LOGIN二宮夏美(にのみや なつみ)と藤原祐介(ふじわら ゆうすけ)は幼馴染で、そして二人はそのまま大人になって結婚した。 夏美は18歳の時、両親が交通事故に遭った。そのせいで父親は亡くなり、母親の二宮香織(にのみや かおり)は植物状態になったのだった。その時祐介は悲しみに暮れる彼女を抱きしめ、自分のキャッシュカードを差し出した。 「夏美、これは俺の有り金だ。全部おばさんの治療費に使ってくれ」 それから、夏美が22歳で大学を卒業すると、祐介はすぐにプロポーズした。彼は家族から勘当されるほどの覚悟で、ようやく彼女を妻に迎えたのだ。 23歳の時、祐介は夏美のために豪華な結婚式を挙げたのだった。その時のドレスには9999個ものダイヤで二人の名前が刺繍され、靴は有名デザイナーによる特注品で、値段は計り知れないほど高価なものだった。そして、ベールに至っては、彼自身が手縫いしたものを使ったのだ。 さらに、26歳の時、夏美が胃がんを患うと、祐介は全国の名医を訪ね歩き、あらゆる神社でひたすら彼女の回復を祈り続けた。その甲斐あって、夏美は健康を取り戻した。 だから、後になって祐介が子どものできにくい体質だと知った時、夏美は何度でも体外受精に挑むことを受け入れたのだ。 その数、実に99回。彼女のお腹は注射の痕で埋め尽くされ、家に溜まった注射針は床を覆うほどの数だった。 それでも、彼女は文句一つ言わなかった。 そして32歳になった今、まる6年もの歳月をかけて、ようやく夏美は祐介との子どもを授かったのだ。 しかし、喜びいっぱいで母子手帳を受け取りに役所に行った時、職員は、夏美にこう告げたのだ。 彼女は戸籍謄本上では未婚となっているのだった。 そして、彼女が言う夫である祐介の妻は、藤原梨花(ふじわら りか)という女性だそうだ。 それは、かつて祐介が「従妹」だと紹介していた女性だった。 そして、子どものできにくい体質の話もまた、すべてが嘘だったのだ……
View Moreその話を聞いて、夏美は腑に落ちなかった。祐介とは長年一緒にいたけれど、仕事を手伝ったことは一度もなかった。それでも、祐介が経済犯罪を何よりも嫌っていることは知っていた。そんな汚い手を使うような人じゃない。でも……もし、彼が死に場所を探していたとしたら、話は違ってくる。その後、夏美は祐介が勾留されている拘置所へと向かった。窓ガラス一枚を隔てて、祐介がこちらへ歩いてくるのが見えた。彼は少しやつれているように見えた。受話器を取ると、夏美はすぐに問いかけた。「祐介、わざと捕まったんでしょ?」目の前の祐介は、何の反応も示さなかった。それどころか、彼女の質問に答える気もないようだった。「祐介、どうしてなの?」祐介ほどの力があれば、たとえ彼女の両親の不正を暴いたとしても、せいぜい株価が下がるくらいのはずだった。経済犯罪で捕まるなんて、ありえない。それなのに……だが、祐介が何も答えないのを見て、夏美も受話器を置き、それ以上何も言えなかった。3日後、I国行きの飛行機の中で、彼女は警察から連絡を受けた。祐介が、護送中のパトカーの中で頭を打ちつけて自殺した、という内容だった。死ぬ間際に、夏美へ手紙を渡すよう警察に頼んでいたらしい。送られてきた写真には、祐介の手紙が写っていた。【夏美、今でもこう呼んでいいのかな。俺のこの短い32年の人生で、君に出会えたことは最高の幸運だった。こうなってしまったのは、全て俺たちの問題だ。本当に、ごめん。言いたいことは山ほどあるのに、いざペンを握ると何から書けばいいのか分からない。昔のこと、本当にすまなかった。子どもも、君のことも守れなかった、俺のせいだ。だから人生の最後に、君の心のつかえを取り除いてあげたかったんだ。少しでも、君の助けになればいいと思ったんだ。もし来世があるなら、どうか、俺みたいな男には二度と出会わないでくれ】……手紙を最後まで読むと、夏美は何も言わずに、その写真を黙って削除した。だって世界はこんなにも輝いているんだもの。自分も、前へ進まないと。
このメッセージを見て、夏美は祐介が前に送ってきたメッセージの意味が、ようやく分かった。彼は、自分の両親のために正義を証明しようとしていたんだ。でも、そんなことをしたら、藤原グループ全体が法の裁きを受けることになるだろう。案の定、数日も経たないうちに、世間の関心が高まるにつれ、藤原グループの株価は急落。祐介もマスコミの前に立たされることになった。「藤原社長、ネットで噂されている14年前の交通事故は、本当に藤原グループと関係があるんですか?」「藤原グループの成功は、誰かの犠牲の上に成り立っていたというのは事実でしょうか?」「藤原社長、今回の件について、ご意見をお聞かせください!」……たくさんのマイクが祐介の前に突きつけられたけど、彼は何も答えなかった。ネット上では、様々な憶測が飛び交っていた。【これって、藤原グループのライバル会社の仕業じゃない?ビジネスの世界じゃよくある手でしょ?】【もしこれが本当なら、14年も前の事故を掘り返すなんて、すごい執念だね。でも、14年も経って物証とか残ってるのかな?】【この事故で亡くなった人の家族が、復讐に来たのかもね】【同意。これは単なるビジネス上の争いじゃなくて、計画的に練られた復讐劇だと思う】……夏美はコメントを一つ一つスクロールしながら見ていた。でも、実際のところ自分が何を知りたいのか、それすらも分からなくなっていた。