温泉郷の、どこか懐かしい街並みを眺めながら、 僕と美琴の間には、さっきからずっと、なんとも言えない微妙な沈黙が流れていた。 あの陽気なおじさんに、からかうように言われた「お似合いのカップル」という言葉が、 まるで頭の片隅にこびりついてしまったかのように、どうしても離れてくれない。 霧の中で、無意識に繋いでいた彼女の手を慌てて離した後も、 僕の指先には、まだあの小さくて柔らかな手の温もりが、じんわりと、そして確かに残っていて、 それが消えてくれないものだから、妙に意識してしまう。 隣を歩く美琴も、心なしかいつもより口数が少ないような気がした。 時折、彼女の白い頬に、ほんのりと、夕焼けみたいな優しい赤みが残っているように見えるのは、 きっと、夏の強い陽射しのせいだけじゃないのかもしれないな……なんて、 僕もらしくないことを考えてしまった。 僕たちの目の前に広がるこの温泉郷は、 古いけれど手入れの行き届いた木造建築が並び、 どこか懐かしさと、そして穏やかな時間がゆっくりと溶け合うような…本当に美しい街並みだった。 しっとりとした湯気を上げる川沿いには、 風情のある木造の旅館や、こぢんまりとした土産物屋が軒を連ね、 石畳で舗装された趣のある小道には、 色とりどりの可愛らしい提灯が、夏のそよ風に楽しげに揺れている。 遠くの源泉の方からだろうか。 硫黄の混じった独特の湯気の香りが、ふわりと僕たちの鼻先をかすめ、 そっと頬を撫でるように吹き抜けていく優しい風が、 じりじりと照りつける夏の暑さを、ほんの少しだけ和らげてくれる。 「と、とりあえず……せっかくだし、少しこの街を見て回ろうか、美琴?」 なんだか気まずいような、でもほんのり温かいような、 この沈黙を破るように、僕が努めて明るくそう提案すると、 美琴は、一瞬だけ僕の顔を見て、そしてすぐにまた視線を逸らしながらも、 静かに、そして小さく頷いた。 「はい、先輩。そうですね、せっかくですから、少しだけ散策してみたいです」 彼女の声は、いつも通り落ち着いていたけれど、 やっぱりその頬の柔らかな赤みが、まだ完全には引いていないような気がした。 僕も、なんだか照れくさくて、少しだけぎこちなく笑いながら頷くしかなか
Terakhir Diperbarui : 2025-05-29 Baca selengkapnya