เข้าสู่ระบบ男の一人がハンディカメラを構えて私に向ける。無機質なレンズにゾッとするが、ここは何でもない振りで微笑むところだ。
「痛くされたらもちろん恨むわ」
平然と言い返せば、男たちの変な自信が揺らぐのが分かった……馬鹿め。
「あのね、あなたたちに依頼した人は分かっているのよ。白川茉莉でしょう?」
「っ……ち、違う!」
「まあ、そう言うしかないわよね。そう言う約束なのでしょうね。私、知っているのよ?」
「……な、何を」
聞く耳を持たない馬鹿でよかった。
「白川茉莉、平気で人を切り捨てるわよ。あなたたちの前の人がそうだったもの」
「……前?」
「私を浚ったのがあなたたちで二人目ってこと。一人目はあなたたちより下手で、浚おうとしたところを私に騒がれて警察に捕まったわ」
「う、嘘だ」
うん、嘘。完全に作り話だけど、この現状を考えれば前があってもかしくない。自信満々に言えば男たちに不安の種がまける。
「嘘じゃないわよ。実行犯は逮捕されて、私も事情聴取をされたもの。もちろん実行犯の男は白川茉莉に頼まれたって言ったわ。警察も半分信じた、でも疑惑の目は白川家が叩き潰して、実行犯の男は薬物中毒とかで正常な判断がされないってことになったの。おかしいわよね。警察に捕まったときは正常だったのに、裁判所で会ったときの男は両側を看守に支えてもらわなければ立てないほど薬物に完全に犯されていたの。そして裁判期間中に死亡……死人に口なしって、よく言ったものよね」
男たちの顔に恐怖が浮かぶ……よし。
「犯人が死んじゃうと事件ってそこで終わるのよね。逆に言えば、誰かを逮捕させて、その人が死んじゃえば、白川茉莉は何ごともなく事件を終わりにできるの」
笑え。
「今頃、地下駐車場には警察が来ているかもね。これは私じゃなくて別の女性のときの話だけど、そのときの犯人は暴行した映像を一度持って来いと言われたんだって。とり
海を祖母さんのところに送り届けてから会社にいく。「おはようございます」上に向かうエレベータを待つ間、何人かと挨拶を交わしたあとに社長室に向かう。正確にはCEO室なのだろうが、昔から「社長室」と呼んでいたため今はまだ社長室と呼んでしまう。 * 父から代表取締役の座を継いだ。父に呼ばれて退任の意思を聞き、取締役会の決議が開かれて選任された。もともと後継者として育成されており、売上拡大、組織改革、海外展開など実績を積んできた。白川茉莉のことがあって父からその座を奪うと決めてからは他の取締役や株主などに積極的に関ってきたと自負していた。でも実際に代表取締になったとき、あまりにあっさりしていて驚いた。これまでの父の妨害は何だったのか、と。 俺から見る限り、父は藤嶋建設の仕事に特に興味はないようだった。祖父から継いだから。俺が継ぐまで。そんな感じの中継であることをあまり隠してもいなかった。だから今まで通りの藤嶋建設を継ぐなら、父はあっさりと俺に代表取締役の座を譲ったと思う。妨害したのは俺が取引先の銀行を増やしたから。メインバンク制により日本企業には特定の銀行が資金調達・経営支援・人事介入まで担う構造があった。藤嶋建設は長らく白川家の銀行をメインバンクにし、融資を通じて白川家は藤嶋建設に影響力を持ち、銀行からの出向者が取締役や監査役に就任していた。白川家の直系である白川百合江と白川茉莉の意向に逆らえない空気はこうしてできた。俺は設備投資の融資を他行に依頼し、手形決済を別の銀行に切り替えるなどして取引銀行を増やす。。白川家の息のかかった取締役も任期満了や高齢化を理由に、社外取締役や中立的な人材の登用する。藤嶋建設と白川家の蜜月関係を解消する提言に白川系の取締役はもちろん他の取締役も難色を示した。彼らにも父自身が自分を中継ぎの代表取締役であると思っていることは分かっただろうが
