夫の初恋の身代わりを拾っちゃった
結婚して五年――
黒崎あずさ(くろさき あずさ)は、ようやく離婚を決意した。
その日、あずさは書類を届けるために夫の黒崎直哉(くろさき なおや)の執務室へ向かった秘書に声をかけ、「ついでだから」と言って書類一式を受け取った。そして、その束の中にもう一通の書類をそっと紛れ込ませる。
それは、他ではない離婚届だ。付箋で要所要所が隠され、一目ではそれだと分からないよう、あずさがあらかじめ準備したもの。
執務室に入ると、机の向こうで直哉はまだ二日酔いが抜けきっていない様子だった。
額を押さえながら書類を受け取り、内容もろくに確認しないまま次々とサインを入れていく。
――その離婚届も含めて。
最後の一筆が記された瞬間、あずさの視線はその紙から離れなくなった。
全部、終わるんだ。
そう思いながら書類を回収しようとしたときだった。
不意に腕が机の端に触れた。カタン、と小さな音を立ててフォトフレームが倒れ、床に落ちる。
ガラスが砕け散った。写真の中で微笑む少女の顔を、飛び散った破片が半分ほど覆い隠す。
少女の名前は青木怜奈(あおき れいな)。
直哉が今も忘れられない、最愛の人だった。