偽物令嬢が縁を切った後、家族全員が私に許しを乞うた
橘家の本物の令嬢の橘宝珠(たちばな ほうじゅ)が家に戻ってきて五年目。私はもう、食卓では白いご飯しか食べないことに慣れていた。
だって、私が箸を伸ばしさえすれば、彼女はいつも目を赤くして、家族全員に聞こえる声で私を「うらやましがって」みせたからだ。
「お姉ちゃんって本当に食欲あるんだね。私なんて孤児院でお腹を空かせるのに慣れちゃって、お肉を見ると喉が焼けるみたいで、怖くて食べられないのに」
するとお父さんもお母さんもたちまち目を潤ませて、私がわざと妹を傷つけたみたいに責めてきた。
その後は、私が服を合わせて出かける支度をするだけで、彼女は苦笑しながら言った。
「お姉ちゃんってほんとに品があるよね。私なんて田舎で豚の世話ばっかりしてきたから、立派な服を着たって様にならないのに」
私の味方をしてくれたのは、婚約者の藤田陽斗(ふじた はると)だけだった。彼は言った。
「真白、君のせいじゃない。自分を責める必要なんてないよ」
けれど婚約披露の席で、彼女は私の指にはまったダイヤの指輪を見つめ、暗い顔でこう言った。
「二十年も他人の居場所を奪って、盗んだ婚約者と贅沢な暮らしを手に入れて……お姉ちゃん、夜中にふと目が覚めたとき、本当に悪夢を見たりしないの?」
その場にいた全員の視線が、いっせいに私へ突き刺さった。声なき裁きがそこにあった。
何年も張りつめていた感情が、その瞬間に一気にあふれ出した。私は手を振り上げ、そのまま彼女をひっぱたいた。
次の瞬間、お父さんとお母さんはケーキを私の頭に叩きつけた。
それなのに、私の婚約者はハンカチを手に、本物のお嬢様の涙を拭っていた。
その日の夜、私は離縁協議書を置いて去った。