目覚めると、大好きなアクションゲームの世界が広がっていた。 「ドロテア魔法学園~unlimited~」 登場キャラクターの悪女先生クラウディアに転生してしまった私。 数々の男性を誘惑する彼女はシグムント王太子殿下と犬猿の仲。でもお見舞いの日から殿下の様子がおかしい。 超がつくほど堅物で厳しい人が「怪我はないか?」と耳元で囁いてくる。 仲良くなれそう? 新たな力に目覚めたり、モフモフの可愛い生き物がいたり…でも学園には魔の手が忍び寄ってきていた。 可愛い生徒を守るのは先生の役目。 悪は根絶やしにさせていただきます! 溺愛あり、モフモフあり、戦いあり…ゲームの世界で自身の運命と闘う、異世界恋愛ファンタジーです。
더 보기――こんなところで寝ている場合ではないのに――
――だって今日は――――――
だんだんと意識が暗闇から光のある方へのぼっていく。
その間も頭痛が止むことはなく、この痛みが夢か現実か分からずに、とにかくこの痛みから解放されたいと願っていると、目の前にパアァァと光が広がってハッと目を見開いた。
そこには、今までの人生で見たことのない景色が広がっていたのだった。 「え……何?この部屋……………………」目が覚めて最初に飛び込んできた景色は、よくあるおとぎ話に出てくるお姫様のような部屋だった。
さっきまでうなされていたのか、額には汗が滲んでいる。 「ここは日本、じゃない……?」ベッドに寝ながら呟いたひと言は、静まり返っている部屋に虚しく響いただけだった。
私は大学でバレーボール部に所属していて、今日は春季リーグがある大事な日。そして、そんな日に限って寝坊したものだから、焦りながら走って試合会場へ向かったはず……会場近くの横断歩道を渡れば着くと思ったところでトラックが………………こちらに向かってきたところまでは覚えている。
その後は? まさか私、あのトラックにはねられて……? 「うそ…………そんなの信じない…………」背が高い事がコンプレックスで、何か自分に自信をつけたいとバレーボールを始めた。
そしてそのバレーボールで強豪の大学に入る事が出来、レギュラーにもなれて優勝目指して頑張っていたのに……練習を頑張り過ぎて寝坊してしまうなんて。何が現実で何が夢なのか、訳が分からないのでひとまず体を起こしてみる。
――――ズキーンッ―――― 起き上がった瞬間に頭が異常なほど痛みだし、ズキズキするので布団の上でうずくまってしまう。 痛すぎる――――もし死んだとしてもどうして頭が痛むの?死後の世界なら痛みなんてないハズじゃ――――そこまで考えて、ふと違う考えが私の頭を過ぎっていった。
ここは死後の世界じゃないかもしれない……布団は妙にリアルだし、周りの景色もリアルな感じがするのよね。頭は痛むけれど、ここがどこなのか整理しないと落ち着かない。 体は動かしても痛みなどはないようなので、すぐにベッドから下りて動き始めてみた。 でも微妙に自分の体に違和感を感じるのだ。 「…………凄い胸が大きいわ…………Fカップ?Gかな?こんなに大きいと凄く動きにくいじゃない……」明らかにバレーボールをしていた時の体型ではない事はよく分かる。じゃあ私は誰なの?
