تسجيل الدخول「率直に言って今のままでは我が町も安泰とは言いがたい。いつまでもここにいてはジリ貧で、いずれ乱世に飲み込まれる。だけど、打って出るには人材が足りない。そこで優秀な人材を一人でも多く配下に加えたい。その方が有利だからね」
「で、ワタシを配下に加えたい、と」
「そ」
「優秀と言っていただけるのはありがたいが、私はオルバック家に仕える騎士だ。忠誠はオルバック様に捧げている」
「ジュニアに?」
ルビンスは沈黙する。
「今この場で返事を求めているわけじゃない。この町を見て決めるといい。しばらくは客分として我が家にお留まりいただこう」
「客分?」
「捕虜ではあっても身分相応にもてなしますよ」
「……かたじけない」
んーん……とは言ったものの、僕、独り身なんだよねぇ。
さて、どう差配しましょうか? 僕はいったん客間を退出して囲炉裏の間に座り込む。 やることはいっぱいある。 なにをどう処理するか、優先順位も最初の一斉射撃でのこちらの人的被害は皆無だった。 とはいえ、あの場所にいると怖いだろうなぁ……。 やっててよかった町の長。 こちらはまだ反撃しない。 そして、二度目の斉射が撃ち上がる。 何度やっても結果は同じだけど。 味方陣営には待機の指示が出ている。 よく守ってくれてます。 第三斉射の後、敵の弓隊が退き、先陣を任されたのだろう騎馬隊が前に出る。 想定通りだ。 サバジュ隊かな? オルバック隊かな? その数十二騎。 あ、多分両方だな。 その騎馬隊が走り出す。「突撃ぃ!」 と、微かにだけれども、ここまで聞こえて来る。 その騎馬隊に矢狭間から狙ったイラード弓隊の一斉射が放たれる。 あ・一人落馬した。 その後は間断なく矢が射込まれるもののこちらの弓隊は十人ちょっと。 弾幕というにはまばらに過ぎる。 また一人落馬した。 ただ、弓隊には戦闘狂の魔法使いラバナルがいる。 そして……。 騎馬隊が矢と切り株を避けるために散開した直後、三騎の騎馬が穴に落ちる。 してやったりだよね。 切り株を残していたのは時間のないことももちろんあった。 けど、この「落とし穴」という単純だけど有効な罠をさらに効果的に利用するための仕掛けでもあったんだ。 切り株を避けて走ろうと思うとどうしてもルート選択が限られる。 街道の行き来のために開いている出入り口を目指すわけだから守備側としてはルートがある程度読めるわけだ。罠張り放題じゃないか。 騎馬隊は切り株を避けながらだったこともあり、速度が出ていなかったのだろう。 さっと退却する。 いい判断だ。 闇雲に突っ込んでくれば、もう何騎か落とせただろうに。 騎馬隊が退がるのと入れ替わるように、盾を持った兵が三人一組になって戦場に残った騎士を回収に来る。 もちろんイラード隊が見逃すわけもなく、回収前に穴に落ちた騎士に
ザイーダの投石隊とイラードの弓隊が先陣として門を出ていく。 ここには最初からラバナルが嬉々として参加している。 次がカイジョー隊だ。 ここには先日の戦で投降した傭兵三人が組み込まれている。 その後に反お館派を集めたギラン隊。 僕の周りには騎乗しているサビーとガーブラ。 オギン、チャールズ、ルダー、捕虜のルビンスとその従者、予備兵として老人組がいる。 残りの女性陣はガブリエルに指揮される救護班だ。 救護班を門内に待機させ、最後に僕の隊が布陣に向かう。 すでにこちらの軍の布陣はあらかた終わっている。 柵の後ろに置き盾に隠れた弓隊。 その後ろにカイジョー隊とギラン隊。 今回は左右に並んで布陣させている。 さらにその後ろにザイーダ隊。 今回は高い柵のせいで投石隊が有効に利用できなくなっているんで、戦力ダウンは否めないかと思っているんだけど、退却戦での支援を中心に考えている。 今回、投石兵だった女性のうち選抜試験で特に技量を認められたクレタ他四名が弓隊に配属されている。 イラードは嫌がっていたけど、弓手は一人でも多い方がいい。 そろそろ七度目の定時報告の頃だなと思いはじめた頃、バコード軍が姿を現した。 先陣は盾を構えた兵だ。 多分その後ろに弓兵が並んでいる。「やっぱり、ちゃんとした指揮下にある軍は壮観だね」「他人事みたいに言ってますな」「でも、サビーもそう思わない?」「そりゃ、ゾクゾクきますけどね」「お館様、こちらから攻撃しないのですか?」「不意が打てるなら先制するけど、まずは相手の出方を見ないと」「味方の兵の方が多いならそれも手だろうが、弱い側がそれでどんな利がある?」 と、ルビンスが訊ねてくる。「こちらには前線に魔法使いがいるからね」「理解ができん、判るように説明してもらえないか?」「んーん……おいおい、な。そろそろ始まる」 ジャン
