アデリナ・フリーデル・クブルク。
このクブルク国の王妃。
小国クブルクを他国侵略から守ってやる代わりにアデリナと結婚しろという、マレハユガ大帝国の強引な取引の末に嫁いできた元皇女。珍しい薄青紫の瞳に、青みがかった黒の髪。
アジア系の顔立ちで息を呑むほどに美人。 美人という設定は悪役あるあるである。 憎まれ役の悪役にせめてもの長所をという作者達のお情けかな? それとも財も権力も美貌もありながら、ヒロインに負けるという展開が、アツいから?第一皇女として生まれた時から甘やかされて育ってきたアデリナは、傲慢で我儘でとんでもなく性格が悪い。
そんなアデリナがローランドを本気で愛してたなんて……衝撃の事実でしかない。
だって小説がスタートしてからアデリナはただただ性悪妻としてしか登場してこなかったから。
読者がアデリナの悪事の数々に怒り狂い、壮絶なざまあを願う程のキャラだったから。
それがただの不器用な女だったと……?いや、だったらちゃんとローランドに好きって言いなさいよ!
って、不器用だったから言えなかったのね。 謎は全て解けた。だとしたらそんな不器用なアデリナは、ローランドにずっと悪女と誤解されたまま浮気されるという事になる。
まさか戦争を仕掛けてまでローランドを振り向かせたくて? 不憫………! 不憫すぎる!確かにこの小説の内容を思い返せば、アデリナはローランドとリジーに対して酷いことばかり繰り返していた。
でも愛に飢えている孤独な王と、健気で愛情深いヒロインのリジーの恋はその度に燃え上がっていったのよね。
つい二人に頑張れ! アデリナなんかに負けるな!と、思わずコメントで応援したくなるような。 え?作者天才? 考えてみれば邪悪でしかないアデリナの存在自体が、二人の恋の最強のスパイスだったのかも知れない。後にローランドに一身に愛を受ける、リジーがヒロインのこの世界。
主役二人の心理描写は毎回当たり前のように登場していたけれど、逆に言えば性悪妻だったアデリナの心理描写なんか全くなかった。だから、我儘で傲慢で悪事ばかり働くアデリナの本音なんか誰にも分かるはずない。
私は浮気された妻の気持ちが分かるからアデリナを同情の目で見てたけど……
本当は好きで好きでたまらない夫に悪女なんて言われて、浮気されて…… そりゃ戦争を引き起こしたくもなるかも。 それにリジーと不倫したローランドは、アデリナをほとんど無視していた。 よほどの用がない限りリジーを優先していた。 浮気男あるあるよね。 だってうちのクズ夫もいつも浮気相手優先だったから!!(あのクズ野郎!今考えたら離婚して慰謝料請求しておけば良かった!) アデリナ。あんた、愛する人を奪われて辛かったのね。 って……今はまだ起こってない未来だとしても。 分かる。分かりすぎる。 でも………でもよ。 今そのアデリナに憑依してるのは私なのよ。 それが問題だから!◇ アデリナ・フリーデル・クブルク。 このクブルク国の王妃。 小国クブルクを他国侵略から守ってやる代わりにアデリナと結婚しろという、マレハユガ大帝国の強引な取引の末に嫁いできた元皇女。 珍しい薄青紫の瞳に、青みがかった黒の髪。 アジア系の顔立ちで息を呑むほどに美人。 美人という設定は悪役あるあるである。 憎まれ役の悪役にせめてもの長所をという作者達のお情けかな? それとも財も権力も美貌もありながら、ヒロインに負けるという展開が、アツいから? 第一皇女として生まれた時から甘やかされて育ってきたアデリナは、傲慢で我儘でとんでもなく性格が悪い。 そんなアデリナがローランドを本気で愛してたなんて……衝撃の事実でしかない。 だって小説がスタートしてからアデリナはただただ性悪妻としてしか登場してこなかったから。 読者がアデリナの悪事の数々に怒り狂い、壮絶なざまあを願う程のキャラだったから。 それがただの不器用な女だったと……? いや、だったらちゃんとローランドに好きって言いなさいよ! って、不器用だったから言えなかったのね。 謎は全て解けた。 だとしたらそんな不器用なアデリナは、ローランドにずっと悪女と誤解されたまま浮気されるという事になる。 まさか戦争を仕掛けてまでローランドを振り向かせたくて? 不憫………! 不憫すぎる! 確かにこの小説の内容を思い返せば、アデリナはローランドとリジーに対して酷いことばかり繰り返していた。 でも愛に飢えている孤独な王と、健気で愛情深いヒロインのリジーの恋はその度に燃え上がっていったのよね。 つい二人に頑張れ! アデリナなんかに負けるな!と、思わずコメントで応援したくなるような。 え?作者天才? 考えてみれば邪悪でしかないアデリナの存在自体が、二人の恋の最強のスパイスだったのかも知れない。 後にローランドに一身に愛を受ける、リジーがヒロインのこの世界。 主役二人の心理描写は毎回当たり前のように登場していたけれど、逆に言えば性悪妻だったアデリナの心理描写なんか全くなかった。 だから、我儘で傲慢で悪事ばかり働くアデリナの本音なんか誰にも分かるはずない。 私は浮気された妻の気持ちが分かるからアデリナを同情の目で見てたけど…… 本当は好きで好きでたまらない夫に悪女なんて言われて、浮気
