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胸の傷

last update Last Updated: 2025-11-02 03:49:04

 ラミッタの反応を見て、マルクエンはポカーンとしたが、自分の発言を省みて、あっと声を出す。

「ち、違う! ほら、私はその、剣でお前の胸を貫いただろ? その傷が無いかどうか確認がしたいだけだ!」

「なっ、そういう事!! 紛らわしいのよ!! バーカバーカ!」

 マルクエンは焦りつつも、冷静なもう一人の自分がラミッタにも恥じらいがあるんだなと思っていた。

「えっと、それで、どうなんだ? 胸の傷は」

「教えない」

 すっかり機嫌を損ねたラミッタはそっぽを向く。

「や、やっぱりあるのか傷?」

 心配そうなマルクエンに対し、ラミッタはふんっとご機嫌ナナメのまま言った。

「宿敵に体の心配をされるほど落ちぶれちゃいないわ」

 そんなラミッタだったが、何かに気付いてピクリと反応する。そして、先程まで居たトーラ村の方角を見た。

「何か、魔物の気配がするわ」

「本当か!?」

 マルクエンの言葉よりも早く、ラミッタは千里眼を使った。間違いない、また魔物が村へ近付いている。

「っ! 付いて来て宿敵!!」

「わかった!」

 二人は来た道を走って引き返していく。

「こんな小さな村に一個中隊が壊滅させられたって聞いたがよー。どこかに生意気な冒険者でもいるんじゃねーのか?」

 村は至る所が炎で燃え盛っていた。警備や増援の兵隊たちも倒されてしまっている。

 住民も、冒険者たちですらガタガタと震えながらその者を見ることしかできない。

「お、お前は……」

 ケイがシヘンの前に立ち塞がり宙を飛ぶ者を見て言った。

「俺様は魔人コンソ様だ、どうやら雑魚しか居ないみたいだ。わざわざ俺様が来るまでも無かったな。無駄足を踏ませた責任を……」

 コンソと名乗る魔人は右手に魔力を集中させる。オレンジ色の光が段々と大きくなっていった。

「死を持って償え!!」

 もうやられる。ケイがそう思った瞬間だった。

「魔法反射!!」

 魔力が魔法の防御壁にぶち当たり、反射される。ケイと魔人の間にはラミッタが立っていた。

「ラミッタさん!?」

 ケイが驚いて言う。それと同じくしてマルクエンも現れ、宙へ飛び上がり魔人に斬りかかった。

「ほう、少しは楽しめそうな奴がいるじゃねえか」

 魔人コンソはニヤリと笑い、武器である長槍を構えた。どう絶望を与えてやろうかと考えていたが、次の瞬間。思考が止まる。

 マルクエンの剣を槍で受け止めたコンソは
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  • 別の形で会い直した宿敵が結婚を迫って来たんだが   ちょっと魔王退治に

    「いやいや、魔王討伐なんて勇者のすることっスよ……」「それでも、私は魔王を倒します」 ケイは内心マルクエンさんは記憶喪失のついでに頭もどうかしちまったのかと思っていた。「まずは魔物を狩って、魔人を倒してからよ」「えぇ!? ラミッタさんまで!?」 驚いて裏返った声をケイは上げる。その後はあまり会話もなく、食事が終わった。「その、マルクエンさんは、これからどうするのでしょうか?」 シヘンに尋ねられ、うーんとマルクエンは考える。「そうですね、とりあえず魔人? とやらの情報を集めます」「あ、あの!! 私もお手伝いしても良いでしょうか!?」「ちょっ、ばかっ!!」 思わずケイはシヘンにヘッドロックをキメてマルクエンに背を向けた。「ま、マルクエンさん。私達ちょっとお花を詰んできますわ、オホホホ」 そのままギルドの隅っこまで連れて行く。「馬鹿かシヘン!! マルクエンさんは良い人かも知れないが、魔王や魔人を倒すって言ってんだぞ!? 正気じゃねぇ!!」「で、でも!!」「確かにマルクエンさんとラミッタさんはメチャクチャ強い。だが、そんな二人に付いて行ってみろ! 無事じゃ済まないぞ!」 真っ当な意見を言われ、シヘンは俯いて言葉を失う。「マルクエンさん、ラミッタさん。魔王と魔人の討伐、応援してるっスよ! 何かあったらいつでも村に戻ってきてください!」 すぐにでも出発しようというマルクエン達に、村の出入り口でケイは作り笑顔で、シヘンはしょげた顔で別れを告げた。 シヘンとケイに何があったか察したラミッタは振り返らずに村を出ていく。「シヘンさん、ケイさん、お元気でー!」 能天気なマルクエンを見て、ラミッタがはぁっとため息を付いた。「それで、ラミッタ。どこへ行くんだ?」「ここから西に魔人が現れたって噂があるのよ。そこへ向かって情報を集めるわ」「なるほどな」 少し歩いたぐらいでマルクエンは小さくなった村を振り返る。「村が心配? それともシヘンにでも惚れちゃったかしら?」「なっ、違う! ただ、昨日襲われたばかりで、村は大丈夫なのかと思ってな」「治安維持部隊だけじゃなく、軍も要請したわ。平気よ」 道中、特に会話が思い浮かばずにいた。マルクエンは気まずく、何か話題をと話しかけ続けたが、ラミッタは素っ気なく返すだけだ。 日が暮れ始め、二人は野宿の

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