そう思ってドレッサーを覗いてみると、そこに映っていたのは全く別人だったのだ。 ブラウンアッシュの長い髪がウェーブがかっていて、胸は豊かに育ったおかげで着ているネグリジェのような服がぴちぴちしてしまっている。でも脚はスラリととても長く、張りのあるヒップを持ったスタイル抜群の美女。
「これが、私?…………凄い美人。それにナイスバディだわ……この顔、どこかで見た事があるんだけど…………あ!」思い出して大きな声を上げてしまったので、思わず両手で口をつぐむ。
危なかった……今誰かが入ってきても対応出来ないわ。 そうしてもう一度鏡に映った自分を見てみると、この人物が誰なのか、すぐに理解する。 「この顔はクラウディア先生じゃない……」クラウディアという女性は<ドロテア魔法学園~unlimited~>というゲームでプレイヤーが選べるキャラクターの一人。
本名はクラウディア・ロヴェーヌ、公爵家の一人娘で私と同じ21歳だったはず。
このゲームはファンタジー世界を舞台としたアクションゲーム。クラウディアは公爵令嬢でありながら優秀な魔力と風魔法の能力を持っていた。
そしてドロテア魔法学園の先生でもあり、男をたぶらかす妖艶な悪女という設定のキャラクターだった。 何よりこのクラウディア先生は、性格がとても高慢なので全体的にファンは少ない(男性ファンがほとんど) でも私は自分に正直な彼女が大好きだったんだ。他人に気を遣ってばかりの自分とは全く正反対だし、信念を曲げず、時々カッコいいセリフを言うところに憧れもあって、よくクラウディア先生でプレイしていた記憶がある。
魔法世界を堪能しながらプレイヤーが個人でミッションをクリアしてレベル上げをしていったり、協力プレイで大量の魔物を次々と倒していくのが爽快なゲームとして人気だった。 最終ステージにはちゃんとラスボスもいて……何回も何回もクリアしたな。物凄い時間数をプレイしたし…………って、もしかして、ここって―――― 「ドロテア魔法学園の世界なの?」私が声に出してそう呟いた瞬間、ドアがコンコンとノックされる。
「はい?」「お嬢様、失礼いたします」
私の声を聞いて入ってきたのは、同じ年齢くらいの黒い髪を後ろで束ねている女性だった。恐らくクラウディア先生の侍女なのだろう、お嬢様って言っていたし。
「目が覚めていたのですね!良かったです…………頭は痛くないですか?」侍女と思われる女性が頭痛について聞いてきたので、思わず食い気味に答えてしまう。
「すっごく痛くて…………どこかにぶつけたのよね?記憶が曖昧だから教えてくれるとありがたいのだけど」私がそう言うと、侍女はキョトンとした表情で驚いた顔をした。そういえばクラウディア先生は高慢な性格だったんだわ……こんな風に丁寧に聞くような人じゃないはず。
でも嫌な態度をワザと取り続けるのも苦手だし、頭が痛い状況で演技するのも辛いので普通に接するしかなかった。 「あ、頭をぶつけてしまったので記憶が混乱しているのですね!お嬢様は学園の階段から転がり落ちてしまったのです……意識がないまま3日も寝たきりだったので、このセリーヌ、生きた心地がしませんでしたよ!」そう言って涙を流しながら喜んでくれる目の前の女性の存在に救われる気持ちだった。この人はちゃんとクラウディア先生を大事に思っているのね。
クラウディア先生は嫌われ役なので周りに敵も多いし、侍女にも嫌われているのではって思ってたからちょっと不安だったのよね。 セリーヌって言うんだ、仲良くできそう。 「セリーヌ、ありがとう。心配かけてごめんね」私がそう言うと、セリーヌは何かの宇宙外生命体を見ているような目で私を見つめてくるので、とりあえずその場は笑って誤魔化す事にしたのだった。
「あははっまだ調子が戻らないみたいだからベッドで休もう、か――――っ」まだ言い終わらないうちにまた酷い頭痛が襲ってきて、私の体がグラついてしまったところをセリーヌが支えてくれる。
「お嬢様!無理はなさらないでくださいっ!」「ご、ごめん、セリーヌ…………まだちょっと無理みたい……」
私たちがそんなやり取りをしていると、突然扉がバンッと勢いよく開いた。
「何事だ?何かあったのか?!」そう言って部屋に飛び込んできたのは、柔らかい金髪をなびかせた超絶イケメンの見るからに高貴な男性だった。待って、見たことあるわ…………この人はまさか……
「シグムント殿下…………」ドロテア魔法学園ゲーム内でプレイヤーが選べるキャラクターの一人、このゲームでは一番人気の王太子殿下であるシグムント・フォン・ドロテア、その人だった。
