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30:夜明けの鯛茶漬け

last update Last Updated: 2025-12-12 11:18:40

 広大なシステムキッチンに立つ。

 巨大な冷蔵庫の扉を開けると、中身はひどいものだった。棚にはミネラルウォーターと酒のボトルが整然と並んでいるだけで、生活の匂いがしない。

 小夜子がさらに確かめると、野菜室の奥に場違いな桐箱が押し込まれているのを見つけた。

(これは……)

 蓋を開ける。中には、立派な尾頭付きの真鯛が入っていた。

(だぶん、どなたかからの贈答品ね。箱のまま冷蔵庫に入れてしまったのね)

 ラップに包まれているが、目が白濁し始めている。パッケージの日付を見る。消費期限は今日の午前中まで。

 隣にはしなびかけた三つ葉の束と、使いかけの生ワサビが転がっていた。

(もったいない)

 小夜子の胸に食材への敬意と、放置できないとの気持ちが湧き上がる。このままでは、この立派な鯛は数時間後にはゴミ箱行きだ。

 これほどの食材を無駄にするなど、小夜子はできなかった。

(刺身で食べるには鮮度が落ちている。でも、熱を通せばまだ十分に美味しい)

 昨夜の隼人の様子を思い出す。眉間のしわと、時折、胃のあたりを押さえる仕草をしていた。激務とストレスで、胃が悲鳴を上げている証拠だ。

(メニューは決まりね)

 小夜子は袖をまくり、髪をきっちりと結い上げた。「在庫管理」と「廃棄ロスの削減」。それは彼女が最も得意とする業務の一つだ。

 音を立てて隼人を起こさないよう、静かに進める。

 米を研ぎ、土鍋で炊く。鯛は三枚におろして、薄く削ぎ切りにした。

 ボウルに練り胡麻、醤油、酒、みりんを合わせ、鯛の切り身を漬け込む。濃厚な胡麻だれが、魚の臭みを消し、旨みを凝縮させていく。

 一番出汁を取る。昆布と鰹節だ。最高級品が戸棚にあったので、拝借した。

 黄金色の液体が鍋の中で揺れ、良い香りが立ち上る。換気扇を回しても、その香りはキッチンからダイニングへと溢れ出していく。無機質なショールームのような空間に、初めて「生活の体温」を宿らせた。

 午前5時。ようやく朝日がリビングを照らし始めた時、寝室のドアが開
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