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血と束縛と のすべてのチャプター: チャプター 791 - チャプター 800

927 チャプター

第21話(5)

 何分か前まで、畳の上に転がって雑誌を読みながら、思い出したように和彦に話しかけていた千尋だが、すっかり寝入っているようだ。 どうせ昼寝をするなら、自分の部屋に戻ればいいのにと、和彦は小さく苦笑を洩らす。千尋としては、和彦が退屈しないよう、つき合っているつもりなのだろう。 呉服屋から戻ってすぐに、賢吾が見ている前で熱を測らされ、微熱が出ていることがわかった。普段の和彦であれば気づきもせずに動き回っている程度の熱だが、さすがに今は無茶できないと、こうして休んでいるというわけだ。 和彦は姿勢を戻し、再び天井を見上げる。 千尋の寝息を聞きながら思うのは、長嶺の本宅で自分は大事にされているということだ。クリニック経営という役目を負い、物騒であったり、訳ありの男たちを結びつけてもいる和彦に何かあったら面倒なのだと、捻くれた考え方もあるだろうが、決してそれだけではない。 間違いなく、長嶺の男たちは和彦を大事にしてくれていた。そして、長嶺と関わりを持つ男たちも――。 甘い眩暈に襲われて、反射的にきつく目を閉じた瞬間、障子が開く音がした。ゆっくりと目を開くと、真上から賢吾に顔を覗き込まれる。 不思議でもなんでもなく、和彦が布団を敷いて横になっているのは賢吾の部屋なのだ。 傍らに胡坐をかいて座り込んだ賢吾は、何も言わず和彦の顔を見つめてくる。「……別に、側にいてもらわなくても大丈夫だ」 向けられる視線の圧力に耐えかねて、和彦は口を開く。賢吾は口元を緩めながら、千尋をちらりと見た。「千尋は側に置いて、俺だけ追い払うのか?」「甘ったれの子犬は、側でおとなしくしてくれているからな。大蛇に側にいられると、気が休まらない」 和彦の邪険な物言いに対して、もちろん賢吾は機嫌を損ねたりしない。「大蛇を怖がるような可愛いタマじゃねーだろ、先生は」 そう言って和彦の頬を手荒く撫でてくる。「――体はつらくないか?」「熱も大したことはないし、つらくもない。本当は、こうして布団に寝ているのも大げさなぐらいなんだ」「本当に?」 さりげなく賢吾に念を押され
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第21話(6)

 賢吾の指は休みなく動き、和彦の内奥の入り口を解すように擦り始める。唾液を施されながら刺激されているうちに、柔らかくなりかけた肉をこじ開けるようにして、指が内奥に侵入してきた。「あぁっ――」 自分でもわかるほど必死に、賢吾の指を締め付ける。物欲しげな内奥の蠢動を楽しんでいるのか、賢吾の指が緩やかに出し入れされ、襞と粘膜を軽く擦り上げられる。和彦は息を喘がせながら敷布団の上で身を捩り、そのたびに浴衣がはだけていく。「こっちの肉も美味そうだ」 低い声でそう言って、賢吾が胸元に顔を伏せる。触れられないまま硬く凝った胸の突起をいきなり口腔に含まれ、きつく吸い上げられた。「んうっ」 はしたなく濡れた音を立てて突起を愛撫しながら、賢吾は執拗に内奥を指でまさぐる。その指の動きに合わせて、和彦も声を抑えられなくなっていた。 爪先を突っ張らせ、腰をもじつかせながら、背を反らし上げ、賢吾から与えられる快感を味わう。そんな和彦の様子を、賢吾は射抜くほど強い眼差しで見つめてくる。「……気持ちいいか、先生?」 鼓膜に刻みつけるように囁かれ、和彦は頷く。寄せられた唇を甘えるように吸い、すぐに濃厚に舌を絡ませ合う。 内奥から指が引き抜かれ、熱く逞しい欲望が待ちかねていたように押し当てられた。性急に内奥を押し広げられる苦痛すら、大蛇と繋がっていく精神的愉悦の前では些細なことだった。「あっ、あっ、頼、む――、ゆっくり、してくれ……」 押し入ってくる欲望の感触をじっくりと味わいたくて、和彦はつい恥知らずな頼みを口にする。興奮したのか、内奥で賢吾のものが力強く脈打ち、一際大きくなったようだった。和彦は上擦った声を上げ、腰を揺すって反応してしまう。 病み上がりであることなど関係ない。求められて、和彦の体は悦んでいた。 和彦の頼みを聞き入れる気はないらしく、両足をしっかりと抱え上げた賢吾は大胆に腰を使い、内奥深くを犯し始める。突き上げられるたびに和彦は身を震わせ、声を上げ、反り返った欲望の先端から透明なしずくを垂らす。「本当に、いやらしくて、いいオンナだ…
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第21話(7)

