เข้าสู่ระบบジュハは、あの日のことを思い返しかけた。
だが、しょんぼりしたドヒョクの顔を見て、その思考を途中で止める。
正直、着信拒否までしたのだ。
まさか別の番号から連絡してくるほど執念深いとは思ってもいなかった。
忙しいからと適当にあしらえば、そのうち諦めると思っていた。
それなのに、大学にまで来た。
その時点で、考えを改めるしかなかった。
もっとはっきり断らなければ。
「だから、おじさんともう会うことはありませんって」
「一回食って捨てるなんて、ひどいじゃないか!」
……このおじさん、本当に頭がおかしい。
ジュハは慌てて周囲を見回した。
幸い、こちらを気にしている人はいない。
だが、誰かに聞かれたら誤解されても仕方のない言い方だった。
一体どっちが誰を食い捨てたというのか。
「いい歳した大人が何言ってるんですか?
一回手伝っただけでしょう。
そういうのは他でやってください。
私、卒業制作で忙しいんです」
「ひどい。
俺はもう、ご主人様じゃないと駄目な身体になったんだ。
責任取ってよ」
気の強い口調も。
澄ました顔も。
それはもういい。
だが――"ご主人様"だけは理解できなかった。
誰が勝手にご主人様なんだ。
そう聞きもしないのに、ドヒョクは全部察したような顔で言う。
「だって、俺の身体がご主人様にしか反応しないんだから。
それなら、ご主人様以外に何て呼べばいい?
俺の身体の主人になっちゃったってことだろ」
滅茶苦茶だった。
ジュハは短くため息をつく。
どうすれば、この男を諦めさせられるのか。
頭の中で必死に考え始めた。
だから何で酔った勢いで、見ず知らずの男なんか相手にしたの。
心の中で自分を責めながら、答えを探す。
「ご主人様?」
「いいですよ。
確かめに行きましょう」
「何を?」
「本当に私じゃないと駄目なのか。
それを確認して、本当だったら、ご主人様でも何でも認めます」
「本当?」
「その代わり。
私じゃなくても平気だったら、もう二度と会いません」
ドヒョクは勢いよく何度も頷いた。
ジュハが何を考えているのかまでは分からない。
だが、手放すつもりはなかった。
ジュハは深く息を吐く。
本当に、どうしてこんなことになったのだろう。
とはいえ、原因を作ったのは自分でもある。
だから、自分で終わらせるしかない。
何としてでも。
ドヒョクは、ジュハから見えない位置で小さく笑いながら、その後ろをついて歩いた。
数日間、連絡も返事もなかったことが腹立たしかった。
それなのに、顔を見た瞬間、その気持ちは全部吹き飛んでしまう。
遠くから歩いてくる姿を見るだけで、身体が勝手に反応してしまうのだから。
そうなるのも、もはや当然なのかもしれなかった。
◇
「ご主人様!」
「おじさん。
脱線しないでください」
あまりにも晴れやかな返事だった。
その大きな身体にはまるで似合わない、妙に明るい声。
正直、顔にも合っていない。
道ですれ違うだけで人を震え上がらせそうな、冷たい顔立ちなのだから。
……もっとも。
その顔で「ご主人様」と呼ばれると、怖がる気も失せるのだが。
「全部脱ぐ?」
「今さら隠してどうするんですか。
もう見るものは見た仲でしょう」
「さすが、ご主人様。
話が早い」
笑いながら、ドヒョクは服を脱いでいく。
軽薄そうな口調とは裏腹に、脱いだスーツは皺ひとつなくきれいに畳まれていた。
妙な違和感がある。
だがジュハはそんなことには目もくれず、ドヒョクの身体を見渡した。
何度見ても、不思議な身体だった。
筋肉一つひとつが大きいわけではない。
それでも、素人目にもよく鍛えられていると分かる。
ほとんど癒えてはいるものの、あちこちに傷跡も残っていた。
背中いっぱいに刻まれた刺青も、不思議なくらい似合っている。
正面から見ても、脇腹まで伸びる黒い線がちらりと見えた。
あの日は酔っていて、そこまで見る余裕はなかった。
だから今日は、改めてじっくり眺めてしまう。
「こういう腹筋って、何か月くらい鍛えたらできるんですか?」
「これ?
さあな。
俺はジムで作ったわけじゃないから。
まあ、今は通ってるけど」
じゃあ何をしたらこうなるんだろう。
そんな疑問は浮かんだが、口にはしなかった。
別に知りたいわけでもない。
ジュハは世間話はもう十分だと言わんばかりに、ドヒョクをベッドへ座らせた。
二時間二万ウォンの安いモーテル。
大学からそう遠くない場所にある。
照明は薄ぼんやりとしていて、シーツも本当にきれいなのか少し怪しい。
だが、二人ともそんなことは気にも留めなかった。
「それで?