……珍しい? アデリナは性格の悪い妻で、ローランドの事を完全に私物扱いしてたから、気に入らない事があれば悪口ばっかり言ってたんじゃないの? 「あら。 じゃあ普段の私(アデリナ)はいつもローランドの事をどんな風に(悪口)言ってるの?」 「はい……?」 この侍女から言わせれば、自分の事なのにまるで他人のように尋ねる私が不審に思えてならなかっただろう。 茶色の髪にちょっと細い目。 背も小さめで可愛らしい。 見た目には随分と大人しめな若い女性。 まさに本場の外国人メイドといった黒いワンピースに白いエプロンを身につけている。 その侍女は、少しだけ緊張を緩め粛々と言った。 「そう、ですね…アデリナ様はいつもローランド様をベタ褒めしておいでです。」 「そう……私がローランドを。 ……褒め………!?えッ!?」 「はい。いつもお恥ずかしそうに顔を真っ赤にし『今日、ローランドが召していた服は私が特別に王室御用達の衣装係に作らせたものだ、とても似合っていた、素敵だったわ。』と。 『廊下ですれ違った時に睨まれたの。ドキドキしたわ。さすがローランド。目で人を惚れ殺せる天才ね。』『今日、4日ぶりにローランドと一緒に食事をしたの。イケメン過ぎてあんまり顔見れなかったけど、幸せだったわ。』とも。 アデリナ様はいつもこの様にローランド様をベタ褒めしておいでです。 だから悪口など仰ったのは今夜が…初めてではないでしょうか?」 なん………ですって………!?? 間違いありませんと、侍女は何を思い出しているのか頬に手を当てうっとりとして瞼を閉じた。 「ちょっ……っと待って…… じ、じゃあアデリナは……まさか、ローランドの事を本気……で?」 「あ、アデリナ、様…?」 まさかそんな筈はないと願って、侍女の肩を無意識に強く掴んでいる。 「……アデリナはローランドを自分の財布だとか、何をしても怒らない道具だとか、自分の私物だとか思ってるわけじゃなくて…?」 「は…はあ。左様です。 アデリナ様は結婚されてからずっと、ローランド様を物凄く愛されていらっしゃるではないですか?…一体どうなされたのですか?」 一体どうなされたのか……? そんなの…私だってアデリナに聞きたい! この身体の持ち主は一体どこに消えちゃったのよ!? それに……アデリナ。あんた。
何にも……!? 私は何っんにも企んでませんけどね!? それはお宅の奥さんでしょ(この体の持ち主の)!? 私は単にアデリナに憑依してる、日本生まれ日本育ちのふつーの主婦ですからね! ついさっきまで、自宅で推しのアイドルグループのライブ配信見てましたけど何か? ちなみに現実の我が家でも冷え切った夫婦関係で、夫は常に浮気相手優先にしてたクズ野郎でしたけど何か!?? ていうか私、死んじゃったの? ライブ配信見てたその後の記憶が、サッパリないんだけど。 気が付いたらアデリナの顔と体になっていて、この小説の世界の住人に…… あー…それにしても、この小説の男主人公だっけ? アデリナの夫、ローランド王! 人の話をろくに聞こうともしないで。 そんなだから平気で浮気なんてするのよ。 本当にムカつく男………!!! ◇ 「アデリナ様……今夜はどうかなさったのですか? そのようにおやつを深夜に食べると…」 「は?」 「……ひいぃっ!」 あの後——————。 『また何か悪いことをしでかす前なんだろう? お前は本当にろくでもない女だ。』 それはそれはご丁寧に……! あの男、ローランド王にまるで害虫でも見てるみたいに睨まれ、辛辣に毒を吐かれ、どんなに取り繕っても全く相手にされず、気づいたら邪魔者扱いされて部屋を追い出されていた。 ろくでもないって何よ!! ……言ってやりたかった、それはお宅のアデリナさんでしょ!って。 ただでさえその怒りが収まっていないのに、今度は別の侍女から「王妃陛下、夕飯の時間です。お急ぎ下さい。」とか言われ、強引に食事の席に誘導されてしまう。 幸いあの男はまだ仕事があるらしく、食事中にまであの顔を見なくて済んだからよかったけどね! やたら広く、長いテーブルのある部屋。 映画とかでしか見た事ないような高い天井。 大きなシャンデリア。 かなり豪華な食事が並んでいたけれど、マナーも分からないし本当に困った。 ただ周囲はアデリナが怖いのか、誰も何も言ってこなかった。 食後、たくさんの侍女達にお風呂に入れられて、あっという間に夜のシュミーズドレスというやつに着替えさせられていた。 アデリナの部屋はこれまた超豪華で、金色に輝く装飾品ばかりが置かれていた。 ベッドも童話のお姫様とかが寝ている、あの天蓋付きベッ