 賢吾と千尋は、奔放に乱れる和彦をじっと見つめていた。興奮して強い光を放つ目は怖くもあり、優しくもある。向けられる眼差しにすら、和彦は反応してしまう。「……先生、もうイク?」 甘えるような声で千尋に問われ、頭の中が真っ白に染まるのを感じながら夢中で頷く。すると、内奥深くを抉るように突き上げられた。一度目で全身が快感に痺れ、二度目で瞼の裏で閃光が走る。一拍遅れて、下腹部が濡れるのを認識した。二人の男たちが見ている前で精を放ったのだ。 和彦のその姿に刺激されるものがあったのか、ふいに賢吾が内奥から欲望が引き抜く。そして傲慢な表情で、和彦の胸元に向けて精を迸らせた。 賢吾としては、〈オンナ〉を精で汚すことで所有欲を満たしたのかもしれない。被虐的な悦びに浸りながら和彦は、そんなことをぼんやりと考える。「さあ先生、甘ったれの子犬が待ちかねているぞ」 和彦の頬を手荒く撫でてから、賢吾が笑いを含んだ声で囁いてくる。意味を理解したときには、弛緩した和彦の体はうつ伏せにされ、腰を抱え上げられた。挑んできたのは、すっかり興奮した千尋だ。「千尋、待っ――」「優しくするね、先生」 言葉とは裏腹に、蕩けた内奥の入り口に余裕なく熱いものが押し当てられた。「あうっ」 ぐっと内奥に挿入され、声を洩らした和彦は背をしならせる。賢吾の形に馴染んだはずの場所は、すでにもう千尋のものをきつく締め付け、快感を求めると同時に、甘やかし始める。千尋の息遣いが弾み、乱暴に腰を突き上げられた。「うっ、うあっ……」「先生の中、すごく、熱い。熱のせいかな。それとも、オヤジがめちゃくちゃにしたから?」 意地の悪い問いかけに答えられるはずもなく、和彦は唇を引き結ぶ。すると、いつの間にか枕元に移動した賢吾に顔を覗き込まれ、唇を指で割り開かれた。 口腔に入り込んだ指が蠢き、粘膜や舌を擦られる。内奥での律動を繰り返されながらそんなことをされると、唇の端から唾液が滴り落ちる。賢吾は目を細めて言った。「いやらしくて、いい顔だ。加虐心をそそられて、めちゃくちゃにしたくなる」
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第21話(8)

**** 和彦は、ここ最近忙しさもあってサボりがちだったジムに行き、体を動かしていた。忙しいとはいっても、基本的に座り仕事が多いし、移動は車だ。気を抜くとすぐに運動不足になる。数年ぶりに熱を出して寝込んだことで、普段からの体作りの大切さを思い知った。 ランニングマシーンでたっぷり走ってから、軽めのメニューをこなし、ウェイトコーナーに向かう。置いてあるベンチに横になり、腹筋のトレーニングをしてみたが、やはり少し筋力が落ちているようだ。 クリニックを開業してから、ようやく生活のリズムが掴めてきたところなので、ジム通いの回数を元に戻そうかと和彦は考えている。組からの仕事が入らなければ、比較的夜は時間が取れるのだ。ただし、賢吾に勝手に予定を押さえられなければ、という前提で。「――あまり、病み上がりという感じじゃないですね、先生」 ベンチの傍らに立ったジム仲間に声をかけられ、和彦は首の後ろで組んでいた両手を離す。 久しぶりに体を思いきり動かして汗だくになっている和彦とは違い、中嶋は首筋や額にうっすらと汗をかいている程度だ。日常的に体を動かしている人間とは、こういうところで差が出るらしい。「サボっていたツケだな。体が重くて仕方ない」 中嶋に片手を差し出され、その手を掴んで和彦は体を起こす。館内の時計を見上げると、二時間近く、無心に体を動かしていたようだ。「そろそろシャワーを浴びに行きませんか?」 中嶋の言葉に頷き、和彦は立ち上がる。クリニックを閉めてから、この後、中嶋と一緒に夕食をとるのだ。 今晩ジムに行くと、和彦が中嶋の携帯電話にメールを送り、中嶋の都合がつけばこうして合流する。お互い忙しいうえに、いつ仕事で拘束されるかわからない境遇なので、不確実な約束を交わすより合理的で、気楽なのだ。 今日はもう、ジムで中嶋と顔を合わせた時点で、護衛の組員には帰ってもらっている。時間を気にせず、中嶋と食事を楽しむためだ。 慌しくシャワーを浴びて髪を乾かすと、ジムのロビーに下りる。すでに中嶋は待っており、携帯電話で誰かと話している。和彦の姿を見るなり電話を切り、一緒に車に向かう。
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第21話(9)

