LOGIN裏の畑の秋蒔きフレイラの収穫と春の種蒔きが終わる頃には村の人口が百七十人を超えてしまった。
その間、どころかそろそろ夏というこの時期まで僕は内政に忙殺されて村から出られなかった。
目下しかし、この案に強硬に反対する勢力がいて二人に打診することもできないでいる。
はい、反お館派の面々です。 彼ら曰く『寝返ったばかりの奴に町を任せられるか』
感情的な発言だけど、ごもっともと言わざるを得ない。
まぁ、おんなじ意味で彼らに任せる気にもならないんだけどね。 ギランなんか裏の畑の秋蒔きフレイラの収穫と春の種蒔きが終わる頃には村の人口が百七十人を超えてしまった。 その間、どころかそろそろ夏というこの時期まで僕は内政に忙殺されて村から出られなかった。 目下喫緊の課題は僕の代わりに町の行政を担える人材探しだ。 本来内政を補助していたイラードは隣村に出向中で、イラードに代わる人材がいなかったというのが痛い。 いや、まったくいないわけじゃない。 むしろ最適な人材がいたにはいたんだけど、とても重大な点で任すことができないのが問題だった。 ルビレルかルビンスに任せられるんならどんだけ楽になるか……。 しかし、この案に強硬に反対する勢力がいて二人に打診することもできないでいる。 はい、反お館派の面々です。 彼ら曰く『寝返ったばかりの奴に町を任せられるか』 感情的な発言だけど、ごもっともと言わざるを得ない。 まぁ、おんなじ意味で彼らに任せる気にもならないんだけどね。 ギランなんかに任そうもんなら、正に獅子身中の虫ってやつだ。 大人の事情で反お館派をひとまとめにしただけとはいえ、一つの部隊を任せているのだってどうかと言われているくらいなのに。 反お館派は味方の戦死者九人中七人と戦死者を多く出したことで、勢力自体は小さくなったんだけどそのせいでより強硬な態度を取り、対立を深めている。 戦死者遺族には褒賞と税制優遇措置を施しているんだけどなぁ。 そうそう、オルバックJr.はつい先日、多額の身代金と引き換えに国元へお引き取り願う算段がついたところだ。 十日もすれば身代金が到着する予定なのでようやく厄介払いができる。 身代金のほかにルビレルの奥方も要求したのだけれど、こちらは断られた。 ルビレルは武人の習いと言っているけれど、寂しそうだ。 話がそれた。 人口の話。 先の戦で捕虜にした三十四人中まだ人質として残っているジュニアと僕の臣下となってくれたルビレルの他にこの街に残ることになったのが二十六
翌日、ホルスを二頭残して帰路につく。 馬に乗るのが初めてというケイロはサビーの馬に乗せる。 馬に揺られながら(最奥の地が本拠地ってのは不便だなぁ) なんて思い始めるあたり、僕に領土的野心でも芽生え始めたんだろうか? いや、僕の目的が多少変更になったということなんだろう。 究極的には生きること、生き続けることであることに変わりはない。 村を焼かれ、天涯孤独になった僕に仲間ができ、リーダーを任され、王国の果ての小さな村は町になった。 山奥の町では戦略的に生き残れない。 だからもっと有利な土地に移動する。 そういうことだ。 戦のたびに本拠地を出て勝っても負けても戻ってくるなんて非合理的だ。 でも、そんな非合理がどれだけ精神衛生に寄与するのかも理解してる。 武田信玄は山奥の居城に居続けたために天下を望む時期を逸したなんて言われている(もっとも、地政学的に本領移動は難しかったはずだ)。 織田信長は自分の戦略に合わせて無理やり居城を移動しただけでなく、家臣から本領を取り上げて別の領土をあてがった(結果、不満を募らせた家臣からたびたび謀反を起こされたともいわれている)。 足利尊氏は、自分の行いのせいで(というか、決断できない優柔不断さが家臣の暴走を招いて)鎌倉に戻りたくても京都に居続けざるを得なくなった。 転居は一長一短あるよね。 転勤はストレスだからなぁ……。 けど、必要だよなぁ……。 移動するとすればどこに? ああ、現世の土地勘が全くないや。 いや、前世だって生まれ故郷と東京近郊以外に特に土地勘があるわけじゃないか。 いやいや、生まれ故郷北海道は結構広いぞ。(そんなことはどうでもいいと思うの) あー、そうだね。
