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縁語り其の四十七:清き巫女の慰霊碑

Penulis: 渡瀬藍兵
last update Terakhir Diperbarui: 2025-06-01 19:03:00
「……そろそろ、行こっか」

「……はい」

照れくささを悟られまいとするみたいに、僕は懐から地図を引っ張り出した。

湿気を吸ったのか、紙は少しだけ柔らかくなっていて──その感触がやけに生々しかった。

互いに多くを語らないまま、僕たちは川沿いの石畳を歩き出す。

静かな足音と、遠くで続く虫の声。浴衣の裾が石を擦る、かすかな音。

夏の夜の空気が、やけに澄んで感じられた。

そして──不意に、美琴がぽつりと口を開いた。

「先輩は以前、巫女の血について……少し気にされていましたよね」

その声は、昼の快活さとは違っていた。夜の帳に溶けてしまいそうなほど静かで、どこか重たい。

「うん。……少しだけ、ね」

短く答えると、胸の内でいくつもの思いが渦を巻いた。

彼女が言う“穢れた血”。それが何を意味するのか、僕にはまだ……わかっていない。

でも……彼女がその話をするときは、いつもどこか辛そうで。だから、無理に聞く気にはなれなかった。

きっと、いつか自分から話してくれる。それまで待とうって──そう、決めてたんだ。

そんな僕の気持ちに気づいているのか、いないのか。美琴はまっすぐ前を見たまま、語り出した。

「正確な年代までは断言できませんが、村に残された古文書には、今からおよそ千年前の出来事として記されています」

「私たちの中では、それが“始まり”だったと考えられていて──」

「その時代、巫女の中に“始祖”と呼ばれる存在がいたとされています。その人は、神々の前で舞い、時には荒ぶる神の怒りさえ鎮めたと──そう、語り継がれているんです」

「神々を……鎮めた……?」

あまりにも遠く、現実感の薄い言葉だった。

でも、美琴の声は、幻想ではなく“事実”を語る響きがあって──どこか、心をざわつかせた。

「そして、その始祖の名は──琴音《ことね》様と記録されています」

「琴音様……か」

僕がその名を繰り返すと、不思議な感覚が胸に残った。まるで、どこかで聞いたことがあるような、懐かしい音のように。

「はい。私の故郷では、今も特別な存在として崇められていて……」

「疫病を鎮め、天災を抑え──人々の祈りに応え続けた“救いの巫女”だったと、伝えられています」

彼女の声には、深い敬意がにじんでいた。

そのまなざしは、遥か昔の誰かへと、今も想いを向けているようで。

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