「連れてきてから聞くのもなんですが、先生、香辛料が効いた料理は大丈夫ですか? ビルの中にいくらでもレストランはあるので、遠慮なく言ってください」「匂いを嗅いだだけでお腹が空いた」 和彦の言葉に、中嶋はちらりと笑みを見せる。「よかった。秦さんに教えてもらって、最近通うようになった店なんです」 テーブルにつくと、さっそく中嶋はカレーのディナーコースを頼む。その間和彦は、コートを脱いで隣のイスに置き、混雑する店内を見回す。複合ビルだけあって、商業施設だけでなく企業のオフィスもたくさん入っているためか、いかにも会社帰りといった様子の人も多い。 表向きは健全なクリニック勤めの和彦はともかく、きちんとスーツを着て、見た目はごく普通のハンサムな青年である中嶋は、こういう場ではよく馴染む。 頬杖をついた和彦がじっと見つめていると、視線に気づいたのか、中嶋が首を傾げた。「どうかしましたか、先生。そういう悩ましい目で見られると、ドキドキするんですが」「言うことが、本当に秦に似てきたな――」 ここで和彦は姿勢を正す。さきほど車内で交わした会話もあり、純粋な好奇心からこんなことを尋ねていた。「君は、バレンタインはどうだったんだ。秦と一緒に過ごしたのか?」 唐突な和彦の質問に、さすがの中嶋も虚をつかれたのか目を丸くする。いくら秦の影響を受けようが、ここで澄ました表情で返せないのが、中嶋らしい。ヤクザに見えない切れ者ヤクザも、プライベートな話題にはガードが甘い。「チョコレートは渡したのか? それとも渡されたほうなのか?」「……すごい話題で攻めてきますね、先生」「ぼく相手に、バレンタインという単語を持ち出したほうが悪い」 車内での会話を思い出したのか、ああ、と声を洩らした中嶋は、予想外の反撃をしてきた。薄い笑みを浮かべつつ、堂々とこう言ったのだ。「バレンタインデーに、チョコの代わりに秦さんと買いに行ったんですよ。――一緒に寝るためのベッドを」 和彦はさりげなく左右のテーブルに視線を向けてから、抑えた声で応じる。「順調そうだな」「もう秦さん
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第21話(10)

 さっそく和彦がスプーンを手にすると、さりげなく中嶋が言った。「いろいろと理屈を並べてますが、単純に、俺は先生を好きなんです。もちろん、秦さんも先生を好きですよ」 和彦は、ナンを千切っている中嶋をまじまじと見つめてから、ぼそりと応じる。「ぼくも、君は好きだ」「光栄ですね、先生にそう言ってもらえて」 ここで二人は、食えない笑みを交わし合う。ヤクザのオンナとヤクザがカレーを前にして、こうして互いの腹を探り合っているとは、誰も思いはしないだろう。普通に過ごしている限り、和彦も中嶋も、表の世界によく馴染む外見をしているのだ。 野菜カレーをまず口にして、その味に和彦は満足する。中嶋からエビカレーを少し分けてもらい、代わりに和彦は、チキンカレーを食べてもらう。 ラム肉のタンドール焼きを味わっていた和彦は、店内に一人で入ってきた男に目を留めた。食事を始めてから数組の客の出入りを見たが、一見して違和感を覚える。なんとなくだが、食事に訪れたようには見えなかったのだ。 和彦の直感は当たったらしく、スタッフに何か言った男はさっと店内を見回してから、まっすぐこちらにやってくる。セーターの上からダウンジャケットを羽織った、ラフな格好をした若者だ。年齢は千尋と同じぐらいに見えるが、持っている空気がおそろしく鋭い。「――お食事中、すみません」 若者はテーブルの傍らに立つと、一礼して低く抑えた声を発した。それを受けて、ここまで寛いだ様子を見せていた中嶋が表情を一変させる。口元には笑みを湛えながらも、冴えた目で若者を一瞥した。「上手く進んだのか?」 中嶋の問いかけに若者は頷く。「明日の朝、中嶋さんに立ち合って確認してほしいんですが」「わかった。今日はもういい。他の連中はまだ一緒に?」「車に待たせています」 二人のやり取りを聞きつつも、和彦は素知らぬ顔をして食事を続ける。賢吾とも食事をしていると、よくあることなのだ。立ち入ってはいけない話が多すぎるので、こうして聞こえていないふりをするのが一番無難だし、相手を警戒させないで済む。 中嶋は自分の財布を取り出すと、数枚の万札を若者に渡した。
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第21話(11)