ただ心臓が激しく鼓動し、指は無意識にスマホの画面を滑っていた。あの交通事故のことを思い出すと、まるで昨日のことのようだった。あの日、両親は大きな商談があるんだと、嬉しそうに話していた。でも、日が暮れても、彼女の両親が帰ってくることはなかった。代わりに掛かってきたのは、警察からの電話だった。今でも覚えている。あの電話を受けた時、体中の震えが止まらなかった。電話を切った後、彼女はしばらくぼうぜんとしてしまい、それから現場に向かった。ひっくり返った車、人だかり、そして燃え盛る炎。夏美は、吸い寄せられるように一歩、また一歩と前に進んだ。そこにいたのは、変わり果てた父親の姿だった。その瞬間、彼女は地面に崩れ落ちた。いろんな感情がこみ上げてきたけど、頭が追いつかなかった。まるで魂が抜けてしまったみたいで、あとで警察に声をかけら
このメッセージを見た途端、空は自分のキャッシュカードを取り出した。「夏美、これを持ってて。もし本当に訴えられたら、何かの足しになるはずだ」夏美は、空の真剣な眼差しを受け止め、一瞬ためらった。「お金で解決するつもりはないわ。ちゃんと説明するために、動画を投稿しようと思ってるの。ネットで何を言われたって構わない」その言葉を聞いて、空は目の前にいる夏美を見つめた。そんな彼女は初めて会った頃の、あの臆病な女とはまるで違う。今の彼女は、問題から逃げずに、きちんと向き合おうとしているのだ。「わかった。君を信じるよ。君がどんな決断をしても、俺はずっと味方だ」その言葉に、夏美は胸が熱くなった。だって、空と出会ってから、彼をいろいろな面倒に巻き込んでばかりだったから。迷惑をかけたくないと思う自分の気持ちを察して、見えないところでいつも助けてくれていたのだ。動画を撮り終えて、投稿ボタンを押そうとしたその時、部屋の奥から空の声がした。「夏美、祐介が釈明動画を上げてるぞ」夏美がそれを開くと、そこには祐介が映っていた。「まず、ネットをご覧の皆さん、こんにちは。俺たちのことを気にかけてくださりありがとうございます。ですが、どうか節度を守ってください。他人のプライベートに過度に踏み込むのは、権利の侵害にあたります。次に、俺が二宮さんの小説のモデルであることは事実です。でも、俺たちはもう別れていますし、今後よりを戻すこともありません。俺は今回、彼女が新たに幸せな人生を共にする相手を見つけたことを知りました。だからこそ過去のよしみで、心から祝福したいと思ったんです。それがいつの間にか、皆さんが言うような二股疑惑にすり替わってしまったようです。最後に。皆さんにも自分の人生があるはずです。誰にも、他人の生き方を勝手に裁く権利なんてありません。今回のことで俺は以前、二宮さんに言われたことを思い出しました。『その人の立場に立ってみなければ、その人の痛みは分からない』それはまさにその通りだと思います」動画が投稿されるやいなや、瞬く間に拡散された。そして、わずか数時間で、ネットの空気は一変した。【やっぱり!作者さんは悪くなかったんだ。面白半分で人のプライベートを暴いて楽しむなんて、最低だよね】【これで全部はっきりしたね。私の大好きな
一方、祐介はあの夜、陽子から電話を受けた。陽子は彼に一度会いたがっていた。「祐介、お願いだから。これが最後だと思って、お母さんに会ってくれないかい?」祐介は電話の向こうの声を聞いて、吐き気だけを覚えた。そして、これまでの出来事が次々と目に浮かび、彼は電話を切った。このところ、陽子を病院に送った後、祐介は多くのことを考えていた。もしあの時、夏美とちゃんと籍を入れていたら、結末は今とは違っていたのだろうか、と彼は思った。あるいは、夏美の飲み物に妊娠できなくなる薬を入れなければ、もう少し良い結果になっていたのだろうか。でも、現実は現実だ。後悔しても時間を巻き戻すことはできない。たとえ時間を戻せたとしても、二人はきっとまた別の困難に直面していただろう。結局のところ、自分の心の弱さが、この恋における最も大きな妨げとなったんだろう。「社長、梨花さんがお亡くなりになりました」浩平の声で祐介は現実に引き戻された。その知らせを聞いても、彼の心は静まり返った湖のようで、何の波も立たなかった。「分かった。後の手配はしっかり頼む」祐介はスマホを開くと、ニュース速報が画面に表示された。【#人気作家、交際宣言!】【#人気作家の恋人】【#愛のカフェ】といった見出しがトレンド入りしていた。それを開くと、夏美と空の交際についての記事だった。写真に写る夏美を見つめながら、祐介はその画面を何度も指でなぞった。だが心の中は、まるで無数の蟻に食い荒らされるようで、痛みと息苦しさでいっぱいだった。彼は少し考えると、その記事をシェアし、コメントをつけた。【おめでとう!】しかし、このシェアが多くのネットユーザーの注目を集めることになるとは、思ってもみなかった。【これってあの藤原グループの社長?なんで無名の作家の投稿にコメントなんかしてるの?】【ほんとそれ。こういう社長って普通は奥さんがいるんじゃないの?よく堂々とコメントしたりシェアしたりできるよね】【まさか、この人が本に出てきた幼馴染だったりして】【ありえる、ありえる!細かいところとか結構一致してるし】【でも、もし本当に藤原社長なら、なんでまだ連絡取り合ってるんだろ?本の結末だと、もう二度と会わないはずじゃなかった?】【さあね?金がなくなったら元夫にせびる