Masuk三田村に引き寄せられてしっとりと唇を重ね、舌先を触れ合わせた。相手の体をまさぐるようにしてジャケットを脱がしていきながら、柔らかく唇を啄ばみ合う。そうやって、賢吾の〈オンナ〉と〈犬〉である自分たちが、賢吾の許可の下、こうして触れ合える現実を噛み締めていた。
もどかしい手つきで三田村のワイシャツのボタンを外し、上半身の素肌を露わにしてしまう。三田村の背後に回り込んだ和彦は、虎の刺青にてのひらを這わせてから、舌先を這わせる。 刺青に対してやはりいい気持ちは持てないが、こんな刺青を背負った男に求められることに、嫌悪感をねじ伏せるほどの倒錯した興奮を覚える。これは、賢吾の刺青を見たときと同じ反応だ。 もしかして自分は、刺青に対して性的に惹かれているのかもしれないと思い、和彦は小さく身震いする。 刺青の彫られた背をじっくりと舐め上げると、欲望を煽られたように、三田村の体に力が漲り、熱くなってくる。「あっ……」 和彦は腕を掴まれ、そのままベッドに押し倒されていた。 真上から見下ろそんなことを言い合いながら駐車場に向かう。和彦は当然、行き同様、千尋と同じ車に同乗するつもりだったが、案内されたのは別の車だった。しかも車の傍らに待機しているのは、三田村だ。「どうして……」 和彦はその場で問いかけようとしたが、三田村は無表情のまま後部座席のドアを開け、車に乗るよう示す。困惑しながら周囲を見回すと、ちょうど車に乗り込もうとしている賢吾と目が合い、軽く片手をあげて寄越された。次に、こちらを見ている南郷の姿に気づく。和彦は、露骨に南郷を無視して車に乗った。 賢吾の意図は、理解したつもりだ。疲れきっている和彦のために、三田村との二人きりの空間を用意してくれたのだろう。他の組員が同乗していないため、車中でいくらでも寛ぐことができると考えたのかもしれないが、和彦としては、心中はいささか複雑だった。 昨夜、長嶺の男たち三人を受け入れたばかりの体を、三田村が運転する車の中で休めるというのは、考えようによっては残酷だ。気遣いばかりではなく、賢吾としては、和彦の所有権をこんな形で示そうとした――というのは、勘繰りすぎかもしれない。 なんと三田村に話しかけようかと考えているうちに、車が一台ずつ駐車場を出て行き、その車列に三田村が運転する車も加わる。「――中嶋に言われて気づいたんだ」 ふいに三田村が話し始める。「えっ」 和彦が目を丸くしてシートから体を起こすと、正面を向いたまま三田村が微かに首を横に振る。「すまない。邪魔なら、黙っている」「いやっ……、邪魔なんて。大丈夫だから、続けてくれ」 普段、三田村と会うどころか、話す機会すらなくなっている。こんなときだからこそ、ハスキーな優しい声をたっぷり鼓膜に染み込ませておきたかった。「せっかく海に来たのに、写真を一枚も撮ってない。普段から、きれいな風景とか無縁な生活を送っているから、いざとなると思いつかないものだな」「言われてみれば、ぼくも撮ってないな。彼は、何か撮ったと言っていたか?」 ここで少し不自然な間が空く。「……先生の水着姿を&hellip
自分の頬を撫でて、そう言って南郷は笑った。機嫌を損ねた様子はないが、物騒な男たちの表情ほど信用できないものはない。「……すみません。殴るつもりは――」「謝らなくていい。大事なオンナの機嫌を損ねた俺の失態だ」 部屋を出て行こうとした南郷が、視線を伏せ気味にして立ち尽くす中嶋に声をかけた。「中嶋、先生の世話を頼んだぞ」 中嶋は短く応じて頭を下げる。南郷は最後に和彦を一瞥したが、このときどういう意味か、唇の端に笑みらしきものを浮かべていた。 部屋に中嶋と二人きりとなると、和彦はズルズルとその場に座り込む。慌てて中嶋が駆け寄ってきた。「先生、大丈夫ですかっ?」 傍らに膝をついた中嶋に顔を覗き込まれそうになり、咄嗟に顔を背けた和彦は唇を拭う。 中嶋に、南郷との口づけを見られたことが、自分でも意外なほどショックだった。「先生……」 遠慮がちに中嶋の手が肩にかかり、そっとさすられる。