 守光と顔を合わせてから、和彦と総和会の関係は一気に近くなった。それは、知りたくない事情を知る機会が増えたということで、下手をすれば足元を掬われかねない。 それでなくても和彦は、〈長嶺の守り神〉と関係を持っている。目隠しの布一枚分の建前だが、総和会会長のオンナになったわけではないと、強弁できる。ギリギリのところで、複雑な総和会の事情に巻き込まれずに済んでいるのだ。 それとも中嶋は、すでに和彦が、守光と特殊な関係にあると考えているのだろうか――。 和彦は無意識のうちに、探るような眼差しを中嶋に向ける。すると、なんの前触れもなく中嶋が顔を上げた。ドキリとした和彦は、不自然に視線を逸らすこともできずうろたえる。じろじろと見ていたことを気づかれたのだろうかと思ったが、そうではなかった。「――先生、携帯鳴ってませんか?」 中嶋にそう言われて初めて、携帯電話の微かな震動音に気づく。傍らに置いたコートのポケットから取り出して表示を確認すると、鷹津の携帯電話からだった。軽く眉をひそめた和彦は、一瞬逡巡してから電源を切る。食事の最中に、鷹津と話をするためだけに席を立つのは抵抗があった。 和彦の行動に、中嶋は目を丸くする。「いいんですか? 遠慮なく出てもらっても――」「食事が終わってからかけ直す」 中嶋と一緒であることは、護衛の人間を通して長嶺組に把握されている。仮に急ぎの仕事が入ったとしても、中嶋経由で連絡が入るはずだ。 食事を続けながら和彦は、鷹津の電話の用件を想像する。考えられることは、一つしかなかった。和彦が調査を依頼していた件だ。 鷹津などいくらでも待たせればいいと頭の半分では思うが、残りの半分で、調査の結果が気になるし、蛇蝎の片割れである男の機嫌を損ねる厄介さも無視できない。「デザートとチャイを持ってきてもらいますか?」 気を利かせた中嶋に提案され、苦笑しつつ和彦は頷いた。** インド料理屋と同じフロアには、飲食店だけでなくさまざまなショップが入っている。少し見てきてもいいですかと言って、誘われるように中嶋が入っていたのは、インテリア雑貨屋だった。 一体何
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第21話(12)

 和彦は、鷹津に言われた通りの場所を告げる。なぜか中嶋は、意味ありげな眼差しを寄越してきた。「なんだ……」「先生、知ってます? そこ、夜景がきれいだということで、ちょっとしたデートスポットなんですよ」 和彦の脳裏で、鷹津が皮肉っぽい笑みを浮かべている。「……嫌がらせだな。あの男なら、絶対そういう陰湿なことをやる」「あの男?」「鷹津――、前に、ぼくとお茶を飲んでいた刑事だ。君にも紹介して、確か携帯で隠し撮りをしていただろ」 悪びれた様子もなく、ああ、と声を洩らして中嶋は頷いた。「それで、本当にデートなんですか?」「笑えない冗談だな……。あの男にはいろいろと調べてもらっているんだ。組関係じゃなく、何かと厄介なぼくの実家のことを」 ウソではないが、事実でもない。総和会だけではなく、賢吾とも繋がっている中嶋を相手に、何もかも打ち明けるわけにはいかなかった。面倒を避けるなら、一人で鷹津と会うのが一番なのだろうが、和彦をマンションに送り届けることなく中嶋が一人で帰るはずもなく、だからといって、マンションに帰宅してから鷹津を呼び出すのも時間がかかる。 あまりコソコソしすぎて、余計な疑念を周囲の男たちに持たせる事態は避けたかった。 心の中で何を考えているかはともかく、中嶋は深く詮索することなく、目的地まで車を走らせてくれる。後部座席で物思いに耽っていた和彦は、あることを思い出し、いつも持ち歩いているアタッシェケースを膝の上に置いて開いた。 人に見られても困らないような書類しか基本的に持ち歩かないのだが、バレンタインデーを過ぎてから、ある包みも一緒に入れている。まさに、今夜のような状況に備えてのことだ。 鷹津が指定した場所に向かうまで、和彦はちょっとしたドライブ気分を味わった。車のライトや照明、ネオンで明るい街を抜け、静かな住宅街へと入り、そこからさらに高台に向かっているのだが、景色が変化に富んでいる。「暖かい時期だと、この時間でもけっこう車の行き来があるんですが、さすがに今は少し寒いのか、車がまったく通りませんね」
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第21話(13)

