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第2話

Author: かももももももものうち
そう言い残し、僕は背を向けてその場を去った。

悠は僕の背中に向かって、勝ち誇ったように叫んでいた。

「付き合いが長いから何だってんだ。入籍しないと何もならないからな。これからは静は俺の嫁だ。いいか、二度と近づくんじゃねえぞ」

僕は足を止めず、背筋を伸ばしたまま、平静を装って家へと帰った。

静は僕より先に帰宅していた。僕が戻ったのを見ると、静はすぐに口角を上げ、いつものように両手を広げて抱きつこうとしてきた。

「圭くん、おかえりなさい」

僕は反射的に身をかわして避けた。静の動きは空中で止まり、その顔に驚きの色が浮かぶ。

僕は静のワンピースに目をやった。今朝、家を出る時に着ていたものとは違う。

「服、着替えたんだね」

静の瞳にあった困惑は、一瞬にして後ろめたさに取って代わられた。笑って取り繕うように説明した。

「今日、コーヒーをこぼして汚しちゃったの。だからアシスタントに別の服を用意させたのよ。汚れが落ちたら、ちゃんと持ち帰って大切に保管するわ。

だって、あれはあなたが私のためにデザインしてくれた特別な服なんだもの」

本当にコーヒーで汚れたんだろうか。どうせ、悠と会っていた時に汚したんだろう。

帰り道でようやく抑え込んだ嫌悪感が再びこみ上げ、今すぐにでも嘘を暴いてやりそうになった。

だが、明後日にはここを去る身だ。今さら問い詰めて言い争うことに、何の意味があるというのか。

「……ああ、好きにすればいい」

静は僕を見つめた。その瞳は愛情に満ち溢れているように見えた。

「なんだか今日は元気がないわね。誰が私の大切な人を怒らせたの? 私が代わりに懲らしめてあげる! それとも、美味しいものでも食べに行って気分転換する?」

六年も愛し合ってきたのだ。僕は静を、静は僕をよく知っている。僕が何かを隠していることなど、静にはお見通しなのだ。

以前なら、この優しい甘やかしに僕は弱かった。どんなに不機嫌でも、静に宥められればすぐに機嫌が直ったものだ。

だが今は、心にさざ波一つ立たない。

答えに窮していると、突然静のスマホが鳴った。

距離が近かったおかげで、画面に表示された発信者の名前が【ダーリン】であるのが一目で見えた。

予想するまでもない。悠からの電話だ。

通話を終えると、静は申し訳なさそうな顔で言った。

「圭くん、会社で急な用件が入っちゃって。家で待っててね。

大好きなケーキを買ってくるから」

僕の返事を待たず、静は慌ただしく出て行った。

僕は自嘲気味に口角を上げると、家の中にある自分に関わる荷物を黙々とまとめ始めた。

三つのスーツケースにも収まりきらない荷物を眺めていると、目頭が熱くなった。

この六年間、僕が不機嫌になるたび、静はあらゆる手を使って僕を宥めてくれた。

好きな軽食から、腕時計やネクタイまで。積み重なった思い出の品々は、今や数え切れないほどになっていた。

この六年間、誰もが静は僕に心底惚れ込んでいると思っていたし、僕自身もそれを疑わなかった。

だが、この愛は一体いつから変質してしまったのだろう。

僕が贈った服や手作りのマグカップ、ジュエリーが、いつの間にか消えていた時だろうか。

それとも、彼女が悠との距離が縮まり、悠と一緒にいるために残業や会議、出張だと嘘を繰り返すようになった時だろうか。

あるいは、僕を愛している、盛大な結婚式を挙げようと言いながら、裏では悠と密会を重ね、あろうことか籍を入れて結婚しようとし、僕を何も知らない第三者に仕立て上げようとした時だろうか。

問い詰めてやろうと思わなかったわけではない。家に戻る道すがら、静にぶつけたい言葉はいくらでもあった。けれど、結局はそのすべてを飲み込んだ。

もう、必要ない。すべては終わったんだ。

僕は一本の電話をかけた。

「三日後に出国する。悠の結婚式に花束を届けるよう手配してくれ。メッセージカードにはこう書いておいてくれ。

二ノ宮静様、小久保悠様、末永くお幸せに。最後に僕の名前」
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