和彦はぎこちなく息を吐き出すと、おずおずと中嶋を見た。「さっきのこと……、誰にも言わないでくれ。特に、三田村には」 中嶋は一瞬だけ痛ましげな顔となる。「言いませんよ。――俺は何も見ませんでした」 小さな声で礼を言った和彦は、そのままうなだれる。さきほどの出来事について、まだ自分の中で処理しきれないのだ。中嶋は、和彦の髪を手櫛で整えながら、こう提案してきた。「食事の準備がもうすぐできるそうですが、その前に風呂に入りましょう。さっぱりしますよ」 今の自分に一番必要なのはそれだと、これ以上なく納得した和彦はコクリと頷いた。** たった一人の無礼な男を除いて、和彦に対する配慮が行き渡っていたようで、宿を発つ時間になるまで、部屋には誰も入ってこなかった。そのため、長嶺の男たちが挨拶回りからいつ戻ってきたのかも、知らなかった。 入浴を済ませてから食事をとったあと、窓辺に置かれた籐の寝椅子に身を預け、漫然と海を眺めていくうちに、いくらか和彦の精神状態も落ち着きを取り
「あんたの、いかにも清潔そうなきれいなうなじは、こうして日焼けすると、色気が増すな。そう思っているのは、俺だけじゃないだろ。鬱血の跡が残っている。昨夜誰かが吸い付いたんだな」 そんなことを言いながら、うなじをベロリと舐め上げられる。さらに首筋にも唇が這わされ、耳朶に軽く歯が立てられていた。足元がふらつき、堪らず和彦は窓に手を突く。「髪はもう少し短くして、しっかりと耳を出したらどうだ。着物がもっと映える。あんたが自分で思っているより、あんたは着物が似合う。もっと着てほしい。色男がきちんとした格好をしているのは、見ていて気持ちいいしな」 勝手なことを言う男の片手が、ポロシャツの上から和彦の体を撫で回してくる。昨夜、三人もの男たちに愛された体はまだ脆いままで、容易に肌がざわつく。ただ、この男は違うと、けたたましい警告音が頭の中で鳴り響くのだ。「やめてください、南郷さんっ……」 ようやく和彦が声を発すると、耳元で笑った気配がした。「ヤりすぎて、ふらふらになっているあんたは、目の毒だ。今朝、宿を出て行った長嶺の男たちは、対照的に精力が漲って、溌剌としていたがな。あんたを抱くと、何かしらありがたい効能があるのかもな」「……バカバカしい……」 吐き捨てるように応じて、南郷の腕の中から抜け出そうとしたが、それを許すほど甘い男ではない。肩を掴まれて体の向きを変えられていた。威圧的に南郷に迫られて後ずさろうとしたが、背に窓ガラスが触れる。 和彦の弱々しい抵抗を嘲笑うように、南郷は無遠慮な手つきでポロシャツの裾をたくし上げ、脇腹を撫で上げてくる。不快さばかりを訴える感触に、和彦は懸命に南郷を睨みつけるが、歯を剥き出すようにして笑いかけられ、反射的に目を逸らす。南郷の笑みは、まさに威嚇だった。 大きなてのひらが思わせぶりな動きで這い上がり、胸元をまさぐってくる。首筋に唇が押し当てられ、柔らかく歯が立てられたとき、和彦の足元から完全に力が抜けて崩れ込みそうになったが、逞しい片腕に支えられる。「い、やだ……」 南郷の顔が眼前に迫り、拒絶
**** 和彦がようやく目を覚ましたのは、午前十時を少し過ぎた頃だった。 全身の力を奪い取られたようなひどい脱力感と腰に残る疼痛に、昨夜の出来事が本当にわが身に起こったのだと実感し、しばし呆然としてしまう。 空恐ろしさと不安、強い羞恥といった感情にたっぷり苛まれていたが、いつまでも布団の中にいるわけにもいかず、苦労して布団から出て、なんとか着替えを済ませる。このとき気づいたが、誰かが丁寧に後始末をしてくれたらしく、行為のあと特有の肌に残る不快さはまったくなかった。それでも体の奥には、まだしっかりと、長嶺の男たちの残滓が感じられる。 守光に言われた言葉を思い返し、なぜだか胸の奥が疼いた。そんな自分の反応に、和彦は戸惑う。まるで、あの行為を喜んでいるようだと思ったからだ。 しかし、今はあれこれ考えるには、気力も体力もあまりに足りない。 