「二日前に、ここで暴走族同士の乱闘事件があって、一人が半殺しになった。おかげでしばらくは、まともな人間どころか、暴走族も近づかない。セックス抜きで秘密の話をするには、うってつけの場所だ」「……どの口が、情緒なんて言葉を言ったんだ」 車にもたれかかった鷹津が、和彦の手にある包みに目を留める。すかさず和彦は包みを押し付けた。「やる」「なんだ……?」「靴下。誕生日に、あんたにはディナーを奢ってもらったから、お返しだ。たまたまバレンタインのセールで安かったんだ」 鷹津は、包みと和彦の顔を交互に見て、鼻先で笑った。「自分のために、靴下が破れるほど足を使えってことか。大したオンナだ」「まあ、そういうことだ。何かは返しておかないと、目覚めが悪いからな」 律儀なことだと呟いて、鷹津は車の中に包みを放り込んだ。それからスッと、和彦が乗ってきた車のほうを見る。つられて和彦も振り返ると、いつの間にか中嶋が、車を降りてこちらを見ていた。「あの二枚目は、前に会ったことがあるな……」「余計なことはするなよ。彼は単なるヤクザじゃなく、総和会の人間だ」「――あいつとも寝たのか?」 和彦は横目で鷹津を睨みつけると、吐き捨てるように答えた。「まだ、寝てない」「正直な奴だ」「あんた相手に取り繕う必要もないだろ」 和彦は夜景をよく見るため、車の前に回り込む。当然のように鷹津が隣に立ち、それどころか馴れ馴れしく肩を抱いてきた。一瞬腕を払いのけたくなったが、鷹津がいい風除けになっていることに気づき、我慢することにした。「……寒いんだ。早く本題に入ってくれ」 そう言って和彦は、前方に広がる夜景を眺める。確かにここは、見晴らしがよかった。「里見という男だが、真っ当な生活を送っている人間らしく、調べるのは楽だった。生活パターンがほぼ決まっているから、それを辿るだけでいい。もちろん、前科はなし。職場での評判もいいし、仕事もできるようだな」「省庁勤めの頃か
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第21話(14)

 寒さ以外のものから、和彦は大きく身震いする。大蛇を背に宿した男の冷たい目を、ふいに思い出したのだ。「……里見さんに対して、やましい気持ちはない。佐伯家の情報を得たいだけだ」「そんな理由があるのに、長嶺に打ち明けていないのはどうしてだ」 鷹津は真剣な顔で、和彦の目を覗き込んでくる。賢吾に代わって、自分が和彦の言葉の真意を探ろうとしているかのように。「あの人は、堅気だ。ぼくとは違う。――ヤクザと交わらせたくない」「ヤクザから、昔の男を守りたいってことか。健気だな」 そうじゃない、と和彦は声に出さずに呟く。決して、そんなきれいな理由だけではないのだ。 里見に迷惑をかけたくないという想いはある。そしてもう一つ、和彦自身の今の生活と、自分を大事にしてくれる男たちがいる世界を壊したくないという想いが。 一人で気ままに生活をしているときは、無視していればそれでよかった佐伯家だが、今は、里見まで利用する姿勢に、たまらなく嫌な予感がするのだ。「まあ、何かあったとして、ケリをつけるのはお前だ。俺は美味い餌がもらえれば、それでいい」 鷹津のその言葉で、肩に回された腕の感触をいまさらながら意識する。和彦は、鷹津にきつい眼差しを向けた。「ぼくはもう、あんたに餌を食わせたぞ。前払いを求めたのは、そっちだからな」「……覚えていたか」「当たり前だっ」 鷹津の腕を押し退けようとしたが、力が緩むことはない。ニヤニヤと笑っている鷹津に対して、和彦は折れるしかなかった。「電話でも言ったが、明日も仕事があるんだ。ゆっくりはできない――」 言葉の途中で鷹津にあごを掴み上げられ、強引に唇を塞がれる。最初は応える気のなかった和彦だが、執拗に唇を吸われ、歯列を舌先でまさぐられているうちに、体の奥が熱くなってくる。視線を伏せ、舌先を触れ合わせていた。 まるで、求め合っている恋人同士のように唇と舌を吸い合う。そのうち口づけが深くなり、口腔を鷹津の舌でまさぐられ、舐め回される。当然のように舌を絡め合い、唾液を交わす。 鷹津と交わす口づけは、いつも
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