Semua Bab 『特別なひと』― ダーリン❦ダーリン ―❦: Bab 151 - Bab 160

168 Bab

◇やり直したい 151

151「すまない……花を苦しめたこと、すごく後悔してる。 だからこそ、この先花に償いたいと思ってる」「私ね、ある処方というか治療で精神を安定させてもらってるの。 この処置のお蔭で匠吾が島本玲子と結婚したって聞いてもおかしくならずに済んでるの」「玲子は知らないけど入籍はしてないし、この先するつもりもないんだ。 結婚したことにして一緒に住んでるのは仕方のないことなんだ。 彼女に復讐するための形だけの夫婦っていうか……。 今は家族と一緒に追い込みをかけてるところなんだ。 余り詳しくは話せないけど」「匠吾が望まないそんな歪な結婚をしたのはおじいちゃんのせい?」「すごく怒られた。 そして、俺は爺さんの本当の孫じゃなかったんだ。 びっくりだろ」「えっ?」「俺ってお袋の連れ子でさ、爺さんは元より親父とも血の繋がりがなかったってわけ。 参ったよ。 母さんもさ、俺のせいで爺さんにコテンパンにやられてさ。 玲子のことがなければ、何も知らず俺も両親も平和だったのに……。 俺はさ、花だけじゃなくて周りのみんなを不幸にしてしまったんだよなぁ」「そっか、おじいちゃん、ちゃんと私のために怒ってくれたんだ。 匠吾にはこういう言い方申し訳ないけど……。 おじいちゃんに足向けて寝られないや。 私、付き合ってる男性《ひと》がいるの」「……」「……って言えたら良かったのにね。 付き合ってはいないんだけど、一緒に仕事している人から交際を申し込まれていて、私たちのどちらかが異動になってから返事することになってるの。 付き合って上手くいかなくなった時に仕事放り出すようなことになったら嫌だからそうしてもらってるの。 私は一度そういうので会社辞めてるから」「まだ付き合ってないのなら、俺とのこと考えてみて、花」
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-23
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◇魔法をかけた花 152

152「さっき話した治療のことだけど、その私の精神崩壊を堰き止めてる 魔法の有効期限が10年。 10年したら解けるの。 その日に27才のあの悲しみの真っただ中にいる私に戻るんだって。 その日が来た時に私の精神が耐えられるかどうかが分かるの。 匠吾を許せない私に戻るのよ。  その日その時に匠吾と結婚なんてしてたらどうなると思う? 錯乱してその辺の橋の上から私、飛び降りるかもよ。 橋の下を流れるように走る車の上に落ちるのが目に浮かぶわ。その10年後の37才頃に、夢から覚めるように催眠療法から覚めて 匠吾のことを受け止めることのできる私だったらその時は匠吾のプロポーズ を受け入れられるかもしれないけど、匠吾、どうなるかも分からない私の ことを10年も待てる?  子供だって持てないかもしれないのよ。  もう私のことは忘れて新しく生き直した方がいいと思う。 匠吾だったらいくらでも好きになってくれる女性《ひと》いると 思うから。 匠吾を想ってくれる人と幸せになってほしい。  私のことは忘れて」「な、花……10年後魔法が解けて、元の木阿弥になったら花は どうなるんだ?」 「また先生に魔法をかけ直してもらうかな」 「その魔法って……」 「魔法はね、匠吾を想う気持ちを私の記憶の片隅に追いやって小さくして まるで他人事のように感じられるようにするの。 すごいでしょ。 悲しみや苦しみの元は私が匠吾のことを強く思う気持ちだからね。 その強く想ってる好きな気持ちを小さく小さくしていくっていう ことかな。ある意味封じ込めるっていう手法だよね」「そんなこと……」 「私帰るね、じゃあ。  あっ、匠吾言いにくいんだけどもう私を待ち伏せしたりするのは止めて。  今日会えてうれしかった」 匠吾は絶句し、項垂れるしかなかった。 『ByeBye匠吾』          ◇ ◇ ◇ ◇  匠吾は私と会えてうれしいと言った。  償いたいからやり直そうとも言っていた。  匠吾には決して私の心理状態など分からないだろう。  私は以前抱いた底なしの悲しみに囚われたどうしよう、そう考えると 匠吾といることは恐怖でしかなかった。 それほどに私は怖かった。  魔法がかけられているとはいえ、長時間匠吾といることで 解けてしまわないかと怖
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-24
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◇メリクリ、やっほぃ 153

