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近すぎる距離

Author: 姫吏祢夢
last update publish date: 2026-07-01 21:11:48

席替えから三日。

私はある問題に悩まされていた。

「近い……。」

隣の席に座る東堂湊をちらりと見る。

近い。

とにかく近い。

授業中も。

休み時間も。

移動教室も。

気付けば隣にいる。

幼なじみなのに。

今さら何を気にしているんだろう。

そう思うのに、なぜか落ち着かない。

「伊吹。」

不意に名前を呼ばれた。

「ひゃっ!」

変な声が出た。

湊が目を丸くする。

「どうした?」

「な、なんでもない!」

恥ずかしい。

すごく恥ずかしい。

「これ。」

湊が私の机を指差した。

消しゴムが床に落ちていた。

「あ。」

「ほら。」

拾って渡してくれる。

指先が少し触れた。

たったそれだけ。

なのに。

心臓がうるさい。

「ありがと……。」

「?」

湊は不思議そうな顔をした。

もちろん気付いていない。

湊はいつも通りなのに…。

私が勝手にドキドキしていることなんて。

「ねえねえ、水原さん!」

声の方に目を向けると、クラスの女の子たち。

二年になってから同じクラスになった子と、

その取り巻きだ。

この子は学年の中でも上位に入るくらい可愛くて

男の子からも人気がある。

取り巻きの二人も流行りにのったおしゃれをしている。

「どうしたの?」

私がそう聞くと、

「水原さんって東堂くんと仲良いよね!」

「東堂くんの連絡先知ってる?」

「東堂くんって好きな子いるのかな?」

と一斉に話しかけられる。

私は聖徳太子か!と思いながら、

「さぁ、本人隣にいるんだから聞いてみなよ。」

と答えた。

「そんなことできるならあなたになんて話しかけないわよ!」

と女の子が言いながら取り巻きを連れてスタスタと去って行った。

とんだ災難だったなと思うも、

私は全く気にしていなかった。

隣では湊が少し困ったように、

そして私には見えないようにこっそりと笑っていた。

今日は私の苦手な数学の授業があった。

私は頭を懸命に働かせて、先生の話を聞く。

すると先生が、

「じゃあこの問題を…水原。やってみろ。」

と私の名前を呼んだ。

私はまずい…!と焦った。

だって先生の話を真面目に聞いても全然理解できないんだもん。

終わった。

そう思っていると、

隣から湊がスッとノートを私に見せてきた。

私はその答えを即座に見て立ち上がって、

前の黒板に書き示した。

「正解だ。」

先生にそう言われ、ほっと安心した。

席に戻ると湊と目が合い、私は口パクで

「あ・り・が・と・う」

と伝えた。

湊は笑ってグッジョブをしてきた。

先生の話を理解できるようにと思い、

私は数学の教科書を開けた。

昼休み。

今日は四人で屋上でお弁当を食べる。

とても天気が良くて清々しい空だ。

私はお茶を飲もうとして水筒の蓋を開けた。

「あれ…?」

水筒の中身は空っぽだった。

そんなに飲んだっけなぁ、私。

「伊吹、また全部飲んだの?」

と隣で見てた陸が言った。

私はうんと頷いた。

「しゃーなし、買ってやるよ。」

と陸が自販機に行こうとする。

しかし、陸より早く湊が立ち上がった。

「俺買ってくるよ。伊吹、緑茶でいい?」

「うん、ありがとう湊。」

私が感謝を伝えると

湊はにかっと笑って屋上から出て行った。

陸は少し複雑そうな、

不満そうな顔をしている。

その様子を見ていた玲央は小声で

「過保護が二人いるな。」

と呟いていたけど、

私の耳には届かなかった。

放課後。

「伊吹、帰るぞ。」

陸が声をかける。

「うん。」

私が返事をすると、

湊も立ち上がる。

玲央はすでに鞄を持っていた。

「もうちょっとで体育祭の準備が始まるな。」

陸が何気なく言った。

「二年生になってから初の行事だね!」

私は楽しみになって笑う。

「クラス対抗リレーあるらしいぞ。」

湊がそう言うと、

「うわ、俺リレー苦手。」

玲央が苦笑した。

「えっ。玲央にも苦手なものあるんだ!」

「ある。」

「私は応援頑張る!」

と言うと、

「お前走る気ないだろ。」

陸が呆れたように笑う。

「走るよ!?……たぶん。」

「『たぶん』って何だよ。」

四人で笑い合う。

いつも通りの会話。

いつもの四人。

いつもの帰り道。

なのに。

今日は少しだけ違った。

信号待ちで立ち止まった時。

ふと横を見る。

そこには湊がいた。

夕日に照らされた横顔。

昔から知っている顔。

だけど。

知らない表情も増えた気がする。

「どうした?」

視線に気付いた湊が笑う。

私は慌てて前を向いた。

「なんでもない!」

胸がまた高鳴る。

春の風が吹いた。

そして私はまだ知らない。

この気持ちの名前を。

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