私を愛してくれる人はいない
幼い頃から、兄と父は、ずっと姉・朝倉紗良(あさくら さら)ばかりを可愛がってきた。私を嫌っていた。
パーティーで私がいじめられたとき、助けてくれたのは――裏社会の組長、橘智也(たちばな ともや)だった。そして私が彼の最愛の人だと宣言し、今度誰かが私をいじめたら絶対に許さないと言った。
智也は私のために森の奥にある別荘を買い取り、私の大好きなチューリップをいっぱいに植えて、全国で話題になった豪華な結婚式を挙げてくれた。
一時、私は誰もが羨むような存在になった。
妊娠七ヶ月のとき、父の誕生日パーティーに参加していたら、突然大火事が起きた。
偏愛している父と兄は紗良を守って逃げ、私は火の中で死にかけた。最後に智也が私を救い出してくれた。
病院で目を覚ますと、私は心が砕けるような場面を目にした。
「誰がこの火事を起こさせたんだ!」智也は顔を曇らせて言った。「彼女はまだ妊娠七ヶ月だぞ。こんなことして早産させて、結花とお腹の子を殺すつもりか!」
兄と父は小声で言い訳した。「紗良の白血病はもう待てないんだ。医者も早く手術しろって言ってる。子供の骨髄が必要だから……」
「俺はお前らより紗良の命を心配してる。
そうじゃなきゃ結花と結婚したりしない!
だが結花を傷つけるのは許さない。俺には俺の計画がある!」
智也は警告するように言った。
「紗良を救うのが目標だが、紗良を救うために結花のことを犠牲にするなんて許せない!俺は認めない!」
私は慌ててその場から逃げ出した。彼が私と結婚したのは愛していたからじゃない、紗良を救うためだったのだ!
彼の私への優しさも、すべて紗良のためだった。
彼も父や兄と同じで、好きなのは紗良で、私じゃなかった。
誰も私を愛さないなら、私は去るとしよう。