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第6話 『道具』ではなく。信頼できる人物として『君』と呼べる日を願って

last update 게시일: 2026-08-13 20:25:56

罪人は赦しを常に求めている。

紛いなりに死だけを信じて生きた男は皮肉にもその信じてきたモノを司るであろう『何か』に裏切られた。

そして、祈りを第一に念頭する世界で――――

『彼女』と話す事で彼は罪の定義を意識し始めた。

それはその始まり。

_____________

「大丈夫ですか!?本当に申し訳ありません! 」

少女が慌てた様子で駆け寄ってくる。

彼女は俺の瞳をただ覗いて、俺はその瞳の奥の『真意』を、まだ読み取れないでいた。

騒ぎを聞きつけたのか、扉が開いた。

先程の50代の初老の女性が現れた。

落ち着いた雰囲気をまとった彼女だが、一瞬で状況を察したらしい。

少女に駆け寄ると彼女の頭を軽く押し下げ、自分も同じように頭を下げる。

『ソル様、大変申し訳ありません。言い訳をするつもりはありませんが、それでもどうか御無礼を承知で言わせてください!』

『フェルータはこの仕事に就《つ》いて半年も経っていないため、失礼をどうかお許しください……』

「すみませんでした……」

二人の姿が、俺の前に小さく並ぶ。

彼女達のその姿ですら、俺は罪悪感に苛まれる。

恐る恐る、涙を拭いて口を開いた。

「……失礼なんて、とんでもない。今まで食べてきたどの料理よりも美味しくて、思わず過去に関係があった人物に食べさせたくなって……思わず、涙が出てしまいました」

「その……その方はどういう方だったんです……か?」

フェルータの声が遠慮がちに響く。

その瞳が俺の罪に塗れた過去を見透かされた様に感じて、俺は目線を逸らした。

『こら、フェルータ!』

初老の使用人がたしなめようとするが──

俺は静かに顔を動かすこともなく、床のシミを見つめて。

ただ静かに呟いた。

「死にました。俺の……失敗で」

『………………』

気まずさが、少しだけ空気に滲んだ。

無音が食堂を支配する……。

それは予想していたものだった。

しかし、言葉を紡《つむ》ぐ。

それは一体……誰の為だったのだろう?

フェルータの為か?

それとも―――。

自分の罪を少しでも軽くしようとする罪人が裁判で情状酌量を得るために上っ面の後悔を口にしているのか。

そのどっちか……俺には分からない。

―――――だが、言葉は続けなければならないという使命感に支配される。

誰の為の言葉か見いだせないまま。よく分からない感情に急《せ》かされるように言葉を続けた。

「だから、フェルータさんは何も悪くない。勘違いしないでほしい」

それだけ言うと、俺は無言になった。

『……はい、それなら……』

年配の女性は気まずそうに言葉を濁しながら、沈黙に耐えかねて向こうが折れた。

『フェルータ。くれぐれも失礼のないようにして頂戴《ちょうだい》ね』

それだけ言うと初老の女性は食堂から足早《あしばや》に出ていく。

気配が無くなるのを感じると、俺はフェルータに向かって作り笑いを浮かべて話しかけた。

「……なんか、ごめんね。誤解で怒らせちゃって」

俺は心にあるよく分からない感情を塗りつぶして。

「いえ。私、よく母様や祖母《そぼ》様に叱られますから。気にしないでください。私は不出来なので……」

「君は不出来なんかじゃないよ」

この言葉は暗殺者という仮面を被った俺の台詞なのか?

それとも心の内をそのまま吐き出したのか?

彼女と話す度に自分がなんの仮面を被っているのか分からなくなる。

いや、そもそも彼女の前では被りたくないとすら思っているのかもしれない。

彼女と話していると段々と自分という概念が分からなくなる。

「ありがとうございます!」

笑顔が弾ける。

その何者も疑わない笑顔が不意に。

……···と重なった。

今日はどうして思い出すばかりなのか。

後悔ばかりの記憶なのに。

思い出したくないのに……。

否、だからこそ。俺は暗殺者という仮面を被ろうとするのだが、彼女の無垢の前に全てが無意味となっている気がした。

そして、そのままフェルータと話を続ける。

どうやら、この家の使用人は母子三代で仕えているらしい。

「この料理……誰が作ったの?」

俺は気さくな感じを演じつつ、料理を食べながら言う。

『まずは、話の主導権を握れ……』

―――暗殺者の仮面を被った俺が心の中で囁いた。

だが、その言葉は本当に仮面を被りきれているだろうか?

俺の中で疑問が残った。

「……私です。すみません、お母様や祖母様の方が、もっと美味しく作れると思います」

「そんなことないさ。君の母さんや祖母さんが作ってたら、俺の好みに合わなかったかもしれない。あっ!?2人には内緒な?」

「ふふっ、お世辞でも嬉しいです!」

会話を交わしながら食事を続ける。

全ては暗殺者として当然の会話……のはずだった。

まずは相手の警戒心を解くために適当な世辞で喜ばせる。

いつも使っていた手口。

だが……。

(違う……違う……違う)

心の中で暗殺者の俺が否定の言葉を悲痛な叫びをあげていた。

なにかが違う?

……不思議な時間だった。

他愛ない話の中に、心がほどけていく感覚があった。

あいつと過ごしていた、昔の時間のようだった。

―――――――――

つい、フェルータからこの世界の情報をいろいろと聞き出した。

そしてそれ以上に、自分自身のことも語ってしまった。

俺はその言葉を漏らす度に……。

『なんでだ?俺は暗殺者だ!!』

と叫ぶ声が何度も出る。

元々話すつもりだった──そう言い訳できる程度の量ではなかった。

……彼女の声に、つい甘えてしまったのかもしれない。

(嗚呼、このささやかな願いが叶うのなら……)

(いつか、このすべてが落ち着いたら── )

(改めて、彼女の名前を聞こうと思う)

今度は別の俺が呟いた……。

暗殺者時代のようにただ駒のように扱うのではなく。

真っ白な気持ちで、もう一度向き合いたい。

でなければ、ずっと彼女を“道具”としてしか見られなくなる気がして……。

そう思った瞬間。

俺はもう人を『道具』と呼ぶことが出来なくなる気がした。

これが『希望』?

……または『祈り』なのか?

それとも―――――。

その言葉を考えようとした瞬間、暗殺者としての俺が大音量で心の中で喚き立てる。

『黙れ!黙れ!黙れ!そんなこと思うな!?』

だが、それは無意味だった。

(これが人を『君』と思うことなのか?)

それが俺の心の奥から湧き出た声だった。

そう思った瞬間、扉が開いた。

フェルータの祖母だ。

『アーコブ様から伝言です。食事が終わって、ゆっくりしてからで構わないとのことなので、話がしたいそうです』

その瞬間、俺の中で再び『暗殺者』が目を覚ます。

彼女という存在を、あの得体《えたい》の知れない老人と会話をするまでにどう『利用』するか。

その考えだけが、頭の中の全てを染め上げた……。

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  • 堕天使に寵愛を。そして、全ての魂に、グレイスを。   第11話 魔術(祈り)が殺しに変わる瞬間

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