153あんなこと《匠吾と玲子の件》がなければ、今年のクリスマスは匠吾との楽しい思い出の一コマになったはずなのに、どうしてこんなことに……。 動き出してしまった歯車は止まらないし止められない。『未練などきっぱり振り切れっ、花』 寂しいクリスマス……花は最寄り駅に降り立ちホームから改札口へと向かった。 改札口を抜けると駅前はクリスマス一色のイルミネーションがまばゆく煌めき、行き交う人々は誰も彼もこの時を楽しんでいるように見える。 しんと冷えた空気の中、夜空を見上げ『私も幸せになりたい』と胸の内で呟いた。「もしもし、お嬢さん、メリークリスマス」 ジャストタイミング過ぎて、花は最初側にいる誰かに声がかけられたのかなと思うほどだった。 そう思いつつも反射的に声のする方に顔を向けるてみると、そこにいたのは今日も同じ職場で働いていた相原だった。「相原さん……メリークリスマス、やっほぃ。 って同じ電車だったのかしら」「たぶんそうじゃない」「違う車両で気が付かなかったのね」「ね、一緒に今からメリクリしよう」 相原が誘うと、花の顔がぱぁ~と破顔一笑された。 相原たちは以前2人で来たことのあるジャズの流れるカフェで食事をし、ワインもゆっくりと味わいながら飲み、その後はとびきり甘い苺ケーキをコーヒーでお腹に流し込んだ。 ワインのせいなのか、クリスマスのせいなのか、ちょっと素敵に見える相原と一緒にいるからか、少し落ち込み気味だった気持ちが上昇してゆくのを実感する花だった。 もう少しこの楽しい空間にいたいと思っていたのだが、相原に『もう出ようか』と促され、その場に心を少し残して花は店を出た。「掛居さんとクリスマスを一緒に過ごせてうれしいなぁ~」 昨日も今朝もクリスマスの『ク』の字も言わなかった相原なのに……。 ほんとは私を誘うつもりでいた? でもそれなら昨日から誘う機会はなんぼもあったはず。 多分たまたま駅で会ったからよね。 少し気になったものの、ほろ酔い加減で良い気分でいる花はそれ以上考えることは止《や》めた。
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◇特別な日に 154

154     「ね、左手出してみて」  花が手を出すと相原が手を繋いで言った。 「今日はさ、クリスマスという特別な日だから好きな子の手を繋いで いい日なんだぜ」 手を繋がれ相原と隣を歩き出した花は少し口角を上げにんまりした。 いきなりのことで驚きはしたけれど、くすぐったい気持ちになり 嫌じゃなかった。    相原の手は暖かかった。  しばらくこのままでいたいと思ったが花のマンションは駅近で すぐに手を離さなければならなくなる。 ……なのに相原は佇んだまま手を離そうとはしなかった。「あのさ、今日もう一度だけ泊まっちゃあだめかな、話したいことがある。    ま、面と向かって話せないようなこと? とか、いろいろ。  一度家に帰って明日の準備してから来るつもりだけど、どうかな」 「分かりました。  じゃあその間私も部屋を片付けたりして待ってますね」  一瞬逡巡したものの、昨夜一緒に過ごしていることもあり、花のガードは かなり緩んでいた。 『話って……何なのだろう』 もうお泊りのことよりも相原の話のほうが気になる花だった。           ◇ ◇ ◇ ◇ 相原は入浴も済ませて来たとかで、1時間をだいぶ過ぎてから 花の家へやって来た。 それで花も大急ぎで入浴を済ませた。 話したいことがあると言っていたのに風呂から出ると、自分《花》が ソファに準備した寝袋に入り相原は横たわっていた。 『話はどうするのかしら……。先延ばしになるのかな』 話って何ですかと聞けばいいのかもしれないが訊けるような状況ではない と判断し、花もベッドに入り寝ることに決めた。  うつらうつらした頃、相原が近くに来ていたようで 『うっ、さぶっ。  掛居さんちょっと入らせてもらっていいかな、話が済み次第 寝袋へちゃんと退散するからさ』 そう言うと彼は私の返事を待たず布団の中に身体を滑り込ませてきた。『クッションをちゃんと挟んどくね』  そう言って彼は、彼に背中を見せて横向きになっている私のお尻辺りの 部分にクッションを差し込んだ。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-25
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◇ぬくもりてぃ~ 155

