偽装結婚が本当になったら、幼馴染が大後悔した件
幼なじみの川井悠也(かわい ゆうや)に、プロポーズを99回も断られてから、二年が過ぎた。
ある日突然、悠也から電話がかかってきた。電話の向こうで、彼は泣き叫ぶように言った。おばあちゃんが危篤で、最期の願いは、自分の結婚式を見ることだ、と。
そればかりか、私と結婚すると承諾し、ウェディングドレスも用意して、式場も予約してくれていると言うのだった。
言われた通り、私はウェディングドレスに身を包んで式場に駆けつけた。ところが、そこにいた悠也の友達たちが、突然、嘲笑を浴びせてきた。
「言われたこと、全部鵜呑みにするだけでもどうかしてるのに、よくまあ送料込み二千円のドレスをオーダーメイドの高級品に替えるよな。まったく、ベタ惚れにも程があるっての!」
そして、参列者たちに向かって大声で叫んだ。
「おい、新郎の愛人が式をぶち壊しに来たぞ!」
「警備員!あの女を捕まえろ!」
参列者たちは一斉に立ち上がり、好奇と嘲笑の視線を私に注いだ。
その時、悠也が深い愛情を込めて見つめたのは、片思いの相手である清水早苗(きよみず さなえ)だった。
「言った通りだろ、式を台無しにするのを手伝うって。約束は守ったよ」
「俺がいる限り、あなたが手に入れられないものは、誰にも渡さないって言っただろ?」
早苗がようやく笑顔を見せると、悠也はようやく私の方を向いた。
「早苗が言ってたよ。今回は手伝ってくれたから、今度彼女の結婚式の時は、お前にブライズメイドをやらせてやるって。それに……」悠也は少し間を置いた。「これからも、俺の傍にいるのは、許してやるってさ」
なるほど、彼が私を騙して呼び出したのは、ただ、早苗が叶わぬ片思いをしている男性の結婚式をぶち壊す手伝いをさせるためだったのだ。
しかし――
式場に飾られていた新郎新婦の等身大パネルを見た瞬間、悠也の目が大きく見開かれた。
そこに描かれていた花嫁の名は、紛れもなく「入江千秋(いりえ ちあき)」、私の名前だったのだ。