村には代官屋敷が建っていた。 前回来たときに要望を出したものだ。 僕らが来たときに泊まる用の家で、ジャスを棟梁に町側の資材で建築したルンカー造りの二階建てだ。 ぶっちゃけ農業指導を表向きの名目に代官としてルダー一家を常駐させることになっている。 僕らは明日には帰るけど、ルダーとイラードにはそのまま残ってもらう。 イラードにはしばらくルダーの護衛兼村の問題点の洗い出しをしてもらう予定だ。 会食後、早々にケイロに案内されてその代官屋敷に引き上げる。 …………。 どうもケイロが挙動不審なので帰るのを引き止めて世間話に付き合わせることにした。 賢いといってもまだまだ未成年の村人1。 会話の中でカマをかけるとわりと判りやすく動揺したり喋ったりしてくれたので「ちょろいな」と、思ったのはここだけの秘密だ。 要約すると、村長のスパイをさせられているってところだった。 はい、早速始まりましたね。 肚の探り合いは、政治のイロハってことでしょうか。 でも、あからさますぎて減点です。 まぁ、田舎の村の大将じゃここらが相場ってとこなのかな? まだ若いと僕を侮っているんでしょう。 お貴族様じゃないから対等に、できれば年の功で立場を乗っ取ろうとか考えているかもしれないな。 そうさね、これを逆手に村長追い落とし作戦でも計画しよう。「ケイロ」「はい」「戦やらなんやらでうやむやになっていた読み書き算盤の稽古、再開しないか?」「いいんですか?」 目をキラッキラと輝かせているケイロにとびっきりの笑顔で応対する。「当然じゃないか」 ちょっと芝居くさかったかな?「僕らは明日、帰ることになるけど、一緒においで」「お願いします!」 ちょろい。 いや、しかしこれはいつの時代も人は知識に飢えているってことかもしれない。 時代どころか時を超え、次元を超えても普遍ってことなのかも。 前世でも
春になった。 村が僕を残して全滅してから四年目の春、僕は十八になっている。 ズラカルト男爵軍との衝突では結構な被害が出たけれど、人的被害以外はだいたい回復した。 町の中に軍を入れなかったのが功を奏したのは間違いない。 雪解けと共にかねてから計画していた宿場町建設団を派遣。 キャラバンは行商に旅立った。 今僕は隣村に来ている。 こちらも戦前の約定によって僕の傘下に入ることを正式に承認するためのものだ。 村長を町に呼びつけてもよかったんだけど、こちらから出向くことで今後の為政を少しでも有利にしたい思惑があったからね。 使節団は僕を筆頭にサビー、イラード、ルダー、オギンの四人。 僕を領主として認めるという文言を確認して、皮紙に署名捺印を取り交わす。 これで晴れて僕は正式に二ヶ村の領主だ。 建設中の宿場町が完成すれば四ヶ村の領主になる。 村長と握手を交わして調印式が終われば昼食会だ。 村からは村長とその息子夫婦、孫のケイロが参加した。 …………。(何か不服そうね) リリムが声に出さずに訊いてくる。 この場には前世持ちのルダーがいるから、そういう配慮をしたのだろう。(うん、村長の親族しかいないのがね)(何か問題?)(大いに問題だね。この村にはこれまでに二回来ているけど、交渉の場に村長以外の人が立ち会ったのは初回のケイロだけ。あれも食事の席でこちらから切り出したんでたまたま同席していただけって気がするんだ)(そう言えば前回来たときも息子さんたちを用事に出してから交渉を始めてたわね)(村長には早々に交代していただこう) とはいうものの、じゃあ誰に交代するかと言えば悩ましい。 町から選ぶのは下の下策だ。 村長だけでなく村人全員を敵に回すことになりかねない。 かといってこの村の誰かで村長の代わりが務まるのかと考えると誰もいないのが現状だ。 自分の見たところケイロが村で一番賢いけど、さすがに未成年のケイロに村の経
「オギン」「ここに」 ヌッと現れる様がいよいよかげろうのお銀然としてきたな。「念のため見張っていてくれ」「かしこまりました」 武器を取り上げているとは言え、ちょっと無用心かな? でもまぁジュニアと違って大人しくしていてくれると僕は信じているよ。 館を出て中央広場に移動する。 そろそろ空が茜色に染まり始めている。 冬の日はつるべ落とし……いや、これは秋の季語か。 とにかくだ、昼の短い季節だし、火が落ちると一気に寒くなるし、とっととこっちも済ませなきゃな。 この町には現在、住宅が不足している。 冬になって流入人口が減少したことで、住宅不足は解消しつつあったわけだけど、捕虜が一気に四十人近くも増えたとあっては住宅建築も追いつかない。 特に今日だけで二十五人も増えたのが痛いんだ。「どうだった?」 敵野営陣に向かわせていたカシオペアメンバーが戻っていたので訊ねると「なんとか使えそうだ」 との返答だったので、今日は見張りを立てて、騎士以外の捕虜は野営地に送ることにした。 見張りはこちらのカイジョー以下、元傭兵の八人とサビー、ガーブラの総勢十人。 武器を取り上げて拘束した捕虜ならこの人数で大丈夫だろう。 町の守備が手薄になるけど、もう襲われるような事態にはならないだろうしね。 捕虜の護送と入れ違いに町の戦死者の埋葬を終えたグループが墓地から戻ってきたので、丁重にねぎらう。 一番きつい仕事を割り振っちまったからさ。 これにはルダーが率先して関わってくれた。 前世が戦中派の彼は、戦争を知らない団塊ジュニアの前世持ちである僕とは肚の括り方が違う。 それにしても……九人は多い。 働き盛りの労働者でもある彼らを失うのは経済的損失だし、避けられない犠牲でありある程度の覚悟はあったとしても、遺族の胸中は複雑だろう。 僕に対してわだかまりを持つものが出てきても詮ないことだ。 何より僕自身が見知った人の死に大きな精神的ダメ
