共有

第11話:記憶を継ぐ者と、血を継がぬ継承

作者: fuu
last update 最終更新日: 2025-07-10 12:00:36

「……わたくしが、“あなたの記憶”を守っていました――この時のために!」

山の風を背に、現れた少女は堂々と宣言した。

銀色の長髪が陽を弾き、まっすぐな視線が“語られぬ王”セレヴェルを見据えている。

「……リュシア・アメリア=アルティリオ。記録から消された“姫君”か。」

セレヴェルが名を呼ぶと、少女は静かに膝をついた。

「祖父上の名を、ようやく“外の世界”で耳にできました。今こそ、失われた記憶を――語るべき時です。」

◆◆◆

グランフォード本城、応接室。

セレヴェルとリュシアを迎え入れた一同は、驚きの連続だった。

「まさか、王家に“もう一つの継承筋”があったとはね。」

ネフィラが記録魔導具を展開しながらつぶやく。

「しかもそれを、ずっと“口伝”で残してたなんて。」

「血筋ではなく、言葉と記憶で継ぐ一族……かっこよくない?」

「うちの国家、名乗り方いちいちドラマチックなのよ!」

エリシアは椅子でぐるぐる回りながら興奮していた。

だが、セレヴェルの言葉は重く静かだった。

「記録は裏切る。だが、記憶と誓いは、魂に刻まれる。私はそれを証明するため、あらゆる痕跡を捨て、眠っていた。」

「つまり……“忘れられること”すら、覚悟の上だったってこと?」

ユスティアが問うと、セレヴェルは頷いた。

「そして今。君たちが記憶を呼び覚まし、“忘れられた者たち”に光を与え始めた。」

「それは、この世界における“血を超える継承”だ。」

リュシアが口を開く。

「我々“記憶継承者”にとって、何より尊いこと。それは――“思い出してくれる誰か”の存在なのです。」

◆◆◆

「……で、そんな重たい話をしたあとでアレなんだけど……。」

エリシアが真剣な顔で手を挙げた。

「うちの国家、あんまり正式な儀礼とかなくて……要は、リュシアさんみたいな人が来ると“格式迷子”になるの!」

「それ、要するに“貴族っぽい人の扱いが苦手”ってことでは?」

「で、でも逆に考えればいいわ!王家の血も記録も関係なく、“国を作る意思”があるかどうかが大事ってことでしょ?」

「なんか無理やり話まとめてる!?」

エリシアは立ち上がると、セレヴェルとリュシアに向き直った。

「ようこそ、“逆ハーレム建国国家”グランフォードへ!」

「国名、略称なのかキャッチコピーなのかはっきりして!!」

「私たちは、忘れられたものを“再び記す国”です。“語る者”も、“語られなかった者”も、等しく仲間です!」

◆◆◆

その言葉に、セレヴェルは微かに笑った。

「……ならば、次に試されるのは――“その意志の強さ”だろうな。」

「え?」

「記録されない者が集えば、いずれ“記録を書き換えようとする者”が現れる。王家は黙ってはいない。」

「うっわ~、めっちゃめんどくさそうな予感しかしない~!」

「だが、王家にとっての問題は別にある。“記録されぬ王”が目覚めた以上――次は、“記されるべき者”を決めなければならない。」

その瞬間、場の空気が変わった。

「それって……つまり、“王位継承問題”ってこと?」

「そしてそれは、“血筋ではない選択”も含まれることになるだろう。」

「誰が、“記憶を継ぐ王”になるのか。」

その問いに、誰も答えられなかった。

だがその夜、エリシアは日記にこう書いた。

「“血を継がない”って、いい言葉かも。私は私の道で、国を継ごう。」

「“血筋ではない選択”……。」

セレヴェルの言葉が残した重みは、会議室の空気を冷たくしていた。

「つまり……“誰かが”王になるってことよね?」

ネフィラが確認すると、ユスティアが微妙な顔をする。

「それ、まさか俺に回ってこないよな?」

「うーん、逆ハーレム国家的にはいい流れだけどねぇ~?」

「やめろ、その基準で考えるの!!」

一方、リュシアは静かに手を挙げた。

「私は、祖父セレヴェルの記憶と意志を継ぐ者として、提案があります。」

「提案……?」

「“王位の継承”を、“記憶の継承度”で試験的に測ってみてはどうでしょう?」

「記憶の継承度……?」

セレヴェルが頷く。

