃん!」

「すご。」

陸が笑う。

「腐れ縁だな。」

玲央も珍しく口元を緩めた。

そして。

「よかった。」

湊が小さくそう言って笑う。

その笑顔を見た瞬間。

なぜか胸が少しだけ高なった。

でも、その理由なんて考えもしなかった。

春だから。

新学期だから。

きっと、それだけ。

この時の私はまだ知らない。

この一年で、

変わらないと思っていた私たち四人の日常が、

少しずつ形を変えていくことを。

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