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第5話

Auteur: あめちゃん大好き
真奈美が会場に戻った時、その顔色は青白かった。

椿が駆け寄り、心配そうに尋ねた。「大丈夫?顔色がすごく悪いけど」

「大丈夫ですよ」真奈美は無理をして笑みを浮かべた。「菊地さん、少し気分が悪いから先に帰ります」

「送っていくわ」

「お気遣いなく。もう車を呼んでありますから」

そう言って真奈美はカバンを掴むと足早に去っていったが、背後から絢香が向ける、意味深な視線には気づかずにいた。

マンションに戻ると、真奈美はソファに崩れ落ちた。力が抜けきってしまったような状態だった。

スマホが震え、直樹からの着信が表示された。

画面で点滅するその名前を、着信音が鳴り止むまでただ冷ややかに見つめていた。やがて、追いすがるように次々とメッセージが届き始めた。

【真奈美、電話に出てくれ。子供のことについて話したいんだ】

【何を言っても無駄だとは分かってる。だけど、何があったのかだけは教えてくれ】

【頼む、出てくれ】

だが、真奈美は通知を無視し、スマホをマナーモードにして放り出したあと、そのままバスルームへ向かった。

しかし熱いシャワーを全身で浴びたが、胸の中の凍てついた感覚は消えなかった。

俯いて、自分の平らな下腹部を見つめた。かつて、そこには自分と直樹の子供が宿っていたのだ。

彼に告げる準備さえできていなかったのに、もう子供はいなかった。

手術台に横たわった時、医師にこう聞かれたことを思い出す。「ご家族の方に連絡しましょうか?」

その時、彼女はこう答えた。「いいえ、自分一人でサインできますから」

最初から分かっていたから。伝えたところで、直樹が来るはずなんてないのだ。

その日、彼は絢香と誕生日を祝っていたのだから。

バスルームから出ると、再びスマホの画面が光っていた。

今度は絢香からのメッセージだ。

【真奈美さん、直樹が酔いつぶれて、ずっとあなたの名前を呼んでいます。迎えに来てあげられませんか?ブルース・バーにいますよ】

添付されていたのは、ボックス席で泥酔している直樹の写真だった。

真奈美はその写真を数秒見つめてから、削除して絢香をブロックした。

そして窓辺に歩み寄り、きらびやかな夜景を眺めていると、かつて聞いたある言葉をふと思い出した。

――「人生に現れる人の中には、あなたがどれほど騙されやすい人間かを思い知らせるためだけに来る人もいる」と。

今の真奈美にとって、直樹はまさにその人だった。

彼女の3年という青春を騙し取り、愛情への幻想を壊し、母親になれるはずだった未来まで奪っていった。

だがもう、これ以上傷つけられるのはごめんだ。

真奈美はパソコンを開いてメールにログインし、千佳から送られてきた就職の書類に記入し始めた。

深夜2時、ようやく入力し終え、「保存」をクリックした。

水を飲もうと席を立った時、インターホンが鳴った。

真奈美がドアの覗き穴から外を確認すると、直樹がドアのすぐ外にもたれかかっていた。

上着は腕に乱雑に抱えられ、ネクタイはだらしなく解けている。見るも無惨な姿だ。

かなりの酒を飲んだのは間違いなかった。

そして、彼は再びインターホンを押した。

「真奈美、中にいるのは分かってる……」ろれつの回らない声が響く。「ドアを開けてくれ……話がしたいんだ……」

真奈美は動かなかった。

「真奈美、ごめん……」直樹の声は泣き出しそうに震えていた。「悪かった……本当に、知らなかったんだ……あの子のことは……」

声は次第に小さくなり、最後は抑え込まれたような嗚咽に変わった。

いつも毅然として、洗練されていた直樹が、今はドアの外で子供のように泣き崩れている。

真奈美はドアを背に、目を閉じた。

昔の彼女なら、必ず心揺れ、ドアを開けて許してあげただろう。

だが今は、そんな気持ちにはなれなかった。

負った傷が深すぎて、もう「許す」ということ自体ができないのだ。

彼女はテーブルの方へ歩き、電話を手に取る。「もしもし、玄関に酔っぱらいがいて困っています。警備の方を回してもらえませんか?」

通話を終えると、外からは直樹の苦しげな声が響いてきた。

「真奈美……どうして俺にそんな酷いことを……

間違っていたんだ……心からそう思っている……

もう一度チャンスをくれないか……たった一度だけでいいんだ……」

哀れな懇願がドア越しに聞こえるたび、鈍いナイフで胸を切り裂かれるようだった。

真奈美は耳を塞いだが、声は遮れない。

結婚当初、一度だけ絢香のことについて揉め、怒って実家に帰ろうとした夜のことを思い出す。

あの時も、彼は今と同じようにドアの前にうずくまり、なりふり構わず必死に引き留めたのだ。

「真奈美、俺が馬鹿だった。もう二度とあいつには会わないから、行かないでくれ」

彼女はその言葉を信じた。

それから1ヶ月もしないうちに、彼は絢香のために海外へ飛び、結婚記念日をすっぽかしたのだ。

廊下の方から、慌ただしい足音が近づいてきた。

警備員が上がってきたのだろう。

やがて、外は再び静かになった。

真奈美はソファに座り直したが、結局涙は止めどなく溢れ出た。

直樹のためではない。かつて純粋に愛を信じきっていた自分自身のために泣いたのだ。

そうか、誰かを諦めるというのは、愛が冷めるということじゃない。たとえ今もまだ好きだとしても、離れると自分に強いることだったのだ。

この場所にいれば、心が死んでいくだけなのだから。

彼女は涙を拭うと、立ち上がってパソコンの前に戻り、マウスを動かして「送信」をクリックした。

真奈美はモニターを見つめ、口元にやっと、心の底からの穏やかな笑みを浮かべることができた。

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