로그인「はぁ……はぁ……。嘘でしょ……? アンタ、なんなの? こんなの聞いてないんだけど」
その場の有様は、もはや混沌のひと言に尽きた。 貴族はエレンに意識を刈り取られたまま地に伸び、先に捕らえられていた女の周囲には、建物の壁や石畳に浅く深く傷が走っている。逃れようと暴れた痕跡が、そこかしこに刻まれていた。 「実力差くらいは、もう理解できただろう? お前が何度仕掛けてこようと、私には通じない」 「……はぁ。やるしかないかぁ」 女の姿が、するりと影の中へ沈む。輪郭が夜気に溶けていく、その消え方だけは妙に滑らかだった。 「……またくだらない手を」 「ひっどぉーい。アンタ、ちょっと冷たすぎるんじゃない〜? 人がせっかく考えた手を、ことごとく無駄にしてくれちゃってさ」 「お前の実力不足だろう」 「ほんと、腹立つ。アタシってこう見えて、組織の中じゃ真ん中くらいには強いのよ?」 (組織……か。何らかの目的を持ってここに来たとは思っていたが――狙いからして、この貴族か?) エレンの視線は揺れない。女がこれまで放ってきた攻撃の数、その角度、その悉くが、答えを先に吐いていた。 どうにかしてエレンの意識を逸らそうとする手ばかりが目立った。それでいて、肝心の没落貴族は依然としてエレンの足下で無様に伸びきったままだ。 「お前の狙いは、この貴族だろう? お前のような狂犬が、貴族を巻き込まぬよう攻撃の筋を選んでいたこと。さらには、どうにかして私の気をこいつから引き剥がそうとしていたこと――その程度、見えている」 「……参ったわねぇ。めんどくさいったら、ありゃしないじゃない」 声は軽い。だが、その軽さの下で空気がひどく乾いていた。 「でも、アタシも引き下がれないの。じゃないと消されちゃうし。だから――」 影の奥から、女の声だけが細く伸びる。 「大人しく、その足手まといを渡してくれないかしら?」 「断る。こいつは何らかの手段で、魔物を呼び寄せる術を持っている。野放しにはできん」 「そう……なら、しょうがない。そいつは諦めるわぁ」 (……嘘だな。気配がその場から動いていない。かと言って、影属性相手にこの男から離れたら、恐らく逃げるだろう) 女の言葉は軽かったが、実力そのものは本物だった。エレンの斬撃をどうにかいなし、その隙間でなお反撃を差し込むだけの余裕がある。少なくとも、口先だけの刺客ではない。 そんな相手を前に、一か八かで貴族を放置して捕縛へ踏み込めば、するりと逃げられる危険もある。ゆえにエレンは動かない。いや、動けないまま、動かずに詰ませる位置へと立ち続けていた。 だが今、月明かりは雲に呑まれている。夜の輪郭がいくらか鈍り、この場に新たな影を増やす余地は乏しい。少なくとも、女が盤面をひっくり返すには足りないはずだった。 「な〜んちゃって!!」 次の瞬間、女の姿がエレンの頭上に落ちてくる。影から滑り出た黒髪が夜気を裂き、短剣の刃が一直線に閃いた。 だがエレンは一歩も退かない。足下の貴族をそのまま盾に使い、落下してきた刃筋の正面へ差し出した。 「はぁ!?」 女の金の瞳が大きく見開かれる。振り下ろしかけた短剣が、寸前で止まった。 「さて、これで終わりだな」 言うが早いか、エレンの手が伸びる。止まった腕を掴み、その勢いごと地へ叩きつけた。 鈍い音が石畳に走った。女の背が跳ね、黒髪が散る。 「あ゙あ゙っ゛……!」 『エ、エレン。どう??』 『……ふむ。確かに手応えはあるが……少々期待はずれだな。こいつの手の内は、手に取るようにわかった』 『でも、それってあなたと彼女の相性が最悪だからじゃない? 気配を読むことに長けているあなたの前に、そういう能力に特化した彼女が現れるなんて、少し同情するかも……』 返事の代わりに、エレンは視線だけを横へ流した。 「さて、魔物は……」 目を細めた先、通りの向こうには大きく焼け焦げた痕が見える。あちこちで冒険者たちがせわしなく動き回り、怒号と足音がまだ夜に散っていた。だが、その慌ただしさには崩壊の色ではなく、収束へ向かう気配が混じっている。 (どうにか向こうも、ある程度は片付いたようだ) 「いっ……たたた……」 地に伏せたまま、女がかすれた声を漏らす。 「おい。私は急いで仲間の元へ戻らねばならない。