ダンティエス校長が去ったドアを見つめながら、そろそろ本気で自分の気持ちをジークに伝えないといけないなと考えをめぐらせていた。 今日課外授業に行ってみて、外の世界がここまで危険に満ちているとは思わず、自分の考えが甘かった事を痛感する。 中にいれば今は比較的安全かもしれないけど、それはずっと続くものではない。 このまま放置していてもゆくゆくは王都も危険な状況になってしまうのなら、この邪の気配の根源を消し去らなければ――――きっと私の力はその為にあるのだと思う。 色んな事にけじめをつけないと。 「ダンテが気になる?」 「わっ!」 すっかり考え事をしていた私のすぐ後ろからジークの声が聞こえてきて、驚きのあまり変な声が出てしまう。 恥ずかしくてゆっくりと振り返ると、真剣な表情のジークがすぐ近くに立っていた。 「ずっとダンテが去ったドアを見つめているから」 「いいえ、違うの。考え事をしていただけよ。これからの事とか色々…………」 「これからの事?」 この世界の事、ジークにどうやって説明をすればいいんだろう。ここはゲームの世界で魔王を倒さないと世界が危ない……なんて伝えたらさすがに頭がおかしい人間に思われるわね。 私は、言いたくても言えないもどかしさに苦笑するしかなかった。 「………………そうやって言ってくれないなら……こうするしかないな」 「え?」 彼が何を言っているのか分からなくて聞き返すと、ジークの瞳が怪しく光り出し――――思い切り脇をくすぐられてしまうのだった。 「な、何を!あははっやめて~~あはっ、うふふ、ふ、くすぐったいっ!」 「言う気になったか?君が抱えているものを私と半分こしようと話したばかりではないか」 くすぐりながらも真剣な表情で伝えてくるので、私は観念して自分が感じている事を話そうと決意した。 どの道言わなければならない時はやってくるだろうし、ゲームの世界であるという事は言えないけど、これから起こるだろう事案は伝える事ができるかもしれない。 「わ、分かったわ!話すからっ」 「よろしい」 すぐにくすぐるのを止めてくれたジークは、私の言葉に満足気だった……なんだかいいように流された感じがしなくもない。 満足気な彼の顔を見ながら若干私があきれ顔をしていると、突然彼の腕にすっぽりと収められてしまう。 そし
私はヴィスコンティ子爵家の一人娘、カリプソ・ヴィスコンティ。土魔法を得意とし、ドロテア魔法学園の養護教諭をしている。 身分は低かったけれど幼い頃、両親はこれでもかというくらい私を可愛がってくれたし、お姫様のように扱ってくれた。 私が4歳の時にお母様が亡くなり、それまではとても幸せだったのを今でも覚えている。 でもお母様が亡くなるとお父様が豹変し、私に厳しく当たるようになった。 私は最初、その理由が分からずとても悲しかったわ。お父様を恨んだ事もあったし、どうして私がこんな目に……と悲劇のヒロインのように思っていた時もある。 でも少し大きくなった時、お父様と誰かが話している声が聞こえてきた―――― 「ご令嬢はあなた様の娘ではないと?」 「あの者は妻がよそで作った子供で私とは全く血のつながりはありません。どうか引き取ってくれませんかね?」 お父様は何を言っているの?あんなに私を可愛がってくれてたじゃない。二人とも仲が良さそうだったし、二人の子供じゃないなんて嘘よ! 私は到底信じられず、お父様に詰め寄り、どういう事なのか説明を求めた。 すると信じられないような事を言い始める。 「お前の母親は私と婚約している時に私との子供が出来たと嘘を言っていたんだ。アイツが死んだ後に父親だと名乗る男がやってきた……そいつはお前の母親の邸に勤める使用人だったのだ。私はまんまとハメられ、お前を本当の娘として慈しんでしまった…………何の血の繋がりもないお前を私が育てる理由がどこにある?」 お父様はそう言うと、憎悪の対象を見るような目で私を見据え、顔を逸らした。 私は必死で泣きつき、とにかく役に立つから捨てないでほしいと懇願したのだった。 無様だわ――――でもまだ10歳にもなっていない私には、こうする他なかった。 私があまりにも必死で面倒だったのかは今となっては分からないけど、お父様は思い止まり、私を子爵家の令嬢として邸に置いておく事にしてくれた。 私はむしろありがたいとすら思っている。浮気した女、嘘をついて結婚した女の子供を貴族令嬢として生きる事を許可してくれたのだから。 この恩は一生かかっても返していこうと決意する。 使用人たちにどんなに冷たい目を向けられても、言葉を交わしてくれなくても、とにかく貴族令嬢として恥ずかしくないようにと色々な教育を頑
