香織も恐怖で血の気を失い、キッチンから顔を覗かせた。「お母さん!ただいま!」美優の声がした。彼女はドアを押し開けて入ってくると、晋助の姿を見て一瞬呆気にとられたが、すぐに狂喜して飛びついた。「叔父さん!?捕まってなかったのね!!よかったわ!早くあの女をやっつける方法を考えてよ!」晋助は実の娘の取り乱した姿を見て、胸が痛んだ。苛立ちを押し殺し、不器用にその背中を叩いた。「美優、今はそれどころじゃない。俺自身が今やばいんだ。まずは大人しくしてろ」美優は彼の滅多に見せない優しい態度に戸惑い、悔し涙を溢れさせた。「もうどうしようもないってこと?」「泣かないの」香織が慌てて歩み寄り、娘の腕を引いた。「叔父さんは今、危ない立場にいるのよ」美優はそこで初めて、晋助の惨めな変装に気がついた。泣き声がピタリと止まり、顔から血の気が完全に引き、自分たちの最後の後ろ盾も今にも崩れ落ちそうだということを悟った。晋助は力なくソファに座り直し、顔を乱暴に拭った。重い石がのしかかるような沈黙が降りた。香織がそうめんを茹でて運んできた。晋助はまるで何日も餓えていたかのように、あちこちに飛び散らせながら貪り食った。美優は向かい側に座り、「叔父さん」の落ちぶれた姿を眺め、さらに自分自身の境遇を思い出し、恨みが毒蔦のように心臓に巻きついていく。全部明乃のせいだ!あの女がいなければ、こんな目に遭わずに済んだのに!岳も……彼女はスマホを取り出し、無意識に岳の番号を開いた。相変わらず何のメッセージもなく、電話もなく、一言の気遣いの言葉さえなかった。彼女の心が怨恨に飲み込まれそうになっていたまさにその時、スマホの画面に突然一つのプッシュ通知がポップアップした。【高橋(たかはし)グループの令嬢・高橋夢花(たかはし ゆめか)が霧島法律事務所(きりしまほうりつじむしょ)と業務提携か】写真が一枚添えられていた。背景はどこかの高級なパーティー会場のようだ。体にフィットしたスーツを身に纏い、背筋を伸ばした岳が、隣にいる目を奪うような赤いドレスを着た若い女性の言葉に、少し顔を傾けて耳を傾けている。その女性は完璧なメイクを施し、太陽のように明るく、そして自信に満ちた笑顔を浮かべていた。あろうことか、その女性の手は馴れ馴れしく岳の腕に添えられていた。
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