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第2話

ผู้เขียน: 酔夫人
last update ปรับปรุงล่าสุด: 2026-03-04 10:01:30

(……最悪)

駅の改札口をいつも通り抜けようとしたところで、定期券を忘れていたことに美咲は気づいた。

玄関のトレーに一緒に置いてある腕時計も忘れてきている。

どちらも、替えは効く。

切符を買えばいいし、腕時計だってスマートフォンがあれば特に必要はない。

それなのに……。

(気が晴れない)  

仕事に行く気力が湧かない。

メイクも、いつも濃いわけではないけれど、なんとなく手を抜いている気がした。

胸の奥に重い石が沈んでいると言えばいいのか。

浅い呼吸に気づいて、美咲は大きく深呼吸をする。

(今朝は、何もなかった)

実際に、美咲の身に何かがあったわけではない。

もう会えない。 

もう話せない。

死んだという事実を反芻しても、美咲が岡本蒼太に最後に会ったのは一年前。

この一年、会いたいとも話したいとも思わなかった。

 (それがただ“絶対”になっただけ)

偶然、会うことは絶対になくなった。

岡本蒼太は死んだのだから。

「……バカみたい」

よしっと気合を入れて、美咲は切符売り場に向かった。

 .

「疲れた……」

パソコンの電源を切り、画面が暗くなったところで美咲は大きくため息を吐いた。

美咲は立ち上がり、バッグの中身を確認する。

(そういえば、定期を忘れたんだっけ)

また切符を買うのかと思うと、その手間が一気に面倒臭くなった。

(でも、帰らないって選択はない)

今日の仕事は終わった。

でも、明日の仕事はある。

(休めば、その仕事は次の日に……だめだわ、一日の仕事量ノルマが増えるだけ)

美咲の会社はブラックではない。

理解のある上司なので、相談すれば美咲の仕事のいくつかを他の社員に回すこともしてくれる。

ただ、美咲がそれを良しとしないだけ。

(蒼太にもよく頼れって言われたっけ)

心配と、じれったさと、少しの怒りを込めた岡本蒼太の顔を思い出して美咲は苦笑する。

別れた直後から今朝まではろくに思い出さなかったし、別れ方を考えれば思い出すことはろくでもないことばかりだったのに、今朝から思い出すのは“なんてはないこと”。

肉と魚なら、肉が好きだったとか。

炭酸飲料を飲むときは、炭酸を吸い込んでしまってよく咳込んだりしていたこととか。

良いとか、悪いとか、そういう区別はできない些細なこと。

(思い出はこうして風化していくのかしら)

恨んでいる、憎んでいると、心の奥底に閉じ込めておくよりも健全かもしれない。

前向きになれたことに満足し、美咲は鞄を肩にかけた。

「お先に失礼します」

会社を出て、人の波に乗る。

(そういえば……)

岡本蒼太と一年ほど付き合って、別れた直後。

フリーになった一日目、感じたことは「東京はやっぱり人が多い」だったことを美咲は思い出した。

当時の美咲は自分も次の男を見つけて、見せつける機会はないが岡本蒼太を見返してやると美咲は思っていた。

(これだけ人が多ければ直ぐに次は見つかるって……思えば、蒼太が一緒にいたときは、蒼太が周りの人をガードしていてくれたんだよね)

『大丈夫か?』が口癖なのかってくらい、岡本蒼太は美咲を気にかけていた。

ときには鬱陶しいくらい過保護で、でも大人になってから自分すらの自分のことを気に掛けなくなっていたから、蒼太の過剰な優しさは美咲を甘やかしていた。

(ああ、もう、だめだ)

「……飲みにいこう」

思わず美咲は呟いた。  

酔ってしまえば、少しは眠れるかもしれない。  

蒼太のことを考えずに済むかもしれない。

そう自分に言い聞かせるように。

---

美咲は重い木の扉を開けた。

駅前の雑居ビルの地下一階、ほんのりと光る照明に誘われて上から覗き込んで、雰囲気の良さに美咲はここに決めた。

小さなバー。

普段は外で一人で飲まない。

飲むと眠くなるから。

でも今日の美咲は、飲んで眠りたかった。

その勢いで階段を下りて、扉を押した。

そしていま。

(……早まった、かな)

中は薄暗く、落ち着いた雰囲気だった。  

カウンター席が数席と、奥に小さなテーブルがあるだけ。  

ジャズが静かに流れていて、店内には数人の客がいるだけ。

「いらっしゃいませ。ご注文は?」

バーテンダーが穏やかな声にほんの少し安心して、美咲はカウンターの、脚の長い椅子に座った。  

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