深くため息をついてから、覚悟を決めて襖を開ける。隣の部屋を覗いてみたが、そこには誰の姿もなかった。 座卓に歩み寄ると、メモ用紙が置いてあり、そこに千尋の字で、賢吾とともに挨拶回りに行ってくると書かれていた。『ゆっくり休んで』という一言も添えられており、和彦としては苦笑を洩らすしかない。 ふらつく足取りで窓に歩み寄り、外の景色を眺める。 強い陽射しが降り注ぐ砂浜に人の姿はなく、海は穏やかだ。一昨日、海で泳いで楽しんだばかりだというのに、もう遠い日の出来事のように感じられる。一足先に、自分の中で夏が終わってしまったかのようだ。 ぼんやりしていた和彦だが、微かに携帯電話の着信音が聞こえて我に返る。自分の携帯電話だと気づき、反射的に室内を見回してから、慌てて隣の寝室に戻る。電話の相手は中嶋だった。『もしかして、まだお休みでしたか?』「いや、起きたところだ」『それはよかった。実は長嶺組長から、先生のお世話を頼まれたんです。本来なら三田村さんの役目なんでしょうけど、長嶺組長たちと一緒に出られたので、それで俺に』 内心、中嶋でよかったと安堵していた。ふらふらになっている自分の姿を、あまり三田村には晒したくなかったのだ。あらゆる痴態
欲望への愛撫に合わせて、ゆっくりと内奥を突かれる。「ふあっ……、あっ、あっ……ん、あぁっ――」 千尋にも賢吾にもない落ち着いた攻めに、和彦は静かに狂わされていく。自覚もないまま両足を大きく左右に開き、背をしならせるようにして、内奥深くで刻まれる守光の律動をよりしっかりと感じていた。「あんたはもう数えきれんほど、長嶺の男たちと交わり、精を受けてきた。こうして、じっくりと丹念に中にすり込まれていると、自分と長嶺の男たちと溶け合っているという感覚にならんかね」 守光の言葉に唆されたように、内奥を行き来する熱い欲望をきつく締め付ける。守光が抉るように内奥深くを突き上げてきた。「あんたのこの反応は、肯定と受け止めていいんだろう。――医者のあんたからすると、バカバカしいと嘲笑うかもしれんが、わしは、あんたが長嶺の血を受け入れてくれていると思っている。溢れるほどの精を受け入れ、情を受け入れ、子は成せんが、あんたは長嶺という家の繁栄のために欠かせない人間だ。宝だよ」 意識は朦朧としていても、守光がとんでもないことを言っているということはわかる。言葉が発せない代わりに和彦は必死に首を横に振るが、守光は薄い笑みを浮かべ、覆い被さってくる。唇を塞がれ、深い口づけを与えられていた。 内奥に深々と欲望を穿たれているうちに、肉の悦びの虜となる。浅ましく腰を揺らして、守光に応えていた。それを待っていたようにこう囁かれる。「この先もずっと、長嶺の男たちの側にいてくれ。よく尽くし、よく支え、よく愛してほしい。その見返りとして、わしらも、あんたに尽くし、支え、愛す。今晩のこれは、その契約を交わすためだ。決して裏切ることのない、裏切ることを許さない、血の契約だ」 守光の言葉は、恫喝だ。この状況で和彦が逆らえるはずもなく、否という返事を、長嶺の男たちは最初から聞き入れる気はない。 恐怖に押し潰されても不思議ではないのに、和彦の体は歓喜していた。頭上に伸ばした両手を、それぞれ賢吾と千尋に握り締められ、反射的に握り返してしまう。「ぼ、くは――、何も、できな……」「あんたは、あん
和彦は背を弓なりに反らして、意識が舞い上がるような感覚に襲われる。ほんのわずかな間だったのか、それとも何十秒も続いていたのか認識できなかったが、ふと息苦しさを感じて、大きく息を吸い込む。同時に、一気に体中の力が抜けた。「大丈夫か?」 そう問いかけてきた賢吾に、和彦は頷き返すこともできない。頭がふらつき、自分の体も支えられないのだ。見かねたように千尋が腕を伸ばしてきて、抱き寄せられる。賢吾との繋がりが解けた途端、内奥からドロリと二人分の精が溢れ出し、反射的に体を強張らせる。できることなら、こんな姿を見られたくないのに、長嶺の男たちは気にしないどころか、むしろ自分たちの成果として確認したがった。