ここは僕の館だ。 僕の右側にはジョーが、左にはルビンスが立っている。 ルビンスが心持ち苦虫を噛み締めるような表情をしているのが慮られる。 それもそのはず、捕虜の二人というのがルビンスの父ルビレルとその主筋にあたるオルバックJr.だからだ。 こりゃもう、ボンクラジュニアを助けるために奮戦して一緒に囚われたとしか思えない。 余談だけど、以前ルビンスと一緒に捕虜になったあと、ルビレルに使者として送り出した従者が今回もルビレルの従者として捕まっている。 ついてないねぇ。「騎士は捕虜として丁重に扱うことになっているのだけど、どうしたもんかね?」 事前にジョーとは打ち合わせをしてのぞんでいるわけだけど、ホント、どうしたもんかね?「お館様のご随意に」 ったく、ジョーってばさ。 ちょっと意趣返ししないとダメだろ、これは。「我が館には客間が四部屋あるので三人なら留め置くことは造作ないが、ここは領主の館であるから客人が来た折の部屋がないと困る。こちらの御曹司はジョーの家に預けよう」「え……ふむ、そうか。うむ、仕方ない……のか?」 へっへっへ、ちょっと溜飲が下がった。「いずれ代官殿から使者がこようから、せいぜい身代金を踏んだくってやろうじゃないか」 と、うそぶいて見せたらジュニアってばキっとまなじりあげて僕を睨みつけてくる。 あー、やっぱダメだなこいつ。 さすがにわめいちゃうほど教養なしじゃないようだけど、自分の立場を判ってない。 態度ってのは心証に大きく関わってくるから、その後の待遇が随分と変わるんだけどねぇ。 ルビンスからこいつの代わりになる後継がいないって聞いたから、オルバック家の未来は決定したようなもんだ。「じゃあ、よろしく頼むよ」 と、ジョーにさっさと引き取ってもらうことにした。 ジュニアがいなくなったあと、改めてルビレルと向き合う。「お久しぶりです」 と、言っておこう。 ル
村に戻った僕は村人の埋葬をする。 人の死には慣れている。 現世の僕が、だけど。 この世界は前世の世界と違って文明水準が高くない。 当然医療水準も高くない。 田舎だからってのはあるかもしれない。 大きな街はもしかしたらすごく発展しているのかもしれない。 魔法のある世界だから、当然治癒魔法もあるはずだ。 でもそれがどれくらいの効果があるかもわからない。 だからこの村はよく人が死んだ。 子供は特によく死んだ。 僕にも姉と妹がいたらしい。 妹の方はかす
僕は十五歳の朝を木の枝の上で迎えた。 この世界の元服、つまり成人の儀式が行われる日だ。 確かに一生忘れられない日にはなったけど……切ない。 あまりにも切ない。 秋とはいえ、昼頃になればそれなりに暖かくなる。 今日は天気もいいので昼頃にはむしろ汗ばむほどの陽気になった。 慎重にあたりの気配を確認しつつ、木から降り集落に戻ると、まだプスプスとくすぶっている焼け跡の中を歩く。 あたり一面、嫌な臭いが立ち込めているのは、村人の焼けた臭いだろう。 昨日から何も食べてないのに込み上げてくる胃液を吐き出し
「逃げたのはガキ一匹か」 と、僕の真下で傷だらけのごつい男が言っている。 こいつが盗賊団の頭目と見た。「へい、多分」「多分だと!?」「へ、へ……」 あたふたした下っ端が頭目にぶん殴られ、仰向けにぶっ倒れる。 気絶してろ! 盛大に気絶してろよ、でなきゃここにいることがバレる。 僕の祈りは天に通じたのか、そいつは白目をむいて動かない。「このさらに奥に行ったかもしれませんぜ」「ならいい」 頭目は、一言吐き捨てて踵
さて、ここからは前世の記憶をフル活用だ。 襲ってきたのは、十数人の盗賊団。村には女子供を含めて三十人ちょっと。ここは本当に農村の一集落だった。 ん? この世界は前世知識的にどれくらいの文明水準なんだ? くそっ、ど田舎の未成年じゃ参照知識がなさすぎる。 異世界転生ものならそれなりの環境に生まれ直させろっての。 ──って言っても仕方ないわけで、そもそもテンプレの神様にあった記憶がない。 現世の記憶を手繰り寄せてもなろう系のお作法である知ってるゲーム世界的な場所でもなさそうだ。 あ、もっとも僕、