LOGINラミッタがホテルの外へ向かうと、見えたのは女冒険者に囲まれているマルクエンだ。「竜殺しのマルクエンさんですよね!? すっごーい!!」「マルクエンさん背も高いし、顔もカッコいいですね!!」「マルクエンさんって、誰か付き合っている人いるんですかー?」 当の本人は赤面しながらしどろもどろだった。「い、いや、あのー、そのー……」「あら。モテモテで良いご身分ね、宿敵?」「ら、ラミッタ!! あの、待ち合わせをしていたので、これで……」 マルクエンは女冒険者達を振り切ってラミッタの元へと行く。「あらー? 待ち合わせなんてしていたかしら?」 ラミッタが小声でニヤニヤ見てくると、マルクエンは歩き始める。「そういう事にしておいてくれ!!」「それじゃ、バーに行くわよ。アンタの奢りでね」「わかった。誘ったのはこっちだしな」 バーに着くと、やはりここの冒険者にも気付かれ、好奇の眼差しを浴びる。「すっかり注目の的ね」「あぁ、そうだな」 隅の2人席に座ると、とりあえず飲み物を注文した。「人の目に晒されるのは元のせか……。元の国ではよくあったから慣れていたはずなのだが」「流石は騎士様ね。まぁ、私も士気を上げる為に軍の前で演説とかあったけどさ」 運ばれてきたビールを手に持って、ラミッタはマルクエンのオレンジジュースに軽くぶつける。「モテモテ騎士様に乾杯よ」「ははは……」 ラミッタはビールを半分ぐらいまで一気に飲むと、マルクエンに尋ねた。「で、何であんな所に居たわけ?」「そうだな、少し小腹が空いたので、何か食べようかと思ってな……」「あんだけ食べておいてまだ食べるの!? 呆れた」 マルクエンはポテトフライやハンバーガーを注文し、ラミッタもつまみになる軽食を頼んだ。「所で、アンタ結構可愛い子に逆ナンされてたのに手出さないの?」 言われ、オレンジジュースで咳き込むマルクエン。「な、何を言うんだ!!」「もしかしてだけど、女の子に興味ない感じ?」「本当に何を言うんだ!?」 真に受けるマルクエンにラミッタは爆笑していた。「私は騎士だ。心に決めた人以外とそういった事はしない!!」「真面目ねぇー」 ラミッタはまたクイッとビールを飲む。「まぁ、いいわ。話題を変えましょうか、シヘンとケイの修行。どう思う?」「ふむ、シヘンさんとケイ
「うん、美味いな」「ほんと、美味しいですね!」 シヘンも舌鼓を打つ中でラミッタが言う。 「私、こういう料理は慣れないのよね。テーブルマナーしかり、量が少ないのしかり」「そうか? 美味しくて良いじゃないか?」「はいはい、ボンボンの宿敵さんにはこういうお上品なお料理がお似合いのこと」 マルクエンにいちいち突っかかるラミッタを見てクスクスとケイとシヘンは笑っている。「でも、今日はめちゃくちゃ腹減ったんで、ガッツリ食べたい気分はあるっスねー」 ケイの言葉にラミッタも頷く。「量が足りなかった時は、追加で何か頼みましょうか」 そんな事を言っている内に、本日のスープがやって来た。 黄色く、甘いいい匂いのするコーンスープだ。「ふわぁー、いい匂い」 思わず素直な感想が漏れるシヘン。 スプーンで掬って一口飲むと、疲れた体に染み渡る優しい甘みを感じていた。「んー、美味しい!!」「美味い!! 美味いっスね!!」 ワイワイと料理の感想を言い合ったり、竜と戦った時の話をしたりしていたら、お次は魚料理だ。「お待たせ致しました。ラタのムニエルでございます」 大きめのムニエルにされた白身魚を中心とし、カラフルなソースが皿に彩られている。「おっ、食べごたえありそうッスね!!」「冒険者用に大きめサイズの料理が提供されているのでしょうかね」 マルクエンはそう呟き、サカナにナイフを入れる。 淡白な身は、ふわりほろりと崩れ、付け合せのソースとも相性が良い。「ンマーイ!! うまいっス!!!」「中々、美味しいわね」 ラミッタも流石にシェフの腕を認めざるを得ない一品だった。 そして、4人の前に果実を加えた氷をふわふわに削った物が提供される。「木苺のふわふわかき氷でございます」「え、デザート? まだお腹いっぱいじゃないわよ?」「あー、これはなラミッタ。恐らく口直し用で、この後メインディッシュが来るんだ。この国でもコース料理の出し方が同じであればだがな」「あら、物を知らずゴメンあそばせ」 マルクエンに教えられるのは気に入らないのだろうか、ラミッタはそんな事を言う。「なんつーか、さっぱりしてるッスね」「うん、美味しいけどデザートとは違うんだね」「えぇ、あくまで口直し用なので」 ケイは次の料理をワクワクして待っていた。店員がやっ
