しばらく歩くと、近くにあるバス停に到着した。いつもなら車で移動しているところだが、公共交通機関を使うのは紫苑たっての希望だそうだ。普段あまり外に出ない彼女だからこそ、こうやって外を歩きたかったのだろう。「紫苑」「義兄さん、ありがとう」バスの段差を上がる際、碧斗が紫苑に手を差し伸べた。彼女は笑顔で彼の手に自分の手を重ねた。「あら、とっても優しい旦那さんね。羨ましいわ」そんな二人の姿を見て、後ろに並んでいたご夫人がクスクスと笑った。「うふふ、ありがとうございます」”旦那”という言葉に、紫苑は否定することもなくただ礼を言った。碧斗は紫苑の夫ではなく、本当はその後ろに並んでいる由利の夫だということを知ったら、彼女は驚いて卒倒してしまうのではないだろうか。(まぁ、いちいち訂正するのも面倒だからどうだっていいわ)由利は紫苑と碧斗について段差を上がり、先に乗っていた二人の元へ近付いた。「碧斗と紫苑は二人で座って。私は一人でいるわ」それだけ言うと、由利はすぐ傍にあった一人席に腰を下ろした。「……」他には誰も寄せ付けないというような彼女の振舞いに、碧斗は眉間にシワを寄せた。「行きましょう、義兄さん。私たちは……そうね、あそこの二人席に座ればいいわ」「……そうだな」紫苑と碧斗は再び段差を上がり、由利から少し離れた二人席に並んで腰を下ろした。(二人が近くにいないと思うと、何だか気が楽ね……)しばらくして、三人を乗せたバスが発車した。車内は満員で、立っている人も何人かいた。「わぁ、すごい!碧斗義兄さん、あれが有名なタワーよね?写真で見たことあるわ!」「し、紫苑……他にも人がいるんだから、もうちょっと静かに……」バスの車内で、紫苑は外の景色を眺めながらみっともなく騒ぎ立てた。人々の視線が彼ら二人に集中する。子供でもない紫苑がそのような行動を取るのは明らかにおかしかった。彼女は人々の刺すような視線に気付いていないのか、きょとんとした顔で碧斗を見た。「あら、別にいいじゃない。義兄さんも私はそのままでいいんだっていつも言ってくれていたでしょう?」「そ、それはそうだが……ここは公共の場なんだ……」碧斗は何とか彼女を落ち着かせようとした。由利はこのとき、やはり二人から離れた席を選んで正解だったと心から思った。しかし、いくら自分に害はないとはいえ、血
最後更新 : 2026-05-14 閱讀更多