どうやって確かめるんだ?」
「自分で試してください。
今から。
それでも駄目なら、ご主人様でも何でも認めます」
予想外の答えだった。
ドヒョクは一瞬だけ目を丸くする。
だが、迷いはしない。
そのままジュハを見上げ、にやりと笑った。
今まで格好いいだけで何の役にも立たなかったこの顔が。
オ・ジュハには、ちゃんと効く。
それをもう知ってしまった。
あれほど警戒心の強い彼女が、酒に酔っていたとはいえ一緒にモーテルまで来た。
そこには、この顔も少なからず関係していたはずだ。
ジュハは、その意味ありげな笑みから目を逸らし、何でもないような顔で彼を見下ろす。
立っていると山のように大きく見えて、見上げるだけで首が疲れそうなのに。
ベッドへ腰掛けている今は、不思議なくらい見やすかった。
「人んちのボ……いや、代表のお名前を、そんな気軽に呼ぶもんじゃねぇよ」――やっぱり。あのバカ。人が来るって言ってなかったのか。珠葉の機嫌は一気に急降下した。この男は今、危うく「ボス」と言いかけた。そのうえ初対面の自分にいきなりタメ口。けれど珠葉はぐっと気持ちを抑える。怒られるべき相手は、こいつらじゃない。そう思った。「どうやって知ったのかは知りませんが、お引き取りください」「じゃあ、ここで合ってるってことね?」「だから、お帰りくださいって」こんな場所までタクシーで来る押し売りがどこにいるっていうんだ。珠葉は冷静に考えながらスマホを取り出した。あのとき会った"職場の人"たちの名前でも知っていればよかった。それもない以上、証明できそうなものは一つしか思いつかない。「これしか証明できるものないんだけど」「おじさん? それがどうし――」「……代表の番号じゃねぇか、それ」『おじさん』と登録された道赫の番号。そして何度も残っている通話履歴。二人は顔を見合わせ、小声で何か話したあと、結局また首を横に振った。「いや……どっかで名刺でも見て番号登録したのかもしれねぇし」「ちゃんと見て。こんなに何回も電話してるでしょ」「……いや、それでもな。うちの代表は、だからって家まで来れば会えるような人じゃねぇんだ」口調はさっきより少し柔らかくなった。それでも態度は頑なだった。珠葉は小さくため息をつく。道赫とのメッセージ履歴。あれを見せれば、自分たちの関係くらいすぐ証明できる。でも。あんな私的なやり取りを他人へ見せるなんて嫌だった。名刺には載っていない個人用の番号
「ディルド代わりに使ってあげる」『……』受話器の向こうから返事はなかった。思わず笑いそうになる。いや、もう少し漏れてしまったかもしれない。その小さな笑い声を、道赫は聞いていたのかもしれなかった。それでも彼は、しばらく何も言わない。やがて、一段低くなった声が返ってきた。『土曜日……ですか? 十二時に?』いつの間にか。「ここは郊外だから、タクシーは家の前まで来ません」そう伝えるつもりだったことすら忘れていた。今、自分が何を考えているのか。それすらよく分からない。ただ、頭の中は真っ白だった。彼女の言葉を、本当に正しく理解できているのかさえ怪しい。それでも。――とても、とても大事なことを言われた。その事実だけが、頭に残っていた。「うん」『……分かりました。お待ちしています』土曜日まで、あと二日。その二日がどれほど長く感じられるのか。このときの道赫は、まだ知らなかった。ただ、きっと長い時間になる。そんな予感だけがあった。珠葉は電話を切ると、長く息を吐いた。本当にこれでよかったのか。そう自分へ問いかけても、すぐには答えが出ない。こんな勢いで決めるために、今まで引き延ばしてきたわけじゃない。それでも。さっきの道赫の反応を思い返せば、きっと後悔はしない。たかがセックス。珠葉はそうやって自分へ言い聞かせる。けれど、「たかが」の一言だけで納得できるほど簡単でもなかった。だからもう一度、道赫のことを思い浮かべる。どんな意味であれ。自分へ本気で向き合ってくれる、あの整った顔の男を。そして彼へ言った通り、自