これ以上、お前のくだらない遊びに付き合うほど暇ではないのでな」 「ほんと、ひどい言いようねぇ。でも……まさかアタシがこんなに遊ばれるなんて……ショックよ」 「傷心は構わないが、さっさと吐け。お前たちは何をしにここへ来た?」 「同じ乙女でしょ? 優しくしてくれたら……教えてあげる」 「この状況で、その減らず口。私のことを舐めているな? 叩き直してやろう」 「こっわ……。それにアンタ、さっきそこの足手まといを盾にしたわよね。それで刺さったら、どうしてたのよ」 「……案ずるな。私の仲間に、治癒を施せる者がいてな。多少のことなら、どうとでもなる」 「…………」 女の口から、軽口が落ちた。 「……“多少”って、言ったぁ?」 「言葉通りの意味だが」 「…………」 返事は、すぐには戻ってこなかった。 金の瞳が、ほんのわずかに細まる。エレンの横顔を、値踏みでも品定めでもなく――見知らぬ獣の距離を測るような目で、黙って見ていた。 「アンタ……」 続く言葉は、途中で呑まれた。 「合理的ってわけね……」 その直後だった。 地に押さえつけられたまま、女が片腕をポケットへ滑り込ませる。次いで、何か小さなものを夜空へ弾いた。 「……! ちぃ!!」 反応は早かった。エレンは即座に柄を返し、女の後頭部を打ち抜いて意識を刈り取ろうとする。だが、その寸前――。 上空で、何かが炸裂した。 ──閃光。 白く焼けたような眩さが、辺り一面を容赦なく呑み込む。輪郭が消える。石畳も壁も、伏せた女も、視界の中でひと息に潰えた。 (閃光弾……! 逃がさん……!) エレンは反射のまま身を引き、足下の貴族を掴んで地面から引き剥がした。逃げるなら追う。そう動きかけた、その時だった。 「ちっ……!! ほんと、とことん私の邪魔してくれちゃって」 白に塗れた視界のどこかから、舌打ち混じりの声が飛ぶ。 「もういいわ。こんなの、割に合わない」 軽い口調のまま、その奥だけが冷えていた。 「アタシのプライドが許せないけど、アンタをこれ以上相手にしたら、アタシが捕まりそうだし。もう、そいつもいらない」 直後、エレンの手の中にある貴族へ、ぞっとするような感触が走った。 「……っ!! まさか……!」 咄嗟に背へ手を回す。布越しに触れたのは、深く沈んだ刃の柄。 いつの間にか、貴族の背には刃物が深々と突き立てられている。 (くそ……! やられた……!) 視界を奪われた一瞬。その薄い隙間だけを、女は仕事に使ったのだ。 「サクリファイス! 撤退するわよ! …アンタのことは上に報告しておくから。まったく、散々よ」 落ちたはずのサクリファイスが上空を飛び去る。 そして、その言葉を最後に、謎の女の気配は遠のいていった。 『すまない、エレナ。こいつの治癒を頼む。私としたことが……こんな形で、むざむざとやられるとは』 『わ、わかった!』 黒衣の輪郭がほどけるように揺らぎ、銀糸の髪が月明かりの下で淡い金へ戻っていく。深紅の瞳から鋭さが引き、代わりに澄んだ碧が夜の白さを受け止めた。 エレンとエレナの意識が、そこで入れ替わる。 「っ……」 エレナは膝をつき、貴族の背に刺さった刃と、その周囲に広がる血の色を見下ろした。 (傷が深い……。それに深いだけじゃなくて、刺さったあとに、さらに影で内臓まで貫いてる……!) 両手を傷口へかざす。 金色の光が、夜の底で静かに花開いた。柔らかな輝きが裂けた肉を包み、影の残滓を押し返すように、傷の奥へと染み込んでいく。 (大丈夫……。まだ救える……!) エレナは息を詰めたまま、治癒を施し続けた。 雲の切れ間から戻った月明かりが、白い聖衣の肩を薄く照らす。その横顔を伝って、一筋の汗が静かに落ちていった。────エレナの視点──── 石造りの螺旋階段を、私たちは息を切らしながら駆け上がっていた。 ごつごつとした壁が、手に持つ灯りの光を不気味に反射している。下層から響いていた激しい戦闘音は、もう聞こえない。石段を踏みしめる足音と、荒い息遣いだけが、神殿の静寂を破っていた。 「グレンさん、大丈夫ですかね……!?」 ミストさんの不安そうな声が、静寂に包まれた階段に響いた。その声には、仲間への深い心配が込められている。 「……きっと、大丈夫!」 何の確証もない。