アドリアンが引き留められなかった花嫁
結婚式の3日前、アドリアンは52回目のドタキャンをした。
彼はパレルモの工房に来て、ドレスの刺繍を確認するはずだった。
けれど私がフィッティングのカーテンから出た瞬間、彼はホルスターと無線機をひったくるように手に取った。
「トリノの連中がビアンカのブドウ畑を潰して、屋敷を包囲した。リアが怯えてる。俺は行かないといけないんだ。だから、結婚式は中止だ」
以前の私なら、彼を引き止めて問い詰めていたはずだ。私とビアンカ、どっちが大事なのかって。
でも今回は、ただ見送っただけだった。
30分後、ビアンカがSNSを投稿した。
【私と娘にとって、あなたのそばは唯一の居場所】
写真には、ビアンカを強く抱き寄せるアドリアンと、その腕の中で「パパ」と呼ぶリアが写っていた。
まるで本当の家族みたいだった。
両親はため息をつく。
「セラフィナ、ハワイでの結婚式はまた中止なのか?イタリア中の名家に招待状はもう送ってしまったぞ。ベリーニ家のメンツはどうなる」
私は首を振り、控えの招待状を軽く叩いた。
「違うよ。3日後、私は予定通り、花嫁になる。ただ相手は、アドリアンじゃないだけ」