「大したことじゃない。ただの噂だし。事実でもないんだから、腹を立てる必要ないと思って言わなかった」やっぱり。珠葉なら、そう言うと思った。こんなことを聞かされても黙っていた理由なんて、一つしかない。彼女は、自分自身の名誉なんて少しも気にしていない。あれだけ聞こえよがしに騒がれていたんだ。今日初めて耳にした話なわけがない。何日もそんな声を聞きながら、何事もなかったように大学へ通っていた。そのことを、自分は何も知らなかった。それが、たまらなく腹立たしかった。けれど。怒る相手は、決して珠葉じゃない。それくらい、道赫にも分かっていた。「何であれ、ご主人様の許可がなければ、俺は何もできません」「じゃあ、しなきゃいい」「他のことは考えなくていいです。せめて、俺の名誉だけは守ってください」もちろん、それは口実だった。自分の名誉なんて気にしない珠葉だからこそ、わざわざ持ち出した口実。彼は、ご主人様の許可がなければ動けない自分を知っている。だからこそ、理由が必要だった。珠葉はそっと下唇を噛む。大学にも通っていない彼に、守るべき名誉なんてあるのか。そんな考えが一瞬よぎる。けれど同時に。自分と同じように、彼まで「金で人を買った男」にされてしまったこと。そのことには、まったく思い至っていなかった。彼だって、何も悪くない。しかも、こうしてちゃんと許可まで求めている。たった一言。それだけでいいと言っている。難しいことじゃない。それでも。彼が何をするつもりなのか分からない以上、簡単には頷けなかった。「……暴力はダメ」「はい」返事は驚くほど早かった。まるで、その言葉を待っていたかのように。
その日、道赫は一日中、珠葉から「迎えに来て」と連絡が来るのを待っていた。試験勉強の最中に、あの性格でどうでもいいメッセージを送ってくるはずがない。だから、日付が変わる頃に彼女から連絡が来たときも、ごく自然に車のキーを手に取った。「……え? 来なくていい、ですか?」「うん。今日は歩いて帰る。待つ時間のほうが長いし」そんなことは道赫だって分かっている。大学まで迎えに行くのに二十分。そこから珠葉の家までは歩いて十分ほど。それでも今までは、彼女は彼を呼んでくれていた。彼が着く時間を逆算して、少し早めに連絡をくれるくらいには。試験期間でも、夜に少しだけ顔くらいは見られると思っていたのに。これでは、罰を受けているときと大して変わらない。もちろん。連絡くらいは取れるだけ、まだ救いだった。「でしたら……明日は大学の前で待っていましょうか?」「何時に終わるか分かんない。電話しながら帰るから、そのとき話そ」道赫は仕方なく「分かりました」と答えた。声だけでも聞けるなら、それでいい。家へ帰ったあとも、少しだけわがままを言った。せめてビデオ通話をしませんか、と。珠葉は「いいよ」とあっさり了承し、帰宅するとすぐにかけ直してきた。画面越しの彼女は、いつもとほとんど変わらない。少し疲れて見えるくらい。試験期間なんだから、それくらい当然だろう。道赫は何度か身体を気遣う言葉をかけ、珠葉の話を聞いてから電話を切った。そんな日が、何日も続く。試験期間中は一度も呼ばないつもりなのか。彼女は毎日欠かさず連絡をくれるのに、会おうとはしなかった。道赫もまた、長い我慢の時間を過ごす。首席を何度も取ってきた人だという。その努力も生活も、自分が邪魔したくはなかった。珠葉も
その日、珠葉はホテルで眠ってしまった。「私が寝たら隣の部屋行って」そう言っておきながら。道赫は寝息を立てる珠葉をしばらく見つめ、その穏やかな呼吸を耳に焼きつけてから、静かに隣の部屋へ移った。寝顔を見せてくれるようになった。それだけでも、どれほど大きな変化なのか。道赫にはよく分かっていた。翌朝、大学まで送ると、「あとで連絡する」そう一言だけ残して、珠葉はさっさと校内へ消えていく。道赫もそこでようやく家へ向かった。珠葉も、ときどき道赫のことを思い出した。それでも昨日よりはずっと勉強に集中できていた。試験期間だというのに、余計なことばかり考えていたくはない。だから普段以上に意識して机へ向かう。ただ、ときどき周囲が妙にざわつく。試験期間中の大学は、物音一つ立てるのも遠慮するくらい静かなはずなのに。どこか落ち着かない空気だけが漂っていた。それでも珠葉は気にも留めなかった。◇「ご飯行こ」昼休みになると、友人の恵珍が珠葉の肩を軽く叩いた。珠葉はようやく伸びをして頷く。恵珍は同じ学科ではない。二年生のとき偶然仲良くなって、それからずっと付き合いが続いていた。五年制の珠葉とは違い、本来なら四年で卒業できるはずだったが、「青春を取り戻してくる!」と言って一年休学したせいで、結局まだ同じ大学へ通っている。「何食べる?」「トッポッキ」「りょーかい」そんな他愛ない話をしながら北門へ向かう。歩いているだけでも、周囲のざわつきがどこか気になった。店へ入り注文を済ませると、珠葉がぽつりと言う。「今日、大学なんか変」「それ……ちょうどその話しようと思ってた」「え? 何か知ってるの?」珠