マルクエン達は早速、街の外で特訓をすることにした。「あのー、本当に真剣で大丈夫なんスか?」「大丈夫よ、それともあなたは宿敵に傷を負わせる自信でもあるのかしら?」「いや、無いっス!! 微塵も無いッス!」 ケイは剣を持ってマルクエンと対峙する。シヘンは心配そうに見つめていた。「私から攻撃はしませんので、遠慮なく来て下さい」「了解っス。それでは!!」 ケイは剣を振り上げてマルクエンの元へと走り出す。近づくとそのままの勢いで袈裟斬りにしようとした。 マルクエンは剣を横に構えてそれを弾く。ケイの手はビリビリとした衝撃を感じていた。 次はそのまま力を込めて横薙ぎに剣を振るうも、マルクエンはさっと後ろに引いて避ける。 最後に突きを繰り出すも、簡単に弾かれ、ケイは体勢を崩した。「なるほどね、ケイはまず基礎中の基礎、体幹を作らないとね」「は、はいっス……」 ラミッタに言われ、ケイは言葉に詰まる。「とりあえずそっちで素振り千回ね」「うぇっ!? わ、わかりました……」 そして、ラミッタは心配そうに眺めていたシヘンの方を振り返り、ニッコリ笑う。「次はあなたの番よ?」「あっ、はい! わかりました!」 シヘンは杖を強く握り、ラミッタを見つめる。「それじゃ、私にどんどん魔法を打ち込んできなさい。殺す気でね」「わかりました!!!」 シヘンは杖を振り、火の玉を数発ラミッタに向けて放つ。 その間にも詠唱を続け、雷を追撃として飛ばす。 ラミッタは片手で魔法の防御壁を張り、全てを打ち消した。「もっと打ってきなさい!!」 シヘンは言われるがまま、火、雷、氷といった魔法を放ち続けた。 10分程して、シヘンは地面に片膝を付く。「はぁはぁ……」 汗をかきながら、うずくまるシヘン。マルクエンは心配そうに歩み寄った。「大丈夫ですか? シヘンさん」「平気……。です」 ラミッタはシヘンに近付いて言う。「まだまだ魔力が不足しているわね。これから毎日魔法を打つわよ?」「は、はい……」 マルクエンはケイに付いて、ラミッタはシヘンの面倒を見ている。「ケイさん。腕はこう伸ばして、こう構えると良い」 マルクエンはケイの体を触り、構えを教えている。「こ、こうっスか?」 筋肉質なマルクエンの腕や胸に触れて、少しドキドキするケイ。「あぁ、そうです」「了解
「いやまぁ、なんだ。竜が倒れたってならめでたいことだ!! 早速ギルドとウチの若い衆で鉱脈の竜を解体するぜ!!」「そうね、ギルドにも報告しておかなくちゃね」 ラミッタの言葉にマルクエンも頷く。「そうだな、行くか」「俺も付いていくぜ!」 サツマも連れて、マルクエン達は冒険者ギルドへと向かう事となる。 ギルドの扉を開けると、相変わらず冒険者たちで賑わっていた。 受付嬢がマルクエン達を見ると、こちらへ駆け寄ってくる。「皆さん達!? ど、どうしたんですか!? 何か竜でトラブルでも!?」「いえ、倒し終えた所です」「そうですか、倒し終え……。って倒し終えたあぁぁぁー!?」 その大声でギルド内の冒険者達が一斉にこちらを向く。「こ、鉱脈の竜が倒れたのか!?」「あぁ、そうだとも!!」 サツマがマルクエン達の代わりに言うと、ギルド内ではどよめきが広がった。「騒がしいと思ったら、どうやら片付いたようですね」 冒険者ギルドのマスター、バレイが奥から出てくる。「さっそく竜の回収クエストを出しましょう。特別手当付きで、ね」 ギルド内が「わあああ」っと盛り上がり、拍手喝采だった。 マルクエンやシヘン、ケイは照れ、ラミッタは片目を閉じてため息をつく。 急遽募集された竜の回収というクエストには、冒険者が殺到し、あっという間に回収隊が組めた。 マルクエン達も手を持て余していたので手伝うことになる。「こいつが鉱脈の竜か……」 竜の亡骸を見てサツマがポツリと呟く。「伝承通り、ガッチガチだな」 持っていた斧の背で頭の金属部を叩くと、カンカンと音が鳴った。「いい武器は作れそうですか? サツマさん」「おう、任せてくれ!!!」 鍛冶職人と冒険者達がせっせと竜の鱗を一枚一枚剥がしている。 マルクエンは力のいる場所を任され、ラミッタは先程の断頭台の魔法で竜を小分けにしていた。「すげー魔法だ……」 魔法使いの冒険者は思わず見惚れ、そうでない者も作業の手を止めて見ている。 すっかり日が暮れると、残りの作業は明日に持ち越しとなる。 マルクエン達は竜との戦いよりも、解体作業の方に疲労を感じていた。 そして、ギルドの食堂では今日。特別メニューが振る舞われるとの事で夜だが賑わっている。「お待たせ致しましたー。鉱脈の竜のステーキです!!」 運ばれてきたのはあの