155『おっ、掛居さんの温もりが~あったかぇ~。生き返るぅ~』とか独り言ちている模様。「相原さん、ただの同僚友人関係で一緒の布団は流石に憚られますけども」「うん、分かる。 女性からしたらそうだよね。 クリスマスっていうことで大目に見てよ。 クッション置いてちゃんと気遣い見せてるしぃ」「そういうことじゃなくてですね……ンもうしょうがないなぁ~」と抗議と納得とをしているうちに彼に背後からそっと抱かれていた。 包まれているようなふわっとした感覚だった。 なんかわけもなくガードがダダ下がりした瞬間だった。「話があるって言っただろ?」「ほんの少し前に聞いてるので忘れてませんよ。どうぞ……」「これからの掛居さんとの付き合い方についてなんだ」 このシチュエーション、花は結婚を前提にした交際でも申し込まれるのかと訝る。 このシチュエーションで訝るなどと思うなんて、素直じゃないと自分でも思うけど。 交際を申し込むならほんの少し前にクリスマスをふたりで楽しんだ駅近のお店の中でよかったはず。 ……だからなのだ。 花はじっと相原の次の言葉を待つ。「凛ね、実は俺の子じゃないんだ」『あっ、やっぱりトンデモな話から始まるのね』「へぇ~、じゃあ相原さんってバツイチじゃないってこと?」「まぁね」と彼はため息を吐く。『何故にそんなに暗い反応なの?』「たぶんだけど、このまま養子縁組してほんとの親子になると思う」「独身なのに?」「まぁ、そうかな」          ◇ ◇ ◇ ◇ 相原は他にも掛居との結婚を考えるに、不利な条件を抱えていて彼女を好きでも結婚を言い出せないという事情があった。 だが、なんとか掛居との縁を大事にしたいと考えているため、素直に自分の気持ちをこの夜、どうしても伝えたかったのである。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-25
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◇好きなんだ 156

156「俺ね、掛居さんのことが好きなんだ。 だからずっとこの先も今までみたいに時々会いたいと思ってる」「分かりました。 好きって言ってくれてありがと。 今まで通り、承知しました……」 なんとかちゃんと返事を済ませた花は背中の温もりに包まれて深い眠りへと|誘《いざな》われていった。  翌朝目覚めてみると隣には誰もいなかった。 夢うつつぼんやりと花は昨夜のことを振り返る。 私の隣に相原さんがいて、いろいろ話をしてくれていたはずなんだけどアレ? 帰っちゃった? 夢だった?  そんなふうに思いつつ私はリビングに向かった。 果たして……彼はちゃんとすっぽり寝袋の中に入っていた。 この部屋にちゃんといたんだというほっとした気持ちになる。 さてと、身支度して朝食の準備に取り掛かるとしましょうかっと。 野菜サラダにするレタスをちぎっていると後ろから両肩を掴まれ「おはよう。俺も何か手伝うよ」と声を掛けられた。「おはようございます。じゃあゆで卵の殻を剥いてもらっていいですか」「OK、じゃあ手を洗ってくるわ」 普段からやってるみたいで、ピザトーストにするつもりだというと、彼は並べてあった食材を見て手際よくトマト、ピーマン、ベーコンを切りトーストにチーズと併せて乗せ、私が野菜サラダを作り終えた時には流れるような作業でトッピングされたトーストのオーブン入れを終えていた。 そして、ピザトーストが焼き上がる頃にはコーヒーまで淹れ終えていた。 慌ただしく朝食を終えると彼は食器を洗い一足先に出て行った。 おそらく、いくらなんでも一緒に出勤はまずいとの考えからだろう。『お先に、行ってきます』『あぁ……い、いってらっしゃい』 口にモノが入っていたけれど何とか見送りの言葉を言うことができた。『行ってらっしゃい』かぁ~、まるで旦那さんを見送る奥さんみたい。 それにしても彼の行動がパーフェクト過ぎて誰だっけ、某アスリートが発言した有名な台詞が頭に浮かんだ。『何も言えねぇ』 ……っと台詞を思い浮かべている場合じゃなかった。 私も早く出ないと……、そのあと花も急いで出勤するため、家を出た。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-26
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◇花の気持ちと相原の気持ち

