澄乃の月、あの日の約束
結婚して七年。澄乃(すみの)はやっと子どもを授かった。妊婦健診で、病院の電子カルテの「父親」情報が空欄になっているのを見つけ、思わず口にする。
「ここ、本当は神城宗真(かみしろ むねまさ)って書かれるはずですよね?記入漏れじゃないですか?」
青波区の社交界で、神城グループの社長が妻を溺愛していることを知らない者はいない。彼は澄乃のためなら去勢手術すら厭わないとまで言った男だ。
事務員はパソコンを操作しながら首をかしげた。
「確かに……登録時から父親欄は空白ですね。
ただ……あなたの言う神城宗真さん、その名前は別の妊婦さんの父親欄にありまして。お相手は藤崎美咲(ふじさき みさき)さんです……ご存じですか?」
脳が爆発するような衝撃。全身が一瞬で冷え切る。
澄乃がかつて藤崎家に養女として迎えられたことは社交界でも知られている。だが本当の娘、美咲が見つかったその日、澄乃は「真の娘の人生を奪った」と追い出された。
その美咲が、今、宗真の子どもの母親として登録されている。