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第一章:第二王子と契約結婚

Author: Kaya
last update Last Updated: 2025-08-30 16:32:13

夢の中で、私は別の世界で生きていた。

東京の雑踏。ネオンの煌めき。トラックの眩いライト…

私は白石七央《しらいし なお》。24歳で、どこかの会社員だった。

光に飲まれ、事故に遭うあの恐怖の瞬間。

一方で、ヴィスコンティ王国の小広間でエルミニオに心臓を刺され、リーアに嘲笑された、リアルな痛みも覚えていた。

全てを現実のように鮮明に。

その時ふと、頭に甲高い男性の声が響いた。

『ロジータ・スカルラッティは、物語の悪役令嬢である。

星の導きに縛られ、運命から逃げることは許されない。

エルミニオとリーアの愛の物語を完成させるため、死ななければならない。』

そうか。

私は自分でも気づかないうちに、小説『奴隷になった私が、王太子の最愛になるまで』の悪役令嬢に転生していたんだ…!

ここは、元伯爵令嬢のリーアが、陰謀によって奴隷に落とされた世界。

そして、彼女こそが、王太子・エルミニオに愛されて幸せになるヒロインだったのだ。

そうとも知らずに私は健気に、エルミニオを愛してしまっていた。

幼い頃、ヴィスコンティの『星の刻印』で婚約者となって以降、ずっと彼が好きだった。

このヴィスコンティ国では古くからの言い伝えがある。

同じ『星の刻印』を持つ者が、運命の相手だと。

「星の刻印」は、基本的にヴィスコンティ王家の象徴である星形をしている。

運命の相手以外の『刻印』は、サイズもバラバラであり、色も薄かったり濃かったりする。

また体に現れる部位も違う。

私はあの時刺された、心臓のある左胸上に。

エルミニオには右胸にあった。

だが、エルミニオは彗星のようにヴィスコンティに現れた、リーアに心を奪われてしまった。

私はそれに嫉妬して、何度か彼女を苦しめた。

エルミニオはいつもリーアを庇い、一方で私をひどく非難した。

「ロジータ!なぜリーアに冷たく当たるんだ!」

「なぜって…エルミニオ様。本当に分からないの?」

そんな抵抗も虚しく、数年前、エルミニオの『星の刻印』が、リーアと全く同じ星形へと変化するという事件が起こった。

これはヴィスコンティ国の建国以来、初めての現象だったという。

人々はこれを私の父の仕業だと噂した。

『きっと、自分の娘を王太子の、エルミニオ様の婚約者にさせたいがために『星の刻印』に細工をしたのだ!』と。

当然父は否定した。

確かにこの世界での私の父は悪党だった。

なぜなら彼こそが、リーア・ジェルミを奴隷にした張本人だったからだ。

その真相は、物語の終盤で明らかになるとされていたが…

私はその前に死んでしまう。

実際に小説もまだ完結しておらず、『刻印』の真相は謎のままだった。

ロジータは醜い嫉妬からリーアに毒を盛り、婚約者のエルミニオに殺される。

これが私の運命であり、バッドエンドである。

まさか、まんまと物語に踊らされて、愛した人に殺されるなんて。

---

目を開けると、ゴシック調で、落ち着いた雰囲気の部屋が視界に飛び込んできた。

神秘的な月明かりがステンドグラスを通し、まだ明けない夜を演出している。

「ここは…?」

胸の傷が鋭く痛み、包帯に血が滲む。

部屋の隅に、栗色の髪の青年が立っていた。

「ルイス…様?」

ルイス・ヴィスコンティ、第二王子。

まるで鴉のように、漆黒のダブレットに身を包む。

琥珀色の瞳が私を冷たく見つめていたが、対照的に温かい手には、ある種の眩い光が灯っていた。

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