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第1章:007

last update publish date: 2026-05-25 16:16:22

玲が渚と初めてセックスしたのは、高校三年生のクリスマスイヴだった。

渚が手編みのマフラーをくれた。「重いよね、ごめんね」と謝った渚に、強く首を振った。渚は知らない。玲にとって、渚から貰えるなら何でも嬉しいことを。

(あのマフラーは今でも使っている)

解れるたびに渚が手直しをしてくれる。冬になると、渚に毎日抱きしめられているような気分になる。

(あのデートも、セックスも、全部覚えてる)

――こんな、安っぽいホテルではなかったのは確かだ。

消毒液の匂いが混じったラブホテルの室内。

「ほら、ちゃんと力抜いて」

優しく言っている筈なのに、声は低く、逃げ道を塞ぐ響きを持っていた。

「大丈夫。教えてやるから」

女の身体がびくりと震える。

拒絶でもなく、肯定でもない――ただ、従うしかない震え。

(この段階まで来れば、もう同じだ)

考えることをやめて、与えられる刺激だけを追い始める。

自分でどうしたいかなんて、どうでもよくなる。

「な?」

耳元で囁く。

「自分で動かなくても、ちゃんと気持ちよくなるだろ」

女は答えられない。

代わりに、浅く乱れた呼吸だけが返ってくる。

(……単純だ)

壊しているつもりはない。

ただ――順番を教えているだけだ。

考える前に、感じること。

抵抗する前に、委ねること。

それだけでいい。

「ちゃんと、俺の方見ろ」

女の視線が、ゆっくりと引き戻される。

もう、どこにも逃げ場はない。

(最初から、分かっていた)

少し優しくしてやれば、

少し触れてやれば、

あとは勝手に、こちらを求めるようになる。

――そこから先は、早かった。

「ひ……あ、っ! もう、むり……っ、しんじゃう……っ!」

玲はそんな懇願を無視し、仰向けになった女の両足を高く、天井へ向かって蹴り上げた。彼女の腰を大きな掌で強引に持ち上げ、自身の膝を支えにした。

宙に浮いた女の身体は、玲が楔を叩き込むたびに、逃げ場を失って無様に揺れた。

「――お前が『知りたい』って言ったんだろ」

玲は嗤った。額に浮かんだ汗を拭うこともしない。

渚の前では決して見せない、獣の獰猛さを孕んだ貌。

「性感帯を探してあげてるんだから、まだ頑張れよ。まぐろを卒業したいんだろ?」

玲は片手を伸ばし、自身の楔が限界まで埋まっている女の下腹部を、外側から強く、抉るように押し下げた。

「っ、あぁぁあああああああッ!!!」

内側と外側から同時に圧迫され、女が獣のような悲鳴を上げる。

女の腹が、玲の動きに合わせて不気味に盛り上がる。それは紛れもなく、自分という異物が彼女のなかに存在しているという暴力的な証明だった。

「腹イキも、知っておこうか。中から脳を直接かき混ぜられるような感覚を」

玲の突き上げは、更に速度と重さを増していく。

女の意識は白濁し、言葉にならない絶叫が部屋中に響き渡る。

玲は、その声を聞きながら、頭の片隅で冷酷に考えていた。

(これでもまだ、足りない)

渚の瞳が、玲以外の人間を映し出さずに済むように、閉じ込めたい。

渚が玲以外の他人と同じ空気を吸うことが堪えがたい。

渚の声を他人が聞くことも堪え切れない。

(こんなことを渚が知ってしまったら、渚が離れていってしまう)

嫌われたら、生きていけない。

だから、渚を壊さない。

だから、壊してはいけない。

俺は渚を、大事に、大事に、大事にする。

だから、

(足りない)

どれだけ繰り返しても、満たされない。

欲しいのは、こんな反応じゃない。

(全部、俺だけになればいいのに)

――違う。

それは、この女じゃない。

こんな場所で、こんなふうに、試すものじゃない。

床には、中身の詰まった無機質なゴムがいくつも転がっている。玲がこの女に何回教育を施したのか、もはや数えることすら空虚だった。

「むり……っ、もぉ! おわってっ!!」

女が涙で顔をぐちゃぐちゃに濡らし、力なく首を振る。

玲は、絶頂の淵で白目を剥く女の耳元に口を寄せた。

「――まだ、終わらないけど?」

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