「嫌、だ……」 和彦は弱々しい声で訴えたが、当然のように聞き入れられない。今夜、できうる限りの淫らな行為に耽りたいという思いが、男たちにはあるようだ。 布団に仰向けで横たえられ、力をなくした両足を容赦なく賢吾に掴み上げられる。二人の男の欲望にこじ開けられ、擦り上げられた内奥は閉じることもかなわず、浅ましくひくついている。白濁とした精を垂らす一方で、組み紐で縛められた欲望は反り返ったまま、先端を透明なしずくで濡らしていた。和彦の淫奔さを雄弁に物語っている部分を、まるで視線で愛撫をするかのように、三人の男たちに凝視される。 快感で蕩けた頭でも、わずかながら羞恥を感じる思考力は残っていた。和彦はやめてくれるよう哀願していたが、当然のように無視された。「うあっ、あっ――……」 欲望に巻きつく組み紐をなぞるように、賢吾の舌先が卑猥に動く。欲望を舐めているようで、直に舌先が触れているわけではないもどかしい刺激に、和彦は腰を揺らす。呻き声を洩らすと、枕元に這い寄ってきた千尋が身を伏せ、和彦の唇をペロリと舐めてきた。 父子の舌が、同時に和彦の欲望と口腔を嬲り始める。快感による地獄だと思った。これまでも、賢吾と千尋と同時に交わったことはあるが、ここまで切迫した感覚には襲われなかった。今の和彦は、とにかく与えられる快感が怖い。抜け出せなくなりそうで。 和彦のすべてを貪り尽くす前に、ようやく賢吾と千尋が体を離す。このとき
デスクを並べてシーツを敷いただけの簡易ベッドの上に、腹から血を流した男が横たえられていた。顔は青ざめ、呼吸は速いものの、意識は取り戻している。 和彦は指示を出しながら手術着を着込み、洗面器に手を突っ込んで消毒する。その間に、頼んでおいた医療用品などが運び込まれてきた。 生理食塩水で血を洗い落とし、傷口をよく検分する。「ひどいな……」 顔をしかめた和彦は、思わず洩らす。「――大怪我なんですか?」 部屋に残っている組員に声をかけられ、顔を上げる。思わず洩らした一言で不安を煽ってしまったらしい
『脇腹を刺されたということです。刺された本人が、自分で車を運転して事務所に戻ってきたということなんですが……』 事情を聞く前に刺された本人は気を失い、傷口もひどい有り様だということで、和彦を呼ぶことになったらしい。 患者の様子を聞きながら和彦は、治療に必要なものを組員に告げる。 自分のクリニックだからといって、納入された薬や医療用品を自由に持ち出せるわけではない。むしろ、すべての在庫を管理して、常に詳細な数を把握しておく必要がある。表向きは健全なクリニックとしては、これは当然の処理だ。一方で、組関係の仕事のために、帳簿に載ら
すでに熱くなって身を起こしかけたものを、賢吾に愛撫してもらう。濡れた先端を指の腹で擦られ、ビクビクと腰が震える。「いつもより、涎の量が多いな」 からかうように賢吾に指摘され、和彦はムキになって下肢から手を払いのけようとしたが、低く笑い声を洩らした賢吾に反対に手を掴まれてしまった。促されるまま、和彦は自分の欲望に触れ、ぎこちなく慰める。 再び腰を突き出す姿勢を取らされ、背後から賢吾に貫かれた。 立った姿勢のまま繋がるのは、苦手だった。いつも以上の苦痛に襲われるからだ。その苦痛を紛らわせるために和彦は、自分のものを愛撫するしかない。賢吾は最初
楽しげに言い切った賢吾にあごを持ち上げられ、唇を吸われる。 和彦の体には、その長嶺父子に求められ、貪り合った行為の余韻が、疲労感として残っている。なんといっても、昨夜の出来事だ。しかも千尋が眠ったあとは、夜更けまで賢吾と睦み合っていたのだ。今朝は体がだるくてたまらず、入浴するのも一苦労だった。 体に残る感触すべてが、長嶺父子の情の強さを物語っている。自分の存在が、今はその父子に所有されているのだとも。 体の奥がズキリと疼き、和彦は小さく身震いする。口腔に賢吾の舌が入り込み、感じやすい粘膜を舐められる心地よさに目を閉じようとしたとき、車内に携帯電話の着