急いでリンデの森を離れ、王都に入るまでは皆緊張した面持ちだったものの、王都に入ったのを確認すると先生たちの表情も緩み、ホッとした顔をしていた。 そして学園に無事に着くと点呼を取り、生徒たちは課外授業から解放されて嬉しそうにそれぞれの教室へと戻って行った。 魔物化した男子生徒も校長と一緒の馬車に乗っている最中に意識が戻り、記憶もなかったようでケロッとしながらクラスに戻っていった。 自分がなぜ校長先生と馬車に乗せられているのか分からなかった男子生徒は、馬車の中で酷く動揺していたようで、校長からその話を聞いた時は思わず笑ってしまったのだった。 今回は終わるのも早かったし、これから課外授業の感想や意見などをレポートにまとめる時間が終わったら帰宅となる。 皆無事に帰ってくる事ができて本当に良かった。 「びっくりしましたわね…………まさかリンデの森があそこまで瘴気でいっぱいとは思いませんでしたわ」 生徒たちが教室に戻るのを見守っていた水クラスのラヴェンナ先生が私に声をかけてくれたので、全力で同意する。 「本当にそうですわね。人体に入るとあんな風になるなんて」 皆が到着した時に副校長のミシェルとジークも出迎えに来ていて、私の言葉にジークが反応してくる。 「瘴気が誰かの中に入ったのか?」 「え?あ、えーっと…………」 私が言いにくそうにしていると、横からゲオルグ先生が鼻息を荒くして当時の状況を語り始めたのだった。 「理事長先生!森に満ちた瘴気に侵された男子生徒が一人いたのですが、我々が魔物と戦っている間にクラウディア先生が変な力を発したのです。得体の知れない力です……これは危険な力かどうか、要調査の案件なのではありませんか?!」 「…………………………」 この人は力の種類を感じる事ができないのかしら……ジークはすぐに分かってくれたのに。どう頑張っても私の事が嫌いらしい。 転生して中身が違うとは言え、ちょっと傷つくわね。 そんな私の気持ちをすくい上げるかのように、ラヴェンナ先生がすぐに言葉を返してくれたのだった。 「あの力は危険なものではありませんよ?あなたは感じなかったようですけど……聖なる力ですわよね、理事長先生」 「ああ、そうだ。危険などと間違っても言ってはいけない」 「な、クラウディア先生に聖なる力?!そんなバカな……こ
すべて瘴気をのみ込んだ男子生徒は、さっきまでもがき苦しんでいたのが嘘のように突然静かになり、顔を俯かせてふらふらゆらゆらし始める。 そしてゆっくりと顔を上げると、目は白目のまま顔色は真っ青になり、顔中に血管が浮き上がった状態で肌は岩のようにデコボコになっていた……明らかに普通の状態ではない。 これは――――人の魔物化? 「ひっ」 「な、なんだよ、アイツ……」 「何が起こったの?!」 瘴気が見えない生徒たちは一様に混乱し始める――――私ですら混乱しているのに瘴気の見えない生徒たちはなおさらだわ。 「生徒たちは急いで馬車へ!」 ラヴェンナ先生は自分のクラスだけではなく、生徒全員に呼びかけ、避難を促した。 人にもこんな風に影響をしてしまうのを目の当たりにしたら、今日の課外授業は中止せざるを得ないものね。 「みんな急いで!」 引率の先生方で生徒を馬車に誘導していると、瘴気によって状態異常を起こしている生徒が一人の女子生徒に襲い掛かっていった。 「グガァァァァア゙ア゙!!」 「きゃ――っ」 「危ない!!!」 私が叫んだと同時に辺りが闇に包まれ、男子生徒が闇に包まれていく。 今は昼間よね?これは闇魔法? 女の子は襲ってきていた相手が突然いなくなってキョロキョロしている……暗闇の中、ダンティエス校長の声が響き渡る。 「[ダークイリュージョン]…………今は彼の周りも闇で覆っているので我々が見えていない。早く馬車へ走るんだ――――」 暗闇だけど馬車などの目的物は分かるわ。凄い闇魔法……! 女子生徒は必死に馬車に走っていき、他の生徒たちも順々に馬車に乗り込んだところでだんだんと闇が晴れてきたのだった。 どうやら状態異常を起こした男子生徒にだけ幻覚を見せる魔法みたいね。 突然目標物を失った男子生徒は混乱してキョロキョロしている。 男子生徒の後ろの方では魔物が量産されているし、男子生徒は瘴気に取り込まれているしこの状況をどうすればいいの…………私が考えあぐねている間に、他の先生達が私たちに襲い掛かかろうとしている魔物を倒すべく、走っていった。 私も何体かは風魔法で応戦したけれど、倒しても湧いてくるので埒が明かない。 とにかく男子生徒を何とかして学園に戻らなくては――――私は自分に出来る事は何かを考え、男子生徒を救う方に集中する事
