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第587話

Author: 桜夏
雅人は横目で、抗議するような目を向けてくる最低な男を一瞥した。たとえ相手が望んだとしても、妹がいる手前、新井家に世話になるつもりはなかった。

まさか美月まで一緒に連れて行くわけにはいかない。

雅人は丁寧に断った。「お爺様、お心遣いは本当にありがたいのですが、ホテルは長期で予約済みですし、出入りの時間も不規則なので、ご迷惑をおかけしたくありません」

新井のお爺さんはそれを聞き、彼の遠慮だと分かっていた。何しろ、いくら出入りが頻繁でも、あの広い本邸で自分の邪魔になるはずがない。

傍らで、蓮司はその返事を聞き、何も言わなかったが、その眼差しがすべてを物語っていた。

【話が分かる奴だ】

新井のお爺さんは言った。「まあ、そう言わずに。いつでも歓迎する。それに、時間があればいつでも食事に来なさい。自分の家だと思ってくれていい。昔、わしと君の祖父は、ビジネスの上で良きパートナーだったのだからな」

雅人はうなずいて礼を言った。その隣で、蓮司はお爺さんの「おべっか使った」ような態度に、軽蔑の色を浮かべた。

この雅人のどこが良いというのか、お爺さんをここまで「へりくだらせる」とは。

先代からの付き合いなど、三代目にもなればほとんど意味がない。ましてや、自分と雅人の間には朝比奈美月という存在が横たわっている。

ビジネス上の協力にしても、新井グループが海外に工場や会社を拡大しない限り、国内では橘家と提携するような話にはならない。

数人がそう話していると、突然、執事に電話がかかってきた。警備員からだった。

電話に出て数秒後、彼の表情が一変し、こう言った。

「承知いたしました。透子様は、どちらの病院に?」

透子の名前と病院という言葉が結びついた瞬間、蓮司は鋭く振り返り、ベッドの上のお爺さんも視線を向けた。

「透子がどうした?病気か?!どこだ!!」

蓮司は思わず立ち上がり、椅子が倒れるのも気にしなかった。

執事は言った。「病気ではございません」

彼の表情は険しかった。「拉致未遂に遭われたとのことです」

「拉致」という言葉を聞き、蓮司の体は急に震え、両手を強く握りしめた。

「誰が彼女を拉致しようとした?犯人は捕まったのか?どこで何があったんだ?!」

蓮司は立て続けに焦って問い、執事の腕を掴み、その口調は激しく切迫していた。

「少し落ち着け。執事に一度に全
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栄美
透子は美月に会ってしまったばかりに 今までも、これからも被害を受け続けるのなら気の毒だ。雅人も理性的風だが所詮は節穴。この節穴さんを何とか利用して、蓮司は透子の評価を上げなければもう挽回の余地はないのではないかと思う。何とか偽妹を暴露して恩を売るとか、美月の策略を命掛けて阻止するとか、いっそ透子庇って死ぬとか…いつものパターンか。
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