「我が血を引く者に限らず、“この地に刻まれた歴史”をどれだけ知り、どれだけ理解し、どれだけ共に歩めるか。それが“新たな王”にふさわしい資格だと考える。」

「つまり、試験ってことね。」

ミィルが軽くうなずく。

「知識テスト?暗記勝負?え、私、文系なのに……!」

「ちなみに、第一関門は“記憶の迷宮”と呼ばれる地下遺跡の攻略です。」

「そんなの聞いてないー!!」

エリシアは机に突っ伏した。

◆◆◆

数日後、記憶の迷宮・入口。

魔王領の古文書にのみ存在が示されていた、完全に“記録されていない”遺跡。

「内部は魔力干渉が強く、精神に記憶が直接作用するらしい」

ネフィラが調べながら言う。

「つまり、記憶を持たない者は迷いやすく、“記憶を知っている者”ほど深部に進める……。」

「記憶型ダンジョンって、聞こえはロマンだけど超厄介だよね!」

「……でも、行くよ。私たちは、忘れられたものを“書き記す国”を作ってるんだから。」

エリシアの言葉に、全員が頷いた。

そして、試練の扉が静かに開いた。

◆◆◆

中は、静寂に満ちた異空間だった。

床に浮かぶ文字、天井に映る映像、そして次々と現れる“記憶の残滓”。

「……これは、王都の大火……?」

ユスティアが見たのは、かつて彼が“存在しなかったことになった”日の記録。

「っ、違う……これは、俺がいなかった世界の“補完”記録か……?」

クレインの前には、涙のスープを作る直前の自分が立っていた。

「“感情を料理に乗せる”ことの意味……俺は、まだ理解しきれていない」

そして、エリシアの前に現れたのは――小さな、自分だった。

「“恋をするために国を作る”って、バカみたいかな。」

「……でも、それでみんなが笑えるなら、いいと思うよ。私は、そう思ってる。」

小さな自分が笑う。

エリシアは微笑んだ。

「じゃあ、進もう。“記録のない未来”へ。」

最深部の玉座にたどり着いたとき、セレヴェルの声が再び響いた。

「見事だ。君たちは、“記憶と記録”の間に橋をかけた。ゆえに、ここに宣言しよう。」

静かに、王冠の幻影が現れる。

「“継承”とは、血ではない。“意志と歩み”で決まるものだ。」

「それなら――。」

エリシアが一歩、玉座に近づく。

「私は、記録されない恋と、記録される未来を作るよ!」

「意味わからないけど、うちの国家っぽいな!」

仲間たちの笑い声と共に、玉座は静かに輝いた。

王家の記録が、ひとつ書き換わった瞬間だった。

——〈次話〉“王都動乱と、最初の継承式”

この本を無料で読み続ける
コードをスキャンしてアプリをダウンロード

最新チャプター

  • 逆ハーレム建国宣言! ~恋したいから国を作りました~   第17話:星降る丘と、願いを継ぐ者

    「今夜は、“星降りの夜”なんですって!」エリシアがワクワクした声で言うと、家族と仲間たちは一斉に顔を上げた。「年に一度の流星群か……。」カイラムが空を見上げながら呟く。「願い事、考えておかなきゃね!」「お嬢様、その手の願掛けは“恋人と並んで星を見る”のが正式な作法だそうですよ。」「なんですって!?そんなロマン行事、聞いてないわよ!」◆◆◆丘の上では、祭りの準備が進んでいた。屋台が立ち並び、子どもたちが星形のランタンを持ってはしゃぎ回る。エリシアはふと、静かな一角に佇むカイラムを見つける。「どうしたの?お祭り嫌い?」「いや……昔、この夜に、祖父……つまり前魔王が、何かを呟いていたのを思い出した。」「何を?」「“星が降る夜には、魔王の願いが空に返る”って。」その言葉が、なぜか胸に引っかかった。「……ねぇ、カイラム。もしかして、“魔王の願い”って、まだこの国のどこかに残ってるのかな。」「わからない。でも、残ってるなら――。」彼は空を見上げた。「“継ぐ者”に届いてほしいって、そう思ってたんじゃないか。」◆◆◆夜が深まり、星が降り始めた。そのとき、ひときわ大きな流星が、空を切り裂くように駆け抜けた。「っ、あれは……!」地平の彼方、旧魔王領の奥深く――かつて誰も足を踏み入れたことのない、黒の谷に、光の柱が立った。「……あれは、“魔王の遺産”かもしれない。」カイラムの言葉に、空気が凍る。「私たちの旅、“国づくり”じゃなく