けれど、私の胸の奥で、温かい光のようなものが「大丈夫だ」と囁いていた。それは昔から私の中に宿る、聖女としての直感のようなもの。 「私の直感が、そう告げてるの!」 「えぇ!? そ、そんな直感が……!?」 ミストさんが驚きの声を上げる。 (私も原理は分からんが……エレナには、その力が間違いなく備わっている。運命そのものを、その祈りの力で強引にねじ曲げてしまうような、不思議な力がな。だから、今回もきっと大丈夫だ) エレンの声が、私の内側で静かに響いた。 (うん……!) 彼の言葉が、私の直感を後押ししてくれる。 「それなら良いが……慢心はするなよ」 シイナさんが、冷静に釘を刺した。 「未来が見えるからと、それに胡坐をかいて行動するようでは、今の暗明の聖女と何も変わらないからな」 「……うん、そうだね。私は、この直感を絶対に正しいなんて、傲慢なことは思わないよ」 私にできるのは、この直感を信じつつ、でも決して過信しないこと。神様のお導きを感じながらも、自分の足で歩むこと。 「そこが、エレナさんの素敵なところですね」 シオンさんが、静かに微笑んだ。 その時、長く続いた階段が終わり、私たちの目の前に、だだっ広い広間が見えてきた。天井は高く、月光が差し込む窓から、青白い光が石床を照らしている。 「きっと、ここにも残りの騎士が待ち構えていることだろう」 「その時は、私が残ります」 シオンさんの言葉に、ミストさんが待ったをかける。 「いやいやいや! そこは私でしょうー!!」 「……?」 シオンさんが、心底不思議そうに首を傾げた。 「そのお顔はなんですかァァ!?」 「いえ……だってあなたは、戦いがあまり得意な方ではないでしょ
**────エレナの視点────** 「じゃあ皆、各々準備してくれ。五分後にはここを出て、リディアさんを助けに行くぞ」 シイナさんの力強い言葉に、私たちは一斉に頷いた。この小さな家の中に、静かだが確固たる決意が満ちている。みんなの表情に迷いはない。先ほどまでの混乱が嘘のように、今は一つの目標に向かって心が結束していた。 五分という短い時間の中で、私たちはそれぞれの装備を確認し、心の準備を整える。月光が窓から差し込み、武器の金属部分を青白く照らしていた。この静寂が、嵐の前の静けさのように感じられてならない。 「準備はいいか? 今回、ジンが大方の騎士は無力化してくれたという話だ。恐らく…すぐに四騎士との戦闘になるだろう」 シイナさんの声に緊張が走る。四騎士——この国の最強戦力との戦いが待っているのだ。 「ここの騎士たちの数は多かったからね。でも、気を付けて」 ジンさんが軽やかに言葉を続ける。 「流石に全部を倒すわけにもいかなかったから、十人程度は残ってるはずだから」 「それでも、そんなに多くの騎士を戦闘不能にするなんて……」 私は驚きを隠せなかった。一人でそれほどの騎士を相手にするなんて、どれほどの実力者なのだろう。 「はは、聖女様に褒めてもらえるなんて。なんだか嬉しいよ」 ジンさんの表情に、子供のような無邪気さが浮かんでいる。しかし、その奥に潜む何かが、私の心に小さな不安を芽生えさせた。 「ね、念の為に聞くのですが……殺しはしてないですよね……?」 恐る恐る尋ねた私の質問に、ジンさんの表情がふっと変わった。まるで別人のような、冷たい光が瞳に宿る。 「……剣を抜いた以上、お互いの命が尽きるまで刀を振り合うべきだと僕は思っているんだ」 その一言に、背筋が凍りつくような恐怖を感じた。ジンさんの声音には、戦いへの狂気じみた情熱が込められている。私の心臓が、ドクドクと激しく鼓動を刻んでいた。 「でも……今回は大丈夫。殺してないよ」 そう言って見せる笑顔は、まるで何事もなかったかのように穏やかだった。しかし、その急激な変化が、かえって不気味さを増している。 (今回は……? ということは、普段は……?) 心の奥で、暗い想像が渦巻いていた。 * * * 五分後。静寂を破って、私たちは行動を開始した
**────エレナの視点────**「という訳なんだ」ジンさんの軽やかな口調で語られた残酷な現実に、私の心は氷のように凍りついてしまった。リディアさんが捕らえられて、処刑される。その事実が、どうしても受け入れることができなかった。