馬車から一歩出ると、辺りは延々と森が広がっていて、何も感じなければ静かで空気が綺麗な森だった。 ところどころから差し込む木漏れ日は後光のようで神々しく感じられるし、生徒たちは森の清涼な空気を吸い込んで良い表情をしていた。 ここが普通の森なら私もそう思ったかもしれないし、皆と一緒に綺麗な森にうっとりしていたと思う。 でもひとたび馬車を降りたら、ここに蔓延する瘴気を感じて、一気にピリピリした気持ちになっていった。 これだけ溢れていると、そこかしこからすぐに魔物が出てきそうね………… このドロテア魔法学園というゲームはその溢れ出る魔物を次々と倒し、最終的に魔王を倒して世界に平和をもたらすゲーム。 魔王を倒すまでは瘴気は存在し続け、増えていく一方……最終ステージ前はかなりの村や街で被害が出ていて、一刻も早く倒さなければならないという状況になっていく。 今は深刻な話はまだ聞こえてこないので油断していたけど…… これは魔王がもう存在していると思った方がいいのかもしれない。 これほどの瘴気が溢れているのを見ると、その存在をヒシヒシと感じざるを得ないわ。 それにしても他の者には見えていないのかしら……周りの人たちを観察していると、見えている者と見えていない者で表情が全然違う事が分かる。 そして見えている者は明らかに少なく、数えるほどしかいないようね。 ラヴェンナ先生は見えているようで、口を覆うようにしながら生徒たちに遠くに行かないよう声をかけていた。 マデリンが慌てて私の元へやってくるのが見える。 「先生!このモヤモヤしたのは何?まとわりついてきて気味が悪いわ……!」 「マデリン、あなたも見えているのね。おそらく魔力量が少ない者には見えないのではないかと思うの。これは瘴気と言って邪の気配……人の中に知らずに入り込んでくる厄介なものよ」 「外の世界はこんなものが溢れているものなの?」 「こんなに溢れているとは私も思わなかったわ……瘴気が集まると魔物に具現化していくから気を付けて。みんなも離れないように!こっちに一旦集まって――――」 なぜ先生方が厳しい表情なのか、ほとんどの生徒は分からずにひとまず声をかけられたから集まったという感じだった。 でも一部の威勢のいい生徒は笑いながらなかなか集まってこない。 「早くこちらに集まるんだ!」
「ラヴェンナ先生こそお優しいではないですか。いつも生徒の事を考えていて……先生の鑑です」 私の目の前に座っているゲオルグ先生は私の3個上(24歳)の伯爵令息であり、好き嫌いが非常に分かりやすい人で、常にラヴェンナ先生を褒め称えている。そして―――― 「クラウディア先生がラヴェンナ先生と同じだなどと、あり得ない事です」 はいはい、よく分かっていますよ。 ゲオルグ先生はラヴェンナ先生が大好きでクラウディアが大嫌いなのよね――本当に分かりやすい。 まだ仲直りする前のジークとはまた違った嫌味や嫌悪を向けてくる人―――― ジークは私の不真面目に見えるところを直そうとしていた人だけど、この人は単純な悪意を向けてくる厄介な人間なのよね。 私が転生した後もクラウディアを嫌悪する態度はそのままに、相変わらずこちらが引いてしまうような言葉を投げつけてくる。 まぁいいんだけどね……ラヴェンナ先生が清く、優しく、たおやかな女性だと信じて疑わないゲオルグ先生の夢が崩れ落ちる瞬間が来ない事を祈るわ。 ラヴェンナ先生は本当は好戦的なんて私が言ったら、彼女への嫉妬や負け惜しみでウソを吹聴していると言われそうで厄介だし。 「クラウディア先生と同じだなんて嬉しいですわ~~ずっと憧れておりましたの。先生のようにカッコいい女性だったらって」 そう言いながらうっとりとしているラヴェンナ先生を見て、戦闘するカッコいいクラウディアを想像して、自分もそうなりたいとか思っているんだろうなと察しがつく。 「それに、昨年の魔法大会もクラウディア先生のクラスがクラス別対抗で優勝しましたわね!上の学年のクラスを押さえての優勝にとっても興奮しましたわ」 その話が出た途端にゲオルグ先生の表情は一気に憎々しげな顔に変わっていった。 この魔法学園には前の世界で言うところの運動会のようなものがあり、昨年は私の受け持つクラスが優勝したのだった。 火、水、風、土の対戦でも風が優勝だった……私が転生する前の出来事だけど記憶にあるし、ゲオルグ先生の火クラスとの戦いにも勝利したので本当に悔しいのだろうな……私が何となく気まずい気持ちでいると、ゲオルグ先生が重い口を開き始める。 「あの時は風クラスの生徒たちが最上級魔法を突然使えるようになったので、誰かの手が加えられたとしか思えませんでしたね」
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