「えっ……八棟? 東京じゃなくて、ソウルで? それって相当広くない?」「ええと……ソウルの端のほうなので、ほとんど京畿道みたいな場所です。でも、ご主人様の大学からなら車で二十分くらいですよ」珠葉は身を乗り出すように道赫へ近づいた。今日の彼女は、いつになく積極的だ。その様子を見て、道赫は小さく笑う。やっぱり、自分に腹を立てていたわけではなかったらしい。そう思えるくらいには、素直な反応だった。「試験終わったら行ってもいい?」「もちろんです」来週末くらいだろうか。道赫は頭の中でざっと予定を思い浮かべる。外で一緒に食事をするだけでも苦労していた。それが家へ来てくれるなら、自分で作ったわけじゃなくても食事くらいは用意できる。それだけでも十分嬉しい。運が良ければ、一度だけじゃ済まないかもしれない。「……でも、家族と住んでるんじゃないの?」「いえ。今は家族は一緒じゃありません。俺一人と、あとは子たちが少し」「へぇ? 何人くらい?」――ああ。これじゃ、あいつらを全員どかすわけにもいかないな。道赫は少しだけ考えた。本当のことは言いたくない。でも、嘘もつきたくない。迷った末、変に取り繕うことなく答える。「五十人くらいです。でも昼間はみんな出てるので、あまりいませんよ」適当に片づけておけばいいか。そんな結論の返事だった。珠葉は素直に頷く。五十人。そんな大人数で暮らしているとは思わなかった。そもそも韓屋に住んでいることすら、今日初めて知った。でも、知るタイミングとしては悪くない。試験さえ終われば、少しは余裕もできる。「分かった」そう言って珠葉は、またベッドへごろんと寝
ジュハは、新学期初日からかなり酒を飲んでいた。 五年制の建築学科も、いよいよ最後の後期。 卒業制作の展示会も終わり、あとは卒業論文を書くだけ。 長かった学生生活も、ようやく終わる。 そう思うと、なぜだか無性に酒が飲みたくなった。 大学生活四年半の間、ここまで飲んだことは一度もない。 建築学科は酒を飲む人が多いイメージだったが、ジュハ自身は酒を好まなかったため、そこまで飲む機会もなかったのだ。 だから、その日の彼女は珍しく酔っていた。 道で大柄な男とぶつかったとき、何も考えず軽く頭を下げて謝ったのも、そのせいだった。「謝り方にしては、ずいぶん適当だな?」 そう言われ、ジュ
「どう? 家族の借金は少しあるけど、学校の先生だ。 悪くないだろ?」 何が「どう」なのか。 ドヒョクはソンミンの手から酒瓶を取り上げ、自分でグラスへ酒を注いだ。 そして、一気に飲み干す。 少し酒が入れば、昨夜と同じ状態になるかもしれない。 そんな考えが頭をよぎる。「今までとはちょっと違うタイプを集めてみたんだけど?」 だが、ドヒョクの隣へ座った相手は、目を合わせることすらできず小さく震えていた。 別にここで誰かと関係を持つつもりで
ドヒョクは、その十一桁の電話番号をじっと見つめていた。 名前を登録しようにも、何と保存すればいいのか分からない。 昨夜は、酔い潰れるほど飲んだわけではない。 それでも朝になると、ようやく頭が冷えてきた気がした。 そもそも、なぜ番号を聞いたのか。 自分でもはっきり覚えていない。 あの女と、この先どうするつもりだったのか。 昨夜のことは、ちょっとしたハプニングとして終わらせればいい。 そう自分に言い聞かせながら、ベッドを降りた。 もしかすると、昨日
「もう、今にもイきそうですけど」「そんなわけない」 軽い挑発のつもりだった。 平然と言い返したつもりなのだろうが、その声は少しも格好よくなかった。 思った以上に震えていたからだ。 緊張しているようには見えなかった。 それでも、その声を聞いた途端、ジュハは少しだけ肩の力が抜けるのを感じた。「そうですか?」 その一言が、ひどく挑発的に聞こえた。 どこまで耐えられるか試してみる、とでも言いたげに。 ドヒョクは少し意地になった。 だが、酒の入った身体は意思とは裏腹に勝手な反応を始める。 ここ数年、まともな性行為から遠ざかっていたせいかもしれない。 ――いや。 そんなものは