157   *花の気持ち* クリスマスのお泊りの日、定期的に会えるような関係になりたいと相原から告白された。 結婚を前提にお付き合いして下さいとは言われず、最低でも週に一度くらいは会いたいのだと懇願された。 彼が話した話の中には将来結婚したいという意志表示はなかった。 なので、おそらくこの関係に名前を付けるとすれば、ガールフレンド《友だち》の立ち位置ということなのだろう。 ひとまず、花は相原のお気に入りの友人という立場を受け入れることにした。*相原の気持ち*前《さき》の派遣社員が2人共相馬に好意を寄せたものの、恋に破れ辞めていったという曰く付きのポストに来た掛居花のことについて、相原は他の同僚たちと同じくらいには気にして注目していた。そのような中で以前は芦田にみてもらっていた娘、凛の夜間保育の担当が掛居に代わったことで、以前よりも身近で接することができるようになり、徐々に徐々に掛居のことが更に気になる存在になっていき……。  娘が切っ掛けで知り合えるチャンスに恵まれた相原は、どんどん掛居を好きになっていくのだった。そして、とうとうクリスマスの夜……しかもなんと掛居の家で彼女と同じベッドの中で自分の気持ちを伝えたのだが、流石に子持ちで身体的に問題を抱えている身では、条件の悪い自分を鑑みてみると、どうしてもこの時結婚を考えていることなど言い出せなかったのである。姉の重荷を半減するため凛を自分の子供にすると決めた時から、一度は結婚を諦めた相原だったが、掛居とならしばらくの間自分や凛と交流していく内に自分の境遇を万に一つ理解してもらえるかもしれないと思えるようになった。 だがまだいうほど付き合いと言えるほどの付き合いを重ねていない現在《いま》、クリスマスの時点では結婚の二文字は言い出せなかった。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-26
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◇相馬の気持ち 158

158 相馬がクリスマス前に自分の心変わりを花に伝えると、どちらかが異動になった時に交際のことを考える(付き合うのか、申し出を断るのか)と言われ、姑息にも? 画策するのだった。 花の前向きな返事を聞いたあとすぐに異動願いを出しておいたのだ。 相馬は花の真意に気付かず、もしかすると自ら墓穴を掘ったかもしれないことに気付いていなかった。 もし異動が早期に決まってしまえば、花は自分の望む今の居心地がよくてヤル気の出る相馬とペア―で働く居場所を失くしてしまうことになる。 相馬が異動してしまうということはそういうことなのだ。 相馬の後任者と組んでの仕事が相馬と一緒に組んでいた時と同じくらい快適に仕事が上手くいくかは未知数なのだから。 また下手をすると花自体も他の部署に回される懸念もなくはない。 果たして……翌年の2月早々に相馬の元へ異動が決定したとの上司からの内示があった。 辞令の発令は2月末にあるからと。 もちろん願いが叶い相馬はウハウハで喜びを隠せなかった。          ◇ ◇ ◇ ◇ タイミングよくといっていいのだろうかちょうど時を同じくして経理の仕事をしている石田ひまりから相馬は恋人の有無を訊かれることになる。 その日相馬が昼食を摂っているところへ経理の渡辺楓と石田ひまりが2人連れでやって来て「ご一緒してもいいですか」と声を掛けてきた。 社食なので誰でも空いてるところへ好きに座るものなのだが、渡辺と石田は相馬と話をしたかったため、敢えて伺いを立てたのである。 相馬は大抵誰かと一緒に社食に来るのだが、今日はたまたまいつも一緒に連れもって来るメンバーが仕事で出ていたため1人で食事をしていた。 自分の目の前に座った女子社員2人は最初ボソボソと2人の間で会話を交わしながら食事をしていたが、途中で片方から声を掛けられた。 声を掛けられた相馬はというと、この時念願が叶い異動が決まったことで、これでようやく掛居から返事がもらえるのだと喜びを噛み締めているところだった。 異動願いがこんなにあっさりと決まったことに自分自身が一番驚いている。 そしてそれは掛居の返事のことを考えると、幸先の良いしるしだと思えた。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-27
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◇耳ダンボ 159

