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煌めくルビーに魅せられて2

Author: 相沢蒼依
last update Last Updated: 2025-10-21 06:06:54

似たもの同士

すでに閉園しているテーマパークは、小学生のときに家族で来たことがあった。

「どれだったかな、んー……」

俺の隣でスーツのポケットに手を突っ込み、なにかを探す桜小路さんに話しかける。

「なにしてるんですか?」

すると両手に持っている鍵の束を俺に見せて、ニッコリほほ笑む。

「このたくさんついてる鍵の中から、門扉の鍵を探していてね。どれだと思う?」

ジャラジャラ音をたてて、たくさんの鍵を見せびらかす桜小路さんに、うんとイヤな顔をしてみせた。

「そんなの、わかるわけないじゃないですか」

「だよな。だから奥の手を使おうと思ってね」

桜小路さんは持っていた鍵の束をポケットに戻すと、最初に逢ったときに見せた、吸血鬼の姿に早変わりする。

「わっ……」

淡い月明かりに光り輝くシルバーの髪と、俺を見つめるルビー色の瞳がとても綺麗に目に映る。

「今夜は満月だろ、そのせいで血が騒いでしまってね。君にはこの姿を無理して隠さないで済むから、すごく楽だな」

言いながら俺の体を軽々と横抱きにし、数歩だけ後ずさった次の瞬間、助走をつけて高い門扉を飛び越えた。

「ひいぃっ!」

勢いよく門扉の上を飛び越えたのに、着地したときの衝撃はまったくなく、気づいたらテーマパーク内の地に両足がついていた。

「SAKURAパークに、ようこそお越しくださいました!」

桜小路さんは胸に手を当てて、俺に深くお辞儀をする。

「やっ、待ってください。勝手に入って、大丈夫なんですか?」

「安心しろ、俺はここの関係者だ。そこにあるベンチに座って、待っていてくれ。すぐに戻る」

ひょいと肩を竦めて、颯爽と目の前から消えていく後ろ姿は、暗闇の中に溶けていなくなってしまった。

しんと静まり返るテーマパーク。あまりに静かすぎて、幽霊が出てきてもおかしくない。だって――。

「俺ってば、吸血鬼に連れ去られたようなものだし」

ベンチに座る余裕もなく、その場に立ち尽くしていると、バンッという大きな音と同時に、テーマパーク内の明かりがいきなり点灯した。

「うっ、眩しぃ」

暗闇に目が慣れていたせいで、アトラクションを照らす煌びやかなライトが、ものすごく目に突き刺さる。

「お待たせ。なんだ、渋い顔をしてるな」

「ライトが眩しいんです」

「だったら眩しいのを忘れるくらいに、夜遊びするがいい」

桜小路さんは俺の利き手を掴んで、どこかに引っ張って歩く。

「瑞稀は、ここに来たことはあるのか?」

「小学生のとき、何回か」

「君が小学生のときということは、そこから何度かリニューアルしているからね。楽しめると思う」

そう言って桜小路さんが連れて来たところは、コーヒカップの乗り物だった。

「これ、あまり得意じゃないんだけど」

「ワガママを言う前に乗ってごらん。俺が楽しませてあげよう」

コーヒカップの中に、無理やり体を押し込まれた。仕方なく腰かけると、桜小路さんは向かい側に座り、目の前にあるハンドルをこれでもかとぐるぐる回す。

「うわっ、まっ待って! 目が回る!!」

「遠くを見るから目が回るんだ。俺の顔を見ててごらん」

「それでもっ、実際すごく回ってっ、気持ち悪っ!」

「なるほど。栄養失調の体には、無理がかかるということか。では、ゆっくり回すとしよう」

桜小路さんのセリフどおりに、ものすご〜く静かに、コーヒカップが動きはじめた。

「ありがと、ございます。これならなんとか、大丈夫です」

「どういたしまして。ほかに苦手なアトラクションはあるのか?」

吸血鬼の姿をしている桜小路さんは、長い足を格好よく組んで俺を見据える。コーヒカップの中だというのに、カッコイイ彼がそこにいるだけで、おとぎ話の世界観が目の前に広がっていた。

(苦手なアトラクションを訊ねられたものの、なんと答えてよいのやら)

「小学生のとき以来、テーマパークに来たことがないので、今現在苦手なものがわからないです」

「だったら苦手を探す旅に出ようか。おいで」

柔らかくほほ笑んだ桜小路さんは、俺に手を差し伸べた。さっきの衝撃で足下がおぼつかない可能性があるので、遠慮なく捕まらせてもらう。

「メリーゴーランドに乗ったかわいい瑞稀を見てみたいが、年齢的にかわいそうだからやめてあげよう」

「アハハ……そうしていただけると助かります」

その後、桜小路さんの案内に伴われ、たくさんのアトラクションに挑んだ。安全面の関係で、たったひとりで乗るものが多かったけれど、絶叫系は意外と楽しかった。

激しく動き回るジェットコースターが一周終えたので、降りる気持ちでいたのに、なぜかスピードダウンせずに二週目に突入したときは「嘘だろ!」なんて、大きな声が出てしまった。

それを見た桜小路さんは、乗降口でお腹を抱えて大笑いする。それを横目で確認できたのも一瞬で、あっという間にぐるぐる回るレールの中に、勢いよく突入したんだ。

「瑞稀の顔、ものすごく驚いていたね。そんなに意外だったのかい?」

「普通は一周したら終わりなのに、あのまま二周目にいくとか、ありえないじゃないですか!」

今俺たちが乗っているのは、SAKURAパークの中で一番大きなアトラクションの観覧車だった。丸っこい桜の花びらの形をした、たくさんのゴンドラが回っている様子は、遠目に見ても綺麗だった。