  • 逆ハーレム建国宣言! ~恋したいから国を作りました~   第16話:仮面の国と、真実の選択

    ルヴァーニュ共和国――それは“感情を統制する国家”として知られている。表情、語調、服装に至るまで“合理性”と“統一性”が求められ、感情の発露は“社会的なノイズ”とされる文化だった。「……なんて退屈そうな国なの。」エリシアはクロードに連れられ、共和国の中心・サンクト議政庁に足を踏み入れた。「形式美と管理こそが、我々の誇りです。」そう語るクロードの背はまっすぐで、感情の揺れなど微塵も感じさせなかった。けれど――「……ほんとに、そう思ってるの?」彼の瞳の奥には、かすかに“ためらい”があった。◆◆◆「クーデター未遂事件に関し、証言が必要です。」応接室に通されたエリシアは、共和国の官僚たちから次々と質問を受けた。「あなたの国家では、恋愛が政務に影響を与えるのですね?」「ええ、バリバリに。恋がなきゃ税制改革もできないわよ?」「……理解不能です。」「そうでしょうとも!」堂々と笑うエリシアに、誰もが困惑の表情を浮かべる。だが、ただ一人――クロードだけが、視線を伏せていた。◆◆◆その夜。「この国、本当に全部が“仮面”ね。人の顔も、言葉も、街も……みんな均一で、誰も泣かない、誰も笑わない。」エリシアは屋上で夜風に吹かれながら呟いた。「……それが、我が国の安定の源です。」クロードの声が背後から響く。「けれどその安定が、“恋すら許さない”なら、それはただの――。」「欺瞞、ですね。」エリシアの言葉を、クロードが遮った。「……私は、知

  • 逆ハーレム建国宣言! ~恋したいから国を作りました~   第15話:国家間交流と、恋する政略

    「外交、ですって?」エリシアが口をあんぐりと開けたのも無理はない。「うん。ついに来たよ、国交樹立のお誘いが!」ネフィラが書状を振って誇らしげに報告する。「え、え、どこの国から?」「三つ来てるわ。“氷雪の王国グレイスフロスト”、“砂の自由商都エリゼール”、そして……“新王制を掲げたルヴァーニュ共和国”」「多いな!?建国から何ヶ月だと思ってるのよ!?恋する暇ないじゃない!!」「逆ハーレム国家、外交もハーレム構造なのか……?」ユスティアが若干引きつった表情で呟く。◆◆◆「というわけで!」エリシアは気合を入れて、各国の使者を迎えるための“大歓迎セレモニー”の準備に取りかかっていた。「国家間の友好関係は、“第一印象”が大事よ!ここで『この国イケてる!恋もできそう!』って思わせなきゃ!」「その基準で外交してるの、世界広しといえどグランフォードくらいですよ……。」クレインがため息をつきつつ、宴会のメニュー表に目を通す。「でも正直、心配なのはルヴァーニュ共和国ね。」ネフィラが神妙な顔で続ける。「彼らは、“感情”より“実利”を重んじる国家。うちの『恋する国政』に、どう反応するか……。」「ってことは、逆に“感情面”を刺激すれば、突破口があるってことね!」「……エリシア様、それ、まさか――。」「決まってるじゃない。政略恋愛よ!!」「また爆弾投下したぁ!!」◆◆◆三国の使者が一堂に会したグランフォード迎賓館。冷ややかな視線のグレイスフロスト王子リューディル、陽気で策略家のエリゼール