そうそう、前回の戦でいいことが一つあった。 野宿に使われていた二箇所のスペースが軍の野営に使われたおかげか、 広く拓かれているそうだ。 今回は倍の陣容だってんだから、さらに拓かれているだろう。 春の宿場建設が楽になる。 ズラカルト様様だ。 それもこれもこの戦に勝てなきゃ意味がないんだけどね。 今回は畑の前に高さ十シャルの柵を設け、その前に戦場予定地として奥行き二十五シャル、幅三十シャル木を切り倒している。 さすがに切り株掘り起こす時間はなかったんでそのままなんだけど、騎兵を自由にさせない障害物としても機能しそうなんで結果オーライってやつだ。 切った木は後で美味しく……じゃなかった、薪および炭にする予定です。 さて、さすがに前回無策にも不用意に姿を現した結果先制を許して敗北した轍を踏むようなこともなく(というか、あれは戦経験皆無なジュニアが酷すぎただけだと思う)斥候を二人放ってきた。 こっちは前回と違って畑には兵を出していない。 敵軍は野営の準備を終えて火を熾したようだ。 煙の距離から移動距離一時間くらい先かな? 物見櫓には左右に二人ずつ見張りに、櫓の下には見張りの交代要員および伝令役として八人を配置、念の為カシオペアの五人にホルスを一頭与えて柵の際まで夜営に出す。 寒いのかわいそうなんで薪をガンガン使わせる。 今は割と余ってるんでね。 前回もそうだったけど、緊張でなかなか寝られないね。 特に今回は向こうの戦力の方が多いから、慎重に指揮しないと負けちゃう可能性も高いからなおのこと神経使っちゃうよね。 そんな夜をじりじりと過ごして、日の出を迎えた。 日が出た後は半時間おきに定時連絡をもらうことになっている。 最初の連絡は日の出の報告。 二度目の連絡は特になし。 三度目の連絡で敵陣の煙が大きくなったという報告がきた。 多分飯炊きだ。 腹が減っては戦ができないってよくいうし。 僕は、その報告を受けて出陣を決断。 五度目の報告は中央広場で聞
その後の一ヶ月は、そりゃあもう忙しかったですよ。 いろいろ準備もしましたさ。 軍の編成とか土木作業とか。 他にもいろいろやりました。 その間、ヤッチシからの飛行手紙が二度送られてきてた(ちなみに、ヤッチシには十枚の飛行手紙を預けている)。 最初の手紙には軍の規模と出陣の日時が書かれていた。 それによると今回の軍は騎兵二十騎、弓兵五十、剣兵八十。 そして、魔法使いが一名同行しているそうだ。 あ、今回も槍兵がいないな。 こちらは、傭兵出身以外の白兵は全員槍兵に兵装を変えている。 やっぱ、白兵戦は槍最強でしょ。 軍は三隊に分かれていて敵の総大将はバコード。 ズラカルト男爵家で代々軍を束ねる名門の当代当主だそうだ。 とはいえ、男爵領では少なくともこの五十年、戦と言える争いは起きていないってんだからどれほどの指揮をするかは未知数だ。 僕が知っているのは彼がまだ若い頃、ハッシュシ王国との国境紛争に従軍し、勲章をもらったという逸話だけ。 まったく参考にならない。 副将はサバジュとオルバック。 あらあら、ジュニア(苦笑) もちろんジュニアも従軍しているし、今回はルビレルもいるらしい。 厳しい戦いを強いられるのは覚悟の前だ。 でも、こちらだって手をこまぬいて待っているわけじゃないぞ。 軍が隣村を出発したのをケイロが飛行手紙で知らせてくる。 文字を覚えるほどの時間がなかったので、署名と日付が書かれているだけなんだけど、必要十分だ。 便利便利。 やはり情報は最強武器の一つだよね。 飛行手紙の欠点は、今の所僕の屋敷宛にしか届かないことか。 急ぎで開発してもらったんだからこれは仕方ない。 今回は、この時点でラバナルを呼んだ。 戦が始まるまではチャールズの家にこもっているんだそうな。
そして、中央広場の市に出向く。 ここには屋台が並んでいる。 貨幣経済導入のための市だ。 自分の得意なことで銭を稼ぐ。 この王国は農本主義だ。 封建領主は領土からの収穫物を税として納めさせ、それをもって領土経営にあたる。 農民に残される収穫物は、翌年畑に撒く種と自分たちが食べる分だけ。 必要な道具などは自分たちで作る。 百姓と呼ばれる所以だ。 でも、人には得手不得手がある。 得意な人に任せる方が能率もいいしクオリティも上がる。 自分のやりたいことに時間を使える方が町全体としても利益になる。 ところが物々交換では価値の等価が担保できない。 そこで価値の基準となる貨幣の出番だ。 この国にはもともと貨幣が存在している。 ここは僻地で十分利用されていなかっただけ。 利用価値を判ってもらうためにも市は重要な存在なのだ。 貨幣経済が確立して、みんなが農業以外の仕事につけば(もちろんどこまでも農業労働は領民の義務だけど)、農作物はぶっちゃけ一〇〇%徴税できる。 ま、実際は一〇〇%なんて不可能だけどね。「まるで異国のようだ」 と、ルビンスがいう。 