159「相馬さん、付き合ってる人いらっしゃるんですか?」 あまりに突然で露骨に直球を投げられ、相馬は目が点になった。『いきなりすごい質問だなぁ~』 質問してきた女子社員の横にいる女子《こ》は対照的に俯いてスプーンを 動かしていて心なしか、耳が赤く染まって見える。 自分の返事を知りたがっているのがその彼女か、はたまた質問してきて いる彼女か、どちらかは分からないが、どちらにしても今自分が想い人 以外他の誰とも付き合う気がないということは、ちゃんと意思表示して おいたほうがいいだろう、そう相馬は判断した。  本当のところは付き合うなんて決まってはいないのだが、過去気のない 女性に執拗に付きまとわれて困った経験からここは決まっていることにして 話すことにした。  そしてこの数時間あとのこと。  相馬から自分が振られたわけでもないのに質問した石田は自販機の前で 一緒にいた同僚に声を潜めるでなし、誰かが近くを通れば聞こえてしまう かもしれないくらいの普通の話し声で相馬の話をしていた。「今日、相馬さんに彼女がいるかどうか聞けたのよ~」「やったぁ~。すごいじゃん。……で?」「それがさぁ、ちょっと変わった返事だったのよね」「どんな?」「『今は付き合ってないけど、もう少し先で付き合うことになってる人がいる』って言ったの」 「どういうことなんだろ? もしかして石田さん、牽制されたとか!」「そうなのかな、やっぱり。  でもそれなら普通に付き合ってる人がいるって言えば済むことなんじゃ ない?」 「それもそうよね」「あ、そうそう忘れてた。  確かね『自分が異動になったら付き合うことになってる』って 言ってたな」 「あっ、閃いた」「なになに」「異動になったら付き合うって、アレじゃないの。相手、掛居さん」 「あー、そうよね……そうかも」 「あー、こりゃあ失恋決定だわ。かわいそうに」 さっきから話をしている女子社員は失恋したというのに 他人事のような反応をしている。  最近の女性は強いのだなぁ~と感心して耳をダンボにして聞いていたの は少し離れた場所《ところ》で窓の外を見ながら缶コーヒーを飲む相原 だった。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-27
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◇異動…… 160

160『掛居』の2文字が出た時、ダンボの耳が大きく動いた気がする。 そして相原の胸に動揺が走った。 彼女たち2人が話し始めた時、相原はすでに缶コーヒーを手に窓際に立っていたのだ。『相馬』の2文字でダンボになりかけた耳は聞いていくうちにすっかりダンボになり、最後の方では動きそうになるぐらい彼女たちの話を聞き逃すまいとダンボ耳が強く反応してしまった。 そして相原も同じように掛居のことだろうと思った。 自分は掛居とは親しくしているが正式な交際を申し込んでいるわけでもない。 だから掛居が相馬と交際するかもしれないという先の予定をわざわざ自分に話す義理などないのだ。 分かってるさ、分かっている。 だが本当のところはどうなのか。 彼女に聞かなければとも思うし、聞きたくないという気持ちもある。 心中複雑なものがある。 以前彼女に相馬とは付き合ってないのかと尋ねたことがあり『付き合ってはいない』との返事だった。 だからずっと仲良くなって、自分だけを見てくれていると思っていたのにそれが独りよがりだったなんて……。 相原は身体から力が抜けていきそうになるのを感じるのだった。 ぼーっとあれこれ思い巡らせているうちにいつの間にか女子社員たちはいなくなっていた。           ◇ ◇ ◇ ◇ 片思いが砕け散りそうになったのは、果敢に相馬に質問した石田ではなく、2人の会話を、俯き食事しながら傍で聞いていた渡辺楓の方だった。 相馬の想い人が掛居花だとすれば、今まで何の接点もなく遠くから見ていただけの自分では到底敵わないと思った。 石田が訊いてくれたお蔭で吹っ切れそうな気がした。口から産まれたような石田ひまりの流布した噂話は、さも付き合うことが確定されたかのような話へと、特に同フロア内全体に流れてゆき、2月の末に正式に 相馬の異動の辞令が発令され掲示板に貼り出されると、フロアーでは新しくカップルができそうだと活気づいた。  そこへ何も知らず出社してきた花は相馬が同僚たちから『異動決まったようだな。寂しくなるな。時々はこっちにも顔を出せよ』などと話しているところに遭遇し、初めて相馬の異動を知る。『異動? そんな馬鹿な。 私たち一緒に仕事するようになってまだ1年も経ってないっていうのに』 異動の話だけでも驚いていると
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-27
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