  • 逆ハーレム建国宣言! ~恋したいから国を作りました~   第14話:記録の底と、遺された魔力

    「……どうしてこの部分だけ、記録が“空白”なんだろう。」ネフィラは記録管理室の古文書を前に、眉をひそめていた。「魔王領にまつわる記録の中でも、特に“魔力の起源”に近い文献がごっそり抜け落ちてるのよ。」「また記憶操作……?それとも、意図的な封印?」ユスティアが地図と照合しながら唸る。「でも、興味あるわ。“記録から消えた魔力”……って、なんだかロマンあるじゃない?」エリシアは軽い口調で言いながらも、心の奥に小さなざわめきを覚えていた。(このところの記憶や恋に関わる現象、すべてが“何か”に繋がってる気がする……。)「場所の特定はできるの?」「はい。ここです。“グランフォード地下第三層、未調査領域”。」「未調査?でもそこ、建国初期に調べたはずじゃ――。」「“記録上は”ね。でも、実際には“立入禁止”の印だけが残されてて、中の調査記録は一切残ってないの。」「うちの国家、ほんと記録に穴ありすぎじゃない!?」◆◆◆グランフォード地下第三層。岩肌がむき出しの空間を進むと、古びた扉が現れた。そこには、今では使われていない古代文字が刻まれていた。「“ここに遺せしは、過去にして未来。記されずとも、力は残る”……?」「……記されずとも……。」セーネの言葉が蘇る。“記録に残さなくても、想いと魔力は宿る”――「行こう。この扉の向こうに、“遺された魔力”があるなら、今こそ向き合う時だわ。」◆◆◆扉の向こうに広がっていた

  • 逆ハーレム建国宣言! ~恋したいから国を作りました~   第13話:失われた大地と、二番目の恋

    「……この地図、変よ。」ネフィラの一言に、会議室の空気がピリリと張り詰めた。「どうした?見慣れた地図じゃ――。」「そう、“見慣れてる”はずなのに……この区域、前は“湖”だったのよ。」ネフィラの指先が指す先――そこには、現在“乾いた草原”と記されている。「湖が……干上がったの?」「違うわ。記録上は最初から“草原”になってる。でも、私の記憶では確かにここは“蒼の水鏡湖”だった。」「記録と記憶が、またズレてる……?」ユスティアが眉をひそめる。「誰かが、“土地の記憶”を操作した可能性がある。」「土地の記憶……それって、“存在そのもの”を塗り替えるってこと?」「うん。そして、その中心部で“謎の揺れ”が観測されたの。」「行くしかないわね!エリシア探検隊、出動よ!」「そんなノリで国家の調査隊を出すなぁ!」◆◆◆数日後、調査隊一行は“元・湖”だったとされる草原地帯へ到着する。「……ここが、あの蒼の水鏡湖……のはず、なんだけど。」エリシアが歩を進めると、突然、空気がひんやりと冷たくなる。「魔力濃度、異常に高い……。この空間、“魔力の傷跡”だわ。」「何かが、ここで“封じられた”……あるいは“消された”。」そのとき、風に乗って、誰かの歌声が聞こえた。『……忘れられた風を追い、影は静かに舞い降りる

  • 逆ハーレム建国宣言! ~恋したいから国を作りました~   第12話:王都動乱と、最初の継承式

    「……エリシアは最近、“誰か”のことばかりだな。」魔王領の旧兵舎跡。カイラムは一人、壊れた石柱に腰掛け、スープをすすっていた。「料理?ユスティア。記録?リュシア。なんか忘れてないか……?俺のこと……。」彼の背後で、リビアが気まずそうに翼をぱたつかせた。「まぁ、その……閣下は“宰相”としても大忙しですし……。」「俺だって宰相だし、魔王だったし、初期メンバーだし!ていうか、最初に木刀で吹っ飛ばされた被害者だし!」「それは確かに……いや、ちょっと誇れる内容ではないのでは?」「くそっ……!エリシアの奴、今頃“継承式”の準備とかで浮かれてるんだろうな……!」そう、現在グランフォードでは“王家による正式な国家承認”の是非をかけて、“最初の継承式”を開催する準備が進められていた。王都からの使者も到着し、“新たな王位継承者”としてエリシアの名前が取り沙汰されている。◆◆◆その頃、グランフォード本城・会議室。「ねぇこれ、“王位”って言っても形式上だけよね?」「今さら何を言うか。もう継承式の招待状、王都に送っちゃったぞ。」「え、あの金ピカのやつ!?冗談のつもりだったのに!」「……エリシア様、それ冗談で国政動かしてたんですね……。」ユスティアがこめかみを押さえ、クレインが真顔でメモを取る中、ネフィラは厳しい声を上げた。「でも気になるのは、王都の“沈黙”よ。」「使者は来たのに、本家からの返事がないってこと?」「うん。しかも

続きを読む
無料で面白い小説を探して読んでみましょう
GoodNovel アプリで人気小説に無料で!お好きな本をダウンロードして、いつでもどこでも読みましょう!
アプリで無料で本を読む
コードをスキャンしてアプリで読む
DMCA.com Protection Status