なるほど、この町以外この世界を知らない僕が企画した市は、前世のイメージに強く影響されているのだろう。 それも悪くない。 だって、その方が心地いいんだから。「しかし、民の表情がみな生き生きしているようだ」「こんなもんじゃないのか?」「いいや。ワタシの知っている民は、たえず誰かの目を意識して伏し目がちだった」 あー、お貴族様のせいだな、そりゃ。 その一員であるルビンスには、そういう側面しか見られなかったってことなんだろう。 ルビンスは、日が暮れるまで広場の市を見つめていた。 寒いってば。 見かねたロットが焚き火を提供してくれたけど、そんなんじゃ足りないくらい寒かった。 むむむ……冬の市の開催はちょ
町の畑で戦闘してから十五日、あたり一面 に雪が積もって本格的な冬が来た。 今日はルビンスと町を視察している。 どんな心境の変化があったのかは知らないけど、町を見て回りたいと言われたので僕が直々に案内することにしたわけだ。 さすがにお人好しの僕だって「どうぞご勝手に」とはやれない。 見せたくない部分だってあるしね。 厳選した視察ルートは以下の通り。 まずは町の名産として名が売れているらしいダリプ酒の醸造蔵。 試験的に寝かせている昨年の樽から試飲してみる。 やっぱり味が落ちてる。 長期熟成にはもう少し試行が必要なのかな? そんなダリプ酒なのにルビンスはうまそうに飲み干した。「イケる口?」「ん? うむ、我々程度ではいい酒はなかなか飲めなくてな。ダリプ酒など、主人の晩餐会のおこぼれくらいしか機会がない」 泣ける。 いや、これはイケるぞ。 今年のダリプ酒はまだできてないので飲ませてあげられないけど、もう一つの方なら……。 僕は、この後予定していた中央広場に出ている市に行く前に焼酎蒸留所へ行く先を変更した。 ここでは現在、フレイラ焼酎の蒸留が行われていた。 ポモイトとマルルンは仕込み時期が遅かったので、まだ醸造中だ。 蒸留原酒に、絞ったダリプ果汁と水を足す。「こ、これは……」「うまい酒だろ? 町の次期主力商品だ」 ルビンスは何も言わずにカップを見つめている。「この酒は蒸留酒だから長期保存ができるんだ。こんな酒がどこでも飲めるようになったらいいと思わない?」「思う。思うが、これは貴族の酒だ」「貴族だけのものにはしたくないんだ。酒くらい飲みたいときに誰でも飲める世の中がいいべや」「酒くらい……か」 この世界……いや、前世世界でも貧富の差は厳然として存在していた。 現状それを解消するのは不可能に近い。 でも、だからこそか? せめて誰もが食うことだけは困らない世の
「じゃあ次は概要ね」 と、リリムは言う。「世界の概要は現世の知識があるから割愛ね」 あらま。「あなたは転生の際にDNAってやつに細工されていてね、神様曰く人よりちょっと優秀になってるそうよ」 え? ちょっと?「そこはとても優秀になってんじゃないの? テンプレ的に」「いくら世界に干渉できる環境にある神様だってそんなことホイホイしたら世の中のバランスが狂っちゃうでしょう?」「異世界転生は世界のバランスを崩さないのか?」「崩すわよ。それなりに。そもそも
村に戻った僕は村人の埋葬をする。 人の死には慣れている。 現世の僕が、だけど。 この世界は前世の世界と違って文明水準が高くない。 当然医療水準も高くない。 田舎だからってのはあるかもしれない。 大きな街はもしかしたらすごく発展しているのかもしれない。 魔法のある世界だから、当然治癒魔法もあるはずだ。 でもそれがどれくらいの効果があるかもわからない。 だからこの村はよく人が死んだ。 子供は特によく死んだ。 僕にも姉と妹がいたらしい。 妹の方はかす
僕は十五歳の朝を木の枝の上で迎えた。 この世界の元服、つまり成人の儀式が行われる日だ。 確かに一生忘れられない日にはなったけど……切ない。 あまりにも切ない。 秋とはいえ、昼頃になればそれなりに暖かくなる。 今日は天気もいいので昼頃にはむしろ汗ばむほどの陽気になった。 慎重にあたりの気配を確認しつつ、木から降り集落に戻ると、まだプスプスとくすぶっている焼け跡の中を歩く。 あたり一面、嫌な臭いが立ち込めているのは、村人の焼けた臭いだろう。 昨日から何も食べてないのに込み上げてくる胃液を吐き出し
「逃げたのはガキ一匹か」 と、僕の真下で傷だらけのごつい男が言っている。 こいつが盗賊団の頭目と見た。「へい、多分」「多分だと!?」「へ、へ……」 あたふたした下っ端が頭目にぶん殴られ、仰向けにぶっ倒れる。 気絶してろ! 盛大に気絶してろよ、でなきゃここにいることがバレる。 僕の祈りは天に通じたのか、そいつは白目をむいて動かない。「このさらに奥に行ったかもしれませんぜ」「ならいい」 頭目は、一言吐き捨てて踵







