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173.嵐の予感(前編)

last update Dernière mise à jour: 2025-08-15 19:03:03

「地方創生の案件はどうなっている?」

俺が社員に進捗状況を尋ねると、担当者たちの表情は明るく順調に進んでいるようだった。彼らの顔には、プロジェクトがうまく回っていることへの確かな手応えが浮かんでいる。

「問題なく予定通り進んでいます。代表の木下さんも理解がありますし、こちらの話す内容を理解してくれているなと感じていて、非常に助かりますしやりやすいです。」

「そうか、良かった。引き続きよろしく頼む。」

社員の言葉に俺は安堵した。夏也に対しては複雑な思いを抱いていたが、仕事の上では有能なビジネスパートナーらしい。

「はい、分かりました。ところで社長と木下さんはどのようなご関係なのですか?」

「ああ、ちょっとな。直接の友人というより、顔見知りという感じかな。」

社員の疑問に、俺は少し言葉を濁した。さすがに「婚約者の元カレ」とは言えなかった。

最初は、木下夏也がどのような意図で近付いてきたか注意深く観察していたが、仕事上では特に目立ったトラブルはなく、それどころか社員からの評判は良い。

なんとも言えない気持ちだったが、問題が起きないことが一番だと思い直した。夏也から依頼された仕事もあと一か月ほどで終わる。

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