二十七日の懇願、三日遅れの離婚
母が病に倒れ、余命わずかの中で、最後に望んでいたのは私の結婚だった。
私は高嶺辰哉(たかみね たつや)に二十七日間も頼み込み、ようやく一緒に婚姻届を出してくれると約束してもらった。
けれど、私は区役所で窓口が閉まる時間まで待っても、彼は現れなかった。
その日のうちに、辰哉の幼なじみ――村瀬冬実(むらせ ふゆみ)が、SNSに一枚の写真を載せた。
【早いなあ。あと三日で、入籍して一か月になるんだ】
その瞬間、私は気づく。最初に彼へ必死に頼み込んだあの日、辰哉はすでに幼なじみと婚姻届を出していたのだと。
同時に、スマホに彼からの謝罪のメッセージが届いた。
【穂花、冬実は家に無理やり結婚させられそうになっていた。放っておけなかったんだ。
あと三日で、俺たちは離婚する。
三日後、必ずお前を迎えに行く】
――そして三日後。
正装姿の辰哉が区役所の前に現れたとき、彼のスマホに届いたのは、ただ一通の私からの言葉だった。
【辰哉、もう二度と会わない】