「そ、そんな……嘘ですよね??」私の声が震えている。まるで悪夢から覚めたいと願うかのように、その言葉にすがりついた。「……こんな時に嘘なんてつかないよ」ジンさんの飄々とした口調が、現実の重さをより一層際立たせる。「……くっ!!!」シイナさんが拳を強く握りしめ、歯を食いしばっている。その青白い顔に、激しい怒りと悲しみが刻まれていた。「皆は先にこの国を脱出してくれ……!俺は……俺はリディアさんを助けに行く!!」シイナさんが勢いよく立ち上がり、扉に向かって歩き出そうとする。その瞳に宿る決意の炎は、誰にも止められないほど激しく燃えていた。「待てよ!!そんなの俺たちだって同じ気持ちだ!」グレンさんが力強く立ち上がる。彼の声には、シイナさんに負けないほどの強い意志が込められていた。「ええ……彼女には計り知れないほど多大な恩があります。なので……グレンと私でリディアさんを救出に向かいます」シオンさんの顔に、鋼のような決意が浮かんでいる。「シイナ、あなたこそエレナさんやミストさんと共に先に脱出してください」「だめだ!今回はパーティリーダーの責任として、俺が行く!」「シイナ!」「俺が、彼女を助けてすぐに戻ればいいことだろう!」「おいシイナ!俺がやられたテッセンとかいうやつの事を忘れたわけじゃないだろ!?少し落ち着け!」三人の激しい言い争いが、小さな家の中に響き渡る。誰も一歩も引かない様子で、感情のままに言葉をぶつけ合っていた。「あわわわわ……みなさん!こんな時に言い争ってる場合じゃないですって!」ミストさんが慌てて三人の間に割り込もうとするが、激しい感情の渦に巻き込まれ、弾き飛ばされてしまう。「ぎゃー!!」(みんな……冷静さがすっかり抜けて、これじゃあ救える命だって救えないよ……!)(それに……私だってリディアさんを助けたいのに……)私の心の中で、やりきれない想いが渦巻いている。みんなの気持ちは痛いほど分かるけれど、このままでは誰も救えない。そう考えていた、まさにその瞬間だった。私の意識が、まるで深い
**────ジンのの視点────** やる気か、と。僕は心の中で、小さく呟いた。 ここは冒険者ギルド。依頼と情報が交差する、いわば中立の聖域だ。そんな場所で騎士が刀を抜き、殺し合いを演じようというのだから、面白い。実に、面白い。 僕は向かってきた騎士の剣戟をいなすどころか、その勢いを逆に利用して体ごと弾き飛ばした。空中で無様に体勢を崩した彼の喉笛へ、僕は逆手に持ち替えた刃を、まるで吸い込まれるかのように滑らせる。「がぁっ……!」 声にならない呻きを漏らし、騎士が床に崩れ落ちた。口からごぼりと泡を吹き、痙攣する手足が、彼の命が尽きかけていることを示している。 仲間の一人が一瞬で無力化されたというのに、残された騎士たちは状況が飲み込めていないらしい。驚愕に見開かれた目が、滑稽なほどにこちらを向いていた。「き、貴様っ! 正気か!?」「あはは、面白いことを言うね、君。先にその物騒な鉄の獲物を抜いたのは、そっちじゃないか」「そ、それにしてもだ! 我々騎士に刃向かうなど、あってはならないことだぞ!?」「残念だけど、僕はそんな立派な冒険者様じゃない。僕はジン。世界を渡り歩く、ただの傭兵だからね」「ジン……!?」 その名に、騎士の一人が息を呑んだ。どうやら僕の名も、多少は裏の世界に知れ渡っているらしい。「くそっ……! やられて黙っていては、騎士の名が廃る! こいつも捕縛しろ!」 別の騎士が、その手に蒼い水の魔力を纏わせながら、僕へと突進してくる。ギルドの中で属性魔法を放つ? ああ、本当に、愚かだな。「はぁ……後悔しても、知らないよ」 僕は腰に差した愛刀「雪月花」の鯉口を切ると、一閃、抜き放った。 (鳴神式抜刀術――神威の型。) 空気を切り裂く音だけが響き、騎士の右腕が、ごとり、と鈍い音を立てて石床に転がった。「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!!! お、俺の腕がァァァァッ!!」 やかましいね。腕の一本や二本、飛んだくらいで喚くなんて。自分から仕掛けておきながら、いざ返り討ちに遭えば獣のように吠え立てる。弱者の典型だ。「お、お前……! 