そもそも好意とは何か。好意は感情なので、したか、しないかみたいに傍目には分からない。好意を伴った行動?例えばデート。デートだという意図があって誘ったら、浮気。でも、そもそも、デートって何?一般的な定義なら、お互いに好意や関心を持つ二人が共に時間を過ごすために約束して会うことになるだろう。デートと定義するには相互性、つまりどちらが一方だけが好意を持っている状態は成立しなくなる。でも浮気かどうかの判断でいったら?明らかに好意もしくは行為に準ずる感情を持っている相手と夫もしくは恋人が一緒にいたら?よくある「ただの○○だよ」というやつ。夫もしくは恋人にその気はなくても、その気はあると疑わしき相手と一緒にいたら嬉しくはない。 私はこの「嬉しくない」が浮気のラインじゃないかと思っている。本人たちが何と言おうが、真実がどうだろうが、「嬉しくない」と思ったら浮気。そもそも論、浮気という言葉がおかしい。浮ついた気分って、浮気した側の主張になっている。俺は浮ついていないからあれは浮気じゃない、が罷り通る表現。逆だ。浮気かどうかは「したほう」の判断ではなく、「されたほう」の感情を優先すべき! ……ふう、落ち着こう。 蒼はいま、私と海のためにせっせと私たちのところに通ってくる。その姿はわき目も振らずに必死。 藤嶋建設のロビーでの白川茉莉とのガチンコ勝負の結果、蒼は独身だと周囲に知れた。白川茉莉ともなんともない。別れた私に未練がある風には思われているが、事実だけを見れば蒼は独身。チャンスだと思わないわけがない。純粋な善意なのか、それとも蒼寄りだから私に発破をかけているのかは分からないけれど、藤嶋建設での蒼の様子をルカがよく報告してくる。誰それに今日は言い寄られていました、って。スパイ
白川茉莉が精神病院に入ったことで、良かったことは一つだけある。白川茉莉は「責任をとれない者」と判断されたから、あの子どもの親権は蓮さんが持つことができた。当時の蓮さんはまだリハビリ中だったけれど、西山家の社会的信頼度が蓮さんの単独真剣の取得の後押しになったと三奈子さんから聞いた。 白川茉莉が有罪判決を受けただけでは、親権はそのまま白川茉莉がもった可能性があるらしい。犯罪歴があるからといって自動的に親権を失うわけではないから。もちろんその場合でも三奈子さんは家庭裁判所に親権者変更の申し立てをしたそうだけれど。勝てる見込みもあったみたい。あの子を実質養育していたのは蒼だったから。白川茉莉があの子の育児に全く関与していなかった。あの子の“保護者”として、蒼はあの子の養育環境を整えていた。ナニーを雇ったのは蒼で、ナニーから定期報告を受けて確認の署名をしてきたのは蒼。確認の署名は白川茉莉にも送られていた。でも白川茉莉は一度も確認の署名をしたことはなかった。 あの子を守るために蒼がしたことは正しい、と思う。蒼の行動はあの子の養育者であると第三者機関もきちんと認めるものだった。でも、そのために私の傍にいてくれなかったことも事実。穿った見方だと分かっていても、私を放っておいたからあの子を養育できたんじゃないのかって思ってしまう。 あの子のことを考えると、白川茉莉以上にいろいろな感情が渦巻く。蒼のやったことは大人として正しいと思う。でも、それなら私ってなんだろう?蒼の正しさが証明されるたびに私の「妻」としての存在意義が薄らぐ。足元がグラグラして、感情が沸騰する。キーッと発散させれば落ち着くのだろうか。でも舞い戻ってくるに違いない。グラグラする感情。ふつふつ沸く感情。どれも消化の仕方が分からない感情。
病院にいる白川茉莉を見れば満足するかもしれないとも思った。だから面会の許可をとって、病院に行った。行ってよかったかというと、そんなことはなかった。 ―― 安心してください。白川さんが社会に出ることはありません。病院のスタッフにはそう言われたけれど、嬉しくとも何ともなかった。私は安心が欲しかったわけではないから。 白川茉莉がいる病院を見て落ち込みもした。罪人として収容されているに、白川茉莉のいる病院はきれいで清らかだった。病院だから清潔感は大事だと分かるけれど、全然惨めな環境ではなかった。深層の令嬢、その白川茉莉のイメージそのものだった。現代の日本でネズミが駆け回る地下牢やじめじめした座敷牢に入るなんてことはない。それは分かっていた。でも、白川茉莉のいた病院はあまりにきれいだから入口で「罪を償うって何?」と思った。この時点で会うのはやめようかと悩んだ。でも、せっかく来たのだから勿体ないという貧乏性が災いした。根性で私は建物の中に入った。 