「アデリナ。何か悪い物でも食べたのか?」 面と向かって離婚しようと言った。 善は急げと思い。 広い王宮の中。侍女だという女に案内されてようやく、辿り着いた執務室。 そのど真ん中のご立派な机の、ご立派な椅子に座っていた男は、私を見るなり明らかに怪訝そうな顔をする。 これがあの氷のローランド王……! 角度によっては、薄水色にも見える銀の髪。 それを後ろで一本に丁寧に束ねてある。 見事な色。本当に地毛……? 威圧感のある切れ長の目。口元の黒子。 いかにもコスプレイヤーが着ていそうな英国貴族風の服。腕には金のカフスがキラリと光っている。 この何事にも動じないような重圧感は、まさに氷の王という感じがする!そして若い! 暇つぶしにこの小説を読んでいた時は、あまりにも落ち着いた性格をしていたから、勝手に老けたイメージを持ってた。 だが実際はまだ20歳と言われても納得できそうなハリ、艶のあるイケメンである。 これが私の夫(正確にはこの体の持ち主・アデリナの)! どうやら執務中だったらしい(そんなの知るか!)。 隅に控えていた補佐官風のメガネの男に、ギロりと睨まれた。 でも睨まれたって全然怖くない。 なぜなら私は、あなた方の知っているアデリナではないのだから……!! 「悪い物なんて食べてませんわ。 ただ……私は貴方の妻には相応しくないと分かったのです。だから離婚しましょう?」 この人は王だからきっと、言葉使いはこのくらい丁寧でなければいけないよね? アデリナの喋り方なんかいちいち覚えてない。 ただ、とんでもない悪女だったとしか。 「……ハア、王妃陛下。見ての通り陛下は今、政務中なのです。ご冗談はお控え頂きたい。」 補佐官風の男はアンティーク調のメガネを揺すり上げて、呆れたように溜息を吐いた。 この人は確か…… 乙女ゲームに出てきそうなイケメンで…だけど冷たい感じの、ローランドの補佐官で……名前が……何だっけ。スミ……スミス…… ミラル……ミーラー…… 「ランドルフ。待て。 何か良くは分からないが、この際アデリナの話を聞こう。」 あ・全然違った……!!! 正解はランドルフさん!! 「失礼しました、陛下。」 彼が引き下がると、ローランドは前のめ
「氷の王」と呼ばれたローランド六世は、幼い頃から愛のない夫婦の元で育ち、常に愛を求めていた。 だが妻にと政略結婚を持ち掛けられたのは、性格の悪い大帝国の皇女、アデリナだった。 ローランドは迷ったが、自国の民を思って彼女との婚姻を決める。 始めはローランドも何とか妻を愛そうと努力した。 だが性格の悪い妻だけはどうしても愛せなかった。 その事で苦しみ、やがて心を閉ざした。 数年後。 二人の間に義務として子供が産まれるが、ローランドは国を守るために隣国の戦場へと旅立ってしまう。 そこでローランドは瀕死の重傷を負うが、ヒロインで白衣の天使=リジーに命を救われる。 リジーと触れ合い、心を通わしたローランドは、ついに本当の愛を知るのだ。 ローランドとリジーの愛は、吹き消せない炎のように燃え上がった。 「許せない……!! 私以外の女を愛するなんて許さないわ…!! すぐに別れなければ、その女の大切な関係者を、一人ずつ処刑するわよ!!!」 それを知ったアデリナは、自分の所有物を奪われたと怒り狂い、二人を引き離そうと過剰なまでの妨害や嫌がらせを繰り返した。 だがローランドとリジーの絆は深くなるばかりで、ブチ切れたアデリナはついに母国の兵を引き連れて、夫の治める国に反旗を翻した。 アデリナの母国マレハユガ大帝国と、クブルク国の全面戦争が始まったのだ。 嫉妬に狂った母親のために、息子のヴァレンティンは王である父と戦争をする事になる。 最終的にアデリナは破婚されて身を滅ぼし、最愛の息子ヴァレンティンは、最後までリジーとの愛を貫いた自分の父親、ローランドによって殺害された… ……って悲劇すぎん? ……タイトルが確か。 【愛を貫いた白衣の天使と氷の王】っていう不倫恋愛ロマンス小説だったよね? 何で小説投稿サイトの素人作品に出てきた、性格の悪い妻アデリナに私が憑依してるの? しかもまだ未完成作品だったじゃない!!! 今の段階だと確か、二人が政略結婚して一年後くらいだよね。 だけどそれなら、既にローランドはアデリナに対して不信感しかないはず……! しかも私の最推しのアデリナの息子、ヴァレンティンに至ってはまだ妊娠すらしてないじゃない! 会いたかったな、ヴァレンティン!