自分が何をしたか、分かっているのか!?」「さっきも言ったはずだよ。先に始めたのは、そっちだってね」 僕は刀身に付いた血を振るい、ゆらり、と笑みを浮かべた。「まだまだ足りないな。……もっと、殺り合おうよ」 ああ、い
(この声に気配……覚えがある)エレンの意識が、私の奥底で警戒の炎を燃やし始める。(私もそう感じてた……なんだか、すごく(身に覚えがあるような……)(確か、夜の街で我々を襲撃してきた傭兵……名は確かジン……と言ったか)その名前を耳にした瞬間、あの記憶が、鮮血のように鮮やかに脳裏へと蘇ってきた。霊たちが彷徨う夜の街で、昼間の平穏な探索が一変した瞬間。突如として現れた謎の傭兵——。その圧倒的な実力は私には理解の範疇を超えていたけれど、エレン曰く、これまで戦った敵の中でも別格の強さを誇っていた……と。(そ、その人がなんでこんな場所に!? まさか、私たちを追ってきたの!?)(さあな。だが……敵意は微塵も感じられない。それに何か重要な情報を知っているようだ)(ここは一か八か、直接対峙してみるのも選択肢の一つだろう)「エレンが敵意は感じないから……出てみるのも一つの手だって……」私はシイナさんに、内心の不安を隠しながらそう告げる。「敵意を感じない……か。グレンもミストも意識を取り戻したことだし、直接話してみるか?」シイナさんの声に、慎重な判断力が込められている。(ああ、そうしてみてくれ)「そうして見てほしいって……」エレンの助言をそう伝えると、シイナさんが深く頷き、警戒を込めて扉の前へと歩を進めた。「何用だ」シイナさんの声が、扉越しに響く。「あれ、やっぱりいるんじゃないですかー」その飄々とした口調に、底知れない余裕が滲んでいる。「やあ、僕はジン。リディアっていう方からの重要な伝言があるんだけど、扉を開けてもらえないかな?」「残念だが、こちらにも複雑な事情があってな。このままでお願いしたい」シイナさんの慎重な対応に、扉の向こうから軽やかな笑い声が響く。「……あーそっか、いまこの国から追われてるんだっけ。それなら心配しなくていいよ」「大体の騎士は僕が片付けたから」「な、何だと!?」シイナさんの声が、驚愕に震える。「えっ!??」私も思わず声を上げてしまった。「ま、待て! この国の騎士一人一人は精鋭と言っても過言ではないほどに優秀だ。それをお前は単身で制圧したというのか?」「はは。まぁ確かにこの国の騎士はよく鍛錬されていたね。でも、僕も実力には自信があるんだ」その軽やかな口調で語られる内容の恐ろしさに、私たちは言葉を失った
**────エレナの視点────**次の日。「みなさん!!!!本当にご迷惑をおかけしました!!!」「本当に面目ねぇ……!!!今回迷惑かけた分は、必ず挽回するぜ!」二人が目を覚ましたんだ。あんなに傷だらけで、ずっと目を覚まさなかったグレンさんも元気になって、本当に良かったと思う……。でも……。聞かないといけない。二人に、何があったのか。「それより……二人に何があったんですか?なんで……グレンさんはあんなに傷だらけだったんですか……?」私がそう尋ねると、グレンさんが急に口を噤んでしまう。数秒の重い沈黙が部屋を支配すると、やがて言いにくそうにグレンさんが口を開き始めた。「お前たちが情報収集に行った数時間後、とんでもなく強い奴が現れたんだ」「とんでもなく強い奴?」シイナさんの声に、緊張が走る。「ああ。全身に見たこともない鎧を着て、刀を使っていた」(見たこともない鎧に刀……か)エレンの声が、意識の奥で静かに響く。「そいつは……全く俺の攻撃が通じなかった」「なに!?グレン、お前の攻撃がか!?」シイナさんは心底驚いたような様子を見せる。グレンさんの実力を知っている彼だからこその驚きだった。(…………)エレンが沈黙している。何かを考えているみたいだ。「ああ、正直全く底が見えなかったぜ。戦ってる感触としては……エレンに近かったかもな」「エレンに……?」私の声が震える。エレンと同じくらい強いなんて……。「それは……かなり厄介そうですね」シオンさんの美しい顔に、珍しく深刻な表情が浮かんでいる。「厄介なんてもんじゃねぇよ。あいつは俺の攻撃を全部受け止めやがった」グレンさんは、私たちのパーティ内でも屈指の攻撃力を持つ