「い、嫌よ!!」「女は度胸! 何でもためしてみるのさ」 店員はラミッタの腕をガッチリ掴んでグイグイ引っ張っていく。「ちょ、ちょっとまっ」 ラミッタは試着室へと消えていった。「えっ、本当にこれを!?」「ちょっ、ちょっと待ってよ!!!」「いや、いやぁ!!」 試着室からはラミッタの抵抗する声が聞こえてくる。「はい、お似合いですよ!!」「いや、分かったから、分かったから着替えさせ……」「はい、オープン!!!」 バサッと開けられたカーテンの先には赤い水着のようなアーマーを身に纏ったラミッタが居た。「ちょっ、キャー!!!」 胸元を隠し、うずくまるラミッタ。じっと見てくるマルクエンを罵倒する。「こっち見んなド変態卑猥野郎!!」「何を恥ずかしがるんだ? 鎧だろう?」 マルクエンは至って真顔で言っていた。「こ、こんな鎧があるか!!」「お似合いですよー? それで、動きやすさはどうですか?」「動きやすさも何も無いわよ!!」 ラミッタはカーテンをバサッと閉めて急いで着替えを始める。「あぁ……。えらい目にあったわ……」 赤面をしているのに、げっそりとしたラミッタがそんな事を言いながら店から出て来た。「ラミッタ、防具は買わないのか?」「買うわけ無いでしょうが!!!」「似合っていたぞ?」「馬鹿!! ド変態卑猥野郎!!!」 マルクエンとラミッタのやり取りにシヘンとケイは笑っている。「お次は気に入って頂けるような作品を作りますので、またお立ち寄り下さい!!」 鍛冶屋の店員に見送られ、マルクエン達は商店街をまた歩き始めた。 しばらくウィンドウショッピングを楽しんだ一行は、研いでもらった剣を回収し、宿屋へと戻る。 十分に休んだマルクエン達。今日は鉱脈の竜を倒しに行く。 空はカラッと晴れた青空で気持ちが良かった。 サツマの工房に寄り、ハンマーを借りに行く。「おう、マルクエンさん達!! おはよう!!」「おはようございます」 ドワーフのサツマは朝から元気が良かった。「それじゃ竜退治、良い報告を待ってるぜ!」「はい」 150キロもあるハンマーを肩に担いでマルクエンは山道を登る。「マルクエンさん大丈夫ですか?」「えぇ、大丈夫ですよー」 流石に疲れていないかとシヘンは心配するが、杞憂のようだった。 鉱脈の入り口まで辿り着く一行
「あの竜の厄介な所は刃物が効かなそうな所ぐらいね。宿敵にはハンマーでも持って戦ってもらうわ」「そうか、任せろ」「あの竜は夜行性みたいだから、明日の昼間にぶっ叩くわ」 作戦も決まった所で、マルクエン達は「何かあったら頼ってくれ」と言っていた鍛冶屋のギルドマスター『サツマ』を尋ねることにした。 立派な工房ではカンカンと金属を叩く音が外まで鳴り響いている。「すみません、ギルドマスターのサツマさんに会いに来たのですが」 マルクエンは近くに居た職人に声をかけた。「あぁん? どちら様で?」「私はマルクエンと言います」 その名前を聞いて職人は目を大きく開いた。「何だ、アンタが竜殺しか!! 親方!! マルクエンさんだー!!!」 呼ばれて奥からのっしのっしと歩いてくるドワーフのサツマ。「おう、どうしたんだ?」「えぇ、実は先程、竜の偵察をしてきたのですが」「何!? もう行ってきたのか!! それで、どうだった!?」 食いつくサツマにマルクエンは話し続ける。「それがどうも、金属の鱗で剣では厳しい戦いになるかもしれません。そこでハンマーをお借りできたらと思ったのですが……」「おう、あるぜーハンマー!! 付いてきてくれ!!!」 工房の横にある直売所へマルクエン達は連れて行かれた。「ここいらの好きに持って行ってくれ!」「では、お借りします」 マルクエンは一番大きなハンマーを片手で軽々と持ち上げる。「流石だな、50キロのハンマーだ!!! マルクエンさんにゃ軽すぎるかな?」「えぇ、もっと重い物がアレば良いのですが」 冗談を言ったはずのサツマは口を開けたまま固まったが、また大笑いした。「ハッハッハ、すまねぇ、アンタを見くびっていたよ。付いてきな、とっておきがあるぜ!!!」 今度は倉庫へと案内される。「これぞ幻のロマン武器!! 持っていけるものなら持ってけドロボー150キロハンマーだ!!!」 黒光りの巨大なハンマーを目の前に、ラミッタは呆れていた。「こんなの使える奴なんて限られているじゃない。どうして男はこういうの作っちゃうのかしら」「良いじゃないか、ロマンがあって!」「ロマンですか……」 マルクエンの言葉にシヘンも苦笑いをしている。「さて、マルクエンさんのお手並み拝見……」 サツマが言い終える前に、マルクエンはまた片手でハンマーを持