「俺は久しぶりに笑わせてもらった。またあの顔を見せてほしいな」

「嫌ですよ、まったく」

「瑞稀は楽しめただろうか?」

先ほどとは違う低い声の問いかけにハッとして、自然と背筋が伸びた。

「あっ、そうですね。小学生のときとは、また違った感じで楽しめました」

家族で楽しんだときと今では、やはり楽しむ種類が違う気がする。しかもこうしてお世話になったんだから、ちゃんとお礼を言わなければならない。

「桜小路さん、ありがとうございました。貧乏学生がこんな贅沢していいのかって最初思っていたけど、それを忘れて楽しめちゃいました」

「貧乏学生の理由、聞いてもいいだろうか?」

小首を少しだけ傾げた桜小路さんのシルバーの髪が、しなやかに揺れる。

「高学年のとき、父さんが交通事故で亡くなったんです。そこから母さんは俺を育てるのに、朝から晩まで働いていました。その苦労を知ってるので、なるべく自腹で生活しなきゃって、バイトをかけ持ちしながら、大学に通ってます」

桜小路さんは暗い内容の話を、瞼を伏せて聞き入る。そして形のいい唇がゆっくり動いた。

「俺もね、家族を亡くしてる。俺が吸血鬼になったのが原因で、母親が心臓を悪くしてね」

耳に染み入るような低い声だからか、妙に心に響いてしまった。同じように大事な家族を亡くしている彼に、無条件に同情してしまう。

「一族の中から、必ず吸血鬼になる者が生まれる。ある日突然、狂おしいほどに血が欲しくなることで、自分が吸血鬼になったのを悟るんだ」

桜小路さんはゴンドラの窓から見える月を、ぼんやりと眺めた。

(どこか寂しげな横顔は、彼が吸血鬼になった身の上を不運に思ってるせいなのかな)

「じゃあほかにも、吸血鬼として生きてる人がいるんですね」

「ああ。お互い、それを隠して生きているからね。親戚同士でも、さっぱりわからない。それに実際、誰が吸血鬼なのか知ったところで興味はないな。瑞稀だって、ほかの貧乏学生のことを知りたい?」

「確かに、知りたいとは思いません」

「吸血鬼になって、いろんな人間の血を吸わないと生きてはいけない不便な体をもってしまったことは、とても不幸だとはじめは考えた。だがそれでも楽しまなければって、考えを改めたんだ」

「た、楽しむ?」

逆境を逆境と思わない考えに、ド肝を抜いた。

相変わらず桜小路さんは外の景色を眺めたままだったが、さっきよりも穏やかな雰囲気が漂っていて、嬉しそうに口角があがってるのが目に留まる。

「だってね、吸血鬼は不幸な体質と思い込むだけで、損した気分になるじゃないか。逆にプラスになることを見つけるほうが、絶対に楽しい」

「桜小路さんの立場になったら、俺はきっとすごく落ち込んでしまうと思います。誰かの血を啜って生き長らえることを、恨んでしまうかもしれません」

桜小路さんは窓に差し込む月明かりに、右手を伸ばした。当然それは掴めないハズなのに、なぜだか手中におさめたように感じたのは、ルビー色の眼差しから彼の自信が溢れているように見えたから。

「俺も君も、所詮は同じ人間。人生は一度きりだろう?」

わかりやすい問いかけに静かに頷くと、凛とした声がゴンドラ内に響く。

「つらいことばかりフォーカスしていたら、せっかくの人生が暗いことばかりになってしまう。自分が死ぬ間際に『ああ楽しかったな』と、思える人生にしたくてね」

桜小路さんの言葉を聞いて、今までのことを振り返った。楽しかったと口にできることがなさすぎて、気持ちがどんよりしてしまう。

「瑞稀、学生生活は今しかない。社会人になったら、できないことがたくさんあるんだよ」

窓の外を見ていた桜小路さんは、ゆっくり首を動かして俺の顔を見つめる。そして月明かりを掴んだ手で、俺の左手を握りしめた。

「お金がなくても、楽しめるしあわせがそこにある。小さなことからでいいんだ。それを探しながら、学生生活を送ってみるのはどうだろうか」

ルビー色の瞳が、宝石のような煌めきを放つ。桜小路さんが心を込めて告げたセリフに、綺麗な色をつけたみたいだった。

「わかりました。なんだが宝探しするみたいで、ワクワクしちゃいます」

「やっと笑ってくれたね。その笑顔が見たかっ――」

目の前でルビー色の瞳を大きく見開き、胸元を強く握りしめ、肩を上下させて荒い呼吸を何度も繰り返す。

「桜小路さん、どうしたんですか? 具合が悪くなったとか?」

傍に近寄ろうとしたら、顔の前に手を伸ばされた。

「ダメだ、今は来ちゃいけない。ただの吸血衝動だ。我慢すれば、すぐにおさまる」

「でも……」

「せっかく瑞稀の、え、笑顔が見れたの、に。なんでこんなタ、イミングでっ! くうっ!」

椅子にうつ伏せになり、両目をキツく閉じて苦しそうに体を震わせる桜小路さんの姿を目の当たりにして、迷うことはなかった。

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