白川茉莉に会って、良かったこともある。私が案内されたのは、厚い透明な板で仕切られた部屋。刑事ドラマのセットのような面会室だったけれど、こちらとあちらが明確に分かれていて、透明な板の向こうは「罪人」とか「罪を裁かれた者」という感じだった。白川茉莉はあちら側にいる。そのことが感じられたことはよかった。 事前に面会許可を取っていたけれど、結構待たされた。待たされたけれど、これも良かった。白川茉莉は待たないと会えない存在。あちら側の時間軸は違う別世界のように感じられた。白川茉莉は私に会うのに時間がかかる。時間をかけないとこちら側、外にいる私には会えないということが遮断されたあちら側の世界にいると感じられた。 白川茉莉は女性スタッフ二人
乳母の証言を持って、警察は白川茉莉に事情聴取を行った。ただ白川茉莉が白川家の娘であり、社会的に知名度もあるため、警察は白川家に配慮して白川茉莉への事情聴取は自宅で行われた。しかも事前に知らせがあったのか弁護士が同席する形だった。白川茉莉は白川家に守られ続けた。 蓮さんと西山家には白川百合江から示談の申し出が何度もあったという。白川家の立場を利用した嫌がらせのようなプレッシャーもあったらしい。しかし西山家はそれを拒否し続けた。 書類送検をされて、本人の事業がないため検察官は白川茉莉に任意出頭を要請した。白川茉莉は応じなかった。白川百合江も応じる必要はないと言った。任意だからということもあるのだろう。 おそらく二人は起訴されないと踏んでいた。何年も前の事件で、証拠となるのは数センチの犯人しか映っていない防犯カメラの映像と乳母の証言のみ。本人は強く否定している。でも二人は翠さんの事件を忘れていた。白川茉莉について、その人物像を聞いてみれば「やりかねない人物」と大勢がいった。だって実際にやったから。誰もが平然と翠さんを階段から突き落とし、何が悪いのと本気で不思議がっていた十二歳の白川茉莉を見ていた。示談にした事件。翠さんは自分からそれを言うのはルール違反だと思って黙っていたが、翠さんを慕っていた人たちが立ち上がった。白川家も社会的地位はあるが、他の家だってそれなりに歴史とプライドがある。確かに白川百合江と白川茉莉は旧華族の血をもつ、世が世ならお姫様。でもいまはその世ではない。姫として敬えという態度の二人に周りは色々感じるものがあったのだろう。恨み節が強くなったが、私も強くそう思う。 白川茉莉は起訴された。二人の予想通りに、不起訴にはならなかった。裁判所から出頭命令が郵送で届いた。
*** 苦みが消えないのは、白川茉莉との決着がついていないからだろうか。でも、もう決着をつける手段がない。だから、私の白川茉莉に対する感情は不完全燃焼だ。 白川茉莉はいま精神病の患者として入院している。 白川茉莉には蓮さんの転落事故に対する逮捕状が出ていたが、逮捕状を持った捜査員の登場に白川茉莉の精神は異常をきたした。警察は叫んで暴れる白川茉莉を逮捕したあと、一連の法的手続きを経て彼女を「精神的な疾患のある罪人」として病院に措置入院させた。患者の安全や他者の安全を確保するための強制入院。精神保健福祉法に基づいた法的な措置。 今後、白川茉莉が社会に出てくる可能性はほぼない。 白川茉莉に害されることがなくなったことは、安心するし、嬉しい。でも、この結末には納得しきれない自分がいる。 私は、暴行はされなかった。 でも怖かった。あのときの恐怖は今も何かの拍子に湧き上がってくる。白川茉莉は有罪で逮捕された。でも、いま精神を病んでいる白川茉莉に罪を犯した自覚があるのか。ないとしたら……被害者ばかりが白川茉莉の罪に苦しんでいるのではないか。 ……いや、正義のヒーローの振りはやめよう。私は白川茉莉に勝ちたかっただけだ。 蒼の隣に立ち、みんなの前で「蒼さん」と蒼を呼べた白川茉莉に……。 「ごめんなさい」なんて謝罪はいらない。「もうやらない」なんて誓いもいらない。 私は白川茉莉に「負けた」と言わせたかっただけ。 白川茉莉は病院という監獄にいる。その姿を見れば満足するかもしれないと、面会の許可をとり病院にいったこともあった。行ってよかったかというと……微妙。 白川茉莉がい