紫苑の前から立ち去った由利は、父親の待つ書斎へ向かった。(今世では初めて会うのね……)いつも由利に無関心だった父親。一体何のつもりで由利を呼び出したのか。全く見当もつかない。由利は深呼吸をし、大きな二枚扉をノックした。「――父さん、由利です」「……入りなさい」中から声が聞こえたのを確認すると、由利はできるだけ音を立てないようにゆっくり扉を開けた。「……父さん」部屋に入ると、書斎の椅子に父が座っていた。前世と何一つ変わらない、冷たい眼差しに由利はドキッとした。父は母親と少し年が離れており、六十近い。相変わらず何を考えているのか、全くわからなかった。由利は実の娘ながら、父のそのようなところが苦手だった。「父さん、紫苑から父さんが私を呼んでいたと聞きました」「ああ、そうだ」父は、由利を見つめたまま短く頷いた。今すぐにでもこの場を立ち去りたい。由利は父と向き合うと、いつもそのような逃げ出したい気持ちに駆られていた。「……来週、碧斗君の実家の薄井家がパーティーを開くことは知っているな?」「……ええ、もちろんです」父親の手前、由利はそう言ったが、実際は全く知らなかった。そのようなパーティーに行った記憶は、由利には無い。(パーティーって一体何のこと……?前世とは違う展開だわ……)一度目、二度目、そして三度もこの時期にそのような催しは開かれなかった。碧斗の両親とは関わった記憶なんてほとんどないから顔もぼんやりとしか覚えていない。「そのための準備がある。紫苑も出席する予定だから、お前に任せたぞ」「……はい、父さん」両親はいつも、このような催しがあると紫苑の面倒を全て由利に一任する。妹の面倒を見るのは姉として当然のことだからだ、とのこと。(溺愛しているくせに、面倒なことは他の人に押し付けるのね……)だからといって、断ったら面倒なことになるのは目に見えている。由利は渋々、受け入れた。「……それと、いつも言っているが紫苑は身体が弱いんだ。あまり無理はさせないように」「……わかっています」父親は由利に釘を刺した。一度、彼女を外に連れ出して命の危険にさらしたことがあったせいか余計に過保護になっているようだ。彼女は今までずっとそのことを後悔していたが、今思えばあれは由利のせいではなかった。(というかそこまで心配なら、自分が面倒を見ればいいでし
最後更新 : 2026-06-04 閱讀更多