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滅びゆく世界で⑨

last update Last Updated: 2025-02-22 17:00:41

あの事件から一ヶ月。

僕とアカリはある計画を進める為、瓦礫と化した街を歩いていた。

魔法には無限の可能性がある。

科学では辿り着けない未知の事象まで起こせてしまう。

それに気付いた僕はある一つの仮説を思いつく。

”時を戻す魔法”

普通に考えれば、何を馬鹿なことをと言われるだろうが僕には魔法という未知の力がある。

アレンさんからも言われていたが、僕には才能があるとのことだ。

もしかすると時を戻すことも出来るのではないか……そう考えてしまった。

アカリは、貴方のしたい事を止めるようなことはしない、と言ってくれた。

だから僕達はアレンさん達と合流することを後に回し、目的の場所へと向かっている。

「ここからは絶対に私から離れないで」

目的地となる場所。

それは終わりの始まり、異世界ゲートのある研究所だ。

もちろん周りには魔族や魔物が蔓延っている。

簡単にいけるとは思わないが、アカリいわく一瞬近づくだけならなんとかなるとのこと。

魔族達に見つからないよう腰を落とし少しずつ異世界ゲートへと近付いて行く。

奇跡的に異世界ゲートが見えるところまで見つからず近づくことができた。

「カナタ、最後にもう一度だけ確認しておく」

アカリがいつもより真剣な表情で僕を見つめる。

「チャンスは一度だけ。異世界ゲートの側まで一瞬で近寄り私が結界を発動する。自慢じゃないけど私の結界だともって十秒。その時間で貴方は異世界ゲートに送り込んでいる魔神の魔力を使って魔法を発動」

「ああ、失敗は許されない。」

「正直……危険すぎる。時間に干渉するのは神の所業。人の身でその魔法は何が起こるか分からない。本当にいいの?」

「構わない。元の世界に戻せるのなら僕の命なんてどうなってもいい」

「そう……」

一瞬悲しそうな顔を見せるがすぐにいつもの無表情に戻るアカリ。

「ここまで協力してくれてありがとう。僕に何かあったら姉さんをよろ
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